28,妖精と異世界最大の関心事と
クティ先生の講義は休憩となり、その間エナの朗読の声だけが静かに部屋を満たしていた。
テオやエリーのように緩急をつけて声に抑揚を出す朗読ではなく、エナの美声を生かした静かなゆっくりとした流れるような朗読だ。
彼女の声は一種の催眠波のように、疲れているときは子守唄になり、朗読の時は引き込むように意識を向けさせる。
講義の時は意識的に引き込まれないように講義に集中しつつ、ほとんど聞かないようにしていないとこの声にやられてしまうので厄介だ。
だが、完全に聞かないというのは無理なので引き込まれないようにしつつ、朗読を聞きながら講義を受けるといった器用なことをしている。
そんなエナの今日の朗読本は。
" 黄昏の狸と一本槍 "
赤い夕日と宵闇の中間の黄昏の刻に、一本の槍により封じられた世界で封じられた世界を救う為にアレやコレやと奮闘する狸の物語だ。
世界を封印した騎士が、その封印の理由を今まさに語ろうとしたところでテオとエリーが帰ってきた。
「「ただいまー」」
「おかえりなさい二人とも。
手洗いうがいは済ませてきたかしら?」
パタン。
「「もちろん!」」
一番の盛り上がりが期待されたところで無情にも本が閉じられる。
自分の肩の上に移動していた妖精の " オーマイガッ " と聞こえてきそうな、顔を両手で覆って大口を開けて天を仰いでいるポーズにはひたすらに共感できる。
もう少し、あと1ハルスくらい帰ってくるのを遅くして欲しかったよおにいちゃんおねえちゃん。
さっそく今日習った時間の単位を使ってみたりしてみたが、エナの朗読は基本的にテオとエリーが帰ってきたら終了なので、続きを期待するにはまた明日となってしまう。
非常に残念だが仕方ない。
気持ちを切り替えて今度は二人の朗読を聞こうと思ったが、そろそろ休憩も終わりでいいんじゃないかと考え直す。
【クティ、そろそろ休憩は終わりにして次の講義をお願いしたいんだけど】
" オーマイガッ " のポーズから微動だにしない妖精さん。
なので、ちょっと肩を振って振り落としてすかさずキャッチ。
未だにポーズを崩そうとしないオーマイガッを、上下にシェイクして元に戻すともう一度講義の催促の文字を出してみせる。
「はわあぁうああえぇ~」
【大丈夫?】
ちょっと強く振りすぎたかなと思いながら、目を回しているのに器用に星とかリング付きの惑星なんかを魔力で形作って頭上で回しているお茶目さんを気遣ってみる。
「むーリリーは最近ちょっと乱暴なんじゃないかな!かな!」
【そんなことないよ~気のせいだよ~】
乱暴も何もクティの扱いに慣れてきたっていうだけなのだが、そんな非難がましくしないでほしいものである。
ぷりぷり怒っているキュートな妖精さんを適当に宥めつつ、次の講義は何にしようかと考える。
その間にも今日の朗読者のテオが膝の上に自分を移動させて朗読準備は完了していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「次は何を教えて欲しいの、リリー?」
【じゃぁ次は " 癒しの青光 " について教えて】
始まったテオの朗読は適当に聞き流しつつ、クティ先生に希望の講義内容を伝えてみる。
熱が引いたあとに診察してくれたご老人から出たあの固有名詞だ。
「あーあれねーいいよー。
でもねーあれは私も考えたんだけど、教えるにはちょーっと難しいかもしれないんだよねー」
【難しいの?】
「そうなんだよねー。
リリーは賢いから理解できるだろうけど、実践となると話が違うからねー。
それでもいい?」
なにやら実践できる内容らしい。
ちょっと……いやかなり自慢げなドヤ顔でそんなことをのたまう妖精さんの発言に、かなり興味が惹かれてきた。
最初はどんな医療器具なのか、ちょっと教わるだけのつもりだったのだがそんなことを言われてしまっては引き下がれないってもんだ。
【頑張るよ!ぜひ教えてください!先生!】
「違う!私のことは師匠と呼びなさい!
りぴーとあふたーみー!SISYOU!」
【師匠!お願いします!】
突然の生前の世界の外国語には違和感をまったく感じず、その勢いに乗ってこちらも調子を合わせて大きく魔力文字を描き出す。
クティクオリティの前にはそんなものは些細なことだ。
「よろしい!私の修行は厳しいぞ!
それでもよければついてきなさい!」
【いえすまむ!】
踏ん反り返りすぎて、完全に顔が見えない師匠にきらきらの瞳を向けて答える。
そしてクティ師匠の " 癒しの青光 " に関する講義が始まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「まず、最初にやることは……」
【ごくり】
「やることは……」
【ごく、ごくり】
「…………えーと……」
両手を組んで仁王立ちになっていた師匠がだんだんと視線を逸らし始めて、仕舞いには完全に違う方向を向いてしまう。
【師匠?ちゃんと教えてください】
「あーぇーとぉー」
視線を合わせない妖精をちょっとジト目で睨んでいると、クティも観念したのかしどろもどろに弁明を始めるのだった。
「ぁ、あのねぇ……実はそのぅ私は感覚的に使えちゃったから~理論的に説明するっていうのが難しくてね~。
だからね……どうしよう?」
【私にそんなこと言われても……】
可愛らしく小首を傾げて、えへっと笑いかける師匠。
感覚的に使えたとかそれ以前に " 癒しの青光 " について何もしらない自分にはどう答えていいのかわからない。
【とりあえず、理論の説明はいいから " 癒しの青光 " が何なのか教えてもらえる?】
「あーそうか……知らないんだっけ?
そっかそっか……じゃぁまずはそこからいってみようか!」
目をぱちくりさせてから、納得いったのか人差し指で天を突くようにぴんと腕を伸ばしてもう片方の手を腰に当てる " フィーバースタイル " を取り、効果線のような線を魔力で再現し無数に背後に出現させる。
まさに今にもフィーバーしそうだ。
そして語り始めるは異世界最大の関心事といっても過言ではないソレで、完全にフィーバーしていた。
「 " 癒しの青光 " は第2級の回復系に属する " 魔術 " を刻印した " 魔道具 " だよ。
効果は切断とかしてないような傷から、それなりの病気まであっと言う間に治しちゃうっていう」
【ちょ、ちょっと待って!今 " 魔術 " って言ったよね!?】
説明している元師匠の説明を遮るように魔力文字で慌てて確認を取る。
なんといっても " 魔術 " である。
異世界物なら必ずといっていいほど出てくる不思議能力だ。
この不思議能力に憧れない異世界物読者はいないだろう。
ご多分に漏れず当然自分もこの不思議能力-魔法には何々ならぬ関心がある。
「ぇ、あ、うん、魔術っていったよ。
第2級の回復系はこの大陸だと珍しい魔術だからねぇ~。
びっくりするのは当然だよねー」
びっくりしているところがちょっと違うが、どうやら本当に魔法がこの世界にはあるらしい。
心の中で溢れんばかりのガッツポーズを取ったが外見上は冷静だ!冷静だったら冷静だ!
今自分の心の中を覗ける者がいたならば、ドキドキのワクワクでムネテカしすぎているのを見ることになるだろう。
【魔法って私も使える!?】
「え、魔法は使えないよ?
魔法なんて本の中の話だし」
な、なんですとー!?
今実在するようなこと言ってたのに、本の中の話ですとー!?
【ど、どういうこと!?】
目をぱちくりして慌てて、きょとんと何言ってるのこの子な顔をした妖精さんを見つめる。
「どうもこうも、魔法なんて曖昧なファンタジーなのは本の中の話だけで私達が使えるなんて誰も思わないよ?」
【だ、だってさっき魔法が実在するようなこと言ってたじゃない……!】
再びきょとんとして、今度は頭上にクエスチョンマークを出して揺らしている妖精さん。
「あーわかった!
" 魔法 " と " 魔術 " は違うんだよ?
魔法っていうのは曖昧な力で物語に出てくるような非論理的な力でね。
魔術は違うの……魔術はきちんと論理的に体系立てられた技術なんだよ」
今度はこっちが頭上にクエスチョンマークを出す番だった。
つまりは……魔法ってのはフィクションで、魔術は確固たる技術だと、そういうことなんだろうか。
【え、えーと……じゃぁ魔術は私も使える?】
「ん~……一般的に魔術と呼ばれている技術にも2つあってね。
1つは " 特定の触媒 " を扱える才能を持つ者が、扱うことの出来る構築が確定したモノ。
1つは " 術式 " を独自に構築できるモノ」
前者の " 特定の触媒 " はいわゆる発動を補助するためのアイテムか何かだろうか。
それすらも扱える才能を持たないといけないとは、魔術はかなりハードルが高いように思える。
【特定の触媒を扱える才能がない者はもう一つの方法を使えばいいの?】
「ん~そうなんだけど……そう簡単な話でもないんだよねぇ~。
まぁ、まずは前者の方から説明しちゃうね?
特定の触媒を用いる才能ってのは、森の研究者が言うには " 先天的素養保持者 " と " 後天的素養取得者 " っていう2種類の才能があるの。
先天的素養保持者は言葉通りの意味で、生まれつき触媒を扱う才能を有している者。
後天的素養取得者は触媒を扱う才能を持って生まれなかったけど、知識や経験などでそれを補い触媒を扱うことを可能とした者達のことよ」
つまるところ、魔術は生まれ持った才能以外にも知識や経験によって扱うことの可能なモノということか。
「次にもう一つの方だけど……正直こっちは現実的じゃないんだよねぇ~。
普通は構築が確定した、森の研究者が言うには " 既存の魔術 " と呼ばれる魔術を使うのが一般的なんだけど……。
この魔術は構築が確定していて、一切手を加えることができないの。
だけど、そのもう一つの方法は1から全てを構築することにより、どこにもない自分だけの魔術を作ることができるの」
【どっちがいいかは賛否両論だろうけど、自分だけの魔術が作れるならそっちの方が私はいいかなぁ】
「まぁ私もそうだねぇ~。
でもね……独自に構築する魔術は扱える者が極端に少ないんだよ。
元々もう一つの方の触媒を用いる才能に関しても、森の外……リズヴァルト大陸の種族でも総人口の2割以下くらいしかいないし。
その才能すら、ピンきりでね。
既存の魔術もたくさんあるんだけど、そのたくさんの魔術のうち極々簡単な魔術しか扱えない者がほとんど。
第2級とか第3級クラスの魔術を扱える者になると、ここオーベント王国だと30人に満たないくらいだったかな。
それくらい少ない触媒を扱える者だけど、もう一つの方はもっと少なくてね。
リズヴァルト大陸の種族ではここ800年近く一人も現れていないし、森の中の魔術を扱える精鋭の中の精鋭でも扱えるのは1人だけなんだ」
【そ、そんなに……】
詰まるところ魔術とは超高難易度の技能ということか……。
生前読んだ異世界物の多くは比較的簡単に使える世界が多かっただけにこれはちょっとショックだ。
だが、まだ自分にその才能がないと決まったわけじゃない。
先天的素養がなくても、もう一つの後天的素養の方でカバーできるかもしれない。
なんてったって異世界に行ったらしたいことランキングで堂々の1位に輝くこと間違いなしの。
" 魔法的な能力を使ってみよう "
なのだから!
【そ、それで……魔術の才能はどうやって調べるの?】
逸る気持ちをなんとか抑えながらも、自分の目は今まさにキラキラと輝いていることは間違いない。
「才能の検査は、リズヴァルト大陸だと10歳からだねー」
……え?
……えーと……?
……ぼくいまなんさいだっけ?
【MAJIDE!?】
「イエス!」
素敵な笑顔が今日一番のあくどいモノに見えた瞬間だった。
さて、ついに出てきた魔法・・・じゃなかった魔術です
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