58,妖精達と授業
特徴的な半眼の瞳に宿っている光は、魔力の流れでどういったものかを雄弁に語っている。
白衣のような丈の長いコートを羽織った小さな体躯。
その体躯が今はとても大きな偉大な者に見える。
彼女は今から自分の魔術の先生だ。
" 自分の努力次第 "
確かに彼女――サニー先生はそういった。
努力次第で視力に代わる物を手に入れることが出来るのだ。
……だが、視力が手に入るとは言わなかった……代わる物、とそういった。
魔術を創造できる適正を持っているといわれたが、それでも視力を取り戻すことは現状ではできない。そうはっきりといわれた。
それでも光明が差したことには変わりない。
魔術を創造できる適正は、クティに以前教えてもらった範囲ではかなりのレアスキルだと思っていた。でもその適正が自分にあるらしい。
正直、レアスキルを持っていると言われても実感はない。
適正を判別してくれたサニー先生も、別段驚くわけでもなく淡々としていて魔力の総量の多さの方に驚いていたし、クティは自らの適性と同じだと喜んでくれたけどそれはお揃いなのが嬉しいといった感じだった。
だからだろう。レアスキルの適正があるということよりも、努力次第で望んでいた物が手に入るという事実の方が遥かに嬉しかった。
「まずは概念だ。といっても1から全部説明していては何年かかるかわからない。必要なところだけ掻い摘んでいこうか」
【はい! よろしくお願いします!】
「おねしゃーす」
クティはまだ始まってもいないのに早くも飽きてきてしまったようだ。
彼女は自分の興味のあることや自分が教える時には意欲を燃やすのだが教わる立場で、しかも実質知っているだろうことだからかやる気はないように見える。
それでもこちらに付き合ってくれる。
真面目に一字一句漏らさず聞くくらいの気概でいるが、それでもクティが一緒だと嬉しいし楽しい。
「まずは魔力についてだ。
魔力ってのは魔術にとって燃料だ。これがなければ何もできないに等しい。
その点、君の魔力量ははっきりいって規格外のレベルだ。問題ない」
「そーだよー。リリーの魔力はすっごいねー。
あの判別機を使わないとわからなかったけど、リリーの可愛い体にはものすっごおおおい魔力があるんだよ!」
「うむ。魔力というのは生まれたときから決まった量しか持たないからな。
十分に才能と言えるレベルだ。両親に感謝するがいい」
【……え? あの……魔力の訓練で総量を増やしてきたんですけど……】
魔力文字を読んだ2人が途端に停止する。
ちなみに、クティは横にいるので正面に魔力文字を出すと逆文字になってしまうので読みづらいからか、早々にサニー先生の横に移動してしまっている。ちょっと寂しい。
移動して座ろうとしたところで魔力文字を読みきったようで変な体勢になっているクティ。
半眼が瞬き1つしなくなった先生も一向に動かない。
【あ、あの……】
「……ふむ。君はとことん規格外だな。いや、これはすでに規格云々の話ではないな。
まぁ今は存分に研究できる設備もないし……今度是非うちの研究所に来てくれたまえ。
ナターシャには私から話を通しておこう」
【え……っと……はい】
「リリーはやっぱりすごいなー……普通魔力って増えないんだよ?
魔力訓練はてっきり文字とか絵とか描くための訓練だとばっかり思ってたよー」
サニー先生の呆れたような声音に目を白黒させながら、クティも呆れた様子だ。
魔力は普通増えないのか……知らない間になにやら常識外れなことをしていたご様子。
でも、呆れているだけで特に叱責とかもないようだし大丈夫なんだろう。
きっと大は小を兼ねる的なアレなんだろう。
「さて、多い分には問題ないわけだしな。むしろ多いのは喜ばしいことだ。よかったな前途は明るいぞ。
魔力とは燃料であり、強い感情や意思の影響を受けて形を変える物だ。
詳しいことは1000年以上研究している私でもよくわかっていないが、魔力単体では物理的な影響を及ぼすことはできないことがわかっている。
その他にも、魔力は妖精族などの特殊な種族以外には、それ相応の適正を持つ物にしか感知することができない。
君のように魔力を視認できるレベルの物は、大概は " 魔眼 " と呼ばれる才能の一種だ」
「まーがーんー」
【魔眼……】
サニー先生は、会話の前後をまったく考えないマイペースさで授業を続ける。
魔眼。ゲームや小説なんかによく出てくる特殊な力を持った眼のことだ。
大抵は未来が見えたり、遠くが見えたりといったすごい能力だけど、自分は魔力が見えるという魔眼。
濁った瞳に罹っていて視力がない自分にとっては、まさに神様がくれたギフトだ。
ありがとう神様!
神に密かに感謝していると、クティはやはり飽きてしまったのかサニー先生の背後に例の説明用黒板を出現させてなにやらお絵かきを始めている。
器用に黒板を形作っている魔力を指で動かすことにより変化させている。あんな芸当は自分にはできない。クティは相変わらずすごい子だ。
「基本的に視認することが出来ない魔力だが、魔眼を有している物でも君のような強力な魔眼以外では感知能力に優れていたりする者でも微弱にしか感知することは出来ない。
いたって平凡な能力しか持たない者にとっては、それらは見ることすら適わないというわけだ。
恐らく君の家族で魔力を見れる者はいないだろう。君のお婆さんとやらは見ることが出来ているのではなく、感知しているに過ぎない。
感知を防ぐことは割と容易い。だが、それはまず魔術を扱えるようになってからの話だ。
私達には容易いことでも、今の君にとってはかなりの難題と言える」
「なーんだーいーもーんだーいー」
【頑張ります!】
お婆様の感知をすり抜けることが出来れば、屋敷内で魔力訓練をすることはかなり楽になるはずだ。
難題でもやらなければいけない。努力次第なのだ、ならばなんとしてでもやってみせる。
それに……これは前提だ。これが出来なければその先に進むこともできないだろう。
黒板に描かれるクティの絵は、なにやら立方体の中にもやもやが出来ている。
あのもやもやが魔力だとすれば、囲んで遮蔽するといった感じなのだろうか。なんとなくわかりやすい。
「実践は一先ずあとだ。
魔力は燃料で、ほとんどの者には見えない。だが見える者、感知できる者はいる。
ここまではいいか?」
【はい、大丈夫です!】
「ふむ。クティの自慢話通り君は赤ん坊の理解力を遥かに超えているな。実に好都合だ。
君たちの持っている魔力と我々が持っている精霊力は、元は同じ物だがその性質は大きく異なる」
サニー先生の話し方は、どうにも唐突に授業部分に入るので切り替えが大事だ。
背後のクティも立方体を上の方に押しやりながら、今度は魔力と精霊力と文字を描いている。
「精霊力は言ってみれば魔力の上位版だ。
我々妖精族は魔力生命体。純粋な魔力の塊で出来ているため、不純物が混入していない。
その為魔力が純粋で混じり気の無い物になっている。それが精霊力だ」
「まじりーけーのなーいー」
魔力と描かれた方には点々がいっぱいあるのに、精霊力と描かれた方には何もない、むしろきらきら光っているような感じに描かれている。
「魔力は不純物が多いと使用効率が悪くなる。純粋に効率だけを考えると不純物がない方がいい。
従って、精霊力と魔力で同じ魔術を使っても精霊力の方が60倍ほど効率がよくなる。
これは膨大な検証結果を元に算出された数字だ。
だが、問題もある。
精霊力は効率がよすぎるのだ。
魔力は不純物が多いために出力が低い。だがそれは言い換えれば程度の低い魔術を使う分には好都合なのだよ。
魔術は完全に決められたプロセスを経て発現する。これは既存の魔術と呼ばれる物だが、一般的に魔術と呼称されているものだ。
君が扱うことになる魔術は、また違った物だが基本は同じだ」
クティの落書き板に描かれていく小さな爆発の絵と魔力という文字。大きな爆発の絵には精霊力と描かれている。
威力も違うということなのだろう。
クティの描き出す絵はどれもコミカルで見ていて飽きない。
サニー先生の授業を合間合間でわかりやすくしてくれているし、見ていて和む。クティ自身の動きも見ていて楽しいので効果は抜群だ。
「既存の魔術は精霊力で行使すると、効率がよすぎて爆発的な効果を生んでしまう。
これでは最下級クラスの魔術を使用しても望んだ効果を齎すことは難しくなってしまう。
その点魔力を用いると効率が悪いため、こういった程度の低い魔術にとっては打って付けというわけだ」
【なるほど……強すぎても問題があるんですね】
「うむ。何事にも良し悪しはある。純粋であっても害がないわけではないということだ」
サニー先生の授業は難しいかと思ったけど、結構わかりやすいものだ。
今まで聞いた話では理解できなかった部分はない。もっと細かい話になったら違うのかもしれないが、掻い摘んでとも言っていたしそういった専門的な話を今はする気はないのだろう。
されても理解できるとは思えないし。
それにクティの落書きも理解を助けている。
今描かれている物は、細い出口から何かが勢いよく出ている物と、勢いがなくちょろちょろと出ている物の2つ。
勢いがある方が当然精霊力。ない方が魔力ときちんと描かれている。
出ている先にはコップのような物が描かれていて、精霊力はその勢いでコップの中に水が入りづらく飛び散っている。
それに比べて魔力の方は勢いがないので、すんなりコップに入っている。
コップの大きさが魔術の程度ということだろう。受けるコップが大きく――魔術の程度が上がると出力の大きな精霊力の方が効率がよくなるということだろう。
実にわかりやすい。
「程度の低い魔術には生活に根ざした魔術――生活魔術が多く、これらは普段の生活に置いて非常に有用だ。
だが、我々の精霊力では説明した通り生活魔術を扱うのは難しい。そこで開発されたのが専用の魔道具だ。
これを使うことにより、精霊力に不純物を混ぜ、魔力を作り上げることが出来る。
効率をわざと悪くすることにより、程度の低い魔術を効率よく扱う。
矛盾しているがつまりはそういうことだ」
【なるほど。でも私は妖精族ではないので持っているのは魔力ですよね?
精霊力の話はどういった関係が?】
妖精族ではない自分が持っているのは、当然不純物の多い魔力だろう。
ただの概念説明を、掻い摘んでいるはずなのに時間を取るのは効率が悪いと思う。
サニー先生をまだよく知らないからなんともいえないが、こんな効率の悪い授業をするような人には思えないのだ。
だから敢えて聞いてみた。
「ふむ。そこに気づいてくれたか。君はなかなか優秀だ。
妖精族でなくても精霊力は扱えるのだ。
特に魔術を創造する場合、魔力より精霊力の方が効率がいいというのは先の魔道具を利用してわかっている。
それに我々は魔道具を介しなければ魔力を使えない。教えるにも色々と不便なのだよ。
従って、君には精霊力を扱えるようになってもらう。その為の説明だ」
【精霊力を……】
「リリーなら大丈夫! 私が保証してあげるよ! けほけほ」
ドヤ顔で胸をどん、と叩いて咳き込んでいる可愛らしいお妖精さまに和ませてもらって、やる気もさらに漲ってきた。
クティが保証してくれるなら百人力……いや、千人力だ!
【頑張ります! 精霊力の使い方……教えください!】
「よし。私は厳しいぞ。
そこの馬鹿のように甘やかしたりしないから覚悟しろ」
【はい!】
クティのサムズアップと自信漲る顔が背中をがっしりと押してくれる。
彼女がいるなら無敵だ。
漲る闘志が自分の魔力を発露させる。
その光景を自分では見れなかったが、きっとお婆様のようなすごいものになっていただろう。
わかりにくいようでリリーにはわかりやすい。
コミカルで元気いっぱいの華やかな躍動感たっぷりの描写がクティ先生の醍醐味です。
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