ギルドは鬼門?
ゆっくりとお城から持ち出したベッドマットで眠った。ふぅ、やはり野宿より疲れが取れるね!
「これをいちいち収納するのって、地味に面倒!」
一瞬でアイテムボックスの中に入るし、宿の少しへたったベッドマットを出すのもすぐだけど、毎回、これをするのは嫌だ。
「ルシウスがクランを欲しがるのが理解できるよ」
家を一軒、借りるか買い取って、自分の好きにカスタマイズできる。
それに、お風呂付きの宿が満室だとかもないしね。
「おーい、アレク! 起きたか?」
ルシウスに呼ばれて、慌てて部屋の外に出る。
「飯を食ったか?」
ドカドカと階段を降りたら、玄関の右手が食堂になっていた。
「おおぃ、遅いぞ!」
朝から食欲満開のジャスが、大盛りの朝食をとっている。
「この宿は朝食付きだからな。大盛りにするにはチップを渡せば良いんだ」
ルシウスも大盛りにするみたいだけど、私は普通ので十分だ。スープと肉を焼いたのを挟んだパン!
まぁまぁの味! 海亀亭の方が美味しいけど、防衛都市の物価が安いのは確かみたいだ。でも、周りにあまり畑とかないのだけど?
「肉や野菜はダンジョンで落ちるから、防衛都市は物価が安いのさ」
ルシウスは、私の疑問を見抜いて教えてくれた。
「食物ダンジョンは面白いぞ! ただ、中級者用になるから、先ずは初心者用でダンジョンに慣れた方が良い」
食べながら、ダンジョン情報をルシウスとジャスから聞く。
「今日は、ルシウスと武器屋かぁ。明日、初心者用のダンジョンに潜るなら、荷物持ちの子どもを上手く選べよ!」
これ、凄く重要だとジャスは言うけど、判別できるかな?
「重い荷物を持てる男の子が良いのだ。だが、そういう子は、他の冒険者と組んでいる場合が多い。残っているのは、幼い子か女の子が多いのさ」
児童労働禁止なんて、この世界にはない。親が養わないなら、自分で稼がないと食べていけないのだ。
「それと、ある程度の歳の子なら、剣とかを貸してやっても良いのだが……アレクは、剣は使えないからなぁ。それがあると、ある程度使える子が専属になってくれるのだけど」
ルシウスやジャスなら、剣を教えたりするのか? 後輩指導?
「ナタなら教えられるのだが」
二人は首を横に振る。どうもナタは人気が無いみたいだ。私には一番手に合うのだけど?
「ナタが武器屋にあるか、わからないから、手斧を買っても良いと思うぞ」
ルシウスもナタより、斧推しみたいだ。
「このナタの手入れをしてもらっている間は、手斧でも良いかもな。後は、弓の練習をするよ」
それと、予備のナタも作って貰いたい。
「ジャスは良いのか?」
大剣もかなりオークを斬っていると思う。
「俺は、大剣の予備をギルドに預けてあるから、今のを手入れに出すだけさ」
ジャスって、見た目と違って意外と小まめなんだよなぁ。
「そのくらい冒険者なら普通だぞ! ルシウスはケチだから、別だ。今度は予備の剣を作るぐらいの儲けがあっただろう」
まぁ、ルシウスのケチにも慣れたけどさ。
「あっ、アレク! グレアムさんが回復薬を作って欲しいと言っていたぞ。防衛都市で売るはずだったのに、使ってしまったからな」
本当に、今回の護衛依頼は大変だった。その分、お金はたんまり貰ったけどね。
「ダンジョンで薬草が採れたら、すぐに作るよ」
私も、お金を貯めたいからね。なんか、失敗してもお金があれば、借金奴隷にならないですむみたいだから。
ルシウスと武器屋で、ナタとナイフの手入れを頼み、予備のナタも注文した。
「手斧と矢も買ったから、アレクはもう用事は無いな」
ルシウスは、予備の剣と盾、それと革の鎧も新調するそうだ。かなり儲けたし、装備をケチると命に関わるからね。
「ああ、ギルドで金を受け取って、初心者用のダンジョンについて調べるつもりだ」
ルシウスに、金は使う分以外はギルドに預けておいた方が良いと忠告された。
アイテムボックスが無ければ、その方が安全かもね。でも、万が一、追っ手が来たら、即逃げなきゃいけないんだ。
「わかった」と言いつつも、預ける気はなかった。
冒険者ギルド、入る時に少し緊張しちゃう。この前は、ルシウスやジャスが一緒だったから、すんなりと入ったけどさ。
「よし!」と気合いを入れて、ギルドに入る。
もう、朝一ではないから人は少ないのでは? と期待していたけど、かなり多い。
そっか、交易都市のギルドでは、朝一に良い依頼を受ける目的があったけど、ここではダンジョンに潜るのなら、いつでも良いんだ。
護衛依頼の報酬を貰うのと、初心者用のダンジョンの情報をただの部分で良いから手に入れたいと思ったんだ。
地図とかは、脳内地図があるから、買わなくても良いけどさ。
「おい、新入り!」
清算の列に並んでいると、馬鹿が湧いてくる。嫌だ、嫌だ!
でも、交易都市で目立った反省をしたから、無視しよう! 変な二つ名を付けられたくないし、追っ手持ちなんだよ。
「おぃ、聞いているのか? 俺様が声を掛けてやっているのに!」
本当に、雑魚って同じ台詞しか口に出来ないのだろうか? 頭が悪いんだな! 無視、無視!
「ダンジョンに一緒に連れて行ってやるぞ!」
一人を無視していたら、他の馬鹿も湧いてきた。
「おぃ、先に声を掛けたのは俺だぞ! 一緒にダンジョンに行くんだ!」
それ、私は頼んでないし、同意もしていない。早く、清算して貰って、宿に戻ろう。初心者用のダンジョンの情報は、もう要らない気分だ。ジャスも必要ないって言っていたし。
馬鹿二人が喧嘩を始めると、それに馬鹿の仲間が参加して大騒動になった。
やはり、ギルドは鬼門だな! 清算はいつでも良いから、サッサと逃げよう!
「おい、何の騒ぎだ!」
二階から、迫力満点のギルドマスターが降りてきた。
元金級だとジャスが言っていたな……なんて、考えていたら、馬鹿なりに頭はあるのか蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
つまり、私だけがその場にぼぉっと立っている状態だ。
「お前の顔は、見覚えがないな」
これって私に声を掛けているのか?
「昨日、防衛都市に着いたばかりのアレクです」
これで、質問に答えたし、清算の列に並んでいた冒険者達も、何故だか騒いでいた連中と一緒に逃げ出したので、次は私の番だ! ラッキー!
「銅級のアレクです。カインズ商隊の護衛任務の清算をお願いします」
ジャスに貰った革紐を引っ張って、銅級のギルド証を出す。
「ええっと……えええ!」
ギルドのお姉さん、お願いだから騒がないで! 栗色の髪の可愛い子だけど、まだ慣れていないのかな?
「これで、良いのでしょうか?」
それ、そちらが心配する事じゃないよ。
でも、ずっしりと重そうな皮袋が三個! 金貨たっぷり入っていそう。三百金貨!
これで、借金奴隷の道は閉じたよね! やったな! サインをして、受け取ろう。
「それをギルドに預けないのか?」
えっ、後ろにピッタリとギルドマスターが張り付いているんだけど?
「ああ、預けた方が良いのかも?」
アイテムボックスについて知られたくない。こいつがいない時に引き出したら良いだけだ。
銀貨と銅貨を貰って、金貨の袋はギルドに預ける。
このギルド証、貯金通帳の代わりにもなるみたいだね。
さて、用事も済んだし、おさらばしよう! と思ったのに、ギルドマスターに二階に連れて行かれた。何故だ!




