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外伝10,専属メイドの密かな挑戦

 本編にまだ出てきていないような、世界設定が多々出てきます。

 弱鬱耐性がない方は回れ右してブラウザバックです。



 ジェニー。

 彼女はリリアンヌ・ラ・クリストフの専属メイドの1人だ。

 狐族の氏族コミュニティに属してはいるが、交流はほとんどない。

 彼女が物心ついた時にはすでに孤児院にいてたくさんの自分と同じような孤児達と生活をしていた。

 一定期間毎にやってくる人員調達係の男達によって孤児院にいる子供達は間引かれていく。

 彼女も5歳になる頃に間引かれた1人。


 だが彼女は運が良かった。

 いや最初は悪かったと言ってもいいほどの酷さだったかもしれない。それでも全体的に見れば彼女は運がいい方だろう。

 彼女が間引かれ連れて行かれた場所はたくさんのメイドや執事を育成する施設だった。

 孤児院に居た頃は食事も満腹になるほど食べることはできなかった。飢えないだけましではあったが。


 施設についてからまず行われたことは徹底した洗浄。

 体を洗う等という生易しい物では決してなかった。それは彼女達についている病原菌に至るまで全てを洗い落とすかのような徹底した痛みを伴う拷問に等しいものだった。

 だがこの施設にきたからには命の保証などは存在せず、ましてや間引かれた存在である彼女の命など瑣末な物でしかない。


 数日間にわたって徹底的に洗浄された彼女はすぐに訓練が課せられた。

 座学だけではなく幼い体には酷な、肉体をひたすらに苛め抜く物だった。

 一定期間毎にテストが行われ、それをクリアできない物はさらなる訓練という名の拷問が施される。

 不合格者へ課せられる訓練は合格者に強制的に見学させることにより、同じ目に会いたくなければ必死にこなせと心に刻ませられる。


 まさに地獄のような日々。


 だがジェニーはこの地獄のような日々に喜びすら見出していた。

 孤児院では餓死しない程度の最低限の味のしない食事しか与えられなかった。

 だがここでは違う。

 孤児院の食事とは雲泥の差の味で、栄養バランスもきちんと考えられた食事が1日3食きちんと与えられる。

 それだけで彼女はここに来れてよかったと思えるほどだった。


 それ以外にも理由はあった。

 彼女の身体能力は一緒に訓練を受けている数十人の中でもトップクラスの物を誇っていた。

 一度としてテストを不合格になることもなく、8歳になる頃には成績優秀者に与えられる個室すら手に入れていた。


 間延びしたおっとりとしている口調からは考えられないほどの身体能力と生まれ持った特技――隠密能力により、彼女は厳しい訓練をこなしさらには訓練教官どころかその上の者達にすらその存在を認めさせるに至った。


 10歳になる頃には特技の隠密能力を最大限に発揮し、影と呼ばれるエリート中のエリート集団からスカウトがくるほどの者になっていた。

 だが彼女はそのスカウトを蹴った。


 自分よりも遥か高みにいる存在が行く末を決めた同じ場所に行きたかったからだ。

 その存在は傲慢に高くなったジェニーの鼻を簡単にへし折り、踏み砕き、さらには完全に燃やして炭すら残らぬほどにした人物。

 半眼で口数少なめのクマ族という少数氏族、しかも年下に完膚なきまでに叩き潰されたという事実が彼女の今後の方向を決定させるものになっていた。


 そして無事その存在と同じ所に就職が決まり、紆余曲折あってすったもんだの末に殺し合いを何度かして拳と拳で語り合ったからこそ、今は親しき友人となることに成功している。


 彼女と同じくリリアンヌの専属となったジェニーは今その隠密能力を最大限に駆使して1つのミッションを遂行しようとしている。

 そのミッションとは、リリアンヌに触ること。


 そう、触るだけ。

 ちょこんと触れるだけ。

 出来れば手の平全体で触りたい。


 その程度と侮る無かれ。

 リリアンヌは厳重すぎるほどの厳重な警備の敷かれる屋敷内でも、リズヴァルト大陸最強の異名を持つ存在がいる部屋で生活している。

 部屋から出ることも兄姉の訓練を見に行くか、食事をしにいく程度で1日の大半を部屋で過ごす。

 しかも部屋には家族以外は専属しか入れない。

 もしこのルールを破った場合、部屋にいる最強の人物により即座に首を落とされる。


 いや、それ以前に部屋の前に待機しているジェニーと同じ氏族コミュニティの存在によりばらばらにされる。

 その前に屋敷に侵入することすらできないだろうが。


 クリストフ家の使用人達は全員がこのルールを知っている。

 そして破れば本当にそうなることも。



 そんな中専属という最高の栄誉を手にしたジェニーだが、部屋に入ることはできたが主に触れることは一切できないでいた。

 ジェニーに与えられている仕事は基本的にエナの助手。それ以外は部屋の隅で待機なのだ。



 専属に選ばれる以前はクリストフ家でも最高の警備体制が敷かれている存在がどんな人物なのか、もちろん興味はあった。

 噂で流れてくる話では人形のように美しく、一切の感情が垣間見えないという話だった。


 オーベントにおける人形とは基本的に超が付く高級品だ。

 神の腕を持つといわれるほどの作り手が作り出す最高傑作。昔話でもよく出てくるほど有名ではあっても実際に目にすることができるものは数少ない。

 比較的安価であるぬいぐるみですら、一般水準家庭が一月過ごせるほどの値段がするものであり、遥か高みにある人形はもはや比較にならない金額となる。

 空想の中で肥大化する主の姿だったが、ジェニーは主を初めて見た瞬間に人形の美しさという意味を始めて知ることになった。

 それはジェニーの想像より遥かに美しいものだった。


 ひと目で主の虜となったジェニーだが、すぐに見ているだけで幸せという想いから、触れてみたいという想いへと変わっていった。


 そんな想いを部屋に常にいる最強の存在に見透かされていたとは夢にも思わなかったジェニーは彼女から1つ面白い提案をされていた。



「もし、あなたの得意とする隠密能力を活かして……そうね、待機しているときにリリーちゃんに触れることができるのなら試してみてもいいわよ?」



 なぜこんなことを言われたのかは真意は定かではなかったが、ジェニーとしては願っても無いことだったのでもちろん実行した。


 最初は最強の存在の邪魔がないなら簡単だと思っていたミッションだったが、最強の存在が付け加えられた1つのルールが最大の邪魔をした。



「そうそう、リリーちゃんが気づいたらそこでアウトよ。すぐに待機場所に戻りなさい?

 待機場所に戻ってリリーちゃんが興味をなくしたら再開してもいいけど、そのまま続行しようとしたら……だめよ?」



 だめよ、の言葉にはそのまま続行したら首が胴から離れるわよ、という意味が込められているのはジェニーならずともわかっただろう。


 それから数日ジェニーの挑戦が続いた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








「で、今日も失敗?」


「……お嬢様はすごい」


「そうなのよぉ~……背中にぃ~目でもついてるんじゃないかってぇ~くらいすごいのよぉ~……」


「いやーでも本当なの?

 だってジェニーのって目の前にいても影が薄くなって認識から外れるくらいにすごいヤツじゃん?」


「……興味を失った状態では気づけない」


「そのぉ~はずなんだけどねぇ~」


「じゃぁやっぱり……お嬢様がすごいのかぁ」


「……肯定」



 がっくりとしょげてベッドに突っ伏しているジェニーだが、そこは彼女のベッドではない。

 いつもの如くリリアンヌが就寝後の専属全員が休憩を得られる、ほんの少しの談笑タイムにニージャの部屋に集まっているのだ。



「あ、あの……確かにお嬢様はすごいと思いますけど……ジェニー先輩の隠密能力ってそんなにすごいんですか?」


「あれ? ミラはジェニーの能力みたことないの?」


「あ、はい。ないです」


「……見せてあげればいい」


「んぅ~……めんどくさいぃ~」


「いいじゃん。見せてあげなって」


「あ、あの。無理しないでもいいですよ?」


「そこまでぇ~言われちゃぁ~」


「……うえ!?」



 ベッドの上に突っ伏していたはずのジェニーの姿がゆっくりと薄くなっていく。

 しっかりと見ていたはずのミラが目をこすって確かめるほどの薄まりっぷりだった。

 そしてほんの少しの時間でその場からジェニーが消えうせる。



「ど、どうなってるんですか!?」


「……魔術併用」


「そう、ジェニーは魔術をものすごい速さで使えるのよ。隠密系だけだけど。まぁそれだけじゃないけど」


「な、なるほど……。たまにいますよね、一部の魔術とものすごく相性がいい人で詠唱が極端に短い人」


「……ジェニーはそれの特化型タイプ」


「そうそう。たまにいるけどジェニーほど相性がいいのはオーベント中探してもそうそういないよー。

 だって一言で詠唱おわっちゃうんだから」


「そ、そこまでですか~……。まぁでも確かに目の前でやられるとすごいですねぇ」


「でしょぉ~……これでなんでお嬢様に気づかれるのかわからなぁ~いぃ~」


「うわぁ……そっちに移動してたんですか……全然わからなかった……」



 ベッドで消えたジェニーが姿を現したのは空いていた椅子の上だった。

 この部屋にいるジェニーを除く3人のうち2人は達人だが、その2人も感知できないほどの隠密能力だ。



「ほんとよねぇー。ニージャにすら感知できないほどなのに、どうしてお嬢様は見破れるんだろう?」


「……お嬢様だから」


「それをぉ~言ったらぁ~どうしようもないじゃなぁ~いぃ~」


「そ、そうですねぇ……」



 ベッドに戻ってばふっと音を立てて飛び込んだジェニーが情けない声を上げるが、苦笑いをしているミラ以外は取り合わない。



「でも大奥様から持ち出してきた話なんだから、それくらいはありえるって思わなかったの?」


「そうだけどぉ~……まさかぁ~大奥様以外に感知できるなんてぇ~思わないじゃなぁ~い」


「大奥様が教えているとかではないんですか?」


「……それはもう聞いてる。答えはのー」


「そ、そうなんですか」


「大奥様もお嬢様の力を私達に分からせるためにやらせたのかなぁ?」


「……私は知ってた」


「わ、私も知ってました」


「ミラのはぁ~……気持ちよくしてもらったからでしょぉ~」


「そっ! それはぁ……」



 顔を真っ赤にして俯いて尻すぼみになっていく言葉に、ジェニーが溜め息を吐きながら今日も失敗したミッションを思う。


 完全に死角にいた自分が隠密能力を最大限に発揮して3歩目を踏もうとした瞬間に振り返って発見されたこと。


 エナが両手を取って歌を聞かせていた時には2歩目で発見されたこと。


 その他にも幾度も挑戦したが、今日一番惜しかったのが3歩目という悲惨な結果だ。



「はぁ~……私はぁ~いつになったらぁ~お嬢様に触れるのぉ~……?」


「……私だって触れてない」


「私だってそうだぞー」


「わ、私は……」


「うわーなにそれじまーん?」


「……許すまじミラ」


「これはぁ~お仕置きが必要ねぇ~」


「……ッ!? ちょ、ちょっとまってください!?

 わ、私悪くないもん!」


「問答むよー!」


「……ぎるてぃ」


「かんねんぅ~なさぁ~い」



 3人どころか4人の姦しい談笑は今日も続く。




幼い内に大半死にます。

そういうところでジェニーは育ちました。

でも今までいたゴミ捨て場のような場所より遥かにましな生活ができました。


クティの隠蔽魔術ですら一部モザイクになったような感じでしか見えないリリーにとって少々特殊であっても、既存魔術の影響を多大に受けている程度の隠密能力はないに等しいです。


まぁそれ以前にちっこいドヤ顔様という存在がいますけど。



さて、次から5章開始です。


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

ご意見ご感想お待ちしております。


5/20 誤字修正

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