ダンジョンとは?
ルシウスとジャスと飲み食いしながら、これからの活動について話し合う。
「まだ雨季じゃないが、防衛都市にいるならダンジョンに潜らないと金にならないぞ」
ムシャムシャと草鞋みたいなステーキを食べながら、ジャスが口を開く。
「まぁなぁ! でも、アレクは一からだから……」
ルシウスもダンジョン推しだけど、何か奥歯に物が挟まったような言い方だ。
「もしかして、俺だけ最初からだからか?」
神様の知識で、ダンジョンには五階ごとに転移陣があるのは知っている。そして、一度踏破した回数までしか転移陣で飛べないのだ。
「そうなんだよなぁ。それに初心者用のダンジョンは儲けも少ない」
ジャス、本気でルミエラちゃんを身請けするのかな? ルシウスのケチが移ったみたい。
「じゃあ、一人でお前たちの階まで行くしかないか……」
ブッーとエールをルシウスが噴き出した。
「一人でダンジョンなんか潜るもんじゃない! 初心者用のダンジョンなら、毎日、ギルドでチームを募集しているぞ」
ただ、知らない相手と行動するのって苦手! 男装していても、色気づく馬鹿がいるから。
「それか、荷物持ちの子どもを雇うのも良い。アレクなら、初心者用のダンジョンならすぐに踏破できるだろう。ああ、でもダンジョン石は壊したら駄目だぞ!」
うん? 神様の知識では、ダンジョンの最奥にあるダンジョン石を壊したら、ダンジョンは無くなるって書いてあったような? そうやって、北の大陸のダンジョンは撲滅されたんだよね?
「初心者用のダンジョンは、壊しては駄目なのさ。それに、食用ダンジョンも壊すのは禁止だ。壊して良いのは、オークやゾンビが沸くダンジョンが多い。管理されているダンジョンは入り口に書いてあるから、絶対に読めよ!」
なるほどね! それは神様の知識では得られなかった情報だ。
「俺たちは、明日、明後日は武器の手入れもあるから休む。アレクも武器の手入れをした方が良いぞ」
そうなんだよね。鉈もナイフもかなり酷使したから。矢は、アイテムボックスの中にまだあるけどさ。
「アレクもかなり儲けたのだから、サブの武器を買った方が良い。交代で使わないと、無駄な時間が多くなるからな」
明日、ルシウスに武器屋に連れて行って貰うことにした。ジャスは別行動だそうだ。聞かないけど、きっと花街関係なんだろ。
「それと、荷物持ちの子どもには気をつけた方が良い。アレクは、見た目で損するからなぁ」
確かに! 防衛都市に着いた途端、私にだけぶつかってくるスリの子どもが多かった。
「まぁ、それも勉強さ! 初心者用のダンジョンなら、言うことをきかす練習にもなる」
ジャス、良い加減だなぁ! でも、ある意味で私の元々の計画に近いのかも? 初心者の冒険者に薬草を採ってきて貰って、回復薬を作って売るつもりだったんだよね。
「初心者用のダンジョンの魔物とか採取できる薬草とかは、ギルドで調べられるのか?」
二人が「初心者用なのに?」と小馬鹿にした顔をした。
「薬草が欲しいんだよ!」と言うと、納得したけどね。
「アレクの回復薬は、高価に売れるからなぁ」
ルシウスは、納得してくれたけど、ジャスは首を傾げている。
「薬草なら、採ってきて貰えば良いだけだろ? それともアレクは薬師になるのか?」
それ、凄く悩み中なんだ。食べていくだけなら、薬師で十分だと思う。ただ、北の大陸から追っ手が来た時、弱いと困る。好色王に嫁ぐなんて、絶対に嫌だからね。
交易都市から防衛都市に来たのは、より遠くに逃げたかったからなんだ。
もし、防衛都市に追っ手が来たら、もっと南の自由都市群に行く必要がある。
お金を貯めたら、自由都市群まで馬車で行けるかも? でも、その護衛が本当に信頼できるかはわからない。今回の護衛依頼は、かなり厳しかった。でも、オークの群れに全滅させられた商隊とか、馬車もあったんだよ。
やはり、この世界で生き残るには、ある程度強くないと駄目だと思う。
「なぁ、ダンジョンに潜ると強くなるのか?」
二人は腕を組んで考える。
「まぁ、普通の依頼をこなすよりは強くなるのが早い。ただ、銅級から銀級に昇格するには、ある程度はギルドの依頼をこなさないと駄目だ」
ルシウスの言い分は、何となく理解できる。所詮、ギルドの等級なのだから、自分ところの依頼をやってくれる冒険者を優先したいのだろう。
「防衛都市の北に湧いたダンジョンの探索と踏破をしたら、俺たちも昇格できるだろうけど……オークはうんざりなんだ」
ケチなルシウスもうんざりしているみたいだ。それに、ダンジョンの外にオークジェネラルが出たんだ。最下層には、オークキングがいる可能性も高い。
オークジェネラルも、ぎりぎりだった。オークキングなんて、まだまだ無理だとルシウスも分かっている。ここが銀級と金級の違いかな?
「アレク、兎に角、無茶はするなよ。まぁ、初心者用のダンジョンで無茶もないだろうが……」
ジャスが大体出る魔物を教えてくれた。スライムとかアルミラージとか大物でもビッグボアぐらいだってさ。
「厄介なのはキラービーぐらいかな? まぁ、ハチミツは高価買取りしてくれるが、下手に手を出すと追いかけてくる。地上にまで連れてきたら、罰金だぞ!」
年に何回かは、キラービーを引き連れて逃げ出す冒険者がいるそうだ。
ダンジョンの入り口には、傭兵がいて、それが討伐してくれるみたいだけど、その手間賃が高価で……払えないと借金奴隷! これは、絶対に避けたい!
「薬草は……気にした事がないからわからないな。ギルドでダンジョンの攻略本を買えば書いてあるだろうけど……初心者用ダンジョンで金を使うのは勿体無い」
ルシウスのケチな意見は、一応聞いておこう。
「中級のダンジョンの十階ぐらい潜れたら、一緒に行動できるぞ!」
初心者用のダンジョンは十階程度。中級者用のダンジョンは、二十階以上。上級者用のダンジョンは……まだ踏破されていないみたい。
「金級が上級ダンジョンの三十階まで攻略したと噂で聞いた。だが、アイテムバッグが無いと、食料とか補給が無理みたいだ。オークションで手に入れたら、もしかしたら……」
二十階から、二十五階が銀級のマックスで、二十五階からは本当に一階潜るごとに死人が出るレベルだそうだ。
「もしかして、荷物持ちも転移陣は踏破しないと使えないのか?」
ルシウスとジャズが苦い顔をする。
「二十五階まで行ける荷物持ちなんか、子どもでは無理だ。銅級の冒険者が死ぬ理由の一番だな!」
ルシウスは、死んだ仲間を思い出したのか、エールを一気飲みした。
「銅級の冒険者なら、荷物持ちなんかしなくても中級のダンジョンに潜れば良いんじゃないのか?」
私ならそうするけど? 疑問をぶつけたら、ジャズが苦笑する。
「アレクは魔法が使えるから、一人でも荷物持ちを雇えば初心者用ぐらいいける。それに、中級も十階ぐらい踏破したら、俺たちとパーティが組める。だが、ポッと出の冒険者はそうはいかないのさ」
「ふうん? 金級は金払いが良いのか?」
私の単純な質問に、ルシウスとジャズが真剣な顔で注意する。
「アレク、金級のパーティにとって、銅級なんか使い捨ての籠だ。万が一、強い魔物に遭遇したら、捨てて逃げられるぞ!」
ルシウスの苦い声で、これは本当に知り合いが酷い目に遭ったのだと察した。
「特にアレクは神聖魔法が使えるのがバレたら、引き抜き合戦になるから気をつけろよ!」
ふぅ、防衛都市に着いたばかりだけど、気が重たくなったよ。




