外伝4,光の声
本編にまだ出てきていないような、世界設定が多々でてきます。
鬱展開に耐性のない方はブラウザバックを推奨します。
私の名前はエリアーナ・リンド・ミューズライン。
ミューズライン家に嫁いだのは7年前の話。彼――ヨシュア・リンド・ミューズラインと出会ったのは学生時代だった。
その頃から彼は私の兄――アレクサンドルと仲がよく、よく2人で馬鹿騒ぎをしては私や親友のクレアティルにお説教をされるといった具合だった。
明るくちょっと抜けている優しい兄の親友だけあって、彼も底抜けに明るくとても優しい人だった。
彼とは兄と恋仲になったクレアが私の親友と言うこともあって、よく4人で会っていて自然と仲もよくなっていった。
彼からの突然の告白に私は目を白黒させたけど、普段見せることのない耳まで真っ赤にした彼の真剣な表情に私も耳まで真っ赤にしながら頷いた。
それからの日々はあっという間。
ヨシュアと私。アレクとクレア。仲の良い4人で一緒にデートに行ったり、色んなことを共有した。
クレアが高等部在学中に妊娠したのは驚いたけど、盛大にお祝いをしたのもいい思い出。
すでにアレクとクレアは婚姻の誓いを済ませていたけど、高等部に進学したクレアがまさか在学中に妊娠するとは思わなかった。
普通は高等部に進学する人は、婚姻はしていても妊娠は計画的に行うものだ。
だから、学園でも騒ぎになったけどそこはクレアらしいというかなんというか。彼女は才色兼備を地で行く才女だったから例え妊娠中でも学園は休まず通い続け、学年首位の座も一度として明け渡したことは無かった。
それにはさすがの私も呆れたけれど、彼女らしいといえば彼女らしかった。
私とヨシュアはまだ婚姻にまでは至っていなかったけれど、将来はそうなりたいと強く想い逢っていた。
それから2年。色々と問題も巻き起こったりしたけれど、私達は無事婚姻の誓いを済ませ、ミューズライン家に嫁ぐこととなった。
ヨシュアのお父様は最初はあまり私のことが気に入らない様子だったけど、私が在学中に果たした実績のいくつかを目の当たりにして目の色を変えていたから問題はなかった。
むしろよくしてくれた方だと思う。
お義母様は実績云々関係なく私とすごく気の合う方だったので、そっちの方も問題は無かった。
クレア達との親交はヨシュアがアレクと同じ第2騎士団に勤めることになり、ますます深まっていく。
私は毎日のようにクリストフ家を訪れ、彼女と楽しい日々を過ごした。
ほどなくして私はクリストフ家長男テオドールとその翌々年に生まれた長女エリスティーナの教育係となり、クリストフ家に就職。
クレアもその高い実力を遺憾なく発揮し、20歳を迎える頃には宮廷魔術師という魔術師の最高峰とも言える地位に上り詰めていた。
私とヨシュアの間にはなかなか子供は出来なかったけれど、それでも幸せな毎日だったと記憶している。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
契機は結婚から7年後。
今年2回目になる第2騎士団の長期清掃の数巡り前だった。
私の妊娠がわかりミューズライン家、クリストフ家の両家で盛大にお祝いが行われた。
この頃はまだ、ミューズライン家とクリストフ家は仲がとてもよかった。
長期清掃はオーベント王国にある最大の迷宮クリシュナで行われるモンスターの大討伐だ。
放って置くと溢れ返ったモンスターが迷宮から地上に出てきてしまうために、普段深層探索が行われることの少ない大迷宮を対象として行われるものだ。
年に数回に分けて第2騎士団により行われるこの清掃活動は、第2騎士団が高い人気を誇る部署を決定付ける英雄的活動の1つだ。
危険な任務も多いが、この清掃活動を行わなければ溢れたモンスターで瞬く間に国が滅ぶのだ。
国を挙げての大イベントの1つでもある。
そんな長期清掃は当然危険な任務。
だが、第2騎士団には危険を承知で毎年多くの入団希望者が集まる。それだけの競争率と高い信頼を持っている騎士団にヨシュアとアレクは在籍している。
しかもアレクは副団長の座にいる。我が兄ながらその剣術と扱える初級魔術の腕はオーベント王国随一といわれるほどだ。
剣も使えて魔術も使える者は希少だ。
実力者揃いの第2騎士団でもアレクを入れて、たったの5人しかいないほど。
ヨシュアは魔術は使えないが、アレクに引けをとらない剣術の腕で第2騎士団7番隊の隊長を務めている。
2人とも危険な深層の前線に出る貴重な戦力だ。
そんな大事な長期清掃に出る前の晩に、私はヨシュアと生まれてくる子供の名前のことで少し喧嘩をしてしまった。
優しいヨシュアはすぐに折れてくれたけど私は少し納得がいかなくて、長期清掃に出発する日普段は額にするはずの祝福のキスを……頬にした。
苦笑していたヨシュアが彼を見た最後だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
彼の訃報を聞いたのは長期清掃に出た2巡り後だった。
7番隊は壊滅し、最後まで部下を指揮して隊を率いていた彼は名誉の死を遂げた、と伝令を持ってきた兵士が告げていた……と思う。
最後まで伝令兵の話を聞けたとは思えない。
私は全てが崩れ去る音と共に闇の中に引きずり込まれたのだから。
それから一体どのくらいの時間が経過したのか。
私が目を覚ました時に私の精神を破壊するには十分なほどの悲劇が……もう1つ起こっていたことを聞かされた。
流産。
小さな小さな……私とあの人の愛の結晶が崩れ去る現実。
私の心は2つの悲劇に耐えられなくて、壊れてしまった。
それからのことはよく覚えていない。
真っ黒なとても寒いところにいたような気がするし、何も感じられないところにいたような気もする。
唯1つ覚えているのは、最後にヨシュアを送り出した時になぜあんなことで腹を立てて、彼の額に祝福のキスをしなかったのか。
そのことだけが、延々とぐるぐると私を苛み続けた。
あの時、額にキスしていれば。
彼は無事に帰ってくることが出来たのではないか。
あの時、額にキスしていれば。
あの人との愛の結晶を失うことはなかったのではないか。
あの時……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私が私を取り戻したのは、暖かい太陽のような光の輝きを放つ声と小さな頃から一緒にいた親友の苦しそうな声によってだった。
大きなお腹で苦しそうに呻いている彼女。
何時の間にこんなにお腹が大きく?
覚えている最後の彼女は私とほとんど変わらないくらいの大きさのお腹だった。
私の妊娠がわかってから、数日してクレアの妊娠もわかり両家合同で盛大なお祝いが行われたのだから覚えている。
だが、今はそんなことはどうでもよかった。
これは陣痛だ。
暗い底にいたはずの私の意識は、すっかり元通りに覚醒している。
すぐに私が小さい頃から育てている腹心のメイド――スカーレットを呼び、熱いお湯と産婆の手配をさせる。
私の声を聞いて飛び込んできたスカーレットは、私の目を見てすぐに状況を察してくれたのか、大きく頷きその大きな瞳に涙を湛えながら素早く行動してくれた。
私が絶望の淵から蘇った事にたくさんの人が歓喜していたり、ミューズライン家から放逐されてクリストフ家が保護したとか色々聞かされたが、今はそれどころではなかったので申し訳ないけれど無視させてもらった。考える時間が惜しかったし、今は彼女と彼女の赤ちゃんが大事だったからだ。
目まぐるしいほどあっという間に時間は過ぎ去り、結局産婆は間に合わず彼女の――親友の赤ちゃんは私が取り上げた。
自分の子のためにあらゆる子育ての知識と一緒に産婆の知識も、それこそ実際に取り上げられるほど収集していたのが役に立った。
生まれてきた小さな子の第一声はなぜか聞き覚えがあった。
生まれた子は、リリアンヌと名づけられ、濁った瞳に罹っていることもすぐに判明した。
止まっていた私の時間は彼女の誕生と共に動き出し、リリアンヌが生まれてすぐに私の胸から母乳が出るようになった。
診察してくれたランドルフ様の話では、夫と子供を亡くしたショックで止まってしまったのがリリアンヌが生まれたことにより生き返ったのだと。
ランドルフ様はオーベント王国でも有数な名医。
そして私は彼の言葉が確かな真実だと知っている。
私を絶望の闇の淵から救い出してくれた声。
親友のクレアとあの暖かい輝く光の声。
あれは生まれてくるリリアンヌが、私を救い出してくれたのだ。
聞き覚えのあった声は確かにあの時聞いた、暖かい光り輝く太陽のような声だった。
私は出会うことのできなかったあの子の為にも、私を救い出してくれた大事な子を……私の全てを賭けて、育て上げると誓った。
人に過去あり~。
エナが必要以上に過保護なのはこういうわけなのです。
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