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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第3章 2年目 中編 1歳
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33,エナのち今の自分に出来ること







 エナの赤ちゃんは生まれてくることが出来なかった。

 その事実は心の中に小さな波紋を作り、次第に大きくなっていった。



 自分はエナの赤ちゃんの分も愛情を受けて育っているのだ。

 エナの母乳で育ち、エナが常に傍にいてくれる。


 文字通りエナに育てられている。



 エナの事情を知らなかった今までと、知ってしまった今ではずいぶん違う。

 エナの自分を見る目は慈愛と優しさに満ちているが、生まれてこれなかった子供の分も上乗せされているのがよくわかるようになっていた。

 それを重いと思うことはなかったが、自分は一体エナに何を返すことができるだろうかと思うようにはなっていた。



 子供がすくすく育ってくれることが親の願いとはよく言うが、自分はすくすくというにはちょっと違う育ち方をしている。



 例えば、濁った瞳のために全盲の瞳。

 例えば、通常の赤ん坊とは遥かに違う知識量。



 とても健全とはいえない子供だ。



 自分に降りかかるであろうリスクのために、隠している知識や言動。

 見せればすぐにでも喜ばすことができるだろうが、それによって自分は他の子供とは明らかに違うだろうとすぐにわかってしまう。


 そんな天秤は常に自衛の方向に傾いている。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 昏睡から数日が経過し、エナのやつれ具合も元に戻り今は元気な姿を見せている。



 自分もあれから不思議空間には行けていないので、昏睡状態にもなっていないのがエナの元気な姿の一因だろう。

 正直なところ、不思議空間へ行く条件と帰還の条件だけでも判明させておきたいところだが、現状ではそれもままならないようだ。


 偶然に任せるしかないのが歯がゆい。



 ベビーベッドの上でぼーっとエナが朝の掃除をしているのを眺める。

 しばらくすればエナも自分が起きていることに気づくだろう。


 それまでは彼女の体調の程を確認するためにも、眺めさせてもらっている。

 これは昏睡の翌日からずっと続けていることだ。



 体調の確認は目に " 圧縮した魔力 " を相当な量集めることにより確認できることが判明している。

 色の " 濃淡 " や " 形状 " により、体調の良し悪しがわかるのだ。


 その濃淡も単純に薄い濃いだけではなく、正常時の違いなどを基準にしている。

 昏睡した日のエナはストレスが胃にきていたらしくやつれた原因だったようで、胃の部分に黒い斑なアメーバ状のモノがかなりの量、広がっていた。

 圧縮魔力による視力の強化により服の上からでも、 " 魔力の精緻な流動 " が把握できるようになったためにわかったことだ。


 魔力の流動はどうやら " 人体に悪影響を及ぼすモノ " に関しては、 " 異物 " と判断するのか別の物質のように判別できる。

 その異物の大きさや形状で大体体調が悪いかわかったりする。


 だが、魔力の流動的に異物と判別されたモノでも人体は自然治癒でなんとかしてしまうようで、自覚症状が出るといった程度のものまでは今のところある程度しか発見できていない。

 エナのやつれ具合にしても、ストレスが原因だったからなのか翌日にはほとんど胃の異物は見られなくなり回復していった。


 圧縮魔力による視力の強化自体が発見してから日も浅いということもあり、まだ実験段階の代物であまり正確性があるわけではない。


 観察対象も家族だけだし、その家族自体が体調が悪いと自分に移してはいけないと部屋にこなくなったりする。

 こなくなったりするときは自覚症状が出るあたりなので、この時点で推測しどこの異物がどういった症状になるのかを前後を合わせて考察したりする。

 確実性を取るなら移してもいいから部屋に来て欲しいのだが、現実はそう甘くない。


 だが、やれることはやっておくべきだろうと思い、毎朝行っている。

 もし何かしらの異物を発見した場合、どうにかしてエナを休ませようと思っているのだ。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 幸いにも今日もエナは通常通りの問題ない体調のようだ。


 大きな異物でない限りは自然治癒でどうにかしてしまうのが人体だ。

 異物がない方が不思議なくらいで小さいものならそれなりに見つかる。


 今回も大きな警戒対象以上のモノは見つかっていない。



 そうこうしているうちに自分が起きていることに気づいたようだ。

 じっと見ていたし、視線で気づいたのかもしれない。



「おはよう、リリーよく眠れたかしら?」



 そういって額にキスしてくれる。

 次はヘアブラシで優しく跳ねた髪を整えてくれるのが最近の朝の挨拶の一連の流れだ。


 この流れはエナの事情を知ってから、なんだか妙に愛情を感じる部分になっている。

 今までも髪を整えられる時は、すごく気持ちがよかったのだがなんだか最近は気持ちよさにプラスして、暖かいオーラのようなモノも感じられるのだ。


 目に集めた圧縮魔力が目の強化を終了させてもまだ作用しているせいなのか、目に近い位置にある髪の毛も追加で強化されているのかもしれない。

 どうにも圧縮魔力は相当な量を圧縮して集めないと " 視力としての強化の効果 " が得られないので、制御が少し難しくなる。

 そのために強化範囲の誤差が大きくなってしまって意図せぬ所に効果が出たり残ったりしている。



  " 強化された髪の毛でエナの強い感情により漏れ出した魔力を感じている "



 と、考察してみたのだがエナの魔力が漏れ出すところを実際に見ているわけではないので今ひとつ確証が得られない。


 髪の毛を梳かれているのであまり頭を動かせないし、無理に見ようとするとエナの動きが止まってしまうからなのか、魔力が漏れ出ていないようなのだ。



 もしくは、見えない程度の極少の魔力の漏出(ろうしゅつ)なのか。



 圧縮魔力による視力強化でなら見れるかもしれないと思うのだが、なんとなくこれは " 愛情 " でいいんじゃないかなと思ってしまって実行していない。

 何もかも正確に見極める必要はないし、曖昧に留めておいた方が幸せなことも多いのだ。



 今日も優しく暖かい朝の挨拶を終え、エナは朝食を取りに行く。


 とはいっても、いつも通りに起きているはずなので恐らく部屋の外に使用人が食事を用意して待っているのだろう。


 この用意されている食事だが、暖かいものは暖かいままであり、冷たいものはほどよく冷たいままだ。

 エアコンのように環境コントロール能力のある何かしらで制御しているのだろうかと思えるほどの都合のよさっぷりだ。


 この部屋には時計がないから――あったとしても見えないだろうが――時間も毎回合っているのかわからないし、決まった時間に食事を作っているはずだから部屋の前で待機している場合、どうしても冷めたりするはずだ。


 だが、そんなことは今まで一度もない。



 現状を鑑みるとそういう結論になってしまう。


 まぁ自分としては暖かい物は暖かく、冷たいものは冷たく食べられるのだから不満はない。

 ちょっとした好奇心って魔物が、鎌首もたげて鼻息を荒くしているだけだ。



 そうこうしているうちに、エナが朝食を小さなテーブルにセットし終えたようだ。

 普段朝食はエナは先に済ませてしまっているのか、基本的に自分一人だけしか食べない。

 ベビーベッドの上からいつもの自分用の椅子に移される。


 今日の朝食もご多分に漏れず環境コントロールされ、多少歯ごたえのある大きさの具の暖かい野菜スープと一口サイズに細かくされているパンとスクランブルエッグとサラダと温めの牛乳だった。


 エナに誘導されながら子供用の危なくないフォークでゆっくりと食べる。

 パンはフォークではなく手で取って食べるが、もちろんエナに誘導してもらう。

 相変わらず全体的に薄い味付けだが、もう慣れた。



 圧縮魔力の視力強化でも食べ物や食器などは見ることができない。

 圧縮した魔力でも結局魔力がないものは見れないのだ。



 このままでは食事もずっと誰かのお世話がなければ難しい作業となってしまう。

 今のところ匂いで物の位置がわかるとかいう、曲芸染みた真似はできていない。

 魔力による視力に頼っているせいなのか、第六感やその他の感覚器官が鋭くなっているという気がまったくしない。



 まぁ……魔力の目が向上していると前向きに見れなくもなくもない……。



 かなりポジティブに考えて……だが。



 かなり時間をかける必要のある食事だが、今日も平穏無事に済むと食器をドアの外に待機しているであろう使用人に渡しにエナが動く。


 食器の回収時も常に使用人は外で待機しているのか、廊下に置くとか誰かを呼ぶとかそういうタイムロスなどは一切なく済ませてしまう。


 使用人が誰かしらドアの外で常に待機しているという考えは当たっているということだろう。

 待機しているのが一人だとは到底思えない。


 警備の観点からみても、労働の観点からみても一人でドアの外に待機するのは効率が悪いとしか言えない。



 現状でそれがわかったとしても、大した意味はないのだが今は考え続けるということが大事なのだ。


 エナに余計な心配を掛けてはいけない。

 何かを常に考えていないと、ドヤ顔の妖精のことをすぐに考えて落ち込んでしまう。


 今自分に出来ることは、彼女に余計な心配を掛けないことくらいしかない。



 クティが定期報告に出発してから、初日以外は落ち込んでいる姿を見せることはなくなっていた。




ちょっぴり悲しい話シリーズ終了です。


ご意見ご感想お待ちしております。

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