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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第5章 3年目 前編 2歳
98/250

88,狼君と初めての魔術。


 魔力を放出するのとも圧縮するのともまったく違うナニカが自分から放たれていく。

 だが気分が悪くなるということもなく、高揚感に近いソレは初めて使う魔術に感動しているのか魔術を使えばそうなるのかわからない。

 はっきりしているのは魔力と魔術は別物ということ。


 細かい知識が1つを形成し、1つとなったそれらがまたより集まる。

 半年という短くも濃密な時間の中で築き上げた知識が1つの魔術を構成していく。

 まるで今までの自分の努力の成果が形になるような……そんな美しくも猛々しい。だがそれらに遥かに勝る興奮とナニカ。


 周りにまったく気が回らなくなってしまうほど夢中になったソレが作りあげられるは緻密にして大胆な構成。


 か細いそれらの塊は集まることにより強靭で柔軟なソレらに変わり……そして初期に構築した部分からゆっくりと霧散し始めた。


 慌てても魔術の構成を今更直すことは不可能で霧散する初めての魔術を呆然と見つめる以外何もできなかった。



「……しっぴゃぃ……」


「どうしたの、リリーちゃん?」


「んーん」


「そう……? でもばーばに何か出来ることがあったら教えてね?」


「あい」



 漫画か小説のように初めて使う魔術が大成功する。

 そんな予感がしていた……。していたからこそ失敗するなんて夢にも思わなかった。


 だからこそ落胆も大きかったが、目の前で霧散していく様を見れたことにより原因もおぼろげにだがわかった。

 1度くらいの失敗で諦めるほど自分は簡単ではない。


 むしろ今までだってトライアンドエラーでやってきたのだから、落胆こそすれ光明だって見出している。

 これはいつもと変わらないことだ。魔術だって今までのことと大差ないのだ。



【レキ君。失敗の原因は燃料……。魔力が足りなかったからです。

 でも解析して得られた必要量は間違いないんですよね……。そこで思い当たったことがあります。

 サニー先生は当初 " 精霊力 " を習得させると言ってたんです。

 妖精族は純魔力生命体。

 混じり気がないから魔術の燃料として最適且つ、最大効率を出せる力。それが精霊力です。

 考えてみれば当たり前だったんですよ!】


「わぅ?」


【わかりませんか?

 この魔術はクティ謹製です。つまりクティが使う前提で作られているんですから精霊力を使うのが当然なんですよ。

 私はまだ精霊力が使えません。なので魔力を必要量使ったんですが、解析して得られた必要量は精霊力の量だったんですよ!

 だから質の関係上必要なエネルギーを得られず構成は端から霧散した。

 これが今回の失敗の原因です!】


「わんッ」


【うん! でも原因がわかってもまず精霊力が使えないと意味がないんです。

 だからそんな期待に満ち溢れた瞳で見ないでください……】


「わぅぅ……」



 そう……。まだ精霊力は使えない。

 というかクティが開発した精霊力を魔力に変換する魔道具のその逆を教わるというのが、最初の目標だったはずだ。

 だがどうも自分への授業が楽しくなってしまったサニー先生がひたすらに知識を詰め込み始めたのが運のつき。

 半年経った今では当初の目標が切り替わり精霊力のせの字も出てこない状況になってしまった。


 だが深まる知識と度々見せる先生とクティのじゃれあいで使用される魔術。

 それらに使われるエネルギー。

 あれが精霊力であることは考えるまでもない。自分の使う魔力とは一線を画す物なのだから疑う余地もない。


 だからこそ魔術の解析まで出来るようになった今ならなんとなくわかる。

 精霊力と魔力との違い。


 それは最初期に先生に教わったことだ。


 混じり気のない魔力が精霊力。


 だが混じり気のない魔力とは何か。

 そもそも混じり気とは何なのか。



【――というわけで、仮説の段階ではありますが私が思う魔力に混在する物というのは私には濃淡で判別できるのではないかと思うんです】


「わぅ?」


【えっとですね……】



 お勉強モードの時はレキ君への口調も丁寧になる。

 レキ君へ教えながら自分への確認を確信へと変える作業を平行していく。



【魔力の操作で出来ることは色々ありますが、その中でも濃淡を変える技術がそれにあたると思うんですよ。

 なぜならば! 薄くすると綺麗に透き通って何も見えないじゃないですか!

 でもそこに魔力があるのはわかる! これはクティ達が使ってる精霊力ととても似ているんです!

 というかそのものの気がします!】


「……わふん」


【こら! そこ! 欠伸しない!】


「わふ……」


【もー……。せっかくいいところなんだからちゃんと聞いてよぉ~】


「わふ」



 どうやらレキ君はもうついてこれないご様子。

 大きく欠伸をして完全にやる気がなくなってしまった。

 ならば仕方ないので、とにかく実践することにした。


 魔術を解析して理論だけは理解したが失敗した。だが失敗の原因もわかっている。ならばやることは1つ。



 魔力を体内で出来る限り薄く薄くしていく。

 実際のところクティ達の精霊力というのはそれこそ何の不純物もない凄まじいまでの透明度を誇る物だ。

 だが自分が作り出せるモノというのはそれに遠く及ばない。


 試行錯誤し、何度も何度も試した結果いつの間にかレキ君ルームではなくベビールームで耳パジャマに着替えていた。

 今日はどうやらクマさんタイプの丸い耳がついていて尻尾も短いまん丸。

 ニージャ2号とでもいうべき姿だが、今日の専属はミラだ。

 毎日専属が変わるようになってからすでに一ヶ月以上経っている。



「ぁりぇ……」


「どうかなさいましたか、お嬢様?」


「んーん」



 不思議な顔をしているけれどにこやかにしているミラを見たらいつの間に戻ってきたのかはどうでもよくなっていた。


 今は試行錯誤の末に作り出すことが出来た精霊力の方が問題だ。



 そう、精霊力は作り出すことが出来た。

 だがそれは不安定で量も少ない。


 ちょっと気を抜くだけですぐ霧散してしまう酷い出来だ。

 あの魔術に使用する量には遠く及ばないソレだが、確かな前進であることには変わりない。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 部屋に戻ってくると魔力文字で会話できる人はいなくなる。

 クティもサニー先生もレキ君もいない。


 お婆様やエナやテオやエリーやミラが居るが流暢に会話が出来ないというのは意外とストレスは小さくない。

 クティ達が居た頃には全然感じなかっただけに魔力文字での会話はかなりのストレス発散効果を持っていたのだろうか。

 いや、単純にスムーズな会話が出来ないのがストレスなだけか。



「響くように鳴った大きな音が鼓膜を震わせる。だが私の鼓動はそれすらも凌駕し――」



 エリーに背を預けるようにして彼女の朗読を聞いているが、考えることは精霊力のことだ。

 後頭部のぽにょぽにょという柔らかい感触が何気に心地よくて考察も捗るというもの。

 ぽにょぽにょさせながら、エリーもずいぶん女の子の体になってきたなぁ……と親父臭いことを思いながら、作り出した精霊力の安定化と増産方法を検討する。


 今までの工程と工程の改良案。

 かなりの量試したとはいえ、体内で消費できる魔力などたかがしれている。

 では放出し薄めるか、と問うと体内でやるのと大差はないのが現状。

 大量の魔力を同時に薄めて1度に作り出せる量を増やすというのも考えたが、結果として霧散するのが早くなるだけだった。

 実用に耐えないのでは意味がない。なぜなら作った瞬間から消費させるという方法が出来ないのだ。


 なのである程度の量をある程度の時間保有できるようにする必要がある。




 結局エリーの朗読が終了しても答えは出ず、4人から頬におやすみのキスをされて今日は就寝と相成った。

 両親はどうやら仕事で帰ってこれないようだ。


 だが考えることは精霊力生成法とその維持。

 脳をフル回転させ続けた結果と柔らかいいつものベッドの安心感からうとうとし始めた頃、それは訪れた。



「ッ! ぁしゅく……」



 カッ、と目を見開き天啓が如く閃き、呟かれたそれはなぜ今まで思いつかなかったのかという思いが溢れるほどのものだった。



「りぇきりゃー!」


「リリーちゃん!?」


「ッ!? な、なに!? 何事!?」


「お嬢様!?」



 閃きからしばらくしてから発せられた自分の大声に1番最初に反応したのはやっぱりお婆様で、それに続くようにエナが飛び上がるように起き、声に反応してすぐに外で待機していたミラが入ってきて何事かと視線をさまよわせている。

 ドタバタと始まった警戒と索敵には目もくれず目の前に浮かんでいるソレに興奮することしかできなかった。


 閃きからはあっという間だった。

 精霊力の安定生産と維持が可能となり、そして発動した魔術。

 内部に何も隠蔽していないまったく意味がないソレだったけど、初めての魔術はこうして無事成功を納めた。



ここまで引っ張っておいて失敗です。


そしてやっぱり成功させちゃうのです。

リリーなのでそこはなんとかしちゃうのでした。

トライアンドエラーの子ですので!


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