表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第3章 2年目 中編 1歳
37/250

35,メイドさんのちライフゼロ





 現在の状況を簡潔に述べるならば……着せ替え人形だろう。


 目の前に設えてあるだろう、たくさんの服達。


 だろうというのは当然見えないからだ。

 ではなぜそんなことがわかるか……それはそうだな、あれはつい3ハルス(時間)ほど前のことだったな。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 エナから伝えられた祖父母来訪の話に、テオとエリーは浮き足立っていた。


 大好きな祖父母なのだろう。

 彼らの口から語られる祖父母の話は、どこぞの冒険小説に近いものだった。



 曰く、祖母単独でドラゴンを絞め殺した。

 曰く、祖父母の二人だけで魔物が跳梁跋扈する奥深い迷宮を踏破した。

 曰く、祖母が親指一つで盗賊をぶちのめした。



 明らかに盛られている話だった。

 誰がどう聞いてもちょっと盛りすぎだろうと思う内容だ。

 それこそまさに英雄譚だ。


 最後の親指の話なんてどこの世紀末の7つの傷がある人ですかと。



 こんな明らかに盛られている話を鵜呑みにしている兄姉の様子からみても、祖父母を信頼しているのがよくわかる。

 信頼し憧れていなければ、こんな話すぐに嘘だと気づきそうなものだからな。



 二人から語られる話を聞く限りにおいて、祖父母のイメージは強く格好よい。

 だがその内容の胡散臭さがどんどん自分の中で祖父母のイメージを確定させていっている。


 自分が思う祖父母のイメージ。


 それは……可愛い孫達に自分達の栄光を誇張して語ってしまう典型的な爺様婆様。



 この手のタイプは扱いやすいが、機嫌を損ねると治すのがめんどくさいタイプだ。


 まぁ、自分は赤ん坊だし早々そういうことはないだろうが、自慢話に付き合わねばならないのだろうと思うとめんどくさい。

 その時は自慢のスルースキルを駆使して魔力訓練でもしていよう。


 そう心に決めた辺りで。



「はいはい、二人ともそこまでよ。

 ローランド様とアンネーラ様の出迎えに着る服を今からでも選んでおきなさい」


「「はーい」」



 エナが微笑みと共に自分を抱き上げ、二人共仕方ないお兄ちゃんお姉ちゃんねと聞こえてきそうな声音で告げていた。



 出迎えに着る服……つまりは正装してお出迎えするということだろうか。



 屋敷の推定される広さとお金持ち具合。

 そしてここが異世界であり、部分的にだが判明している技術レベルと、家族の会話などを加味して算出される文明の発展度合い。

 それらを総合的に判断すると、貴族的な者がいる中世欧州に近い時代ではないだろうか。



 まぁ、異世界物の定番という期待も多分に含めているのは言うまでもない。



 だが、そのほかにもそう結論付ける理由がある。

 家族の話で何度か " 騎士 " 及び " 騎士団 " という単語が出ている。

 生前の世界の自分が生きていた時代で、騎士や騎士団なんてモノはゲームか漫画か小説か……所謂空想上の存在でしかなかった。

 せいぜい実在してもコスプレかイメージプレイといったところだ。


 そんなものが実在したのは、中世時代……つまり大分文明レベルの低かった昔の話だ。

 その頃の技術レベルとこの世界の技術レベルは一部が一致し、一部がまったく外れている。



 外れている部分は " 魔術 " という、生前には存在しなかった魔法のような技術の賜物ではないだろうか。



 まだ魔術について詳しくは知らないが、クティに教えてもらった範囲では、扱える者が少ない高等技術ではあっても総人口の2割程度は扱えるらしいし、そんな特殊な技術があれば文明の発展に寄与しないわけがない。


 生前では魔術なんてなかったから、科学技術が発展したが科学技術が発展したのは簡潔に言ってしまえば " 手間を省く " ためである。


 もし、魔術により手間が省けるのならば……科学技術の発展は生前のような高度な物になるのは難しくなるだろう。


 これらの理由により、この世界……現在の文明レベルは生前でいうところの中世欧州レベルと思われる。


 そしてその頃の社会には、貴族という階級が存在した。

 華美で優雅な社交界に生き、権力と富により下々の者を支配した者達。


 彼らは礼節を重んじ尊び、自らの地位を高めることに固執する。

 例え肉親であったとしてもそれらは適用され、またあるときは政略の駒となる。


 生前の世界の貴族とこの世界の貴族が同じモノである可能性は……ある程度高いだろう。

 だが、それが全てではない。


 現にクリストフ家は貴族だと思うが、家族全員優しく使用人達にも好かれている印象がある。

 アレクの誕生日会などがいい例である。


 だが、ソレはそれ。

 貴族は礼節を重んじる。

 故に家族であっても、長上の者の来訪――祖父母を出迎える時には正装をするのが常識なのだろう。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 話は冒頭に戻るというわけだ。


 テオとエリーだけが正装すればいいわけじゃない。

 例え1歳半の幼児であっても、正装というものは存在する。

 誕生日の時にきたドレスなんかも正装だ。


 だが、考えても見て欲しい。

 この家はお金持ちだ。

 そんなお金持ちの家が、誕生日のときに着たドレスを着まわしたりするだろうか?


 当然答えは否。



 念願の3度目の部屋からの外出は階段を下りてすぐの部屋までだった。

 エナのほかにも一緒にエリーが来ていた。


 自分の服のことより、こちらの服選びの方が重要らしい。

 女の子の前に姉であり、姉である前に " リリアンヌ・ラ・クリストフを最高に着飾る為なら手段を選ばない者 " なのだそうだ。


 クティばりのドヤ顔でそう宣言されては、最早何も言えないのは言うまでもない。



 部屋の中にはエナとエリーの他に、使用人が3人ほどいた。

 アレクの誕生日会で見た以来だと、2度目の不思議空間から帰還した時以来だろうか。


 一人はその時に見た素敵装備(ウサギ耳)のお方だった。

 是非ともあの装備を触らせて……いや……もふらせてほしい!



 誤解されがちだが、触るのと " もふる " のとでは大きく違う。

 触るとは触れることだ。

 もふるとは、愛で撫で揉み、時には食感すら楽しむ高等嗜好技術だ。


 だが勘違いめさらぬな。

 食感を楽しむのは主にその質感を堪能するためであり、食べるためではない!


 口は最高の感覚器なのだ!



 間違えてはいけない!



 閑話休題。





 結論から言おう。

 もふるどころか触れることすら難しく、はっきりいって不可能だった。


 彼女達の役目は基本的にお着替えの手伝い……ではなく、着替える服を持ちエナとエリーが厳選するためのハンガー役。


 自分の半径1mにすら近寄ってくれない。


 素敵装備(ウサギ耳)は一人だけだったが、それでも3人とも当然皆女性だった。

 まぁ……一応着替える自分は女の子なわけだし、男の使用人がいたら。


  " おまわりさんこの人です! "


 は確定だろう。



 そして3人の使用人――メイドさん達の髪は全員同じようにコンパクトにまとめられている。

 3人それぞれ容姿は違うが、一列に並んでいるとなんとかシリーズと言われそうなほどの統一感がある。

 長さもそれぞれ別っぽいが、全員指定の髪のあつらえ方でもあるのか一緒だ。

 容姿の方はさすがお金持ちの屋敷のメイドさんといったところか、美人揃いだ。

 3人中2人が20代前半くらいだろうか。

 20代前半ではないのは素敵装備(ウサギ耳)のあのお方だ。

 見た感じでは10代後半に入ったばかりくらいだろうか。


 だが、まさに仕事中といった真面目な雰囲気と表情だ。


 その佇まいには気品すら感じる。


 プロのメイドさんなのだな。

 生前の世界にあったメイド喫茶のようなアルバイトのメイドさんとはまったく違う、まさに職人と言えるメイドさん達だ。


 メイドさんに職人というのは意外かもしれないが、メイドという職業は家事が出来ればいいというものではない。


 掃除、洗濯、給仕やベッドメイク、家具、窓、鍵の管理に客の送り迎え、部屋への案内、レセプションルームの責任者等仕事の数を挙げればきりがない。

 これらは全て生前の世界でも、専門職がいるほどのプロの仕事として成り立つものだった。


 メイドさんの仕事というのは家事だけではなく、屋敷のあらゆる場所の管理も含まれているのだ。

 それらをプロとしてやれるということは、相当な技量が必要となる。


 全ての仕事を各それぞれに分担して行うのだろうが、単純に一つのことを追求した職業――メイドという仕事は実際はそういった職業ということだ。

 ましてやここは大規模な屋敷であり、お金持ちな家だ。

 そこで雇われるということは信頼に足る経歴や技量が必要とされる、つまり厳選されるということだ。

 まさに職人と呼ぶに相応しい腕を持っているということに他ならない。


 異世界なので、もしかしたら戦闘までこなすメイドさんなのかもしれない。

 3人とも立ち居振る舞いからして隙がない。


 隙がないので突撃して、もふるような真似もできない。

 それ以前にがっちりとエリーにホールドされている。



 なぜ離してくれないのだ、お姉様!



 たとえ無駄だとわかっていても!

 男にはやらねば!

 やらねばー!




 あ……自分、女だっけ。



 まぁホールドされてなくてもとっかえひっかえ着せ替えさせられているので、もうボクのHPはゼロに近いんですがね?



 もう何着着たのだろうか……。



 エナとエリーはまだまだ元気いっぱいのようだ。

 コレでもないアレでもない、でもコレも似合いそうだし、ソレも似合いそうだし、あぁんだめよ全部似合っちゃうリリーが怖いわ!全部着せるしかないわ!



 ……正直ついていけない。



 女性って怖いわぁ……。

 将来自分もあぁなるのかと思うと震えが止まらないわ!



 そんなわけで一体何着着せ替えさせられたのかわからないが、大分長い時間やらされていたのは間違いない。



 だってもうお腹がきゅーってなってるし。



 その音にようやく気づいたのかエナの動きが止まり、少し上を向いて壁の方に視線を動かす。



「あぁ!もうこんな時間じゃないの!

 リリーごめんなさいね……お腹空いたでしょ?」



 視線を向けたところに時計があったようだ。

 自分もそっちを向いてみると、薄ぼんやりと何かが一部だけ見えた。


 視力を強化してみると、はっきりみえた。

 それは太った三日月型をした中にいくつかの細いモノが何個もあるものだった。


 とても時計には見えなかったが、あれは機構の部分なのではないだろうか。

 つまり、時計の針などは魔力を持たない物質で作られていて、本体部分の機構は魔力を持つ物質で作られている。


 生前の世界で時計のデザインは、内部の機構が部分的に見えるようなやつが結構あった。

 アレと同じような感じのデザインなのではないだろうか。


 まぁ結局のところこの時計では、魔力しか見えない自分の瞳では時間を確認することは不可能のようだ。



「じゃぁ今日はこの辺にしてまた明日続きをしましょうか。

 まだローランド様達が到着するには時間もあるし、ゆっくり選びましょう」



 にっこりと素敵な笑顔で微笑みながら、何かとても残酷なことを言われた気がするのは気のせいだろうか。




 もう一度言っておこうか?





 ボクのライフはもうゼロよ!






もふるの説明は作者の嗜好とは何の関係もありません。


作中に登場するもふもふはフィクションであり、実在のもっふぃーやもふリストとは一切関係がありません。



ご意見ご感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ