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女神様の愛し子じゃないから!  作者: 梨香
第三章 防衛都市

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ダンジョンに潜った後はエールだろう!

 ダンジョン前でジルと別れて、火食い鳥(カセウェアリー)の卵を売りに冒険者ギルドに行く。


 ついでに、依頼に火食い鳥(カセウェアリー)の卵があれば、ギルド昇級ポイントが貰えるかも? と下心もあった。


「ええっと、銅級の依頼は……あった!」


 へへへ、火食い鳥(カセウェアリー)の卵の依頼票を持って、精算の列に並ぶ。


「これ!」

 依頼票と火食い鳥(カセウェアリー)の卵二つをカウンターに出す。


「ギルド証を出してください」


 あっ、忘れていた。このところ、精算はルシウス任せだったから。失敗!


火食い鳥(カセウェアリー)の卵、一つで五銀貨(クラン)なので一金貨(ゴルディ)です」


 それと頼み事もあるんだ。

「下級回復薬の瓶を売ってくれないか?」

 冒険者ギルドで、下級回復薬を売っている。だから、空き瓶の回収もしていると思ったんだ。新品を買うより、安いんじゃない?


「下級回復薬の瓶ですか? あるのは、ありますが……基本的に薬師に売るのですが……」


 受付の黒髪のマリーナちゃん、ちょっと疑っているみたい。適当な色水を冒険者に売るつもりだと思ったのかな?


「マリーナ、ギルドマスターがその人には売っても良いと言っていたわ」


 おお、昨日の資料室にいたルーシー! ナイスタイミング! っていうか、ギルドマスターの知り合いなの?


「それなら……何本必要ですか?」


「あるだけ!」と答えたら、二人に笑われた。ここは大きな冒険者ギルドだし、いっぱいあるんだろう。


「取り敢えず、三十本!」


 空き瓶は、一本で二銅貨(ペニー)。六銀貨(クラン)を支払う。


「用意致しますので、お待ち下さい」


 ルーシーの方が、マリーナより先輩なのかな? しっかりしているから任せよう。


「ああ、じゃあ、あっちでエールを飲んでいるよ」


 冒険した後は、エールだよね! 前は冒険者ギルドに酒場があるのって、不思議だったけど、ありだよなぁ。


「ぷふぁ!」生ぬるいエール、これを飲んだらホッとする。

 それに、前世のビールほどはアルコール度数が高く無いから、宿に帰ってから下級回復薬も作れる。毒耐性のお陰もあるのかもね。


 気分良くエールを飲んでいるのに、ここには馬鹿な冒険者が多い。


「おぃ、見かけない顔だなぁ! 俺のマリーナちゃんを困らせるなよ!」


 お前のマリーナちゃんじゃないのは確実だと思うが、無視しよう。


「ルーシーさんに馴れ馴れしいぞ!」


 受付嬢が可愛いのって、面倒が増えそうだ。おばちゃんやおじちゃんで良いんじゃないの? まぁ、マリーナやルーシーが悪いんじゃなくて、ウザ絡みしている馬鹿どもが悪いんだけどさ。


「おおぃ! 初心者用のダンジョンの五階で、冒険者が立ち往生しているぞ!」


 何人かの冒険者がギルドに駆け込んで騒いでいる。お陰で、ウザ絡みしていた奴等も、そっちに注意が向いた。


「初心者用のダンジョンで? それも五階? そいつら、冒険者を辞めた方が良いな!」


「いや、罠じゃないのか?」


「ない、ない! 初心者用のダンジョンだぞ!」


 他の冒険者達は、ゲラゲラ笑っているけど、私は「しまった!」と慌ててバリアを解いた。


「アレクさん? 空き瓶です」


 ちょっと上の空だったので、ルーシーに怪訝な目で見られちゃった。箱に入れた空き瓶を受け取る。


「ああ、ありがとう!」と席を立とうとしたら、ちょっと呼び止められた。


「アレクさん、ギルドマスターが下級回復薬をこちらにも売って欲しいと言われていますが……」


 うん? その話って、受付の女の子にも知られているの?


「ダンジョンの探索隊に必要なのです」


 ああっ、ルーシーの真剣な目! きっと、その探索隊に知り合いか、恋人が参加するんだね。


「ルーシーさん、俺は適正価格で下級回復薬を売るよ。でも、交渉は苦手なんで、リーダーのルシウスに任せるとギルドマスターにも言ったんだ」


 本当に、ケチでしっかりしているルシウスと知り合って良かった! 



 金熊亭に戻って、部屋に荷物を置く。ひとっ風呂浴びたい気分だけど、先に下級回復薬を作ろう!


「なぁ、中庭で火を使っても良いか? それと、井戸の水も使わせて欲しい」


 下に降りて、女中に訊ねる。


「それは良いけど、薪は料金を取られるかもね」


 そんな事を話していたら、女将さんが庭に顔を出した。


「お客様なんだから、薪代なんていらないよぉ!」


 おお、それはありがたい! 掃除とか大雑把なところがあるけど、金熊亭、なかなか良い宿だね。私って、現金かな?


「なんだぁ、こんなに小さな釜なんだね」

 女中も、小さな錬金釜を見て、笑いながら薪を数本持ってきてくれた。


「これが終わったら、お風呂をお願いしたい」


 お風呂だけなら銅貨(ペニー)を二枚のチップだけど、銅貨(ペニー)三枚渡しておく。


「この前、お風呂に入ったのに?」

 毎日、お風呂に入るのが日本人の常識なの!


「今日は、ダンジョンに潜ったからね」と誤魔化しておく。

 浄化(ピュリフィケーション)で、綺麗にはなるけど、お風呂に入ると、身体の疲労が溶けるんだよ。


 空き瓶、洗ってあるけど「浄化(ピュリフィケーション)」を掛けておく。


 後は、下級薬草を浄水で洗い、刻んで、浄水で煮出す。

 

「良い香り!」この辺で良いだろう。火から下ろして、冷ましてから、瓶に入れていると、ルシウスが庭に顔を出した。


「おぃ、今日は近くの初心者用のダンジョンに潜ったのか?」


「ああ」と答えたら、笑われた。


「やっぱりな! アレクだろう! 冒険者を閉じ込めたのは」


 まあねと肩を竦めておく。


「そうだ! ルシウス、下級回復薬をカインズ商会は二金貨(ゴルディ)で売っているんだってさ。まぁ、それは私には関係ないけど……ギルドマスターが売って欲しいと言っている。任せるよ!」


 ケチなルシウスも「商人には敵わないなぁ」と呆れている。


「今日は、十五本できたから、カインズ商会に十本、持って行くけど、明日からは少し考えようと思っている」


 ルシウスにジャスの分と二本渡しておくよ。


「ありがとう!」と下級回復薬を受け取った。

「ただ、ギルドをあまり邪険にするのもなぁ」

 そこら辺のバランスは任せよう。


 これで、グレアムさんとの約束も果たした気分だよ。


「さぁ、風呂に入ろう!」と立ち上がったら、ルシウスに呼び止められた。


「アレクなら、初心者用のダンジョンでは物足りないだろう。中級のダンジョンに潜った方が、ウザい冒険者は少ないぞ」


 そうかもね! でも……約束しちゃったから。

「明日は、もう一つ初心者用のダンジョンに潜るよ。今日のは草原っぽいのだったから、迷路にも挑戦したいんだ」


 ルシウスは、腕を組んで考えている。


「迷路のダンジョンは、待ち伏せする馬鹿もいる。気をつけろよ! まぁ、アレクなら大丈夫だろうけどな。あまり、派手にするな!」


 うっ! 目立たないように、ウザい冒険者達をバリアで隔離しただけなのに。


「そうだ! これを渡しておこうと思ったんだ。俺とジャスが潜っているダンジョンの階数だ。ここまで達成しなくても、十階まで潜れたら一緒に活動しよう!」


 ルシウスってマメだよね。と感心したんだけど、どうやら二人だとこれ以上は大変なんだってさ。


「中級者用のダンジョンは、十階から先はキツくなるんだ。十五階に到達できたら、転移陣が使えるけど、そのボスがジャスとは無理なのさ。他のパーティと組めば良いけど、回復役がいないと厳しい」


 やれやれ、明日、初心者用のダンジョンを潜ったら、中級者用のダンジョンに挑戦しよう!

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