55,エピローグ
魔闘演が終わり、騒がしかった日常はまた静かで穏やかな日常へと……戻るわけがなかった。
お爺様はテオとエリーの訓練以外はずっとベビールームにいる。
何やら目を通しては指示を出している。
指示も劇場で執事が使っていた魔道具を用いて行っているほどの徹底振りで、ベビールームに居座っている。
お婆様は最早ここにいるのが当たり前といった具合で、ずっと自分を膝の上に置いている。お婆様の膝の上にいると大体8割方いぢくりまわされるので、ちょっとやめてほしい。いやちょっとじゃなくてやめてほしい。
でもこの人は嫌いになれない。怖いとかそんなのではない。
確かに実力を考えれば逆らうのは無謀の一言だけど、普段そんなものは感じさせない柔らかい心地よささえ感じる人だ。
でもいぢわるだ。
「ふふふ……ほらほら~ふふふ~……つんつん……つつん……ふふふ~」
「ひゃ……ふぃ……にゃー!」
「ふふ……リリーちゃんは本当に可愛らしいわぁ」
「……ばーば、きあい!」
「あらあら、それは困りましたねぇ~……えいっ」
「……うに……ぶー」
お婆様のつんつん攻撃に最近は言葉で反撃するようになったのだが、それでも楽しげな声で続けようとするから困る。
お婆様も本当に嫌がることはしてこない。どこが限界点なのかきちんとわかってやっているのだ。
だから、本当に嫌いになることはないけれど……このお婆様は本当に困りものだ。
「むぅ……俺も混ぜて欲しいのだが……」
「あなたはその書類の山を終わらせてからにしてくださいね?」
「ぐぅぅ……大体なんでこんなに溜まっているんだ……俺が前にずいぶん片付けたはずなのだが……」
「個人の騎士団を急遽発足するからですよ。わかっていてやったことではなかったんですか?」
「うッ……」
エナの容赦ない言葉が突き刺さり呻くお爺様。
目を落としている――恐らく書類なのだろう物から目を離すことなく言っている。
今日のエナはメガネ着用だ。
モノクルを片目につけているお爺様とは違って、以前お婆様がつけていた耳にかけるタイプの近代的なやつと同じ物だ。
すごくよく似合っている。お婆様は女教師だったが、こちらは出来る女上司といった感じだ。
生前ではメガネ属性はなかったはずだが、どうやら今生ではメガネ属性があるようだ。
メガネをかけたエナやお爺様が5割増しで素晴らしい。
伊達メガネとかもきっとあるだろう。ぜひ手に入れてエリーやテオにもかけさせたい。
その兄と姉はというと、今日はお友達のところに遊びに行っている。
休みに入って初めてのことだ。
普段の彼らならお友達より自分のことの方が優先といった感じなのだが、今日は明らかに渋々といった感じで、以前お爺様が屈強な人達に連行されていった感じに素敵装備のメイド――スカーレットさんに連れて行かれていた。
どうやらスカーレットさんはエナの専属メイドさんのようだ。
なのでエナの命令なら、テオとエリーを強制的に連行するのも厭わない。
素晴らしい笑顔で、抵抗する2人を脇に抱えてスタスタ歩いていく姿は、メイドさんってすごいの一言だった。
書類の処理を進める2人と、自分をいぢくって楽しんでいるお婆様。
静かではないけれど、ゆったりとした穏やかな時間。
いつもの幸せな時間を感じながらお婆様にいぢられて過ごした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の朝方……エナの寝息が聞こえる時間だった。
ぺちぺちと自分の頬を触る感触。
その感触はすごく優しくて、愛しい者を愛でる様な優しい手つき。
意識が浮上し、何かが自分の横にいる感覚がする。
懐かしい。とても懐かしい。自分の半身のような存在。
それを感じた瞬間、ぱちっと音がするくらいの勢いで目を開いた。
「……ぁ、おはよーリリー」
「……くちぃ……」
「えへへ~……帰ってきたよ~」
「うん……ぅんっ……おあえりっ」
「ただいま……ただいまっ! えへへ~……」
はにかむその笑顔に最高の笑顔で返し、彼女の頬に指を這わせる。
ずいぶんと長い間離れていたような、でもついこの間のような……そんな不思議な感覚と共に彼女の暖かい体温が指に伝わる。
「結構急いだんだけどねーなかなか帰って来れなくてねー……ごめんね」
「ううん……くちぃあかえてきただけえうえしーよ」
「えへへへへ~……私も……私もリリーに会えてすっごい! すっごい! 嬉しいんだからねっ!」
感極まって抱きついてくるクティ。
彼女の暖かい魔力の流れと、半身のような懐かしく愛しい温かさ。
待ち焦がれたそれを堪能していると……ふいに気づいてしまった。
ベビーベッドの中に自分とクティ以外の何かがいることを。
それは……酷くぼやけて不鮮明で、何かジャミングされているかのような不自然な魔力の流れを持った……ナニカだった。
「ほぅ……クティの言っていたことは本当のようだな」
「……くちぃ……あんかいう」
「あ、忘れてた……んーッ……紹介するね!」
額に柔らかい何かの感触を感じた後、名残惜しそうに体を離したクティがあのいつものドヤ顔でぼやけた何かを指差す。
「こいつはねー」
「おまえに紹介されなくても、私は私を自分で紹介できる。黙っていろ」
「……はーい」
ぼやけた何かが一瞬でそのジャミングされた姿を鮮明な姿へと変貌させる。
姿を現したその姿は、クティと同じ小さな体。
小さな虫のような透き通った羽。
でも白衣のような形の服を着ていて、そして特徴的な目は鋭く、こちらを観察するような目だった。
「私は――」
彼女との出会いは人生のターニングポイントといえる、まさに転換期の1つだった。
3章終わりです。
長かったです。おかしいな。どうしてこうなった。
活動報告にもあるように、明日はお休みして明後日外伝の1つ目を投稿します。
停止云々でご心配をおかけしたかと思いますが、展開としては最初に考えいたのをやることにしました。
なので4章の書き溜めが完了し次第外伝の投稿が終わったら、投稿していきます。
外伝の投稿は2日に1回の間隔で行っていきますので、その間に溜めておきたいと思います。
ご意見ご感想お待ちしております。




