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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第4章 2年目 後編 1歳
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69,妖精達と珠玉


 ベビーベッドの柵の向こうには神の創りたもうた珠玉の逸品が存在している。

 手を伸ばせば届く、その距離に鎮座するソレは今ミッションにおける最重要目標だ。

 選ばれた4人の専属メイド達のうち3人は隙という物が皆無といっていい実力者達だった。

 だが、目の前にいる人物はその3人に比べると隙だらけといってもいいレベルだと思われる。

 魔力の流れからしても3人には遠く及ばない。だが、常人から見れば卓越しているのはわかる。

 だが彼女は一度自分にもふられている。そして4人の中でも頭1つ……いや3つくらい抜けているほどの毛並みを誇っている。

 間違いないだろう。すでに彼女をもふっている自分に、他の3人をもふる機会があったとしてもあれほどの幸福を感じることは無理だ。



「みあ~ちかじゅいて~」


「は、はい。これでよろしッ!?」



 かかったな! これで貴様はもう自分の手の中だ!



 完全に手の届く位置にミラが接近した瞬間に伸ばされた自分の小さな手。

 エナとお婆様のお手伝い中と待機中には決して動かない素敵装備(ケモノミミ)だが、自分に呼ばれて近くに寄ってくる時だけはピクピクと動くようになったその間に、音もなく最短距離を走るように進行する。

 だがその手にはサニー先生が驚愕するほどの総量を誇る魔力の半分近くを圧縮に圧縮した凶悪なまでの強化が施されている。

 この圧縮を作るのに、実に5ハルス(時間)近くかかったほどだ。

 その間の維持には神経をすり減らしたのは言うまでもない。

 日々増大する魔力の半分を圧縮した自分史上最高の圧縮強化により、触れた瞬間ミラの体は硬直しその言葉を最後まで言わせることはなかった。


 当然だろう。これは以前もふったときの圧縮強化とは比べ物にならないレベルだ。

 前回のことを考えれば意識が飛ばなかっただけでも上出来といえる。


 前回の失敗を踏まえているとはいえ、だからといって手加減をするつもりなど毛頭ないのだ。やるからには全力で。持てる力の全てを使って撫でるのみ。


 もふる行為における接触部位の選択肢はもふレベルによって大きく変わる。

 もふレベルが高いもふリストならばその選択肢は千を超えるが、自分は未だその領域には届かない低次元のもっふぃーだ。

 選択できる部位もそれほど多くはない。しかも今は幼女。その選択肢の少なさは最早嘆きを超えて慟哭に等しい。

 故に使える部分を惜しまず使うべきだが、今回のミッションにおいてはそれも制限される。

 極限にまで制限された状況下でも全力を尽くすために、自分だけに出来る圧縮強化を出来うる限りの力を持って行ったのだ。


 触れた瞬間にわかったことだが、彼女――ミラの毛並みの良さというのは尻尾だけには留まらない。

 今触れている箇所は頭頂部。彼女の素敵すぎる最強部位2号とでも言えるケモノミミの真ん中だ。

 言葉にするならばそれは一面の緑の海に立ち、春の麗らかな風に吹かれた髪が顔にかかり、そっと押さえてはにかむ美少女。

 まさにあどけなさと美しさ、春の暖かな風と草原の爽やかさが渾然一体となった1枚の絵画のような世界。


 震えるほどの感触とそれに伴うずっと触っていたい、ずっと撫でていたいと思わせる至福の時間。

 全神経を集中し出来うる限りの全てを尽くしたもふもふが始まる。


 まだまだ始まったばかり。全てはこれからだ。



「……ぁ……ひぅ……は……」



 零れてくる微かな艶のある声は届いているが隅に置いておく。

 自分の手と連動して細かに震え、そして声もどんどんと艶が増していく……が、当然ポイッ。

 尻尾をもふったときは顔と手の平全体を使って堪能できたが、今現在は手の平だけ。しかも片方だけだ。

 だがそれでもあの時と遜色ない……いやそれ以上といえるかもしれない快感に酔いしれる。



 やはりこの子は最高だッ。

 他の3人にはまだ試せていないとはいえはっきりと断言できる。この子こそが自分のもふもふ人生における最高のパートナー!

 最早誰にも渡す気はない。たとえそれがクティであったとしても戦うことは厭わないだろう。



 それほどの至宝の毛並み。

 世界の宝。

 まさにオンリーワン。


 最早言葉では言い表せない。

 撫でれば撫でるだけ快感が増し、最初は言葉に出来た快楽もすでに現在のソレと比べたら吐いて捨てるべき物だ。

 撫でれば撫でるだけ凶悪な代物となるのだ。止まるわけがない。


 だが、まだ今回のミッションは始まったばかりなのだ。間違ってはいけない。

 例え抗い難き快感の渦に包まれている現状であっても忘れてはいけない。忘れてはいけない。

 とても大事なことなんで2回言っておく。


 そう……最終目標はまだあるのだ。



 そう……それは。



 ケモノミミ!



 頭を撫でただけでこれだ。

 自分にとって代わるものがないと言い切れるその光り輝く物体が残っている。

 さぁ、いざゆかん。


 究極にして至宝。そして奇跡の体験を!



 撫でていた頭頂部からゆっくりと移動させる。

 撫でられているミラの声は最早声にすらなっていない。細かく震え、時に大きく体を痙攣させるほどだ。


 流れる魔力の違いにより、その毛並みが他の部分とは一線を画すものであるというのはわかっている。

 お婆様の驚異的な実力を見せた時の魔力の流れに匹敵するその美しさは期待をするなという方が無理というもの。

 美しさだけでなく、彼女の毛並みを体感している自分だからこそわかる期待と希望と欲望の全てをない交ぜにした複雑な感情が彼女のソレを……ソレだけを求めて止まない求心力を生む。


 ゆっくりと近づき、触れた瞬間自分に見えていた景色が全て反転するほどの衝撃。


 最早言葉はない。


 一瞬だったような、長い間だったような、時間の間隔が完全に消失するあの現象。

 意識が戻った時には自分の手からあの感触は失われていた。



 なぜなら珠玉の至宝――ミラが完全に崩れ落ちていたからだった。


 ビクビクと痙攣して完全に崩れ落ちてしまっている。

 何が起こったのか理解するのに一瞬の間が必要だった。


 一気に血の気が引いていくのがわかる。



「ばーば!」


「ハッ! スカーレット! ジェニー! すぐに来なさい!」



 滅多に出さない自分の大きな声にお婆様が完全停止から再起動を果たしてすぐさま部屋の外で待機している2人を呼ぶ。

 呼ばれると同時に入ってきた2人は一瞬で状況を理解したのかすぐさまミラの口に何かをかぶせて呼吸を落ち着けようとしている。さすがはクリストフ家のメイドだ。見ただけで対処法もわかるようだ。

 口にかぶせている物からは魔力の流れが見える物が取り付けてある。酸素吸入器のような物なのだろうか。

 本当にいろんな種類の魔道具がある。だが魔道具の種類の多さに感心している場合ではない。自分のせいでミラがこんな状態になってしまっているのだ。


 すぐに呼吸も安定したようで口から魔道具を外すと何かを近づける。

 それは活性化した魔力の流れを有していた。

 魔道具のようには見えるがはっきりとわかる。アレは違う、と。

 実際にその魔力の流れを持った何かはミラの口の中に注ぎ込まれていた。

 体内に入れるような魔道具があるのかもしれないが、なぜか自分の中ではっきりとそうではないとわかっていた。

 恐らくアレは異世界名物のポーションのような物なのではないだろうか。


 ポーションを飲まされたミラの呼吸はすぐに通常のソレへと変化していた。

 胸をほっとなでおろすと、ストンと足の力が抜けて柔らかいベビーベッドの上に尻餅をつく。

 さすがに酸素不足を起こすほどのナニカを与えていたとは思わなかった。

 前回は声を殺して泣きながら耐えていただけだったので、まさかここまでになるとは思わなかったのだ。

 今回ばかりはやりすぎたと猛省するしかない。

 しゅんと俯いているとお婆様が自分を抱き上げ優しく抱きしめてくれる。



「リリーちゃん……やりすぎはいけません。今回のことを反省して次はうまくやるんですよ?」


「……あい。ごえんにゃさい」



 スカーレットとジェニーの2人に運ばれて行ったミラを見送るとお婆様が諭すように、優しい声音で体を揺さぶりながら言ってくれる。

 前回の失敗を踏まえたつもりだったが、やはり期待感がすごかったためかやりすぎてしまったようだ。



 だが自分は見てしまった。


 スカーレットとジェニーの2人に運ばれていくミラの顔を。

 容態も安定して戻った表情を。


 あの……恍惚とした顔を!




 なのでいい勉強にもなった。彼女の限界点を見極めることができたのだから。

 ミラには悪いが今後ともぜひとも頑張っていただこう。


 彼女も呼吸ができなくなるくらい楽しんでいた(・・・・・・)というわけだ。

 ならば問題ない。


 次はこんなへまはしない。

 今度は生かさず殺さず懇切丁寧にやりきってみせる。

 それこそ酸素欠乏を起こして逃がすような真似は絶対にしない。次は彼女に今回以上の天国を見せてやろう。



 ゆらゆらと揺れる心地よいお婆様からの振動に次のもふもふチャレンジに対する気迫が魔力の発露として滲み出ていくのがわかる。

 自分の魔力の発露を見れるのはもしかしたら初めてかもしれない。魔力が発露するのは無意識レベルなので気づけないのだ。

 だが今はやる気が漲りながらも冷静だ。


 そんなことを思っていると何かが自分の頬に突撃してきた。

 もちろんこんなことをするのは1人しかいない。我らがアイドルドヤ顔さまだ。



「ずるいよー! 私にもアレやってよー! ずるいよー!」


【えぇぇぇ……クティも、もふもふされたいの?】


「もちろんだよ! リリーがしてくれることならなんだって喜んで受けるよ!

 さぁ! いますぐに! さぁ!」


【えええー。じゃぁ行くよ?】


「わくわく! てかてか!」



 頬にぺったりとくっついたままぐりぐりと顔を押し付けつつ器用に喋るクティに苦笑しながらも圧縮魔力を纏わせた手で撫でてみる。



【どうかな?】


「……んー普通のリリーの撫で撫でだね。気持ちいいけどさっきの子みたいな蕩けちゃってるような感じじゃないー!」


【えぇー……じゃ、じゃぁこれは?】



 圧縮魔力を多めにして再度撫でてみるがクティから返って来た返事は変わらなかった。



 あるえー?



 何度も圧縮魔力で強化した手でクティを撫でてみたが一向に変化はなかった。

 全員に同じ効果を与えるわけではないということだろうか。それとも圧縮率が低いのが原因なのだろうか。

 あの圧縮を再現するのは骨が折れるので難しいが、いつか機会があったら挑戦してみようとクティを撫で撫でし続けた。


幼児に撫でられて嬌声を上げるメイドさん。


それを呆然と見つめるお婆様とエナさん。

サニー先生は興味深そうに。

クティは頬をぷくーと膨らませながら。



2度目のもふもふはミラの快感による失神により、KO勝利でした。


次回で4章終わりです。


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

ご意見ご感想お待ちしております。



裏話

最初はチアノーゼではなく、過呼吸にしようと思いました。

でも過呼吸ではやりすぎも甚だしいので残念ながら却下にしました。

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