9,生後12ヶ月目
生後12ヶ月が過ぎた。
その日 " 初めて " 部屋を出た。
そう、初めてなのだ。
お風呂は部屋にベビーバスを持ってきてくれたし、食事は部屋で食べてるし、トイレはオムツのような布のようなものだったし。
まぁ赤ん坊なわけだし、トイレがおむつなのは仕方ないことなんだよ……。
自分ひとりではどうしようもなかったし。
羞恥心?なにそれ美味しいの?
赤ん坊ですよ!問題ないんですよ!チクショウ!
遊び相手の兄も姉も乳母も母も父もみんな部屋に来てくれた。
そして、部屋から連れ出した人はいなかった。
他に部屋に来る人なんて医者のご老人くらいなものだ。
結論として部屋を出る必要もなく、部屋から連れ出してくれる人もいない。
自分から出ようとも思わなかった。
訓練で忙しかったし、夢中だったからだ。
誰も連れ出す気がなかったというのは、違う。
兄のテオは樹木が大好きで好きすぎて、庭に生えている木を自分で手入れして、盆栽用のフラワースタンドを自作したと自慢していたりするほどの樹木愛好家で、その素晴らしさを1歳に満たない自分に延々と語っていたほどだ。
その彼が自慢の樹木達を自分に直接見せてあげたいと思わないはずがない。
姉のエリーも庭に大規模な花壇を作り、数種類の花と食べられる草と食べられない草と何かよくわからない固有名詞がいっぱいの草とを植えて、世話を母のクレアと一緒にしている。
テオと同様に花壇のことを嬉々として、それはもう延々とテオに負けじと自分に語るのだ。
そんな彼女が自慢の草花達を直接見せてあげたいと思わないはずがない。
というか、二人とも何度か言ったこと自体はあるのだ。
庭の僕たち私たちの自慢の子たちをリリーにも見せてあげたい、と。
1歳にも満たない自分には理解できないだろうと思ったからこそ口に出したのかもしれない。
実際には見せてあげることは叶わないということは彼らも理解していたんだろう。
そういった後は必ず悲しそうな悔しそうな顔をしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
初めて部屋を出た日の数日前に、往診に来た医者のご老人がはっきりと言っていた。
「リリアンヌお嬢様の目は生涯見えることは叶わぬ病…… " 濁った瞳 " です」
聞いたことのない固有名詞が混じっていた。
その後にもご老人は同じ症状の人を何人も訪ね歩き、様々な文献を閲覧し、回復したものがいないか探してくれていたことも話していた。
結果として回復したものは居らず、探し出せた人と様々な文献に書かれていた数十人にも及ぶ人数の全てが目に光を宿さぬ " 濁った瞳 " のままだったと言っていた。
" 濁った瞳 "
ご老人の話を総合すると、白く濁ったような目が特徴の病だという。
先天的にかかる者はほとんどおらず、後天的に発症するのがほとんどだそうだ。
つまり、先天的にかかっていた自分は珍しい例らしい。
原因も治療法もわかっておらず、不治の病の一種とされている。
症状は目が完全に見えなくなり、月の見えない夜のように暗闇のような状態になる。
弱視になったりするわけではなく完全に失明する。
前兆もなく唐突に発症するらしい。
話を聞いていたクレアはただ一言。
「……そうですか……」
といっただけだった。
全てを諦めているような、受け入れているような、生まれた時から自分の目は濁っていたのだろうからわかっていたはずだ。
だがご老人から発せられた言葉は、死刑宣告に近いモノだったのではないかと思う。
実際にご老人も " 濁った瞳 " の発症者を何十人も訪ね歩き、文献を調べ、間違いではないか確認しているのだから。
一縷の望みを、違っていてくれという、微かな望みをご老人も母も持っていたのではないだろうか。
テオやエリーもわかっていたし、わかっていたから部屋から連れ出そうとはしなかった。
彼らが見せたかった自分たちが愛しているモノ達を、愛する妹には見せてあげられないのだから。
だから誰も部屋から連れ出そうとはしなかった。
そして今日自分は部屋から出た。
もちろん一人で出たわけじゃない、母が大事そうに抱きかかえ、一緒に兄と姉もその横についている。
自分の視界は暗闇に閉ざされている。
でもそれだけじゃない、この " 濁った瞳 " には自分だけかもしれないが、魔力(仮)が見える。
自分を大事そうに抱きかかえてくれている母も、横で一緒に歩いている兄も姉も、色こそないがしっかり見えている。
だから悲しくはない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
廊下と思われる場所は、部屋よりは少し寒かったが、部屋にあった暖房の装置と同じような薄い魔力(仮)が上の方から一定間隔で出ていたので、快適といって差し支えなかった。
少し歩いて上下にゆれるような感触がした、階段を下りているらしい。
自分の部屋は2階以上の高さにあったらしい。
初めて知った。
余談だが、今着ている服に関しても普段とは大分違う。
普段はスカート付きズボンとか、カバーオールみたいなのを着ているのだが、今着ているのはパフスリーブのバルーンドレスのような感じだ。
フロント部分を抑える形で大きなリボンが背中で留まっていて、クレアとエリーに妖精さんみたいとお褒めの言葉を頂いている。
髪も丁寧にセットされて、ヘッドドレスなのだろうか、ヘアバンドに何かふわふわの装飾がいくつも付いているのを着けている。
鏡が見れないから全部自分で触って確かめたのだが、明らかに余所行き用というかパーティ用の服装だ。
服に関しては魔力(仮)がなくても、誰かが着ていれば細部までは把握できないが、大まかにはわかる。
訓練してずいぶんよくなった視力に、目の強化をしても細部まで把握できない。
顔の造詣が把握できるようになった辺りから、服に関しては成長の兆しが見えない。
人が着ていない服なんて、一切見えないのだから不思議だ。
手に取っている状態では見えず、着ている状態なら見えるという不思議な境界線がある。
服という大きな括りだが、アクセサリーなんかも身に着けていると大まかにだが見える。
まぁネックレスとか服の上に出ていても曖昧すぎて、よくわからない状態になったりするのだけど。
服というか、身に着ける物?に関してはそういうものなのかもしれない。
もっと視力を向上させれば、細部まで把握できるようになるかもしれない可能性は残っているので、まだ諦めるつもりはないが。
服はそんな感じに見えるので、透けて体が見えたりはしない。
なので服を細部まで把握するには、直接触って確かめるしかない。
知らないことはまだまだ大量にあるのだ。
なんだかちょっとわくわくしてきていた。
そんなことを思っているとすぐ階段は終わったようだ。
そのまま少し歩き、兄と姉が何やら押している。
魔力(仮)を持たないモノは見ることがでない。
動作を見るに多分扉だろう。
両開きのドアを片方ずつゆっくり押し開いているようだ。
両開きのドア……実はこの家はかなり裕福だったのか?
普通両開きのドアなんてないだろう。
いや、ここは生前に住んでいた国じゃないっぽいし、もしかしたら両開きのドアがスタンダードな外国なのかもしれない。
そんなことをぼーっと考えているうちに扉が開ききった後、バンバンバンという破裂音が木霊した。
思考の海の中にいた自分はその音に盛大に驚いたが、普段から無口無表情キャラを通していたためか、びっくりしすぎたからなのかは不明だが一切声は出なかった。
そして聞こえてくるたくさんの祝福の声。
中には聞きなれた声もちらほらとする。
あぁそうか、今日は誕生日なのか。
ついに1歳になったんだ。
転生してから1年、長かったような短かったような。
つまりこれは誕生日パーティなのだ。
暗闇に閉ざされている視界には、魔力(仮)を白い人型に細部まで把握できるほど、ひたすらに訓練して得た視力に、たくさんの人達が映っていた。
転生してから1年。
会った事がある人数はたったの6人。
でも自分の誕生日パーティに集まってくれた人はざっと数えただけで50人は超えている。
こんなにも祝福してくれる人がいる。
それだけでなんだか泣きそうになってしまった。
自分を抱きかかえているクレアがゆっくりと祝福の輪の中に入っていく。
そして父、アレクの隣に自分を座らせてその横に座る。
クレアの横にはエリーが、アレクの横はテオが、そして再度祝福の言葉がかけられる。
感動で胸がいっぱいになっていた。
そして自身に課した制約の一つを解く。
転生して1年。
ほとんど表情を変えず、無口キャラを通してきた。
それも今日で終わりだ。
「ありあとうございましゅ」
ニッコリと笑って、自分の出来る最高の笑顔でそう言った。
「「「「「「か、可愛いー!!!!!」」」」」」」
……その反応は正直予想外だよ。
そういえば、トイレに関して書いてなかったなぁと今更気づきました
書き忘れてる部分とか他にもいっぱいあるだろうなぁ・・・
次で第1章は終わりです。
第2章の前に別視点の外伝を入れたいかなと思います
ストックもなくなってきたので、毎日更新ではなくなるかもしれません
まぁのんびりゆっくりやっていこうかなと思います
ではではご意見ご感想お待ちしております
3/9 句点、文頭スペース、三点リーダ修正
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