47,訓練のちトレーニング
白結晶騎士団。
リリアンヌ・ラ・クリストフの警護を主とする騎士団。
白結晶は自分の白く濁った瞳から取ったのではなく、光と太陽の神――白神ミトロウムから取り、瞳の回復を願って付けられたそうだ。
自慢げに話している白結晶騎士団団長様――ローランド爺さんがそういっていた。
その話を目を輝かせながら聞いていた、テオとエリーの二人からはもちろん大絶賛されていた。
そしてすでに正式に結成されている騎士団には、入団するためにある一定以上の条件があるらしい。
その条件とはリリアンヌを守れること。
入団希望のテオとエリーは未だ9歳と7歳。
テオはまだしも、エリーは訓練を始めるにはまだ早いのではないかと思うのだが、団長様がいうには問題ないようだ。
子供には子供用の訓練メニューでもあるのだろう。
成長期には筋肉をつけすぎては、成長が阻害されるということはこの世界でもちゃんとわかっているらしい。
なので、過度の訓練には決してならないようだ。
あくまで体力と年齢に合わせた訓練メニューになるらしい。
今は彼らはその訓練メニューについて激論を交わしている。
テオは盾と片手剣を使ったスタイルを希望している。
エリーは弓と近接での格闘術というスタイルを希望している。
テオは騎士を目指している。盾と剣という真っ当なスタイルはそのせいだろう。
実にテオらしい。
エリーはというと、今まで弓を使いたいとかむしろ戦いたいなんてことは一度も言ってこなかった。
自分を守りたいとは言っていたが、具体的な方法についてまでは言ったことはない。
それでもきちんと考えていたようだ。
ローランド爺さんが戦うスタイルに希望があるかと聞いた時に、淀みなくハキハキと答えていた。
彼女は彼女で自分の将来をしっかりと、設計しているということだろう。
テオ同様に、妹を守るという未来を。
自分としては……彼らの希望通りの道に進むのがいいとは思うが、今の彼らの希望は白結晶騎士団入団だ。
もっと他にあると思うのだが、この世界は異世界。中世ぐらいの文明レベルと思われる。
選択肢があるだけマシなのではないだろうか。
ましてや希望の職種に就けるなど、かなり幸運だと思ったほうがいいのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕食を朝食、昼食同様に食堂と思しきところでゆっくりと摂り、またベビールームで明日からのトレーニングメニューについて3人は話し始める。
自分はというと、アンネーラお婆様とエナに玩ばれている。
遊んでもらっているのではない。玩ばれているのだ。
間違えてはいけない。
具体的には、アンネーラお婆様がほっぺや体を優しくつんつんする。
くすぐったいので手を捕まえようとする。
お婆様の身体能力は脅威的といって差し支えのないものなので、当然捕まらない。
そして突付かれる。繰り返しである。
……すまない語弊があった、エナは玩んでいなかった。羨ましそうに見ていただけだ。もちろん意地悪なお婆様を羨ましそうに、だ!
従って、アンネーラお婆様に玩ばれていると言っても差し支えあるまい! もういや! 不貞寝する!
アンネーラお婆様の意地悪には不貞寝以外では対抗できないのだ。
ころんと横になって目を瞑ると、あらあら疲れちゃったの? といった具合に意地悪も終了する。
そしてエナに抱き上げられて子守唄を歌ってもらうといった寸法だ。
まぁエナの子守唄は睡眠誘導波付きなので、不貞寝がマジ寝に切り替わってしまうのだがね。
アンネーラお婆様の意地悪対策をなんとか考えなければいけないと思いながら、意識は闇に落ちていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日も昨日同様、朝食を例の食堂でみんなで摂ると、お着替えしてから外に出ることになった。
そう、お外である。お外。
今まで屋敷の中は少しだけだが、動くことができた。だが、屋外というのはなかった。
自分を狙う組織まで出来上がっている状況。それを見越した警備体制。
だが、今はそんな組織を壊滅させる戦力が、この屋敷には存在している。
だから屋外へ出ることも許可されたということだろうか。
お着替えはエナとアンネーラお婆様がしてくれた。
お婆様が選んだ服を着たのだが、もとい着せられたのだが……なんともフリルとレースがいっぱいのロリータな服だった。
パンツインスカートなわけもなく、完全なふわふわスカートで超心許ない。
……やっぱり慣れません、スカート。
ロリータな服はあまり詳しくないのだが、フリルと装飾がいっぱいのまさにロリータファッションって感じの服だった。
ゴテゴテのゴシックファッションの服とは違い、スカートには縦に山折り谷折りを繰り返した所謂プリーツスカートで、3層に分かれレースで層の縁に刺繍を行っている。
上半身部分はスクエアネックになっていて、胸部には装飾用の紐でレースアップされ、トップで蝶々結びにしてある。ショートスリーブの袖は爽やかさをさり気無く演出している。
首に巻かれたチョーカーにちょこんと付いた鈴が、ちりんちりんとなって可愛らしい。
どこからどうみても可愛らしい幼児の出来上がりである。
黄色い声がそれを嫌というほど思い知らせてくれる。
しかし、考えてみてもほしい。ロリータな服を着る精神年齢31歳半の……元男。
この悲しみがわかっていただけるだろうか。いやたぶん無理だろう。
どうしてもわかりたかったら、ちょっと女装してみてくれ。だいぶ近い感じにはなるかもしれない。
とにかくテンションだだ下がりっぱなしのまま、初めての屋外へ出発するのだった。
部屋を出て、階段を下りる揺れを感じ、しばし歩く。
本当に広い屋敷だ。屋外に出るだけなのに、時間がやたらかかる。
警備上の理由で、進入するのに時間のかかる部屋にしているのだろう。
火事とかあったら逃げるのが大変そうだ。
そんなことを考えていると、祖父母を迎えたエントランスホールのような場所に辿り着き、メイドさんが二人で扉を開ける仕草をしている。
暖かい……いや結構暑い風が流れ込んでくる。
今は7の月。この世界でも夏なのだ。
流れ込んでくる風は、仄かに花の香りがしていた。
エリーが世話をしている花壇の香りだろうか……。
アンネーラお婆様に抱かれたまま、脇に控えて深々と頭を下げているメイドさんが開けた扉を潜る。
ずいぶん遠いところに何か薄っすらと魔力が見える。
あれが結界だろうか。
部分的に樹木のような黒い形に切り抜かれている。
そんな不思議な光景を眺めながら、ゆっくりと移動していく。
移動する前にエナが何か開いて持つと、暑いくらいの日の光の温度が和らいだ。日傘のようだ。
至るところに誰かが居て、何かしら仕事をしているようだ。
至るところに居る人達は使用人なのだろう。こちらを向いて全員が頭を下げている。
庭師とか警備の人だろうか。庭の広さは屋敷の大きさに比例して、予想通りに広大なようだ。なんとかドーム何個分とか、そういう表現が出来てしまうのではないだろうか。
無論、塀や壁は見えない。結界の位置がこの屋敷の敷地なのだろうが、遠いのでみえない。
これだけの広さだと、樹木のお世話をしているといっていたテオ一人では、午前中だけではとてもじゃないが終わらないだろう。
きっと一部がテオ専用になっているんだろう。
一体、二人はどこで訓練しているのか、結構歩いている気がするがまだ見えてこない。
屋敷の壁と思われる物が真っ黒な境界線となっていたところを曲がると、やっと二人の姿を確認することができた。
二人の他にも数人の屈強な人達がいる。彼らが訓練教官なのだろうか?
お着替えの服を選ぶのと、着替えるので結構時間がかかってしまったのか、二人は午前中の日課をすでに終わらせているようだ。
地面に座ってローランド爺さんと一緒に柔軟運動をしている。ちなみに3人共帽子を被っているようだ。日の光の温度からして熱射病になりやすそうなほどだったから、当然といえば当然だろう。
近づいていくと、屈強そうな人達は屈強な人達にランクアップし、全員敬礼をしている。
こちらは使用人というよりは傭兵といった感じだろうか。男性ばかりかと思ったら、女性も混じっている。
ちなみに視力を強化しても遠くは見れない。細部がよく見えるようになったりするだけで、遠視のような効果はないのだ。
柔軟運動中だった3人も気づいたようで、手を振ってくれている。
エナもアンネーラお婆様も手を振って、自分はアンネーラお婆様が手を持って振ってくれた。
3人の様子がよく見える位置にどうやら椅子が置いてあったようで、そこに2人が腰掛ける。自分はアンネーラお婆様の膝の上だ。最近ほとんどアンネーラお婆様に抱かれている気がする。
エナが日傘を畳んでいるのに、日の光の温度はほとんど感じない。パラソルか何かが差してあるのだろう。
のほほんとした表情で柔軟運動をしている3人を、楽しそうに見ているアンネーラお婆様。
しばらくは柔軟運動の時間のようだった。
準備運動は大切だ。トレーニングに入る前に柔軟運動をしっかりやらないと、怪我の元になりやすい。
一般的に言われていることだけど、実際はしっかりではなく過剰なくらいやった方がいい。
10分そこらの柔軟運動ではなく、じっくり1時間くらい掛けるくらいがいいのだ。
体が柔らかくなると、無理な体勢でも怪我をしずらくなる。柔軟性というのは体を動かすことにおいて、非常に重要なファクターだ。
ローランド爺さんは実力者なので、よくわかっているようだ。柔軟運動をかなりの長い時間行っている。
テオやエリーくらいの年齢だったら、こんなに長く柔軟運動なんてさせられたら、不平不満が爆発しててもおかしくないのに真剣な表情でこなしている。
彼らにしてみればこれも訓練の一つなのだろう。
まぁ、見てる方には退屈でしかないけどなー。
景色が見えないので、屋外といっても周りの状況を確認する程度のことしか出来ない。
屋外で見えるのは遠くに薄っすらと見える結界。使用人や傭兵っぽい人達。各種建物っぽい真っ黒な影。
魔力がある物は屋外にもほとんどない。
これでは景色を楽しんだりすることもできない。
初めての屋外は結構がっかりだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらくして柔軟運動を終えた3人はローランド爺さんの指揮の下、腕立てや腹筋を行いだした。
さすがに9歳と7歳の訓練だ。両手両足で数えられる程度しか出来ていない。
それでも彼らの息は荒くなっている。
エントランスホールの扉を潜った時に感じた日の光の温度と、流れる風の暑さも疲労に拍車をかけているのだろう。
きっと彼らは汗だくだ。
不思議なことに自分の着ている服は、どう考えても夏のような今の温度で着るべき服ではないと思うのだが、これが意外と快適だ。
生地が結構薄く作ってあるようで、風通しもいい。なので彼らのように汗だくになったりはしていない。
だが、全然かいていないというわけではない。額に少しだけかく程度で、それもすぐにアンネーラお婆様がハンカチっぽい柔らかく滑らかな肌触りの物で拭いてくれる。
そんな中、ランニングが始まったようだ。ローランド爺さんが前を走り、その後ろを2人が着いて行く。
てっきり屋敷の周りでも回ってくるのかと思ったが、見える位置を軽く走ってきただけだった。
……と、思ったら今度はダッシュしたり、また軽く走ってきたりと色々やり始めた。
やはり、体力づくりを念頭においているようだ。
合間合間でしっかりと水分補給もしているようで、たまに何か飲むような動作をしている。
こちらもエナがいつもの果実水の入ったコップを、同じようなタイミングで渡してくれる。もうコップで飲み物を飲むのも楽勝だ。
何度か果実水を飲んだからだろうか、突然の尿意。
普段ならこのまま我慢できずにオムツ代わりの布に発射してしまうが、今日はなんだか我慢できた。
尿意の我慢なんて生前なら当たり前のことだったが、如何せん今は1歳半の幼児。
トイレトレーニングもまだの時期だ。
まずは我慢が出来なければどうしようもないと思って諦めていたが、今日は我慢できた。
唐突に出来たのでちょっと驚いたが、すぐにエナに教えようと思ったら……放出していた。
あー……。
大惨事というわけではないが、布が濡れて嫌な感触になっていくのがわかる。
もうちょっと我慢できるようにならないと、トイレトレーニングのしようがない。
だが、少しでも我慢できるようになったのは大きな一歩だ。
はいはいや歩行訓練なんかも、小さな一歩の積み重ねだった。
もちろんヒアリングも文字の習得もそうだ。これは普段やっている訓練と何も変わらない。
少々股の間が濡れたり、汚物的なアレが臭い程度だ!
とりあえず意気込みはあとにして、アンネーラお婆様におしっこが出たことを知らせる。
お婆様の服を引っ張ってから、自分の股をぱんぱんと叩く。
エナにはこの方法でほぼ100%通じる。お婆様にも通じるだろう。
「あらあら、リリーちゃんおしっこかしら?」
「あ、ではオムツを替えてきますね」
「よろしくね~」
きちんと伝わったようで、エナに連れられて屋敷に戻るとエントランスホールから近い部屋で、オムツを交換してもらってまた戻ってきた。
戻ってくるとお婆様が、テオとエリーの2人に格闘術の基礎っぽいのを教えていた。
構えから拳を突き出す。崩れているフォームを正しいフォームに直し、再度構え打つ。
これらの繰り返しだった。
最初なのだから、まぁこんなもんだろう。
最後にまた軽く走ってから柔軟運動をして、今日の2人の訓練は終了となった。
生き生きとした2人の表情からは、疲労はほとんど感じられなかった。
服の描写がだんだんきつくなってきました。
着せたい服を思い浮かべて細部を詰める。
描写をぱぱっと書いて直して書いて直して書いてなお……。
服の描写が入るだけで、時間が倍以上かかります。難しいものです。
ご意見ご感想お待ちしております。
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