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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第3章 2年目 中編 1歳
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44,診察のち食事と微笑み




 幼児が上げた奇声のしばらく後も、ソファーの5人は談笑を続けていた。

 無論奇声を上げた幼児――自分こと、リリアンヌ・ラ・クリストフはそんな談笑に混ざれるわけもなく、ちょこちょことアンネーラお婆様に弄られながら話を聞いている。


 主な話し手はテオとエリーで、話すことは尽きないとばかりに矢継ぎ早に話している。内容もほとんどが自分リリアンヌのことだ。

 この二人にとっては話しても話しても、底を突くなんてないんじゃないかと思えるほどだ。

 兄馬鹿、姉馬鹿であることがまさに誇りであるかのような、堂々とした話し振りだった。


 二人の妹自慢を聞き流していると、ノックの音が聞こえたかと思うとドアが開いて誰かが入って来た。

 アンネーラお婆様にホールドされているため、確認することが出来なかったが誰が来たかはすぐにわかった。



「失礼します。ランドルフ様がお見えになられました」


「わかったわ。すぐに用意をするからお待ちになってもらっておいて」



 近づいて来て一礼した執事が告げたのは、ランドルフのご老人の来訪だった。

 ご老人に診察の依頼を出してからまだ2,3ハルス(時間)。その日のうちに診察しに来てくれれば十分だと思っていたが、ずいぶん早いことだ。

 やはりクリストフ家優先のお医者さんなのだろうか。ずいぶん自分のことを気に掛けてくれるし、老体に鞭打って息を切らせてまで駆けつけてくれるような人だ。



「では、ローランド様、アンネーラ様。リリーを着替えさせてきますので、一旦失礼しますね」


わたくしも手伝いますわ。さぁリリーちゃん、行きましょうか」


「お婆様、私もお手伝いします!」


「じゃぁボクも」


「ならば俺もてつだ」



 全員が手伝うような流れになりかけたが、最後のローランドの言葉は最後まで言い終えることはなかった。


 床に突っ伏した彼に南無、と一声心の中でかけて一応供養してあげた。



 部屋に戻ってきたときに居たのは、当然女性陣だけだった。

 テオは着いてこようとしたところで、エリーに睨まれてすごすごと床とキスしている物体の下に戻っていったのだった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 部屋で最近のルームウェアになっている――レースとフリルがたっぷりで、各所にリボンのついたふわふわのフェミニン系のキャミソールと、これまた裾にフリルと腰の左右にリボンのついたショートパンツ内蔵のパンツインスカート。

 パンツ内臓タイプだと心許ない感じがしなくて大変よろしい。フリルやレースやリボンはすでに諦めている。

 大体どんな服にでもついているのだ。最早どうしようもない。

 ちなみにオムツ代わりの布で少し嵩張っているが、それも計算されて作られているようでパツパツにはなっていない。


 着替え終わって、姉とお婆さんから黄色い叫びが上がっているが、敢えて無視させて頂こう。


 確かに今の自分の性別は女性だ。着る服も自分では選べないし、着せられる服を拒んだりもしない。いや、心の中では最初の方は触ってわかった瞬間悲鳴をあげていたよ?

 体は女でも心はまだ男なのだ。女性としての人生を歩むことに不安はあるし、現実感はないしでぶっちゃけ納得もできていないしな。


 だが、そんな自分の心境は彼女達には一切関係ない。黄色い叫びはテオがまーだー? と催促するまで続いたのだった。



 始まった診察は3回同じことを繰り返し、結果として以前同様全盲という結論で終わった。

 3回同じことを繰り返したのは、当然ローランド爺さんの要請だ。

 彼としては現状で見えているという可能性を、なんとしても得たかったようだ。


 ご老人が診察に用いた器具が魔力を持っていたり、体を使ったものだったらそういう結論もあったかもしれないが、残念なことに目の検査をする際に用いた器具は魔力しか見えない瞳には映らなかった。

 ご老人が目の検査をする際には、何か手にもって振っていたようだ。持っている手がほとんど揺れていないことから振り子のようなものなのだろうか? それを目が追う様子を見ることで見えているのか確認しているようだ。

 見えているなら距離を置いたりして視力の度合いを測ったりするのだろうか。いつも顔から30cmくらい離れたところでしか、やっていないのでよくわからない。

 赤ん坊では当然見えていたとしても、複雑な答えを返すことが難しい。

 だから比較的簡単な " 動いている物を目で追ってしまう " という本能的なモノを利用して検査しているのだろう。

 その他にも目の検査をする際には様々な器具を使うようなのだが、その全てが魔力を持たず一切みえない。

 なので何をしているのかは具体的にはわからなかった。



 結論を聞いたローランドは真剣な表情を崩すことなく、一言そうか、と言っただけだった。

 懸念していたようにいつでも、そして都合がいいタイミングで見えているとは思っていなかったのだろう。

 テオやエリーは悲しそうに肩を落としていたが、真面目な表情の爺さんはそのあとご老人を外に連れ出して行った。ドアも閉められ、当然声は聞こえない。

 テオとエリーは目が見えなくてもリリーはリリーだよ! だから大丈夫だよ! と、まるで自分達に言い聞かせているように言っていた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 診察を受けてから少しして夕食となったが、今日は祖父母達と一緒に食べるということになり、いつもの部屋ではなく階段を下って多少歩いた場所で食べることになった。

 祖父母二人増えたくらいなら別に部屋でも食べられると思うが、そこはやはりお金持ちの意識なのか料理を運ぶ手間などを考えたからなのか、とにかくいい匂いが部屋を満たしている。


 席についたらすぐにとてもいい匂いがする料理を、メイドさん達が運んで来てすぐに食事が始まった。

 いつも通り、エナに誘導してもらいながらゆっくりと食べていく。

 その様子をアンネーラお婆様はのほほんとしたいつもの微笑みで、ローランド爺さんは探るように見ている。

 診察の時同様、目が見えるかもしれない可能性を捨てていないようだ。見えるようになるタイミングがあると思っているようで、そのタイミングが何時来てもいいように探っている。そんな感じだ。

 最早疑っているといった感じではなくなっている。その証拠にアンネーラお婆様も特に気にしていない。


 食事は基本的にエナ以外、誰も喋らず粛々と進んでいった。

 一度にたくさんの料理を持ってくるというわけではなく、コース料理のように食べ終わってから、次を運んできているようだ。

 自分の分の料理はそういうわけではなく、ある程度まとめて運んできてもらっているようだ。

 少しずつ色んな種類の料理を誘導してもらいながら食べる。

 最近は人参のバター炒めがお気に入りだ。細長く切ったよくあるタイプのではなく、星型に包丁細工でもされているのか形が整えてある。

 それにフォークを誘導してもらい刺して一口で食べる。当然大きさは幼児の口にも入る大きさだ。形も食感でなんとなく星型と思っている。

 全体的に塩気が多いか、味が薄いかのどちらかの味付けの中で、甘みが強いこの人参のバター炒めは大変美味しい。

 生前は人参は好きだったが、バター炒めになるとあまり好きではなかった。

 味覚も幼児のソレになっているのだろう。甘いのが美味しく感じる。逆に苦いと美味しくない。

 人参単体だとあまり好きではないのだ。このままではピーマンなんか食べられないのではないだろうか。

 生前はピーマン大好きだっただけに、ちょっと不安だ。

 ちなみに今までピーマンは出てきたことがない。もしかしたら味付けが違うだけで出ていたのかもしれないが、単体でピーマン然とした味の物は今までなかった。異世界だけに存在しないという可能性もあるが、大きくなったら是非食べたいので諦めたくない。


 生前では玉ねぎはあまり食べられなかったが、今はそうでもない。オニオンスープ系の味のスープと具がよく出るので多分玉ねぎなんだろう。

 これも甘くて美味しい。甘いとなんでも美味しく感じてしまうのかもしれない。

 子供の味覚というのは単純だ。


 だからだろうか。全体的に甘味が多い構成になっているが、それ以外は大体塩が強いか薄味で味気なくて好きじゃない。


 出された物は好き嫌いなく食べているが、果物や甘い味付けじゃないと美味しくないのだ。


 小さくちぎってもらったパンを、持たせてもらって食べる。

 異世界だと堅い黒パンとかが普通って感じに、異世界物の小説なんかによく描写されていたが、ここはお金持ちの屋敷なのだ。当然柔らかいパンだ。しかも甘い。なので味覚にばっちりあって超美味しい。

 これに人参のバター炒めの残りのソースでもつけて食べたいなぁと思うが、人参の皿がどこにあるのかわからないから出来ない。

 エナもそういう配慮はしてくれない。わかってはいるけど、こういうときはもどかしいものだ。


 おかず、パン、スープか果実水といった順序でゆっくりと味わっていく。

 まだ幼児なのであまり食べられないが、かかる時間は他の4人が食べ終わるより遥かに遅い。

 今日はエナがずっと付き添ってくれたわけではなく、食べ終わったアンネーラお婆様がエナと交代している。

 エナの様子をみてこちらの好みを把握してくれていたのか、それともただの偶然だったのか、順番的にも美味しくいただけている。

 その間にエナも食事を終えていたようだ。急いで食べたわけではないのだろうが、それでもこちらが食べ終わるよりは早い。

 それだけ時間がかかるのだ。人に誘導してもらいながら食べるというのは、とにかく時間がかかる。


 冷めても味がほとんど変わらない不思議な味付けではあったが、だからこそこんな塩気が強いか、味が薄いのだろうか?

 さすがに冷めたから新しい暖かいものに交換ということはない。紅茶とは違うということだろう。


 ゆっくりと少し冷めてしまった人参のバター炒めを食べて、お腹がいっぱいになった。やっぱり冷めるとこの手のタイプは塩気が強くなってしまって最初ほど美味しくはなかった。

 でも満足の行く夕食だった。


 別に普段が満足いかない食事だというつもりはないが、今日はエナも一緒に食べている。

 それに祖父母も一緒だ。やはりみんなで食べる食事というものは美味しく感じるものなようだ。


 暖かい食事風景というのは、最良のスパイスなのだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 今日は祖父母のお出迎えに、衝撃的な二人の行動。もふもふ様の凶悪無比な感触。アンネーラお婆様に構われまくって弄られまくった疲労から、いつもよりも早く眠くなってきてしまった。


 ベビーバスを用意してくると言ったエナの言葉辺りから、もう記憶がところどころ無く途切れ途切れだ。

 エナではなく、アンネーラお婆様にベビーバスで綺麗にしてもらっている間も、うとうとと船を漕いでいたようだ。

 それでもお風呂だけはしっかり入ったようだ。

 お風呂は大事だ。体を清潔に保つだけではなく、心の洗濯も出来るのだ。とても大事だ。

 大事なことなんで二回言っておいた。



 もう眠い。



 今日は大変な一日だった。

 今日ほど大変な一日というのも、この世界に生れ落ちて初めてだったかもしれない。



 今日最後の記憶は、一日中絶やすことのなかったと思う微笑みを湛えた聖母様だった。



ながーい一日でした。



活動報告にも書きましたが、3章終わって外伝載せたら少し投稿はお休みします。

再開はいつになるかわかりません。



ご意見ご感想お待ちしております。


2017/3/13 誤字修正

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