45,爺さんの妄想のち白結晶騎士団
今日はいつものベビールームに全員――祖父母、兄姉、エナが集まっている。
起きたときには全員居て、朝の挨拶を全員からされて昨日と同じだと思う食堂で朝食を摂った。
その後はテオとエリーの二人は日課の樹木と花壇のお世話へ向かい、アンネーラお婆様とローランド爺さんはその二人についていった。
昨日とは違った、静かでゆっくりとした時の流れを感じることが出来た。
……のは午前中の一時だけ。
日課を終えた二人とそれについていった二人が戻ってきてからは、昨日と同じ光景が展開されていた。
普段これだけ騒げばエナが諌めるのだが、今日は祖父母の二人も……もといローランド爺さんが混ざっているので諌めるに諌められないようだ。
爺さんの諌め役のお婆様はというと、その様子をのほほんとした微笑みで楽しんでいる。
爺さんが騒ぐのはいつものことのようだ。昨日も盛大に騒いだしな。
まぁ騒いだっていうか、強烈なコントを微笑みの聖母様と一緒に繰り広げてた、と言った方が適切だ。
要するにこの二人……騒がしいのが日常でこの程度では諌める必要もないようだ。
騒ぎの爆心地で一人状況に流されるまま翻弄されている自分。
この3人には、何を言っても無駄なのは今までの状況を鑑みても身に染みている。というか何か言おうものなら賞賛と賛美の嵐でさらに騒がしくなる。
幼児の普段しない行動というのは、それだけで彼らの爆発的な燃料となってしまうようだ。
なので、おとなしくされるがままだ。
されるがままでも彼らの騒ぎは一向に収まらない。
結局のところ自分という、最高の燃料が居る限り彼らは止まらない、止まれない、止まろうとしない。
最早自身で制御することすら難しいのではないだろうか。いや、彼らはそれを嬉々として享受している。
享受というのもおかしいかもしれない。むしろ積極的に我先にと得ようとしている。
彼らにとって――テオとエリーはいつものことだが――ローランド爺さんもご多分に漏れず、すでに自分の虜のようだ。
可愛いというのは罪なことだぜ……。
元男だけどな!
心の絶叫を聞く者は誰もいない。
騒ぎはエナの我慢が限界に来るまで、収まることは決してなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼食を例の食堂でゆっくりと済ませ、またベビールームに集まる一同。
それはローランド爺さんの不意の一言から始まった。
「テオ、エリーよ。よく聞くのだ!
俺はリリアンヌ騎士団を結成することにした!」
「おおぉぉぉ!!」
「それは名案です、お爺様!」
高々と言い放った爺さんを、後光が指しているかのように眩しく見つめるテオ。
エリーはこれ以上はないというほどの名案を叩き出したと言わんばかりに、キラキラの瞳を向けている。
この3人は何を言ってるんだ……?
それが嘘偽りの無い本心だ。
だっていきなり騎士団結成だ。意味がわからない。
騎士団がいるのは知っているのが、そんなもの城とか王とかに仕えるための騎士団だろ?
個人が持つようなものじゃ……そういえば、騎士団という名の私兵を生前の世界の貴族は持っていたっけ。
要は自分専用の警護部隊。
ソレを組織しようということなのだろう。
ぞろぞろと騎士っぽい、ごてごての鎧を着けた人達に囲まれながら街を歩く自分。
キラキラの白銀スマイルときざったらしい喋りのイケメン連中から、傅かれる自分。
はっきり言ってしまえば、気色悪い。
女の子にとっては憧れの光景に違いないだろうが、そこは如何せん元男。
囲まれるなら、エリーやエナやクレアやアンネーラお婆様のような、可愛く綺麗な人達がいい。
ハーレム万歳。逆ハーなんていりません。
テオは仕方ないから、ハーレムに入ってもいいよ! あ、でも女装とか勘弁ね!
あれ? テオがハーレムに入るとテオのハーレムにならないか?
妄想でもいやなところで現実的で悲しい。
そんなことを適当に妄想していると、盛り上がっている3人は衣装はこんな感じで、鞘拵えは統一して――と、どんどん妄想を現実にしそうな勢いだ。
ローランド爺さんは、このただっ広い屋敷の持ち主であるアレクとクレアの親だ。お金持ちなのは間違いないのだろう。
テオとエリーに聞かされた英雄譚での活躍ぶりは、実力的には本物とわかっている。
それだけの実力があれば、一山当てるなんて当然やっているだろう。
事実、このオーベント王国中を自分の瞳の情報を集めるだけのために、駆けずり回ってくれている。
資金がなくてはやれないことだろう。
情報を集めながら資金も集めながらだと、市中に根付いた情報なら集まりやすいだろうが、探している情報は濁った瞳の治療法。返って情報を集めづらくなるだろうし、王国中を1年で回ったと言っていた。
王国の広さがどの程度かはわからないが、王国というだけある広さなのだろう。
それを1年という短い時間で回る。その間に資金も集めるとなると、情報収集している暇などないのではないかという結論に達したのだ。
リリアンヌ騎士団の話は、団員選考にまで及んでいる。
知らない人の名前が多数挙がっているが、どうやらテオとエリーは知っているようだ。
アイランは駄目とか、ネクシャは子供が嫌いだから論外とか、爺さんが挙げる名前の人物をしっかり選定している。
というか……ただの妄想じゃなかったの? なんかまじで騎士団作り上げそうな勢いなんだけど。
騎士団員を実際にいるっぽい人物の名前まで挙げて、選定しているのだ。
このままでは本当にリリアンヌ騎士団を作り上げてしまう。
しかしそこで考えてみた。確かに逆ハー状態になってしまうかもしれないが、エリーも入るといっている。
つまり騎士団は男所帯ではないということだ。
よく聞けば、挙げられている人物の名前も女性名っぽいのがいくつか挙がっている。
というか男性名の方が少ないのではないだろうか? エリーが主に却下しているのも男性名か、荒っぽかったり子供を好きじゃないという理由の女性ばかりだ。
エリーにしてみれば、リリアンヌ騎士団の団員は心から自分を敬い崇め、命を賭して守ることを誓える人物ということが最低条件のようだ。
まぁ自分のための騎士団。それも目が見えない幼児を守護するための騎士団だ。それは当然かもしれない。
団員選考も粗方終わり、ローランド爺さんが何か怪しい笑みを作ったところで自分を抱き上げて立ち上がった。
そして、片手でしっかりと抱きとめた自分と、懐の中に入れたもう片方の手で取り出した何かを誇らしげに並べて、それを見上げている二人に見せつける。
「見よ! これぞリリアンヌの騎士団―― 白結晶騎士団 団長叙勲の証!」
「「おおおおおおぉぉっ!!」」
どうやら懐から取り出した何かは団長叙勲の証になるもののようだ。
……え?
つまりなにか? リリアンヌ騎士団……白結晶騎士団って名前ももう決まってて、しかも団長叙勲しちゃってるの? ただの妄想じゃなかったの? え? まじで?
目をぱちくりさせてドヤ顔している爺さんを見てみるが、どうやら本当のようだ。
手に持っている何か――当然見えない――を誇らしげに羨望の眼差しで見ている兄姉の二人に見せている。
ふざけているわけでも、ただのお遊びにしては凝っている気がする。
決定的だったのは、エナが目を大きく見開いて、ぽかーんと口を開けている顔だった。
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