ルシウスと相談
エリクサー(劣)ができちゃった。
二本あるけど、一本はアイテムボックス行きが決定している。
星の海のメンバーが酷い怪我をするかもしれないからね。
上級回復薬(秀)より、やはりエリクサー(劣)の方が上なんだもの。
パンサーさんがどうして片腕を失ったのか知らないけど、金級でもそんな怪我をするんだ。
命に関わる怪我だってするかもしれないから、一本は用意しておきたい。
神聖魔法で、怪我もある程度なら治せる。病気だって治せるんだよね。
ただ、あまり公にしたくない。交易都市では、やらかしているけどさ。
うん、これは私用なのかもね! ルシウスやジャスが酷い怪我をしても、治すよ!
ただ、自分が怪我をしたら、使うかもね?
「ルシウスとジャスと相談したいけど……ジャスは帰って来ないだろうな」
ルミエラちゃんが花街一の芸妓だと聞いていたから、ジャスが身請けすると言っても無理だと思っていた。
金銭面でも難しいだろうし、その後もどうやって暮らすのかとかもあるからね。
でも、開拓村出身だと知ってからは、贅沢な暮らしじゃないと駄目って訳でもないのかな? と感じている。
まぁ、それはルミエラちゃんが決める事だと思うし、ジャスがお金を貯められるかは分からない。
「ルシウスが帰ってきたぞ!」
外を見張らせていた機械兵が白猫に知らせたみたい。召喚した機械兵だったからかな?
普段は、迷宮ダンジョンでドロップした機械兵を出しておこう。
「ルシウス、ちょっと話があるんだ!」
ルシウスの部屋で話し合う。
「ええっと、先ず上級回復薬(秀)と上級回復薬(優)ができたんだ」
アイテムボックスから出して並べる。
「うほほほ、凄いぞ!」
目が金に眩んでいるルシウス。これは、ルシウスに任せるよ。
「ちょっと聞くけど、上級回復薬(優)は、中級回復薬(秀)よりも上なのか?」
「下級回復薬(秀)は中級回復薬(劣)より上ですが……」
「鑑定してみろ!」と白猫が言う。
アイテムボックスから中級回復薬《秀)を出して、目の前の上級回復薬と鑑定してみる。
「うううん? 上級(優)の方が良いみたい」
「そうか! それなら強気の価格設定にしよう!」
値段の交渉は、ルシウスに任せよう。ケチだから、損はしないからね。
「ただ、ギルドにも一定数は売って欲しいんだ」
「ああ、わかっているよ!」
これも安心して任せられる。ルシウスはケチだけど、冒険者のことも考えているからね。
「あのさぁ……」とエリクサーの事を言い出し難くて言葉に詰まる。
「アレクがエリクサー(劣)を作ったのだ。これで、パンサーの腕は治せる。彼奴を借金奴隷にして、オークダンジョンの殲滅を手伝わせろ!」
白猫って、本当に人間じゃないから、気持ちの機微がわからないんだよ!
「えっ、エリクサー! 凄いじゃないか! オークションに掛けたら、クラン創立の資金になる!」
ルシウスは、クラン創立が夢だからね。
「うん? 借金奴隷? あああ、そうか! パンサーは、金級だからクランができる!」
「えええ、借金奴隷でも良いの?」
「ううん? どうだろう? それは調べてみないといけないが、エリクサーは一本だけなのか?」
金の匂いに敏感なルシウスに気づかれた。
「二本できたけど、一本は万が一の時に取っておきたいんだ」
「ええええ、アレクの治療があれば大丈夫だろう!」
「私が瀕死の怪我をしたら困るじゃん!」
「ああ、そうか! もう一本できないか? あっ、マジックバッグをいっぱい作ろうぜ!」
目が金にくらんでいるルシウス! 白猫が頭に飛び乗って、尻尾で顔を叩く。
「クランの前にオークダンジョンの殲滅だ! クランを作っても、オークダンジョンに遠征していたら意味がないだろう! それに、オークダンジョンを殲滅できたら、金級になれる実力がついている」
珍しく白猫が正論を言っている。
パンサーをオークダンジョンの殲滅に協力して貰うのは良いけど、その金級でクランを作るのは間違っているんじゃないかな?
「ああ、そうだな! パンサーは協力して貰うけど、創立メンバーの私とジャスとアレクが金級にならないと、中途半端なクランになってしまう!」
顔をパンと叩いて、考えの甘さを自覚したルシウス。
「うん? パンサーに協力して貰うのは、決まりなのか?」
「ああ、どちらにも良い話だと思う。パンサーも金級の冒険者だったのだから、自分の腕を取り戻したいだろう。それに、自由都市群の紐付きの状態は、嫌だと思うぜ!」
「そうなのかな? それだと良いのだけど……。それにヘレナの事も気になるんだ。自由都市群の借金奴隷だったそうだけど、縁は切れているのかな?」
ルシウスもそこはわからないと首を捻る。
「ヘレナは、自分で判断するだろう! 自由都市群と繋がっているとしても、オークダンジョンの殲滅には関係ないさ!」
そうなの? それなら良いんだけど。
「ふん! 人間の欲には限りがない。北の大地にも野心家がいるみたいだし、自由都市群との共謀を警戒した方が良いぞ。交易都市は、防衛が弱いからな」
「白猫? 交易都市は知らない筈だよね? 迷宮ダンジョンの中で眠っていたんだから」
「そのくらい話を聞くだけでわかる! わからないのは、アレクの様なポンコツだけだ」
腹が立つから、ルシウスの頭の上の白猫を抱きおろして、ムニムニの刑にしておこう。
「ジャスにも話してから、パンサーにエリクサーと借金奴隷の話を持ちかけてみる。自由都市群とどの様な契約を結んでいるのかもわからないが、冒険者なら自由になりたいと思う筈だ!」
ルシウスは、パンサーに憧れていたようだから、かなり甘い判断かも?
でも、そのくらいしないとオークダンジョンの殲滅は無理だと思う。
「うん? ギルドマスターも協力させたら良いのでは? パンサーは、ギルドマスターの相棒だったのだろう? 二人を借金奴隷にしたら良い!」
酷いにゃんにゃんだ! ムニムニ刑から、猫吸い刑にしよう!
「それは……無理じゃないのか? ヨハンセンギルドマスターは、借金奴隷にならないと思うぞ」
私の猫吸いの刑から逃れた白猫は、フン! と尻尾を床に打ち付ける。
「人間は、自分の失敗で相棒が怪我をしても知らぬふりができるのか? ヨハンセンは、きっと自戒の念に縛られている。そこを利用すれば、借金奴隷が二人手に入るぞ!」
「酷い猫だ! でも、それって本当?」
ルシウスもハッキリとは知らないと言いながら、噂話を教えてくれた。
「二人で上級ダンジョンを探索していた時、ヨハンセンさんが罠に掛りそうになったのを、パンサーが突き飛ばした。その時に、上から落ちてきた金属で腕が無くなったとか……。二重の罠になっていたみたいだ」
「でも、無くなったばかりなら腕をつけられたんじゃないのか?」
私の神聖魔法なら、付けられる。
「ああ、でも深い階だったし、転移陣がなかったから……。結局、腕は諦めるしかなかったみたいだ」
ふうん、南の大陸の魔法使いはポンコツだからな。
「まぁ、ヨハンセンギルドマスターは兎も角、パンサーには話してみよう! ジャスは、いつ帰ってくるのか? マジックバッグを作ってうりたいのだが……」
色ボケのジャスがいつ帰ってくるのか? それは、私も知りたいよ! ヘレナの事も話し合わなきゃいけないからね。
コンビを組んでいるパンサーを借金奴隷にして、取り上げるんだから。




