66,妖精達と兄様
世界を一瞬で侵食してしまった両親のラブフィールドから数日が経過した。
クレアの誕生日があったということは、9の月にはもう1つ誕生日がある。
もちろん我らがお兄様テオドール・ラ・クリストフの誕生日だ。
当日に去年と同じように折り紙っぽいのでリングと花を作ったのだが、あの時には紙が貴重な品だとは思っていなかったのでなんとも思わなかったが、今は違う。
当然飾りに使っていいような物なのか疑問がわいてくる。
「うむ。君の疑問ももっともだ。紙をこのように使用するのは基本的に富裕層の高い位置にある者だけだ。手軽に子供でも作れる飾りとして心がこもっているし、見栄えもいい。
それでも特別な祭事にしか使われないものだ。君の家はその高い位置にいる者達だ。
よかったな。金はあった方がいいぞ。研究が出来るからな」
【はぁ、やっぱり紙は貴重なんですね。もったいないような……】
「えーいいと思うよ~リリーの作った花すごい綺麗だよー!」
【紙は魔力がないから見えないからなぁ】
クティが指差すところにきっとさっき自分が作った紙の花があるんだろう。だが如何せん紙の花は魔力を持たないのでわからない。
「えっとねぇ~こんな感じ!」
【おー! さすがクティだよ。こんな風になってるんだねぇ。
触っただけじゃよくわからないんだよねぇ】
「えへへ~。リリーが作った花だもんねー世界で一番綺麗に決まってるよ~」
「幼児の短く扱いづらい指で作ったにしては、大分綺麗に出来ていると思うぞ。
それに見えていなかったのだろうこれは。ということは指の感触だけで作ったということだからな。なかなかの物だ」
【確かに感触だけで作ってましたけど、慣れると結構簡単に作れるんですよ!】
「さすが、私のリリーだよ! ほらほらこの花リリーの頭につけたらきっと可愛いよ!」
クティに紙の花を渡されるが、他の人から見たら花が勝手に動いたように見えるんじゃなかろうか。
でもお婆様もエリーも何の反応もない。
エナとラクリアは出来たリングを部屋に飾りつけている。
【サニー先生。クティが動かした花をみんなはなぜ不思議がらないんでしょうか? クティは他の人には見えないんだから、花が勝手に動いたように見えるはずですが】
「あぁ、そのことか。至って簡単だ。クティは認識阻害と記憶を曖昧にする魔術を限定範囲で使っている。
だから、あいつが勝手に物を動かしても認識を阻害した上でその部分の記憶のみを曖昧にして気にならないようにしているんだ。
もちろんこれには欠点がいくつかある。
認識阻害自体が機能するのは意識を向けていない範囲のみであり、記憶を曖昧にしても記憶自体の改変にはならない。
すなわち――」
サニー先生の考察授業が始まってしまったので、紙の花造りを再開することにした。
クティの作った魔術に関してはサニー先生の授業は難しすぎて理解がかなり厳しい。クティの図解なしでは相当難しい。
そのクティも自分が頭に花をつけたことにより、悶絶して転げまわっているので役に立たない。
仕方ないので話を聞くだけしかできない。それでも厳しいだけで理解できないわけではない。
もちろん時間がかかるので話を覚えておいて後で新規に授業で教わったことなどを応用して理解を深めるといった形だ。
詰まるところ棚上げしておくのだ。今現在棚上げされた項目はすでに100を超えている。
クティの魔術は既存の魔術に匹敵するほどの数が作られている。実用性のある物からない物まで様々な魔術を創造しているが、その全てが高度な知識を元にした傑作と言える物ばかりだ。効果はさておきだが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
テオの誕生日会は今年も家族だけのささやかなものだ。
だが今年のテオは去年とは大きく違っていた。
なぜなら自分が彼の膝の上にずっといるからだ。
見たこともないほどの飛び切りの笑顔と微量に放出されている魔力。魔力の方は若干クレアに似ている柔らかく暖かい物だったが、個人差が大きいようで似ているようでまったく似ていない。
大別すると似ているだけで細かく見ると全然違うというのがわかる感じだろうか。
まぁ圧縮魔力での視力強化が出来る自分にしかその違いはわからないようだったけど……。
サニー先生やクティに聞いても違いはわからないそうだ。
ましてや感じることは出来ても見れない家族達には違いなどわかるわけもない。
「ふふ……今日のテオちゃんはクレアと同じねぇ~」
「テオの嬉しい気持ちが周りに漏れていてとても暖かいわ」
「えへへ~だって今日は僕がリリーを独り占めできるんだよ! こんなに嬉しいことはないよ!」
そう、今日この誕生日会が始まってから自分はこの嬉しさ爆発中のお兄様が独り占めしている。
ずっと膝の上にいるし、密着して放さそうともしない。
謎の取り決めにより、本人の意思は関係なく今日自分はテオにより独り占めされることになってしまっているのだ。
まぁ今日はテオの誕生日だし、それくらいの我が侭は許されることだろう。自分も独り占めにされるくらいなら別に構わない。
テオなら信用できるし、何より自分のお兄様だ。問題ない。
まぁそんな自分の思いは他のメンバーの思いとは関係ない。
クティなんかは魔力で描いたハンカチをかみ締めてムキー、としているし、エリーの瞳には嫉妬の魔力が渦巻いている。
サニー先生はマイペースにテオが放出している魔力を分析しているようだ。
「リリー、今日は僕だけのリリーだからねぇ~えいえい」
「ふふ……テオちゃん嬉しそうねぇ。普段お兄ちゃんとして色々我慢してるものね。今日くらいは好きにさせてあげましょう」
「はい……お兄様は毎日頑張っていますから。今日くらいは……今日だけ……今日……」
だんだんと語尾が尻すぼみになり俯いていくエリー。滲み出始めた魔力が何かものすごく渦巻いていて怖い。
あんなエリー始めて見る……。
怖いので頬をぷにぷにと突付いてくるテオの方に意識を向けておこう。
見てると体が震えてきちゃうよ……。
ベビールームの飾りつけは去年とは違い、テオが部屋の中で自分を構って堪能している中でも行われ、飾り付けが完成してからあまり時間も経たずに料理が運び込まれた。
食堂で食べるのも大分慣れてきていたのでちょっとだけ懐かしい。
「さぁリリー、今日は僕がリリーに食べさせてあげるからねぇ~はい、アーん」
「あー」
「ぐぎぎぎぎ」
「美味しいかい? 次はこっちかなーはい、アーん」
「あー」
「あがががあが」
「あぁーリリーは食事中でも可愛いなぁ……はい、僕の分もあげちゃうよ!」
「テオちゃん、リリーちゃんにはリリーちゃん用の食事があるんですから、自分の分はあげちゃだめですよ」
「そ、そっか……はい、わかりましたお婆様」
「ざまー!」
エナの代わりに食べさせてくれるテオだが、普段はフォークかスプーンを誘導して食べているのを所謂アーん、ぱくである。
まぁ今更この程度ではどうってことはないのだが、合間合間で入る般若の形相をしたちっこいお方が怖い。
魔力がゆらゆらと炎のようになっていて、あれは完全に感情の発露だとわかる。
普段自分で思い通りに作っている背景なのに珍しい。それだけ彼女を激怒させているのだろう。
【クティ……今日はテオの誕生日なんだから、落ち着いて?】
「無理! 無理だよ! だってリリーは私のなんだからッ!
それがなんでこんな! こんなぁーッ!!」
「ふむ。そろそろ黙れ」
「ぎゃわッ」
魔力で作ったハンカチをムキー、と噛み締めながら目から魔力で何か――恐らく血涙のつもりなのだろう――を流しながら、ぷんすかしていたがさすがに目に余ったサニー先生により強制的に気絶させられてしまった。
脳天にモザイクのかかった何かが激突して目から火花を散らして一瞬で倒されてしまった般若さん。
モザイクは恐らくクティ製の隠蔽魔術だろう。始めて先生に会ったときにも使っていたやつだ。
自分の当面の目標である魔術がアレだろう。
クティを一瞬で気絶させるほどの魔術なのに、周りにいる誰にも気づかせることすらないほど静かに行われている。
まだまだ足りないとはいえ、魔術に関する知識を得ているからこそわかる。
あの隠蔽魔術は尋常じゃない。
本当に自分はあの魔術を扱えるようになれるんだろうか。見えていたはずの壁の高さは最早霞がかかったかのような高さになってしまっている。
「リリー? お腹いっぱいになっちゃった?」
「あらあら、まだあまり食べていないのよ? リリーちゃん調子悪いのかしら」
「んー……あーん」
「あ、はい。美味しいかい?」
「んッ」
「ふふ……大丈夫そうね、でも調子が悪かったら無理しちゃだめですよ?」
いけないいけない。あまりの壁の高さに固まってしまっていたら心配されてしまった。
今日はテオの誕生日なんだ。心配をさせてしまってはいけない。
時間がかかるなんてのはわかっていたことだ。
まだまだ自分には時間があるはずだ。なんせまだ2歳にすらなっていないんだ。
何年かかろうと到達してみせる。
あの高き頂のその先に。
はいはい、お兄様が通りますよー。
テオ君のお祭りフィーバー回でした。
きっと人生最高の時だったのでしょうね……ホロリ。
記憶を曖昧にする魔術は記憶に干渉する類ではありません。
幻覚を織り交ぜた視覚制御とでも言いますか。
視界の端程度にある情報ならなんとかできる程度の魔術です。
凝視されてたりすると無理です。
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