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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第4章 2年目 後編 1歳
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57,妖精達と適性


 半眼に開かれた瞳に宿っている怪しげな魔力の流れ。

 彼女――世界の隣の森魔術研究所所長サーニーンの瞳にはこれまで見たことのないような不思議な、それでいて底知れない何かを感じさせるものがあった。



「私は君の魔力操作について興味があり、そしてこいつから君に魔術を教えて欲しいと頼まれている。

 故にまずは魔力操作をいつでも万全に行える環境を整えるために、君にはある魔術を覚えてもらうことにする」


【で、でも……魔術って適性がないとだめなんでしょ?

 その適性も10歳にならないと検査できないって……。

 あなた達の森にある施設には行けないから、検査は難しいんじゃなかったの?】



 以前にクティに教えてもらった内容を反芻するかのように問うた。

 このオーベント王国では魔術適性の検査は10歳に行われる。そしてその検査以外だと世界の隣の森に行かなければ検査は難しいだろうというのがクティから聞いた話だ。



「えっへん。実はねー私が森にいない間にサニーが頑張ったみたいでね!

 じゃじゃーん! 適性検査キットー!」



 まるでどこかのネコ型ロボットよろしく、クティがどこからか取り出したものは活性化前の魔道具のような魔力を持ったものだった。

 アレが魔術適性を検査できる物なのだろうか。クティはいつも楽しくおふざけが好きだけれど、こういうことで嘘や冗談を言う子じゃない。



「うむ。これは私が30年かけて作った一品だ。森にもまだ2つしかないから、なかなか持ち出すのに苦労した代物でな。

 これを使えばすぐに魔術の適性検査が出来る。何、簡単だ。ここに魔力を流せば終わる。

 まぁ無論魔力を流すことができないような一般人には扱えない物だな」



 サニーの説明だと、魔力を流すという行為は一般的には出来ない行為のようだ。

 魔力を流すという行為が、魔力を放出することだとすると理解できる。

 これまで見てきた人達で魔力の流れを内側で操作することは出来ても、外側に放出して自由意志で操作できていた人はいなかった。

 クレアやアンネーラお婆様の魔力は感情の発露と言い換えてもいい、無意識領域の仕業に見えた。

 なんせアレは彼らには見えていないのだから。だが、実際のところは知らない。

 本当に無意識の領域なのか、それとも意識してのものなのか。結局のところ自分の考えは推論の域を出ていないのは明らかだった。

 だが、研究所の所長まで勤めているサニーの言葉なら確かなのかもしれない。



「魔力を流せるなんていうのは、実のところ私とリリーくらいしかできないんだけどねー。

 だからこれは、森に保管しておいても意味がないんだよ! だから持ってきちゃった!」


【持ってきちゃったって……】



 てへぺろっと舌を出して頭をこつんとする仕草のお妖精さまだ。

 可愛らしくて心がほっこりする。クティ以外がやったら張り倒されるレベルのものだが、問題ない。とても可愛いのだから!



「大丈夫だ、問題ない。これは私が作ったものだし、さっき言ったようにこれが使えるのは君とクティくらいなものだ。

 これでわかるだろう? クティと君は……一般的ではないんだよ」


【そう……ですね。わかってました。

 私は普通の人とは違うということを。色々と家族にも迷惑をかけているということも】



 目を伏せて、少し俯いてしまう。

 そう、わかっていたことだ。自分が他の人とは違うことは。

 もちろん瞳のことだけじゃない。自身の特異性。魔力を自由に操作できる能力。

 後者は生まれたときからの訓練の賜物ではあるが、それでも他の人とは違うことには変わりない。

 自身の瞳のことですでに誘拐を企む組織が出来てしまっているのも知っている。

 そして厳重なまでの警備体制も、自分のために作られた騎士団も。

 最早自分を一般人などとのたまうこと自体が悪だということも。


 だが、大部分は望んだ結果ではないことも確かだ。瞳以外の特異性は家族以外には、クティとサニーにしかばれていない。お爺様達が知っているのはちょっと成長が早い程度なだけだ。

 お婆様には魔力のことで少しばれているかもしれないが、それでも隠しておけばいいという助言に留まる程度の話だ。

 それでも自分のせいで迷惑を掛けているのも確か。

 家族はそれを迷惑だとは思ってすらいないだろう。彼らは優しい、そして暖かい大事な存在だ。



「何か勘違いをしているようだが、君が誰に迷惑をかけていようとそんなことは私の関知する所ではない。

 私は私の好奇心を満たせればそれでいい。結果として君は力を得る。それだけだ」


【力……魔術……ですか?】


「その通り。君はクティと同じだと思われる。

 クティは知っての通り世界の隣の森で、もっとも力のある魔術師だ。

 彼女の隣に並ぶことの出来る魔術師が、こちらの……オーリオールにも存在していないのは確認済みだ」


「ふふーん」


【クティって本当にそんなにすごかったんだねぇ……】


「もちろんだよ! 私が居ればこの部屋は最強の砦と一緒だよ! いやそれ以上だよ!」


「砦か。確かにそうだな。

 この屋敷に張られていた結界も、3級結界を多重設置して広域化した相当な物だが、こいつにかかれば突破するのに20秒もかからん程度だ」



 薄い胸しか見えなくなるほど上半身をそり返した頼もしい妖精様とは対照的に、顎に手をあてて分析結果を淡々と喋る半眼妖精。

 なんともいいコンビだ。ちょっと羨ましい。



「今後君の特異性に対して色んな者がそれを利用しようとするだろう。

 だからこそ君は力を身につけなければいけない。君はそれを望むだろう?

 君が文字を熱心にこいつから学んでいることは知っている。

 言葉を知り、知識を知り、世界を知る。

 それらを望むには結果として必要になるのは……力だ。

 そして……既存の魔術では君の視力をどうこうすることは不可能だ……だが、君が持つだろう適性はそれを覆し、代わりとなるものを手にすることが十分できるものだ。

 君の努力次第ではあるがな。並大抵ではない……努力だがな」



 サニーの言葉で心が大きく揺れるのを感じる。

 叶う事のないと思っていた願いが、もしかしたら……。


 魔闘演の鑑賞会で嫌というほど自身の見えない瞳に苛立ちを感じた。

 見えないことで誘拐の対象にされたり、家族に迷惑をたくさんかけている。

 それを……自分の努力次第でなんとかできるなら……やらないはずがない。

 並大抵ではない努力……上等だ。いいだろう、やってやる。どんなことをしてでも視力を手に入れてみせる。



【視力を……見たい……私は家族を……この世界を見てみたい!】


「喜んで協力しよう。君が身に着ける力は私の興味対象だ。利害は一致している。

 これは所謂契約に等しい。

 私は君に力を与える。君は私の興味を満たしてくれる。

 さぁ結ぼうじゃないか、契約をッ!」



 半眼だった瞳が大きく開き、その瞳には爛々と輝く魔力の流れ。

 自分に力を与えてくれる存在。そしてその存在はクティが連れてきてくれたという事実が疑うことを心の隅の見えないところに遠ざけてくれた。


 差し出された適性検査キット。そこに指を乗せて魔力を放出し、検査用魔道具に流し込む。

 チクッと指先に走る痛みに顔を顰めるも、すぐにその痛みはなくなった。



「これで終わりだ。どれどれ。

 ふむ……やはり性質は変異型2種か……む……量が……こ、こんなことがありうるのかっ!」


「どれどれー? わぁすごー……さすが私のリリーだよ~」



 2人が適性検査キットを覗き込んでなにやら驚いている。

 驚愕の何かがわかったのだろうか。ちょっと心配だ。

 魔術の適性がなかったら力を与えるも何もないだろうし。



【あ、あのぅ……どうかな?】


「……ぁ、ああ、すまん。つい夢中になってしまった。

 適性は陽性だ。君には適性がある。

 とはいっても、発動具となる魔道具を扱う適性があるわけではない」


【え、ええ? どういうこと?

 魔術の適性ってその発動具を扱える適性でしょ?】



 クティに以前教えられた魔術適性とは違う適性があると言われてしまった。

 一体どういうことだろうか?

 確かあの時に言われたのは……。



「覚えてない? 魔術には2つあるって」


【あ……自由に魔術を創造できる……?】


「その通りだ。ちなみにクティは変異型2種。つまり、自由に魔術を創造できる方の適性持ちだ。

 君もその適性がある。

 だが、君はクティとは違う才能もあるようだ」


【違う才能? それって?】


「何、至って単純な話だ。君はクティの数百倍ほどの魔力量を保持している」


「やっぱり、リリーはすごいねー! 私も魔力量は多い方だけど、それでもリリーよりすっごく少ないよー。

 魔術を自由に作るには、すっごい魔力がいるんだ。

 だから、リリーはそういう方面でもすっごい有利ってことだよ! さすが私のリリーだよ!」



 クティがうんうん、と頷きながら教えてくれる。

 どうやら日ごろの魔力訓練が功を奏しているようだ。なんとなく日課として続けてきた訓練だったが、こんなところで役に立ってくれるとは思わなかった。

 努力を褒められたようでとても嬉しい。何よりもクティに褒めてもらえたのが、とてもとても嬉しかった。



「前提は問題なし。魔力量も異常だが、むしろ喜ばしいこと。

 ふふふ……漲ってきたぞ!」


「みーなぎってーきーたっぞーッ!」



 ニヒルな笑みがどんどん黒くなっていくマッド妖精に、天真爛漫な笑顔でぴょんぴょん跳ねている可愛らしいドヤ顔様。

 2人を見ていると心がほっこりする。小さくチクリとする胸はどんどん小さくなっていくようだ。



「まずは、概念から教えていくとしよう。

 君は大層賢いようだしな。私の話にもついてきてくれる事を是非に願うぞ」


「サニーの話はめんどくさいから、私がわかりやすく解説してあげるねー」


「おまえが絡むと真面目な話が全てコントになるから、少し黙っていてくれ」


「ぶーぶー」



 きゃるーん、という効果音がしそうなお妖精さまの仕草をばっさりと切り捨てる半眼妖精。

 口をタコにして抗議の声をあげるが、それをいつものことのように無視して続ける。



「何をするにも、まずは理屈を覚えた方が私は早いと思っている。

 君はどう思う?」


【ええと、教えてください。でも理解できるかどうかは自信がありませんけど……】


「うむ。とりあえずはそれでいい。まずは聞き流してでも脳に記憶させておけ。

 実践する段階でそんな話を聞いたっけな、という程度に思い出せればそれでいい」


【わかりました。よろしくお願いします、サニー先生!】



 姿勢を正して頭を下げる。まだ正座はできないから出来るだけピンと背筋を伸ばすことで精一杯の誠意を見せる。



 自分に力をくれる人だ。この人は自分にとって、先生。



 学べることは全て吸収するつもりで意気込みを新たにする。


 目をぱちくりしていたクティも正座をして自分の横に座ると先生を同じように見つめる。


 かくして、魔術の勉強が始まった。

やっと始まりました、魔術のお勉強です。


いやぁ長いですねぇ。

まぁこれからも長いですけど。


ちなみに契約ってのは言って見たかっただけです。

結ぼうじゃないか、連帯責任契約をッ!

詐欺じゃないですかやだー。


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