79,狼君と日常。
レキ君。
狼種サルバルア。
成体になるとその体長は人を遥かに超える。
発動具なしで魔術を扱うことができる希少種。
一説によると溢れた魔物が野に適応した生き残りだと言われている。詳細は不明。
上質な毛皮と驚異的な身体能力。魔術を扱うことができるという歩く砲台に近い危険指定された種類であり、一時期魔物として大規模に狩られた。
その時期にサルバルアの毛皮が大流行したこともあり、一気に個体数が激減。
だがサルバルア自体は知能が高く、無駄な争いを好まない為隠れるように極少数だが生き残った。
このリズヴァルト大陸において絶滅危惧種を保護するという認識は存在しない。
人に仇名すものは殲滅されるのが常。危険な能力を保有する獣も同等と見なされる。
サルバルアの驚異的な戦闘能力と高い知能に当初は飼いならし戦力とする動きもあったが、高すぎるプライドが邪魔をしそれは為しえなかった。
代わりに飼いならす時に出した被害により危険指定されてしまったほどだ。
人の都合により追い詰められた彼ら。
レキ君は追い詰められた生き残りが宿した子であり、生まれてすぐにクリストフ家に保護された。
盲導犬という目の見えない人を補助するという犬を知ったローランドお爺様とアンネーラお婆様でなければ保護しようとは思わないだろう。
基本的に幼い子供であっても危険指定された種類は殺処分されるのだから。
祖父母が盲導犬を知ったのも偶然だったらしい。
各地を回って情報を集めていた2人が、実際に濁った瞳に罹った人の補助をする犬を目にしたのがきっかけ。
やはり思ったとおり盲導犬という概念はまだ確立されておらず、訓練も一部の物好きが行っていただけだった。
祖父母はその訓練方法や知識を信頼できる部下に完璧に取得させ、レキ君に施した。いや……今現在も施している。
試行錯誤を繰り返しながらの訓練ではあるが、着実にその効果をあげているようだ。
訓練を見る限りでは生前の盲導犬と見た感じ変わらないような気がする。
実際に目にした盲導犬は数回程度ではあったが、普通のペットとはやはり違う。
彼らは訓練によりサポート中は構われたりするのを我慢できる。
当然その中には餌を与えられることもあるが、そういった本能で反応してしまうようなものでも耐えることができていた。
ちなみに盲導犬がサポートしているときは構ったり、餌をあげたりしてはいけない。
彼らは仕事中であり、構ったりする行為はその仕事を邪魔する行為なのだ。
まぁそれは生前の確立された盲導犬概念によるもので、今目の前で訓練しているレキ君には適応されるのかどうかは微妙なところだ。
【レキ君、なんだかずいぶん大きくなってませんか?】
「彼はまだ成長期だからな。これからどんどん大きくなるぞ?」
「確か3mくらいになるんだっけ~?」
【さ、3mですか……大きいですね】
サルバルアは狼種でありながら通常の狼種ではありえないほどの大きさに成長する。
ちなみに長さの名称や単位はなぜかSI単位だ。
魔力という名称からどこかで似たようなことがあるだろうとは思っていたが、長さの単位まで同じ名称とは恐れ入った。
時間の単位も名称が違うだけで単位は生前と同じ。時間は正確に測る術を確立する必要がなかったから廃れて名称だけ違うものになったのだろうか。
長さは日常に密接に関係するから残ったのか。いやそういう理由ならば時間の名称も廃れるとは思えないが……。
真相は定かではない。何か作為的なものを感じるが今は調べようがない。サニー先生も詳しくは知らなかった。
よく使うことではあるが、それが常識となると特別に調べようとすることでもないらしい。特に先生の専門というわけでもないし。
「今の大きさでも十分リリーを乗せて走れるよね」
【あ……。そうだね! 今度乗せてもらえないかなぁ】
「君が言えばすぐに乗せてくれるだろう?」
「そうだよ、そうだよー。レキはもうリリーの下僕なんだからー」
【下僕って……。私とレキ君の関係は主従ではあるけど、もうちょっとフランクにっていうか、友好的な関係がいいなぁ……】
「すでに実力差は明確だからな。いや相性か?
とにかく……レキは君に完全に屈服した。屈服した以上は友好的にというのは無理があるぞ」
【やっぱりそうですかぁ……。まぁ私がどういう態度で接するかだと思うんですよ、その辺の匙加減も】
「ふむ、それはまぁそうだな。時間をかければ出来ないこともないだろう。
だがサルバルアはプライドが高い。レキのプライドを刺激しないように頑張ることだ」
【はい、わかりました】
サルバルアはプライドが高い。
実力行使する前のレキ君の態度からそれは嫌というほどわかっている。
まぁ実力行使してそのプライドも粉々に叩き潰してしまったわけだけど。
そうこうしているうちにレキ君の今日の訓練も終了したようだ。
13の月に入ってからは自分が来ても訓練を早めに終わらせるようなことはしないでもらっている。
毎日来ているから訓練が捗らないと思うからだ。
それに訓練を見ているのもいろいろなことを知ることができるから有用だ。
「あ、リリー。レキ来るよ~」
【うん。今日も咥えてる?】
「うん、咥えてる~。超嬉しそうに尻尾ぶんぶんふってるよ。
プライドってどこにいったんだろうね?」
【あはは……。レキ君もまだまだ子供なんだからしょうがないと思うよ?】
毛玉遊びを覚えてからのレキ君はそれがお気に入りになったようで、訓練が終わったらすぐに自分の下に毛玉を咥えてくるようになっている。
毛玉を自分の手の中に落として催促する仕草は気高き狼とかには全然みえない。完全に遊んで欲しい子犬だ。
ふわふわのよく梳いてあげている尻尾をはちきれんばかりに振っているのも可愛らしい。
でも主従関係はきちんとわかっているようで、毛玉を渡すとお座りしてじっと待機する。
まぁ尻尾もそうだが、瞳も早く早くとものすごいそわそわしながら催促してるのがわかるから苦笑物だけど。
【レキ君。遊んであげるけど、ちゃんと勉強もしないとだめですよ?】
自分の魔力文字を見た瞬間にはすぐに右足が前に出てくる。
最近魔力文字の認識速度が飛躍的に向上している。でも左足が出てきたことはあまりない。ちゃんとわかっているのだろうか。
でも今言っても多分聞いてくれない。
それほど毛玉遊びに夢中だ。一体何が面白いのかわからないがレキ君の中ではこれがものすごいブームらしい。
昨日も一昨日も兄姉をくたくたにするまでやっていた。
ちなみに自分は比較的早めに退避してサニー先生の授業を受けていたのでくたくたにされることはなかったけど。
彼の体力は異常の一言で、通常の犬種より遥かに体力がある。狼種の体力は正直わからない。
身体能力がずば抜けている上にとんでもない体力を有している。そしてその体力で毛玉遊びを催促してくる。フルに相手をするのはかなりしんどい作業といえるだろう。
【じゃぁ今日も少し遊んだらお勉強ですよ?】
魔力文字が出現すると同時に前に出る右足。
苦笑しながらも毛玉を投げるとレキ君の姿が一気にブレてすぐに自分の足元に頭を垂れる。
投げる、取ってくる、褒めて?
これで1動作。
褒めないと円らな瞳での逆襲が待っているからちゃんと褒めないといけない。
あの円らな瞳はずるいと思う。これのせいでなかなか触れなかったのだし。
しばらく毛玉遊びを続けるとテオとエリーが訓練を終えてやってくる。
冬休みに入り、彼らの訓練は午後にも行われている。
「リリー。レキと遊んでもいい?」
「あい」
「私も遊んでもいい?」
「あい」
近づいてまず最初に頬にキスをして抱きしめてからレキ君との遊びの許可を得るのが最近のお馴染みだ。
別に許可を取る必要はないと思うのだけど、レキ君のご主人様は自分なので欠かすことはない。
持っていた毛玉をテオに渡すとレキ君の遊び担当官は彼らに移る。
しばらく遊んだら休憩と称してレキ君のお勉強をする。
それまでは自分の授業を行いがてらレキ君の観察も忘れない。
これが最近の自分の日常。
すっかりレキ君を中心とした日常が出来上がっているが、自分への溺愛はあまり変わっていない。
レキ君がすごく可愛いので分散してくれるかと思ったがそれはソレのようだ。
お婆様の膝の上でのほほんとしながら、時々霞むくらいのスピードで動くレキ君を視界に収めつつ、難解な授業は進む。
レキ君とリリー達の日常でした。
あとレキ君でっかく成長中です。
なぜかって?
ほら……アレですよアレ。
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