エリクサー(劣)を作ろう!
次の日、上級回復薬とエリクサー(劣)を作ろうと思って目覚めたけど、金熊亭にパンサー達もいるんだよね。
草原の風、クレイジーホースのメンバーは私が神聖魔法を使えるのも、回復薬を作れるのもオーク襲撃の時に知っている。
それに、上級回復薬はまだしも、エリクサー(劣)はちょっと作れるのが知られるのはマズい気がする。
「いつもは裏庭だけど……腰も痛くなるし……かと言ってカインズ商会は駄目だよなぁ」
あそこの調合室なら、腰も痛くならないし、良いんだけど……。
「おおい、朝食を食べるぞ!」
ジャスがドアをダンダンと殴って叫んでいる。
「ああ! 行くよ!」
まぁ、いざとなったら馬車を出してその中で作れば良い。
あの中は、空間魔法で広くなっているし、台所もあったからね。
「俺たちは顔役にゴールデンフラワーの香料を持っていくが、アレクは……アレを作るのか?」
ルシウスの言っているアレは、上級回復薬だろう。エリクサー(劣)は作ってから言おう。
「うん、まぁね!」
それでいつまで休むのかとか決めなきゃね。
「アレの中級も作らなきゃな!」
隠語ばかりなのは、食堂にパンサー達もいるからだ。
草原の風のメンバーは、長期の依頼明けなので、パラパラだけど、クレージーホースは全員揃っている。
「なぁ、暇なら食物ダンジョンを一緒に攻略しようぜ!」
クレアがジャスに提案して断られている。まぁ、今日はルミエラちゃんと会うのだから、断るよね!
今度は、ヘレナに声を掛けている。
「クレアは、何処まで潜っているのさ?」
それ、重要だと思う。
「クレージーホースは、基本は護衛依頼がメインなんだ。だから、ダンジョンはあまり潜っていない。お前ら、何処まで潜っている?」
クレアの声に「三階!」「五階!」とパラパラと声が上がる。
「せめて十階まで潜ってからの話だよ!」
ヘレナに断られたクレアが私を見るけど、首を横に振る。
「俺も十階まで潜ったら、付き合っても良いよ」
「仕方ないなぁ! 駆け降りるか! そこからは、アレクに付き合って貰おう!」
「おう!」
クレージーホースは、スレイプニルで十階まで駆け降りることに決めたみたい。
階段も広いからスレイプニルでもいけるのかな?
「クレア、私との態度が違うんじゃないかい?」
ヘレナが難癖をつけている。
「やはり金を持ち逃げされたトラウマがあるからね!」
「持ち逃げじゃなくて、交渉だと言っただろう!」
「それは分かってはいるけど、本当にあの時は食うのも困ったんだよ!」
パンサーさん? 笑ってヘレナとクレアの口喧嘩を見ているけど、悪い人ではなさそうなんだよね。
ただ、まだ信頼ができないだけ! それと、借金奴隷にする覚悟もないんだ。
朝食を終えたら、クレイジーホースは本当に食物ダンジョンに向かっちゃった。
麦畑を爆走するスレイプニルが目に浮かぶよ。
他の冒険者達は、驚くだろうね!
さて、私はスレイプニルがいなくなったので、馬房に魔導具の馬車を出して、そこでエリクサー(劣)を作ろう!
と思ったんだけど、アイテムボックスも秘密にしているんだよね!
「パンサー達も潜れば良いんだけど……」と思ったけど、彼方も昨日は潜っていたから休暇日だよね。
「防衛都市の外で出そうかな?」
うん、そう言えば防衛都市の外を見ていないんだよな。
蒸し蒸しと暑いけど、今日は雨は降っていない! 良いアイデアに思えてきた。
白猫のスキルだけど、召喚士だと誤解されているので、機械馬を出しても平気だろう。
それに休暇なのだから、自分の興味を優先しても良いと思ったんだ。この時はね!
オークがうろうろしているのも忘れていたんだ。
クレージーホースが引き返したと話していたのも忘れちゃってたんだよ!
「白猫、防衛都市の外で馬車を出して、エリクサー(劣)を作ろうと思うんだ」
「アレク、少しは頭を使わないと、脳みそが腐ってくるぞ! 外には魔物、それにオークが彷徨いているのに、態々、そこで調合するのか?」
「あああ、そうだった!」
「まぁ、オーク狩りをするのは良いと思うけどな」
オーク狩りを一人でする程、好戦的ではないよ。
「馬車を金熊亭に常に置いておけば良いんだ。少しの場所代で済むだろう。機械兵を見張りに置いて置けば、魔導具だとは気づかれない」
「そうだね!」
金熊亭の女将さんは、馬房の端の方なら良いと簡単に許可をくれた。
端っこに馬車を出し、見張りの機械兵を側に置いて、エリクサー(劣)を作る。
上級薬草と竜の肝と黄金の蜜で、エリクサー(劣)!
エリクサーを作るには蘇り草、竜の肝、命の石が必要なんだけど、蘇り草がまだ手に入っていないんだ。
上級薬草は、デスビーの巣の下に沢山生えていたので、かなり手に入った。
ただ、竜の肝は全部使いたくないんだよね。
今度、また黄金の蜜が手に入った時の為に、取っておきたい。
「ごちゃごちゃ考えずに、先ずはエリクサー(劣)を作ったら良い」
白猫に笑われちゃった。小心者だから、貴重な竜の肝を使うのにビビっているんだ。
竜の肝を慎重に計りながら使う。上級薬草は、浄水で洗った。それを浄水に刻んで入れて、慎重に温めながら、竜の肝と黄金の蜜を投入。
「あまり煮出さない方が良いと思うんだ」
回復薬も、南の大陸の薬師は煮出しすぎなんだよね!
「あっ、緑色だったのが……薄い金色めいてきた」
火からおろして、鑑定を掛ける!
「やったぁ! エリクサー(劣)ができたよ!」
白猫は、材料があるのだから当たり前だって態度だけど、エリクサーだよ! 興奮しちゃうじゃん!
その後、竜の肝を使った上級回復薬(秀)を何本かと、ロイヤルゼリーを使った上級回復薬(優)を四十本ほど作った。
エリクサー(劣)は二本できたんだよね。
「オークションに掛けたら、クラン費用の足しになるかも……」
「それは、取っておいた方が良い。オークションには、マジックバッグ小(劣)を出せば良いだろう」
二つあるマジックバッグ小(劣)の一つを、ルシウスは『草原の風』に売りたいみたいなんだよね。
「マジックバッグ中を作れば、譲っても良いんだけど……『裁縫』『料理』の魔導書が出ないかな? ルシウスにも手伝って欲しいし、料理ができたら竜の肉もオークションに出さないんだけどさ」
だって、凄く美味しかったんだもの。それに、米を食べたい!
『森亭』では、米は扱っていなかったんだよね! 残念!
「また、迷宮ダンジョンに潜れば良いだけだろう! まぁ、アレクに料理はできるかわからないがな」
失礼な白猫をぎゅっと抱きしめておこう。




