外伝2,黄昏の出会い
本編にまだ出てきていないような、世界設定が多々でてきます。
もしかしなくてもネタバレになるかもしれません。
外伝なのでありかなと思うのですが、そういうのが嫌な人は読まないことをお薦めします。
外伝は読まなくても本編は楽しめると思います。
外伝に出てくる設定は本編では出てこない設定である場合もあります。
今回は一人称ではなく、三人称視点で展開していきます。
やけに説明くさいのは気のせいです!気のせいだったら気のせいです…。
ガタンゴトガタ……ガタンゴトン。
決して規則正しいとは言えない揺れが小さな体を揺らす。
見上げている空に輝く太陽はそろそろ中天から傾き始めている。
緩くカールしている髪が少し……いやかなり寒いはずの風でさらさらと揺れている。
だが、その髪の持ち主の周囲の温度は明らかに雪が残った街道のソレとは違っていた。
傾き始めた空を見上げながら、彼女――妖精クレスティルトは少々うんざりしていた。
彼女は普段は妖精族特有の浮遊能力を駆使して空を飛んでいる。
だが、今回彼女は敢えて空を飛んでの移動ではなく、今乗っている乗り物ー2頭引きの幌馬車で移動している。
その周囲には同じような幌馬車が数多く存在し、更にその周りには彼らを守るように10数人の大きな剣や弓で各々武装した者達がいた。
無賃乗車をしている彼女だが、そんな気は彼女にはない。
彼女は常に周囲を魔術で把握し、外敵が近づいた瞬間に追い払っているのだ。
彼女がいることにより、安全な旅が約束されているような状態だ。
ついでに自分の周囲だけには温度や湿度を最適にコントロールする魔術結界を張っている。
妖精族である彼女は一般的な種族には認識することが出来ない。
ご多分に漏れず今いる幌馬車の集団ー隊商にも彼女は認識されていない。
しかし彼女にとってそんなことはどうでもいいことだった。
要するに誰がどう思おうと彼女一人がわかっていればいいことなのだ。
行商を生業とする商人達の移動手段である馬車は、基本的に団体を組み隊商で移動する。
街から街への移動には多少整備されているとはいえ、大きな石をどかして均した程度の街道を利用する。
他の道は、道とは言えない様なまったく整備もされず野晒しのままのような酷い有様だ。
だが多少整備された街道でも決して安全ではない。
その為少なからず戦力となる傭兵や冒険者を雇う必要があり、少人数の商人で雇う場合費用がかかりすぎるのが難点となる。
団体を組むメリットは多少多めに人を雇っても、全員で分割する分安く上がるというものだ。
当然質の悪い者を揃えれば安く雇うこともできるが、安全性は保障されなくなる。
最悪なのは、質の悪い者自体が盗賊と成り下がることだ。
それでは本末転倒どころの騒ぎではない。
隊商の出発地となった港町を出発してから早10日。
出発時から便乗している彼女のおかげもあって、魔物や盗賊といった脅威は隊商に近づくことすら叶っていない。
普段の旅程ならば、両手では足りない程度には大小の差はあれど何らかの脅威に晒される。
今回の旅の安全を隊商の全員が嬉しく思い、その反面傭兵を雇って損をしたと商魂逞しく思っていた。
「はぁー空が高いなー」
誰にも認識されない鈴を転がしたような高めの声が、嘆息混じりに吐き出される。
10日という旅程で、彼女にとっては適当の一言に尽きるあしらいで逃げていく魔物や盗賊以外には見るべきものといえば、ゆっくりと流れていく景色と高い空くらいなものだった。
「なんで馬車で移動しようなんて思っちゃったかな~」
いつもの気まぐれに任せた行動により始まった馬車での街道移動だったが、彼女にとっては退屈なものでしかなかった。
では、なぜ退屈ながらも10日もそのままだったかというと……。
実は最初の頃は襲ってくる魔物や盗賊などを適当にあしらいつつも、安全を確保しているという自負があり多少は充実していた。
野宿の際には隊商で固まって就寝するため、その時に色々な話を聞けたのも大きい。
しかしそれも数日のこと。
今では適当にあしらうだけで逃げていく彼女にとって脅威にもならない脅威では安全を確保しているなんて思えなくなってきていたし、野宿の際の話も大分聞き飽きてしまった。
だが、数日とはいえ相手には認識されていないということも考慮に入れても、情が多少なりとも移ってしまったので街に着くまではせめてこのままで行こうと思っているのだ。
「そろそろ街が見えるはずなんだけどな~っと……おー」
勢いをつけて起き上がった彼女は御者台の方を振り返り、そこで大きな石壁を発見する。
便乗した隊商の今回の目的地である、オーベント王国の首都オーベントの周囲を囲む石壁だ。
その石壁は首都の周囲を完全に囲む形で聳え立っており、外敵への強固な拒絶をありありと示している。
街中からは安全と安心の象徴となり、首都に住む50万人から愛される存在となっている。
オーベント王国首都オーベント。
総人口は50万人を数え、多くの種族が住み、綺麗に整地された町並みが大変美しいと謳われる街だ。
外周を取り囲む石壁が円形に展開しており、壁に近い位置から一般層、商層、貴族層、城層となりそれぞれに内壁が存在する。
首都の中心には白亜の城が存在し、王族達が住んでいる。
今現在の位置からは外周部分の石壁しか見えないが、もう少ししたら城の登頂部が見えるようになるだろう。
だんだんと近づいてくる目的地に退屈しかなかった彼女の心も躍り始める。
「やーっと着いたかー!
さーて50年でどれだけ変わったのかなー?」
妖精族は一般的な種族より遥かに長命であり、彼女もご多分に漏れず一般種族の平均寿命の優に30倍は生きている。
50年ほど前に来たことがある彼女だったが、妖精族にとっては一瞬の命しか持たない彼らの発展力には目を見張るものがある。
だから彼女は長い時間を掛けて回っている街々の様変わり様を楽しみにしていた。
隊商は少しずつだが、着実に巨大な石壁に近づいていく。
すでに十分に視認できる位置まできた石壁に突然開いた様になっている大門には、数多くの彼らと同じような幌馬車から、布をかけただけの荷馬車など様々な馬車が荷物検査待ちをしていた。
「さて、私まで待ってる必要ないしねー。
ここら辺でお別れだね!
ばいばーい」
軽く手を振って飛び立った妖精に気づくものは誰もいなかったが、彼女はいつものことなので気にしない。
急ぐつもりもないので、ゆっくりとすいすいと空中を滑るように飛んでいく。
大門を潜って馬車の荷の検査をしている兵の上を通ったときに、彼らに向けてご苦労ーと偉そうにドヤ顔で声を掛けるが当然彼らに聞こえるわけがない。
クレスティルトにとっては50年ぶりとなるオーベントの街は、多くの喧騒とたくさんの種族でごった返していた。
2頭引きの馬車なら4台以上は並んで通れるような大通りの端の方には、大量の露店が並び呼び込みの声が絶えず響いている。
美味しそうな匂いもしているが、妖精族には食事の習慣も必要性もないため空中を滑るように飛んでいる彼女はあまり興味を惹かれなかった。
彼女の目下の興味の対象といえば、50年前に来た時との違いだった。
「あーあそこにあった服屋がなくなってるー!
こっちにあった食堂も武器屋になってるー。
あっちは――」
きょろきょろと視線を動かし、嬉しそうに変化を楽しんでいる。
長い時を生きる彼女にとって、唯一といってもいい楽しみがこの " 世界の変化を知る " ということだった。
50年の変化を楽しみながら、一般層と商層を遮るようにしている第2層壁――通称商壁を飛び越える。
一般層と商層は商壁で遮られてはいるが、出入りは自由であり設置されている東西南北の4門も常に開かれている。
800年ほど前に起こったリズヴァルト大陸全土を巻き込んだ戦争の際にも、オーベント王国は首都への侵攻を許すことはなく商壁は閉じられたことがない。
一般層には一般向けの商店や露店や宿屋や民家、初級~中級者の冒険者向けの武具店などが多く見られたが商層に入ると専門的な店が多くなり、一般向けの店でもより専門的な品揃えになり大店と呼べるような大きな店も増え始める。
宿屋や民家などはなくなり、完全に商売の為の区画となる。
各職業の互助組織であるギルドは基本的に一般層にあるが、一部は商層にもある。
奥に行くにつれ、店構えは豪勢になり貴族や大商人向けの店が多くなっていく。
「あれー?ここには確か大きな宝石店があったと思ったんだけど……ふむ。
今は学校になってるね、いいことだなー」
彼女の記憶にあった宝石店は脱税により廃業し、今そこには中規模の3階建ての施設が建てられていた。
校庭はそれほど大きくなく、教室も20を数える程度だがリズヴァルト大陸では中規模に位置する規模だ。
小規模の学校となると、教室数も5つあればいいほうであり校庭がないところも多い。
オーベントには中規模の学校が5つあり、大規模な学校となると2つしかない。
小規模の学校となると教会が兼任している場合もあり、首都だけでも20はある。
ただ、これはオーベント王国が独自に勉学に力を入れているという理由もあり、他の国では首都に学校が2つもあればましといったくらいだ。
大陸全土の識学率は教会が学校を兼任していることもあり、読み書き簡単な計算程度なら多少といった程度ではあるが、それ以上となると途端に低いものとなる。
そういった実情を憂いたオーベント国王が30年ほど前から、オーベント王国全土で学校を建設し、学費もそれほど高くならないようにしたりと力を入れている。
特にそれほど高くない学費すら払えない貧民層からも能力のある者を発掘するために、就学支援の制度が取られ、試験を高い成績で通過した者には学費を免除したり、申請すれば各種の援助も受けることができる。
そういった理由もあり、オーベント王国首都オーベントは別名、学術都市とも言われている。
学術都市と呼ばれるようになったのも、ここ20年の話であり50年ぶりに訪れた彼女にとっては知る由もない。
そんな商壁内の一番の変化を眺めながら、第3層壁である通称――貴族壁を飛び越えるころには日は傾きかけ、真っ赤に染まった豪華な屋敷達が彼女を出迎える。
「こっちは相変わらずな感じだなー」
50年前の記憶とさして変わらない町並みに、ちょっとがっかりしながらも何か変化がないか探しに貴族壁の中に入っていく。
商層と貴族層を遮る石壁は商壁と違い、昼は開門されているが夜には閉じられる。
通行の際には貴族や王族以外の者は身分証の提示の他、通行理由なども細かく聞かれる。
この貴族壁の中は壁の通称が示す通り、貴族や大商人達の邸宅や大店の本店などがあり、一般層や商層とは一線を画す警備体制が取られている。
国の中枢を担う者達が数多く住んでいるからこその警備体制だ。
オーベント王国では実力さえあれば、権力を手にすることも可能で、その為に学校へ通う子供も数多く、就学支援制度のおかげもありオーベント王国の就学率は他の国と比べるまでもなく高いものとなっている。
他の国では世襲制が多く、オーベント王国にもまだ残ってはいるものの現在では4割近い国の中枢者が実力でのし上がった者達だ。
オーベントには自らの実力を示す形で邸宅に力を注ぐという風習があり、数多くの権力者が自分の邸宅に力を注いでいるのだが、妖精族である彼女にとってはそんなものは大した差はないものにしか見えない。
なので50年前の記憶とさほど変わらない退屈なものだった。
「……つまんないなーやっぱりこの辺は……。
……ぅん?……なんだあれ?」
がっかりした感情を隠そうともしない彼女だったが、ふと視線を動かしたところ大きな屋敷が目に入った。
大きな屋敷程度では彼女の興味を惹くことは出来ないが、その屋敷には他の建物とは違う点があった。
「なにあれ……結界?
こんな街中で結界なんて張って意味あるの?」
妖精族特有の魔術を完全に視覚化できる瞳に映ったのは、第3級に位置する防御結界だった。
第3級結界となると、使い手は相当熟練した魔術師となる。
その熟練した魔術師でも結界を維持し続けるには、相応の手段が必要となり彼女が発見し接近するまでの時間だけでもかなりのものとなるはずだ。
「へーこの規模の結界をこれだけ長く維持してるってことは……魔道具化してるんだ。
なかなかやるんじゃないかなー森の外のやつにしては!」
魔術を特定の物質に刻印した物が魔道具だが、その性能は刻印された魔術により異なり今彼女の目の前に存在している結界クラスの物となると、刻印できるのは国が抱える宮廷魔術師でも数えるほどだろう。
「まぁそれでも~私に~かかれば~えいやっ!」
暢気なのんびり口調で、自らのアーカイブから保存されている術式を取り出し、瞬時に構築展開する。
一瞬で行われた精緻な作業に、この場に彼女をもし認識できる魔術師がいたら卒倒していただろう。
これだけの高度な作業を一瞬でこなせるのは、妖精族の中でも彼女一人だ。
「さてさて~何があるのかなー?」
彼女の興味は張られた強固な結界でも、その強固な結界を一瞬で部分的に無効化し通過するためだけの特別な魔術でもない。
この結界が張られている理由であろう、何かだ。
結界内部に容易く侵入した彼女はすぐに、その妖精族でもありえないほどの魔力感知能力で何かを発見する。
「あっちだね~むふふ~待ってなさいよ~」
ふわふわと急ぐでもなくゆっくりと何気ない散歩気分で、傾いた真っ赤な光の埋め尽くす空間を感知した場所へと飛んでいく。
彼女が辿りついた一つの窓の中には、彼女の今後を決定的に決めることになる衝撃と圧倒的な存在が混在していた。
宵闇と真っ赤に染まった世界の中間のような黄昏の刻。
目の前に展開されている暖かい光の乱舞に、彼女は時を忘れたかのように魅入られていた。
その日、妖精族女王直属特級魔力保持者選定員クレスティルトは、一人の濁った白い瞳を持つ幼児と出会ったのだった。
今回は三人称に挑戦してみました
説明くさすぎるのが問題です
難しいですね三人称
まぁ何事もやってみないとわからないってことで一つ勉強になりました
ご意見ご感想お待ちしております
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