29,妖精とクティクオリティと
あくどい笑顔を呆然と見つめる幼児。
それが自分だ……!
異世界に来たらやりたいことランキング堂々の第1位であった。
" 魔法的なアレを使ってみたい "
は早くも頓挫しかけている。
【10歳……それ以外の方法は……?】
淡い期待と微かな希望……似ているようでちょっと違う二つが入り混じった眼差しを今日一番の素敵な笑顔をしている小憎らしいあんちくしょうにぶつける。
「森の中にある大規模施設だったら確かめられると思うけど……まず妖精族以外いけないしね!」
ぐっはー!
今まさに自分の口からはエクトプラズム的な何かが飛び出ているだろう。
それほどの衝撃が体中を駆け巡り、思考が完全に停止してしまった。
「まぁでも10歳なんてとっくに過ぎてるだろうし、別にリリーには問題ないことだよねー。
それで検査結果はどうだったの?
普通は学園とかお城で検査するみたいだけど、リリーはどっちだったのー?」
この妖精さんは何をいってらっしゃるのだろうか……完全に思考が停止したため処理が追いつかない。
「……んー?ちょっとリリーってば!ねぇリリー!!」
何の反応も示さない自分の異変にやっと気づいた妖精さんが、頬をぺちぺちと叩く。
「もー寝ないでよー!私はまだ眠くないんだからー!」
ぺちぺちぺちぺちと頬を叩き続けながら頓珍漢なことをのたまう妖精さんに、突っ込みを入れねばとだんだんと思考の処理が再開されていく。
「リーリィイイー!!おーきーろー!」
【……ハッ】
妖精さんの絶叫にようやく思考を元の処理スピードまで回復することができた。
【……ごめんごめん、何の話?】
「もー突然寝るなんて!もしかして……疲れてるの?
だったら無理しないでいいよ?
また熱出たら大変だし……」
ぷんすかしていたと思ったら、一転して心配そうにしおらしくなる可愛らしい妖精さんだ。
一瞬で呆然とさせた衝撃はどこへやら、この可愛らしい妖精さんに気持ちがほっこりしてくる。
【ごめんごめん、大丈夫だから。
ちょっと衝撃的な事実があってね。
思考が停止しちゃっただけだから心配しないで?】
「むー……ならいいけど~ほんとに無理とかしないでいいんだからね?
調子悪くなったらすぐにいうんだよ?」
あくまでこちらを気遣ってくれる心配性な彼女には、心の中で微笑んでおいた。
テオやエリーの前で微笑むと危ないのは言うまでもない。
こうやって自分の無口無表情キャラは完成に近づいていくんだなと心の隅だけで嘆息しておいた。
【それで何の話?】
「えっとねー10歳の検査は受けたんでしょ?
どこで受けたの?」
再度思考が停止する……がそれも一瞬のこと。
予め想定していたが、やはりそれが事実だとわかると思考は停止してしまうようだ。
だが、まだ万が一という可能性が……ないと思うが一応聞いてみる。
【……え、えっと……クティは私が何歳に見えるのかな?】
「……?ぇーっとぉ……。
……????
わかんない……何歳なの……?」
ぱちくりおめめが大変可愛らしかったが、どうやら万が一はないようだった。
【クティ……よく聞いてね?
私は赤ちゃんなの。
歳としては1歳と半分くらいだよ?】
「……!?!?!!?!」
言葉にならないとはこのことだろうか……。
一瞬停止したあとに、目がどんどん見開かれ信じられないといった感じに口もぽかーんと大きくなっていく。
そして、彼女にとっての驚愕の事実を突きつけた自分の足から頭の先まで、何度も何度も視線を往復させていく。
【わかった?】
「……ぇ……ぁ……ぅえと……」
まだ思考がまとまらないらしい。
クティクオリティといえばそのままだが、彼女は目の前の赤ん坊としか見えない自分のことを赤ん坊と認識していなかったのだ。
よく言えば、外見に拘らず能力で判断している。
悪く言えば、何も見えていない……都合よく脳が解釈している的な意味で。
なぜそうなったのかはよくわからないが、彼女の普段の言動や勉強の際に使う単語や勉強法なんかは明らかに赤ん坊やましてや小学生に対しても使うものではないはずだ。
声が聞こえなかった当初や単語の暗記の時は単純な勉強法だったが、短文、長文、応用などはどんどんと複雑化していく内容に大したタイムラグもなしに習得していったのだ。
その勉強法は高度なモノといって差し支えないはずだ。
彼女の弁護をするなら、妖精族は色んな種族を調査している。
そしてクティはドヤ顔なお偉いさんだ。
調査結果を当然知っているわけだから、赤ん坊の見た目で成長が止まってしまう種族なんてのもいたのかもしれない。
まぁ以前してもらった種族の話では出てこなかったがー。
少数種族の説明は省いていたし、ありえない話ではない。
まぁ……それでも!
そんな現状を踏まえても!
クティだからといわれてしまうと納得してしまう妙な信頼感すらある。
だからあえて言おう。
クティだから!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クティの思考が平常運転に戻るまでしばしの時間がかかった。
彼女的には目の前のどこからどうみても赤ん坊な自分が、赤ん坊だという事実が受け入れがたいほどの何かだったのだろうか。
【落ち着いた?】
「ぅ、うん……リリーは赤ちゃんだったんだね……。
確かに……言われてみれば赤ちゃんだよね……。
人族の赤ちゃんだよね……どうみても……」
ちょっと……いやかなり意気消沈している妖精さん。
見事に肩ががっくりと下がり、たれ線が3本魔力で描かれていた。
こんな時にも芸が細かい。
「……ぁ、ぁの……でもさ……普通、赤ちゃんって文字とかかけないよね?
それにリリーは……その……すごく頭いいよね?
それに……それに!初めて会ったときのアレ!
体から魔力をあんな風に出すなんて!熟練の魔術師でも難しいし、それこそ赤ちゃんが出来ることじゃないよ!
あんなことが出来るから……てっきり……。
……ねぇ……なんで……?」
【うーん……まぁ私はほら、私だから?】
物凄く遠慮がちに、普段の彼女とは比べ物にならないくらい弱弱しく上目遣いに聞いてくる。
こんな妖精さんならお持ち帰りしたいわぁと微笑ましくなるが、答えは適当に濁しておく。
それに……正直に、別の世界から転生しました30歳の男です!
なんていってもまた混乱させるだけだろうし、彼女とは長い付き合いになるだろうと半ば確信しているので、折を見て話せばいいだろう。
しかしなるほど……クレアの放出は熟練の魔術師でも難しい技術なのか。
まぁ……普通の人には見えないモノだ。
クレアも無意識にやってたわけだし、意識的にやるのもかなり時間かかったしな。
クティからすれば、熟練の魔術師っていうだけあって歳を重ねた最低でもクレアくらいの歳はとっていると判断したわけだ……見た目は別として。
どう考えても抜けているというか、天然というか……まぁそれこそがクティらしいということだろうか。
「……そう……だよね!
リリーはリリーだよ!
他の赤ちゃんがどうだろうと、リリーはリリーだよ!
私だけのリリーだよ!」
最後の言葉は聞かなかった事にしておこう、うん。
【それで、えっと魔術の才能の検査だっけ?
まだ1歳半だから受けてないよ】
「あーうん、そうだよね……わかった。
じゃぁ10歳になるまで待つか、森の施設に行くかだけど……」
人差し指の先を顎につけて小首を傾げるド天然妖精さん。
何かちょっと考えているようだ。
森の施設に行く方法はないみたいなこと言ってたけど、特別な方法でもあるのだろうか?
あるならぜひともお願いしたいところだが、自分の傍には常に誰かいる。
この状況で少しの時間でも森の施設で検査してもらうことは果たして可能なのだろうか?
可能だったとしても、穏便に済ませるには相当短い時間でこなさないといけないだろう。
もしくはエナが寝た後の夜に実行するか……。
穏便に済ますにはこっちが最善だな……。
「ぅーん……森の施設に行く方法なんだけど……」
なんだか言い出しづらそうにもじもじしているクティを、じっと見つめて続きを催促する。
「あ、あのねぇ……実は定期報告に行く時にでもナターシャにでもお願いすれば多分大丈夫なんじゃないかなぁと今さっき思いついたの……」
【ナターシャ?】
ちらっちらっとこちらを窺うように、何度もチラ見してくる普段とは明らかに違うクティ。
「ナターシャは世界の隣の森の女王だよ」
【女王様にお願いなんて大丈夫なの?】
「あー別にそれは問題ないよ。
私が言えばあいつ断れないしー」
やっと普段通りのドヤ顔で鼻息荒く、ふんっと鼻を鳴らす。
女王の直属だっては聞いてたけど……女王自身にそんな態度が取れるほどのお偉いさんだったのか……。
クティ恐るべし。
【じゃぁお願いしちゃおうかなぁー?】
「うん……それは別にいいんだけどね?
ぇーっとぉ……」
また歯切れが悪くなるお偉いさん。
何かまだ言いづらいことでも残っているのだろうか……。
【何か言いづらいことがあるの?
気にしないで言っていいよ、私とクティの仲でしょ?】
出会って半年しか経っていないが、そんなものは関係ない。
信頼には時間は多少必要だが、それ以上に必要なものは他にもあるのだから。
「うん!そうだよね!あのね!」
一瞬でまさにパアアァーっと効果音が出るくらいに輝くばかりの笑顔でクティは言い放った。
「明日、定期報告に帰らないといけないからその時に言って来るよ!」
……明日?
ちょっとアレな感じはあります
・・・うん?って感じにはなるかもしれません
ご意見ご感想お待ちしております
3/9 句点、文頭スペース、三点リーダ修正
3/10 禁則処理修正




