迷路ダンジョン 2
その後も三階は、遭遇するアルミラージと火食い鳥を討伐しながら進んでいたけど、草原よりは避け難いからドロップ品も多くなった。
「俺たちも拾います!」
「サミー、サッサと拾うんだよ!」
キラービー組みの荷物持ちの子どももアピールしてくるから、ジルとサミーは必死で拾う。
広場で、ちょっと休憩する。
「ハチミツの瓶が重い……」
サミーが背負い籠を下ろして、ホッとしている。
「巣には女王蜂がいたのかもな? おっ、これはハチミツじゃないぞ!」
鑑定! したら、ロイヤルゼリーだった。これは高価買取が期待できる。
「サミー、それは私が持つよ!」
そう言うジルの背負い籠も、半分以上になっている。
「後からの子の背負い籠は……かなり多いな」
ジルが「巣を討伐したから」と口を尖らせる。
「今日は十階まで行くつまりだから……ええぃ、全員を雇うよ!」
ゾロゾロと六人も子どもを連れて、迷路ダンジョンを探索する。子守になった気分だ。
◇
四階は、冒険者の白い点が少ないから、魔物を避けながら進んだ。
それでも、迷路ダンジョンだと、草原みたいに避けるのは難しいから、かなりドロップ品が増えた。
「五階は人が多そうだから、ここで休憩しよう」
下に降りる階段の前の広場で、一旦、休憩する。
ここまでで、ちんけなスライム魔石狙い、キラービーのいちゃもん馬鹿、二組に邪魔された。
「少し早いけど、昼飯にしよう」
ジルとサミー、固そうなパンを齧っている。
私は……子どもの羨ましそうな視線を無視して、パンを食べる勇気がない。
「お前たち、食べ物は持って来ていないのか?」
スライム組は「いつも一階で帰るから」と小さな声で言う。
キラービー組は「五階までだから、出てから焼き串を買うつもりだった」と悲しそうだ。
「えっ、お兄ちゃん! 分けるなら、私も欲しい!」
固いパンを齧っていたジルも騒ぎだす。
「仕方ないなぁ」
金熊亭の大きな肉詰めパンを六つに切って渡す。
バッグの中から出す風にして、アイテムボックスの中から、お城から貰ってきたパンとオレンジを出して食べる。
「オレンジ……」とジルが羨ましそうな顔をするけど、南の大陸では屋台で時々売っているから無視!
ダンジョンに潜るなら、食糧をもっと備蓄しておいた方が良いな。
「水筒ぐらい持ってこいよ!」
スライム組、本当に荷物持ちとしても駄目だな。
ジルは、偉そうだけど、根は悪い子じゃないから、水筒を貸してやっている。
「全部、飲むなよ!」と怒っているので「浄水!」と掛けてやる。
ズッシリと重くなった水筒から、一口飲んでジルが騒いでいる。
「美味しい水だ! お兄ちゃん、凄いよぉ! 私は、ずっと兄ちゃんについて行く!」
「えっ、困る! それに、明日からは中級者用のダンジョンに潜るから……」
そんなことを言ったの、大失敗だ! 荷物持ちの子ども達、目をキラキラさせている。
「いや、子どもを中級者用のダンジョンに連れて行かないぞ!」
ピシッと言ったけど、ジルを追い払えるか不安。押しに弱いからなぁ。
「中級者用のダンジョンの何処に潜るの?」なんて聞いてくるんだ。絶対に、何処に潜るのかは内緒!
◇
五階は、転移陣があるから冒険者の白い点が多い。
「サッサと六階に行くぞ!」
ただ、五階からビッグボアとかも出てくる。
「ビッグボアだぁ」
スライム組の子どもは、ビビっている。あの冒険者達、あれで食べていけるとは思わない。山賊ルートに落ちなきゃ良いけど……。
六階、七階と順調だった。冒険者を避けながら、ビッグボア、火食い鳥、アルミラージを討伐して進む。
◇
八階に降りて「脳内地図!」を掛ける。
「ううん? 何だろう? 兎に角、行ってみよう!」
ジルが「宝箱なの?」と横ではしゃいでいる。
「宝箱というより、隠し部屋かな?」
サミーが「モンスター部屋では?」と恐る恐る言う。
「モンスター部屋なんか、初心者用のダンジョンに無いさ!」
ジルが笑い飛ばしているけど、私は神様の知識を探索中!
『モンスター部屋……ダンジョンの中に設置された、ボーナスステージ。モンスター部屋に入ったら、中のモンスターを討伐するまで外に出られない。レアアイテムがドロップする場合もある』
私だけならチャレンジだけど、ぞろぞろと子どもを引き連れている状態だからなぁ。
「そうか! 子ども達は、モンスター部屋の外で待っていたら良いんだ!」
バリアで囲っていたら、魔物が来ても大丈夫だよね?
赤く光っている部屋の前に着いたけど、見た目は行き止まりだ。
「ここで、待っていて!」と言ったけど、全員に首を横に振られた。
「置きざりにしないで!」
「いや、ジル、ちゃんとバリアを掛けて行くから、魔物が出てきても大丈夫だよ」
そう、言い聞かしても、腕にしがみつくので、困った。
「なら、中に入ったら、壁沿いにジッとしているんだぞ。バリアを掛けてあげるから」
中の方が怖くないだなんて、不思議だね。
壁にある扉を開くと全員で中に入る。
「バリア!」と子ども達に掛けたけど、中に入ったのを後悔しそう。
「げぇ、ヴリシャーカピじゃん!」
猿はもうごめんだよ! それに十頭もいる。
灰色だから、魔法攻撃もしてきそう。先制攻撃しよう!
「バリア! バリア! バリア!」
うん、バリアで首をチョッパーしていこう。
後、一頭になったけど、白い巨大なボス! ああ、トラウマになっている。
「雷!」で一撃だ。
ドロップ品は、ヴリシャーカピの毛皮、肉、魔石、それに睾丸! これがレアアイテム? いらないけど! とガッカリしていたら、ジルが私の服を引っ張る。
「お兄ちゃん、あそこ!」
ボスのヴリシャーカピがいた後ろに、台座がある。
「ひょぇ!!」と子ども達は興奮している。
「剣かぁ……使わないんだけどなぁ」
ピカピカ輝いている剣、ルシウスにあげようかな?
「良いなぁ! 良いなぁ!」と羨ましそうな子ども達だけど、私の剣の腕前は酷いんだよね。
◇
九階でキラービーの巣を見つけたので、討伐しておく。ロイヤルゼリーとハチミツ、嬉しい!
十階は……嫌な予感通り、ヴリシャーカピが出た。黒い毛だから、若くて魔法は使わない。遠くから、矢で討伐した。
「これって、ボス戦もヴリシャーカピなのかな? 苦手なんだよ」
「ええっ! 簡単に倒しているじゃん!」
このダンジョンは二度と潜らないぞ! ヴリシャーカピとオークは食傷気味なんだ。
転移陣に向かう手前に、予想通り、ヴリシャーカピが八頭! モンスター部屋の方がキツかったよね?
面倒だから「雷!」で一気に倒した。
「お兄ちゃん、凄すぎ!」
ジルは褒めてくれたけど、他の子はドン引きだ。
ドロップ品を拾って、転移陣に行く。おっと、キラービーの馬鹿達を解放しておこう。
他の冒険者に見つかると、また変な二つ名を付けられるかもしれないから。
ピカピカ光っている剣、ロイヤルゼリー、ハチミツの瓶を何個か、触るのも嫌だけどヴリシャーカピの睾丸、ボスの毛皮以外をダンジョンの外の商人に売る。
「ほら、ジル! サミーと二人で三銀貨! 他の奴らは、一銀貨だ」
スライム組、キラービー組が飛び上がって喜んでいる。ジャスが言う相場よりも高いのかもね。
それと、取っておいたハチミツの小さな瓶をジルにやる。
「えええっ、良いの?」
信じられないって顔だ。
「ああ、パンにつけて食べろ! じゃあな!」
この二日間、世話になったお礼だ。




