地図を作ろう!
前の『アレクの休日……白猫視点』と少し内容が被ります。
休日一日目、朝から三人で武器のメンテナンスを頼んでから、シャツを受け取りに行ったよ。ジャスは、私の二倍は生地を使っているよね? ちょっと不満だけど、細かい奴だと言われたくないので黙っている。だって、二枚欲しくなるクオリティだったからさぁ!
「また、あの隠し部屋には行かなきゃな!」
早速、着替えたら、蒸し暑さを感じないんだ。
ここで、二人とは別れる。花街の顔役との話し合いには、私は不参加だ。
木工品店を探しながら歩く。きょろきょろと探しながら歩いているからか、相変わらずぶつかってくる子どももいるが、前よりは減っている。
顔を見慣れてきて、何もスレないのが分かってきたのかも。
木工店を見つけたけど、思うような品が無い。困ったなぁと思っていたら、白猫が起きて、カバンから私の肩に飛び乗った。
「オーダーすれば良い!」
「あっ、そうか! ええっと……」
紙にどのような物が欲しいのか描いて説明する。
「エールの小樽を置いて、ジョッキに注げる高さが必要なのですが、背負い籠に入れてダンジョンに持ち込みたいので、折りたためるようにして下さい」
木工屋の親父は「ダンジョンの中でもエールを飲むのか! 気に入った!」と笑って「早く作ってやるぜ!」と引き受けてくれた。
「本棚は、百冊ほど並べられるのを作って欲しいのです」
親父は驚いている。
「百冊かい? そんな金持ちには見えないがなぁ」
確かに私の格好は、白いシャツにカーキ色のズボン、それに胸当てだからね。ただし、この白シャツは買えば凄く高価だと思うよ。
「ダンジョンで本がドロップするんだ。売るよりも、いつかクランを作った時にメンバーにも読んで貰いたいと思っているのさ」
親父は「クランとは豪気だぜ!」と笑ったが、引き受けてくれた。
「エールの台は、明日にはつくっておく。だが、本棚はちょっと時間をくれ。扉にガラスを入れるだなんて、贅沢品だから、きっちりと仕上げたい」
エールの台は、五銀貨、本棚は二十金貨! 半額の予約金を払って、店を出た。
店を出た途端、白猫が「ランスを買おう!」と言いだした。
ランスねぇ。あれって騎馬騎士が持っているけど、重たそうなんだよね。やっと弓が使えるようになったのに……ちょっと。
「先ずは槍を使えるようになってから、ランスを買うことにするよ。だって『槍の初歩』だからね」
そう言ったら、白猫は怒って頭の上に飛び乗った。
「ちょっと白猫!」
町中で頭の上に白猫を乗せていたら、目立つし恥ずかしいよ。
せめて肩に乗せようとしていたら、隙があると思ったのか、子どもがぶつかってくる。
「ルシウスとジャスはどうしたのだ?」
「あの二人は……花街の顔役と取引をしに行ったよ」
やっと、白猫を捕まえて肩に乗せる。
「ランスを買わないのなら、ギルドに売る地図の紙とインクを買ったらどうだ?」
それは、白猫に言われなくても分かっている。
羽ペンは、腐るほど持っているから、大きめの紙とインクを買う。
「そろそろ、お昼だけど……森亭は、猫も大丈夫かな? まぁ、行ってみよう! 駄目だったら金熊亭で食べたら良いだけだからね」
白猫にそう言い聞かせて、森亭に向かう。
「あのう、この白猫は従魔なので、行儀良くさせますから、一緒に食事をしても良いでしょうか? あっ、これが従魔の証です」
白猫って、見た目だけは凄く可愛いんだよね。特に何かを強請る時は、黒目がまんまるになって超あざとい。
「可愛い猫ちゃんですね。躾ができているなら、良いですよ」
ウェイトレスさんが入店を許可してくれた。
『猫ではない!』白猫が頭に直接文句を言っているけど、その猫の見た目を凄く上手い事利用しているじゃん!
「ダンジョンの中で食べたシチューは、ビッグエルクの赤ワイン煮だったんだよ。お昼は、ランチメニューだけだから、何が来るのかな?」
ランチメニューしかないから、選べないけど、森亭に外れはない。
私の前には、火食い鳥のスパイス焼き! それに付け合わせの人参のグラッセと菜葉のバター炒め。
白猫には、アルミラージのホワイトシチュー!
森亭は、ランチは一種類なのに? チラリと厨房を見ると、亭主が柱の陰から、白猫を愛おしそうに見ていた。
わざわざ、白猫の為に作ってくれたんだ!
ウェイトレスさんは、椅子を並べてサービスしてくれている。これは、チップを弾まなきゃいけないな。
レオは、シチューを食べ終わったら、うとうとと寝てしまった。この姿を見ると、神様だったとは思えないね。
「猫ちゃん、寝てしまったのですね」
ウェイトレスさん、猫好きだね!
「ええ、まだ中猫なので、寝る時間が長いのです」
まぁ、成猫になっても猫は、よく寝るけどね。
白猫をカバンの中に入れて、買い物を続ける。
転移陣、大男二人が場所を取るから、羊皮紙を継ぎ合わせても機能するか確かめたい。
継ぎ合わせたのがあれば良いのだけど?
それと、白猫のブラシ! 長毛種っぽいけど、まだ中猫なのでまだ毛が絡んではいない。でも、長毛種は子猫の時からブラッシングを習慣つけないと駄目なんだよね。
石鹸を売っている店で、ブラシも見つけた! 石鹸もついでに買うよ。金熊亭でよくお風呂に入るからね。
金熊亭に戻って、白猫をバスケットに寝させる。くぅくぅと微かな寝息が可愛い。
「矢が使えるか、試し撃ちしなきゃいけないんだ」
女将さんに、洗濯場で練習しても良いかと許可を取る。
「アレク、弱かったらダンジョンで死んじゃうよ! まぁ、あんたは魔法を使うみたいだから、後衛だろうが……兎に角、練習はして良いよ!」
相変わらず気が良い。掃除は、浄化でできるし、ベッドマットだけが面倒なんだよね。
矢は、アルシア町で貰ったのより、上等だった。つまり、使える!
ここで、エールを飲んで休憩! 女将さんが「しっかりと食べないと大きくならないよ!」と干し肉をサービスで持って来てくれた。それもかなり大盛り!
固い干し肉は苦手だけど、ちょこっと食べて後は、アイテムボックスに入れたよ。
「さて、地図を描こう!」
部屋に戻ったら、まだ白猫は寝ていた。起きたら、ブラッシングしよう!
机に紙を広げ、インクを羽ペンにつけて描こうとするけど、記憶がごっちゃになっている。
「ええっと、十一階は……」
うんうん、思い出そうと唸っていると、白猫が起きた。
「アレク、紙とペンとインクをアイテムボックスに入れろ!」
「えっ、白猫起きたの? 良い物を買ったんだ」
ふふふ、ブラシ、結構高かったけど、地肌を痛めたら駄目だからね。
バスケットから白猫を抱き上げて、膝の上に乗せて、優しくブラッシングする。
「猫ではない!」とか文句を言っているけど、初ブラッシングにしては大人しい。暴れて、爪を立てる猫もいたからね。
それには慣れているから、優しく言葉を掛けながらブラッシングを続ける。
「綺麗にしてあげるよ」
あっ、白猫が気持ちよさそうにゴロゴロ言っている?
『こんな事より……アイテムボックスの中で……地図を……眠い……』
「寝ちゃったね」
ソッと白猫を、バスケットに寝させる。
「そう言えば、紙とインクと羽ペンをアイテムボックスに入れろ! とか言っていたね。もしかして、機械兵をバージョンアップさせたのと同じ感じかも?」
アイテムボックスに入れてから「脳内地図!」で迷宮ダンジョン十一階を思い出す。
「やったね! これなら楽チンだ!」
出して見たら、迷宮ダンジョン十一階の地図が描かれていた。
「うううん? しまった! 隠し部屋も書き込まれているよ!」
がっくりしたけど、隠し部屋を省いたこれを書き写したら良いだけだ。思い出しながら書くより楽ちんだよ。
夜までに十五階までの精巧な地図を描いた。横には出る魔物の種類も記入したよ。
やっと起きてきた白猫に描いた地図を見せる。
「私の指導が良かったのだ!」と言われたけど、寝ていただけじゃん! まぁ、ヒントは貰ったから、森亭のシチューを出してあげた。
金熊亭の食事は、まぁまぁだからね。
今夜は、ルシウスもジャスもいない。昼は花街の顔役との話し合いや取引だっただろうけど、夜は? ちょっとモヤモヤするけど、白猫の寝顔を眺めて、読書をする。
魔導灯だと、火が揺れないから本が読みやすい。
それにしても白猫は寝すぎじゃないかな? まぁ、休日だから良いか……。




