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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第4章 2年目 後編 1歳
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65,妖精達と幸福




 9の月に入り、テオとエリーの訓練もだいぶ涼しい中で行われるようになった。

 生前の季節の変化と大体同じなのか、今は秋といった感じの寒くもなく暑くもないちょうどいい風が流れている。

 庭の木々はきっと紅葉が綺麗だろうと思う。お婆様が紅葉のような星形になっている葉っぱを拾って持たせてくれたりもした。


 訓練の内容も体力作りをメインにしているのは変わらないものの、それぞれに剣術と弓術、体術と基礎の部分もそれなりに多く時間を割くようにもなっている。



「ヤッ! ハッ!」


「たぁ! ふっ! やっ!」



 テオとエリーのそれぞれの掛け声が響く。

 テオは踏み込んでからの上段から下がりながらの中段といった素振りを行い、エリーは左右の正拳突きからの上段回し蹴りのコンビネーションを行っている。

 2人共一ヶ月前とは比べ物にならないくらいに動きがよくなっているのがわかる。魔力の流れはあまり変わっていないが、部分的によく動いている魔力の流れがほんの少しだけ滑らかに動いているような気もしないでもない。まぁ気のせいかもしれないが。



「テオちゃんはもう少し握力を鍛える必要があるわねぇ~。まだまだ振り回されているわ。

 エリーちゃんはもう少し体重移動を軸足に振れるようにしないと力が先まで伝わらないわねぇ~」


「1月前と比べればだいぶ進歩したと思いますよ。何より毎日楽しそうに訓練していますし」



 お婆様が変わらないのほほんとした笑顔でシビアに分析しているのを苦笑しながらエナがフォローする。

 お婆様は事戦闘面になると採点がものすごく辛くなる。

 自身の強さも相まって彼女が兄姉に合格点を出すことは相当先になりそうだ。



「ふふ……ほら、リリーちゃん。お兄ちゃんとお姉ちゃんに手を振ってあげて?」


「あい」



 2人の素振りが終わって一息ついているのを見てお婆様がこちらの手を持ってひらひらしてくれる。

 持たれていないもう片方の手は自分で動かして、荒い息を吐きながらもそれぞれの専属メイドさんから手渡された何か――恐らくタオルだろう物で顔を拭いてこちらに手を振っている2人に返す。


 手を振ると2人共苦しげだった表情が花が咲いたような明るい物になる。

 いつ見ても一瞬で変わるから面白い。

 クレアとアレク曰く、リリアンヌ成分は見ているだけでも補給可能ということなので彼らもリリアンヌ成分を十分に補給できたようだ。やる気も十分に次の訓練メニューに移っていった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 9の月に入ると共に、クレアの誕生日会が盛大に行われた。

 27歳になり、今年は家族だけの小さな会ではなく使用人達も招いた大規模な物だった。

 普段あまり見ないたくさんの使用人達が祝福してくれる。

 このときばかりはサニー先生の授業もお休みだ。妖精ズも色んなところを飛び回りながら片方は楽しそうに、片方は興味深げにしている。

 誕生日会が始まりすぐにプレゼントが渡される。まずはテオとエリーの番だ。



「お母様、はい! ボクとエリーからのお誕生日プレゼントです!」


「2人で選んだんです。お母様の美しさを表すにはちょっと足りないけど……でもとても似合うと思います!」


「ふふ……とっても綺麗。ありがとう2人共。大事にするわ!」


「わゎ……えへへ。お母様大好きです」


「お母様……ボクも大好きです」



 兄姉が渡したプレゼントはどうやら魔道具のようだ。

 テオが開いた小さな箱のような物の中には三日月の形をした何かが見えた。ブローチかネックレスだろうか?

 チェーンの類は見えない。本体の三日月だけが魔道具のようで他の装飾が見えないので判然としないが、大きさから指輪ではないことはわかる。イヤリングにしてもちょっと大きいような気がするし、1つだけなので付けれても片耳になってしまう。

 イヤリングは1対のセット仕様がジャスティスだと思うのでイヤリングも独断と偏見で却下する。

 というわけで残ったのがブローチかネックレスなのだが、ネックレスにしてもやはりちょっと大きいだろうか……でもあれくらいならありなような気もする。


 結局どちらかわからなかったけれど、プレゼントをした2人を抱きしめて魔力の放出を盛大に行っているクレアを見たらどっちでもいいような気がしてきた。要は彼女が喜んでいるんだから問題はない。

 ちなみにクレアの魔力の放出が自分のところに流れてきたのを見計らってから、それに紛れるように自分の魔力も放出しておくのも忘れない。家族の絆が深まっている感動的なシーンでもやるべきことはやるのだ。


 次はどうやら祖父母とエナの出番のようだ。

 アンネーラお婆様に抱えられて、その横をお爺様とエナに囲まれて近づいていく。



「お誕生日おめでとう、クレア。これはわたくしとローからの贈り物よ」


「おまえの使っているラーシェットの魔具もそろそろ寿命だろうと思ってな、用意しておいたのだ」


「これは……! ランバルトの焔杖ではありませんか!? ありがとうございます! お父様! お母様!

 魔闘演で酷使したせいもあってそろそろ危なかったところだったんです。代わりの物もアレに匹敵する物はなかなか見つからなくて困っていたんです。本当に嬉しい」


「うむ。おまえが使うに相応しい業物となるとなかなか入手は難しいからな。だが程度の低い物を使うなど論外だ。

 コレを使って更なる精進を重ねるがいい」


「はい!」


「ふふ……ロー、お祝いの席ですよ。堅苦しいのはその辺にしておきなさいね」



 お婆様とお爺様からの贈り物は短い杖のような物だったが、その形状は魔力の流れではっきりとわかった。

 杖全体が魔道具の活性化前の流れを有している。つまりコレ自体が魔道具なのだ。

 それも今まで見た魔道具の中でもアシラの木に近い魔力強度を誇っている。流れ自体はゆったりとほとんど動いていないにも関わらず、アシラの木で見たような滑らかさと勢いがある。

 動いていないのに勢いがあるなんて変だと思うが、確かにそう感じるのだ。魔力の流れというのは直感的な認識が強い。だから一見矛盾した捉え方になってしまうようだ。

 しかし見ただけで業物だと言うのがわかるのは確かだ。クレアの喜びようからもわかるようにさすがは実力者コンビのプレゼントだ。



「では次は私が……お誕生日おめでとうクレア。アンネーラ様とローランド様の後だからちょっと比べ物にならないけれど、はい」


「エナ!? これ……いいの……?」


「えぇ……私はもう大丈夫だから、その指輪はあなたに。

 この2年近くで私もずいぶん強くなったもの。今はみんないるから……だから大丈夫」


「そう……そうね。わかった……ありがとう、エナ。嬉しいわ」


「私もよ、クレア」



 何やらエナが渡した物は2人にとっては思い出深い指輪のようだ。詳しいところはわからないけれど、きっと2人にとって大切な物なんだろう。

 2人がお互いを掛け替えのない大事な存在として抱きしめあっているのを見守る。

 この2人は本当に仲がいい。お互いがお互いを親友と認め合っているのがよくわかる。そんな光景だ。



「さぁ次はリリーちゃんの番よ。お母さんにおめでとうって言ってあげましょうね」


「うむ。リリアンヌよ、ここは一発どかんとかましてやれ」


「「頑張って、リリー!」」


「さぁ……リリー。慌てなくていいからね?」



 いきなりの出番に困惑していると、みんなが勇気付けてくれる。というより逃げ道をふさぐようにプレッシャーをかけられているようにも感じるんだが気のせいだろうか。……いや気のせいだろう。彼らに悪気はないのだ。

 家族の周りにもたくさんの使用人達が今か今かと待っているし、ここは期待に応えなくてはいけないだろう。


 お婆様の腕の中からふかふかの絨毯の上に下ろしてもらうと、クレアも目線を合わせるために膝をついてくれる。



 1歩2歩とゆっくり歩み。

 一度止まると背筋を伸ばして聖母のような笑顔を称える我が母の顔を一直線に見つめる。

 一息大きく吸い込んで一気に距離を縮めるように彼女の胸に飛び込んだ。



「かーしゃま、おたんじょびおえでとうごじゃいます」


「ありがとう……リリー。最高のプレゼントだわ!」



 自分が駆け出した瞬間に腕を大きく広げて迎えてくれたクレアが優しく抱きとめ、その胸の中から精一杯の言葉を紡ぐ。

 相変わらずな滑舌だったが、少しはマシになってもきている。


 優しく暖かく包み込んでくれる彼女の体温を感じながら、クレアの放出に合わせて広いパーティホールを埋め尽くすかのような放出を行う。

 今だけは残量を減らすなんて打算的な考えではなく、彼女を祝福するためだけに自分の持てる最高の幸せをイメージして放出し続けた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 しばらく抱擁し続けて、解放されるとお婆様にすぐに回収され、次はアレクの番のようだ。何やらいい香りの物を大量に抱えている。

 抱えている物で微妙にアレクが見えなくなっているくらいだ。

 それを見たクレアは口に手を当ててすごく驚いている。よっぽどすごい物なんだろう。



「クレアティル……誕生日おめでとう。君の変わらぬ美しさにはこの500本のミシリアンローザも敵わないけれど、受け取って欲しい。

 愛してるよ」


「ありがとう……アレクサンドル……私も愛しています」



 クレアの瞳からはきっと涙が流れているだろう。その様子が見えない自分にもありありとわかる。

 アレクからミシリアンローザと呼ばれる500本の恐らく花束を受け取り、それに顔を埋める彼女は美しく……幼い少女のようにすら見える。

 兄姉からプレゼントを受け取った時の彼女は優しく美しい母親だったが、今は完全に恋に恋する乙女だ。

 見つめ合う2人にたくさんの拍手が降り注ぐ。

 だがそんな盛大な拍手は耳に入っていないかのように、完全に2人だけの空間を作り上げている両親。



 いやほんとご馳走さまです、お2人さん……。



 なんともいいシーンなんだろうけれど、この2人は自分の両親だと思うとなんというかこっ恥ずかしい。全身が痒くなってくる。

 でもテオとエリーの2人はそんなことはないようで、ものすごいいい笑顔で2人を祝福している。

 改めて自分のスレ具合がわかる一幕だった。精神年齢31歳半は伊達じゃなかった。


 そんな周りの空気をよそに戻ってきた妖精ズはというと。



「ふむ。オーベントでは誕生日を祝うというのは聞いたことがあったが、これほど盛大にやるものだったのだな。

 知識だけではわからないことも多い。勉強になる」


【先生にもわからないことがあるんですねぇ……】


「無論だ。むしろわからないことの方が多いくらいだ。世界とは謎に満ち溢れているものだ。

 知識はあって困ることはないが、やはり体験して得る経験というものはそれを勝るな」


【じゃ、じゃぁそろそろ魔術の実践を……】


「だが最低限知っておくべき知識という物はある。特に君のような優秀な生徒は私は逃す気はない。

 まだまだ知識の収集に努めたまえ」


【……はい】


「こんなこと言ってるけどね~本当はリリーの優秀さにびっくりしてむぐあ」


「黙れこのドヤ顔め!

 とにかくまだ実践は早い! 私が言いと言うまでは知識を吸収し続けるんだ、いいな?」


【は、はい……】



 ニヤニヤ笑いのクティを羽交い絞めにして微妙にチョークスリーパーも決めているサニー先生はいつもと違ってちょっと焦っている。



「……けほけほ……もーひどいなぁ。私は事実を言おうとしてるだけなのにー!」


「黙れ黙れ! おまえはもう少し空気という物を読めるようになれ!」


「空気ってこれー? それともこれー? あ、こっちかなー? ぐぎゃ」



 ニヤニヤ妖精が魔力で何やら酸素とか窒素とか二酸化炭素とか書き出して、さらにニヤニヤが酷くなっていく。

 だが堪忍袋の緒が切れてしまった先生のソバットをまともに受けてくるくると空中を舞っていってしまった。


 肩で息をしている先生というものすごい珍しい物を見れたことに満足しながら、誕生日パーティは終始優しい空気に包まれながら幕を閉じた。



両親のいちゃらぶを見せ付けられる子供。

ちいちゃい子ならいいかもしれません。

でも大人の精神を持っていたら……。



サニー先生のソバットは所謂後ろ回し蹴りのような横方向からの蹴りではなく、回転を加えた下方向からの顎を狙う形の物です。

角度的にも見えづらく、直線的な軌道を描く為最短距離で狙える実用性の高い蹴りです。


良い子のみんなは真似しちゃだめだぞ!



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