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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第5章 3年目 前編 2歳
93/250

83,狼君と剣。



 辿りついた場所はテオとエリーが使っている鍛錬室に程近い距離にある場所だった。

 つまりレキ君ルームからも近い場所ということになる。

 戻ってきてしまったような感覚だ。いや事実1度レキ君ルームに顔を出して手を振ってきた。



 エナの心配そうな顔がなんとも言えなかった。屋敷内なのに……。



 多少時間を稼ぐようにところどころでラクリアの説明が入ったりもした。

 調度品の説明じゃなく通過する際に部屋の使用目的と名称なんかを短時間だけど説明してくれる。

 数が多いのでそれだけで十分時間稼ぎになるのだ。


 騎士団の訓練が見たい、という突然の言葉に準備する時間を稼いでいるんだろう。

 よく考えれば騎士団のうち4人が護衛についているし、団長役のお爺様はお仕事中。

 テオとエリーは学園だし、何人駆り出されているのか知らないが回る予定だった部屋の点検などにも結構な人数が出されているはずだ。

 残りは待機中だろうけどそれほど多いとは思えない。


 主人が騎士団の訓練を見るのにそんな少ない人数では意味がない。

 恐らく駆り出されたメンバーも全員が訓練の準備などをしているのだろう。

 そしてやはり主人が見に来るのだ。普通の訓練では意味がなく、フル装備したりして見栄えのよい訓練にしたりするのだろう。身に着けていれば鎧も見えるので楽しみだ。

 そういった装備には時間がかかる。故に時間稼ぎが必要。

 見に行って準備中です、なんて失態以外の何者でもないのだから。



「こちらは第7応接間になります。普段は使われることはあまりありませんが、屋敷内にある応接間の中でも中規模の広間なので違う目的などでも使われることがあります」


「ちあう?」


「はい、応接間にはお客様の対応だけを目的とした部屋とそうでない部屋があります。この部屋は特に後者の側面が強く――」



 ラクリアの淀みない朗々とした説明が続くがあまり興味が惹かれない。

 聞いてはいるが、正直どうでもいい。

 ラクリア自身も自分のそういう思いに気づいているらしく、長々と説明は続けずちょっとしたトリビア的な薀蓄も織り交ぜてなんとか楽しませようとしてくれる。


 ラクリアは個性的な専属の中でも真面目な普通の子だと思っていた。

 それは間違いではなく、専属達の中でも特に真面目だ。

 ニージャやジェニーのような何か企んでいるような印象もなく、ミラは真面目だけどちょっと頼りないし、3人と比べるとそういった印象もない。

 かといって主人である自分に興味がないというわけでは決してなく、話しかければ喜んで相手をしてくれる。仕事だからというだけではないのは、魔力の流れを見ているのでわかる。あの嬉しそうな流れが偽りなら相当な曲者だ。



「こちらは美術品保管室になります。ここにはその名の通りにたくさんの美術品が保管されています。

 特に私は中ほどにある、ライドシュゲイン製第4番の兎族を象ったぬいぐるみが素晴らしいと思うんです。

 あの完璧なまでのフォルム。躍動感溢れる美しい肢体。目の位置や耳の位置形……。あぁ素晴らしいです……。均等にわけられた綿は超高級品。もし触れることが叶うならそれは珠玉の心地に……」


「……戻ってこい」


「あいたっ」



 なにやらぬいぐるみの説明に入ったところでラクリアから魔力が滲み出始めた。

 禍々しいような清々しいような……。嬉々としているのがありありとわかるものだったが色々と突っ込みたい何かを感じる。

 そして恍惚としだしたその表情で熱い溜め息混じりに語られる説明は思いいれの程が伺える。


 これは所謂ぬいぐるみフリークだ。

 1分野に傾倒し心酔し崇拝する。真面目なラクリアにもやはり落とし穴があった。



 どうもうちの専属はみんな変わったヤツラのようだ。

 まぁ実害ないから別にいいけど。



 ニージャに脇腹をどつかれて正気に戻ったラクリアが頻りに謝ってくるけど、主人の目の前で同じ専属の脇をどつくのはいいのだろうか。

 ニージャは結構遠慮がない。たまに言葉遣いもものすごくフランクになる時もあるし。

 それでも一線を越えないのはさすが専属に選ばれるだけはあるって感じだ。弁える部分はしっかりと弁えている。

 でも専属の中でも1番親しくしてくれるので好感度的には1番高かったりしている。



「そ、それでは次へ……。あ、少々お待ちください」


「んゆ」



 通信機の魔道具に連絡が入ったようで少し離れたラクリアが対応を始める。

 あの魔道具便利だから1つ欲しい。

 生前も携帯は常に身に着けていたし、やはり同じ物が欲しい。

 今度お婆様に強請ってみよう。危険な物でもないし、魔道具1つくらいなら買い与えてくれるだろう。

 それに物を強請ったことは考えてみれば一度もない。お婆様も逆に喜んでくれるのではないだろうか。



「お待たせ致しました。それでは騎士団の訓練場に参りましょう」


「あい」



 どうやら準備も終わったようだ。さてどんな訓練を見せてくれるのか楽しみだ。

 テオやエリーのような稚拙な訓練ではない、迫力ある物を見せてくれるのだろう。楽しみでワクワクしてくる。やはり冒険とはこうでなくては。……考えていたのとはちょっと違うけどね。



 前を固める騎士2人が扉を開く動作を見せる。

 開かれた扉の奥には騎士団の結成式の時のようにずらっと騎士がフル装備で並んでいる。

 やはり中に入ったら訓練中ということはないようだ。事前に準備の時間もあったし当たり前ではあるが。


 騎士達の前にまで進むと全員が左胸に右拳を持ってくる騎士礼の体勢を取る。

 一糸乱れぬその動作は音が完全に重なりものすごく格好良い。



「では、副団長! 前へ!」


「ハッ!」



 ラクリアの凛とした声を聞き、すぐさまよく通る声が発せられ駆けてくる1番前にいた騎士。彼が副団長なのだろう。

 自分達の3mほど手前で止まり騎士礼を再度行い、素早くしかし全身鎧に身を包んでいるにも関わらずほとんど音を立てずに片膝立ちで傅く様に頭を垂れる。

 その動作だけでも見事と言わしめるほどのものだ。騎士っていうのは強ければいいんじゃないっていうのがよくわかる。こんなのを目指そうだなんてうちのお兄様もご苦労なことだ。

 でも格好いいので応援しよう。



「お嬢様、では一声お声をお掛けしていただいてもよろしいですか?」


「ん」



 騎士が目の前に整列し、代表が傅く。

 こういう場合は大抵ありがたいお言葉を授ける、という所謂様式美ともいう恒例行事だ。

 一応サニー先生が授業の合間合間で雑談として挟んでくる話で聞きかじっている。

 専門分野ではないけれどサニー先生にかかれば専門分野に近いレベルで知識を保有している。

 彼女は本当に博識で、深い。

 雑談であるはずの会話が通常授業のレベルとはいかずともそれに近いものになることもしばしばだ。


 そういう理由もあってこういった場合の定型句も知っている。

 でも今の自分の滑舌具合からして長い文章になるとまったく通じないので極々短めに済ませる予定だ。



「ひいのしゅーりぇんをみしぇよ」


「ハッ! 我ら白結晶騎士団。その身の全てをかけてご覧にいれます!」



 頭を垂れたままはっきりとした通る声で定型句が返って来る。

 副団長はよく通る声を持っているのも必須らしい。上の指示を間違いなくはっきりと伝える為だとかなんとか。

 まぁどもったりなんだりするような話し方をする人じゃ務まらないということだ。

 その点この副団長はよく通る声だし、ハキハキとしていて実に聞き取りやすい。声の質も主がまだ子供だからなのか、厳しい声ではなく澄んだ様な柔らかい声質だ。



「では」


「あ、まっりぇ」


「はい、お嬢様」



 ラクリアは訓練開始といいたかったのだろうがそこに割り込んで止める。

 せっかく護衛じゃない騎士――格好いい全身鎧と豪奢な剣を履いた人が居るんだ。もうちょっとじっくりみたい。


 護衛の騎士4人は全員が無手だった。

 屋敷内だったのもあって鎧とかもつけない騎士服だったし、武器も何かを隠し持ってはいるんだろうけど、それを見せるようなこともない。もしかしたら徒手格闘か、魔術師なのかもしれない。

 だからこういう男の子全般の憧れのような姿を近くでまじまじと見れる機会というのは少ない。

 訓練が始まってしまったら余計見れないだろうし、すぐに汚れてしまうだろう。

 だから見るなら今しかない。



 ガッチガチの全身鎧。腰に履いている剣もロングソードの類か長く、鞘に施されている装飾は精緻な逸品。生前に美術館で見たことがあるような装飾剣だろうか、実にかっこいい。

 武器は服の一部という分類なのだろうか。じゃぁ抜剣したらどうなるんだろうか。

 気になる……。



「りぇきくん、『すすめ』」



 普段はあまりレキ君に指示語を使うことはないけど今は騎士の人達もいるので使うようにしている。

 自分の指示を聞いてすぐにレキ君が動き出す。


 自分の声にラクリアがちょっと焦ったようにしていたけど、これくらいなら問題ないだろう。

 どこかに行っちゃうわけではないんだから。



 騎士のすぐ前まで行くと、頭を垂れていた騎士の緊張が伝わってくる。もちろん頭は下げたままだ。



「りぇきくん、『ふせ』」



 レキ君も大分大きくなってきたのでそのままだと、跪いて頭を下げている騎士と同じくらいの高さになってしまう。

 このままだとちょっと手が届かない。でも " ふせ " をさせて降りるとちょうどいい感じになる。



「かこいいねー」


「……お嬢様。それはだめ」



 騎士の鎧を撫でると見せかけて素早くしゃがんで腰の剣に触ろうとしたらいつの間に隣に来たのかニージャに止められてしまった。



 ちっ惜しかったのに……。

 やはり厳しかったか。



 自分では結構素早く動いたつもりだったが、さすがお婆様の一押しだ。



「にーにゃのけちぃ」


「……お嬢様は油断も隙もありゃしない」


「ぶーぶー」



 口を尖らせて文句を言ってもニージャはそ知らぬ顔だ。元々表情に乏しいのもあるがこの半眼メイドはあまり譲ってくれない。

 まぁ危ないっていうのはわかるけど、鞘に入ってるんだし自分の力では抜くことすらできないんだから触っちゃだめっていうのはどうなのだろう。いやだめか。

 専属としてはこれは許容できない範囲なのだろう。

 ……お婆様がいたら少しは違うのだろうけど。



「……お嬢様、剣に興味が?」


「あい。きえーだよ」


「……なるほど」



 何か納得したらしいニージャが騎士の腰の剣に目を落とす。

 半眼で凝視されると結構怖いんだけど、頭を垂れたままの騎士はそうでもないらしい。



「……お嬢様、綺麗な剣なら他にもいっぱいある」


「こえがいい」


「……わかった。おまえ、剣を」


「は、はい!」



 慌てて腰から剣を外す騎士に内心ワクワクする。

 剣を外して恭しく両手で差し出すように持ち上げる騎士君。



「……この剣は白結晶騎士団団員の証。それに危ないし、重い。私が持っていてあげるからお嬢様は見るだけ」


「えー」


「……不許可」


「むぅ」



 半眼クマメイドさんの有無を言わさぬ眼力にこれ以上言っても無駄だと悟り眺める……が、ニージャが受け取った瞬間剣は見えなくなってしまった。

 騎士が持っていた時には見えていたのに今はまったく見えない。



 騎士が持っていないと一部として認められない……?

 武器も服と判定が似ている? 境界線が今ひとつ判然としない。



 とにかく見えなくなってしまったのでは意味がない。



「にーにゃもーいい」


「……? お嬢様全然見てないけどいいの?」


「ん」


「……変なお嬢様」


「にーにゃにはまえう」


「……ふふ」


「んふふ」



 謎の会話を交わして騎士に剣を返すと受け取って数秒してから剣がまた見えるようになった。



 服を着てから見えるようになるまでも多少時間差がある。武器も同じ……?

 魔力の不思議な現象を目の当たりにしてかなり興味が沸いてくるが調べるには色々と面倒な工程を踏まないといけないだろう。

 それをどうやって解決するかを考えながら、始まった訓練を見学し始めた。



すぐに訓練が見れるわけでは当然ないのです。

騎士団はそこそこ人数がいるといっても屋敷探検に駆り出されてますからね。


そして魔力の不思議な現象。

まだまだわからないことはいっぱいです。



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