表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第2章 2年目 前編 1歳
26/250

25,妖精とミッションと



 自分が異世界に転生したことが判明した。


 クティの種族講義により、この世界には人間以外にもたくさんの人型の種族がいることがわかった。

 生前の世界にはこの世界のようにたくさんの人型の種族はいなかった。

 それだけで、今生と生前では違う世界だということがわかる。


 異世界転生物が好きでたくさんのライトノベルを読んできた自分だ。

 ご多分に漏れず、そういう世界に憧れていた。


 そして自分はやってきたのだ。


 魅惑のもふもふワールドに!



 アレクの誕生日会で見たコスプレ姿の使用人達は、実はコスプレではなく本物。

 そう……本物の獣耳達。


 本物のもふもふ達。



 ビバもふもふ!



 自分は1歳半くらいの赤ん坊だ。

 街中に繰り出して素敵なもふもふ達に会いに行くにはちょっと難しい。


 だが、どうだろう?


 この家には使用人が最低でも30人以上いる。

 その半数近くがもふもふ達だ。

 つまり、街に繰り出す必要などないのだ。

 家の中で済むもふもふ捜索なのだ。


 だが、問題も数多くある。

 まずこの世界に生れ落ちて1年半、使用人もふもふに会った事はアレクの誕生日会一度限り。


 なぜかは知らないが、この部屋には一切入ってこない。

 自分のお世話をしてくれる乳母役にはエナがいるからかもしれない。

 そのエナはこの家の主である、アレクやクレアに対しても同等の立場で接している。

 いや、部分的にはその上をいっている。


 そんな彼女の管轄である自分の部屋には、他の使用人など必要ないということだろうか。

 もしくは、信用の問題もあるのかもしれない。

 主人達と同等かそれ以上の立場にあるエナには信用があるかどうかなど、聞く必要がないくらいだろう。

 だが、使用人はどうか?

 雇う際には厳選するだろうが、それで全幅の信頼を置けるかといえばそうではないだろう。

 ましてや相手とするのは、目の見えない赤ん坊だ。

 信頼以上に必要なものは多いだろう。



 だからといっても、1年半もの間に一度も部屋にすら入ってくることがないというのはちょっとやりすぎではないかとも思うが、ここは異世界でありこの家はお金持ちである。

 何かしら、思いもよらない理由があるのかもしれない。



 とは所詮建前だ。

 目の前に素敵なもふもふワールドがあるのだ。

 そんなものは生ごみの日にでもだしてしまえ。



 今後の急務としては、この部屋から出て夢と希望と浪漫溢れる素敵フィールドに到達する作戦を練ることだろう。

 幸いなことに部屋には入らなくても使用人が部屋の前まで来ていたりするのは予想できる。


 食事などの用意などがそれにあたる。

 時間がずれたりするときは、エナが直接作ってもらいに行っているが、基本的には食事は決まった時間に使用人が部屋の前まで持って来てエナがそれを取りに出る。

 最初は気づかなかったが、ノックの種類によって相手が使用人か " 部屋に入ってくる人達 " かで違いがあったりする。

 ノックの種類が使用人でも、彼らは部屋の中から……主にベビーベッドの位置から見える範囲には絶対に居ない。

 あくまで影のように接するのがマナーなのだろうか。

 ここまで徹底しているのはなぜなんだろうと思うが、今はどうでもいい。


 練るべき作戦は、如何にこの部屋を出て使用人に接近するか。

 もふもふを堪能するには、標的は " 耳 " か " 尻尾 " になる。


 ここまで徹底していることから、使用人が勝手に抱き上げたりすることはまずないだろう。

 したがってその辺のことも作戦の一部として考えなくてはならない。


 考えれば考えるほど、かなり難しいのではないかと思えてくる。


 この部屋から出たことですら、たった2回しかない。

 その上、明らかに自分との接触を制限されているだろう使用人達の目標物もふもふに達する必要性があるのだ。


 堪能するには目標物もふもふに達したあとにも、それを維持する必要性がある。



 実に高難易度ミッションだ。

 果たして無事こなすことができるのか!?


 いや……やらなければいけない!


 人生には無理だとわかっていても、挑まなければいけない瞬間があるんだ!


 もふもふのためならば!


 やってやるさ!







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 ミッションNo,1 " 開けゴマ " を開始する!


 脳内シミュレートを終え、計画を実行に移す。

 まずは最初の関門である " 部屋からの脱出 " だ。


 まずは正攻法だ。

 ドアは恐らくノブを回して部屋の中から押し開くタイプ。

 当然ドアは魔力がないので、見えない。


 だが、自分の魔力を伸ばすと壁などの障害物があるとそれ以上進めなくなる。

 これを利用して壁までの位置を測る。

 そこからは手探りでドアと壁との境界線を探り当てる。

 今の自分の身長なら、ドアノブは届くかもしれないがここは敢えて自分ではあけない。

 というか、自分で開けたらエナに連れ戻されるのは目に見えている。


 だからこそ、ここはエナに開けさせる!


 そう……連れ戻されては意味がないのだ。

 エナに開けさせ、部屋の外にエナの手により出すという事実を作り上げる。


 まずはここからだ。


 いざゆかん!素敵フィールド!



 エナの朗読を本を叩いて一時中断させる。

 掴まるなどの補助なしでも立てるようになったので、彼女の膝の上からさっと抜け出して立ち上がる。

 朗読中に一時中断させて、運動に移るというのは今までなかったことなのでエナがちょっと意表を突かれている。

 その間隙を縫う形で移動を開始する。


 魔力を一直線に伸ばし、壁までの距離を測る。

 このまま走ろうものなら、障害物で足を取られるであろうことは疑いようがない。

 さっきまで朗読中だったのだ、多少の本は出されているはずなのだ。


 事前のクティとの打ち合わせで、進行ルート上の障害物の位置を彼女の切り離した魔力で把握できるように設置してもらっている。


 なので、今は障害物に関しては問題ない。


 だが、ここで焦って走ってはいけない。

 エナにとって自分が障害物を把握しているなどということは、思考の埒外でしかないのだから。

 走ればすぐにエナに掴まる。


 従って障害物を大きく避けるように歩く。

 進行方向に障害物がなければ、エナも止めはしない。


 突発性のアクシデントに対応するためにも、すぐ傍にはつくがヘッドスライディングでもしなければ問題はないはずだ。



 一歩二歩と第一目標《壁》まで歩いていく。

 あらあら珍しいわね、本より今日は運動の気分なのかしらと言っているのが、後ろから聞こえる。


 今のところ止める気はないようだ。

 そして第一目標《壁》に無事到着し、次は手探りで壁の感触を確認していく。

 チラッとエナを確認すると、2歩くらい離れた位置で微笑ましそうにこちらを見ている。


 問題はないようだ。


 つるつるの壁の感触から、木のような柔らかい感触に変わる。

 どうやらドアまで到着したようだ。


 ちょっと背伸びして上の方を探ってみると、ドアノブのような感触があり……。



【ドア】



 と、描かれた魔力の看板があった。


 横を見るとドヤ顔で、サムズアップしている妖精が見えた。



 手探りで探す必要なかったじゃん!



 今更だが、そんな突込みを心の中でだけ素早くこなすと後ろに控えているエナを振り向いてドアを軽くバンバンと叩いてみる。



「うん?リリーそれはドアよ?

 外に出てみたいの?」



 Yes!!!と心の中でガッツポーズを取って、再度ドアを叩く。


 今度はエナから視線をドアに移してからだ。

 これで、自分がどういった意図でドアを叩いているかエナに確信してもらえるだろう。



「うーん……部屋の外にはあんまり出さないってことになってるんだけど……。

 そんなに外に出たいの?」



 横のドヤ顔さんも一緒になってドアを叩いている。

 こちらの効果音は " ぽふぽふ " が適切だろう。

 音は聞こえないが。


 もう一度ドアをバンバンと叩いて、エナを見る。

 ちょっと手が痛くなってきた。


 じーっとエナを見つめて、あけてぷりーずと念を込めてみる。



「うーん……確かに2回部屋の外に出てるし、出てもいいとは私は思うんだけどね?

 クレアとアレクからは部屋の外にはまだ出さないでって言われてるのよ。

 ごめんね、リリー」



 ぱぁどぅん?

 今なんと言いました、エナさん。

 部屋の外にはまだ出さないでと言われている、だと!?


 じゃぁどうするんだ!

 この先に待ち構えているだろう素敵フィールドへはどうしたら!?


 エナを見たまま硬直している自分。

 そんな自分にクティは発破を掛けてくれる。



「勝手に出ちゃえばいいんだよ!

 冒険だ!突撃だー!」



 彼女の声で全てを決める。

 ご丁寧にドアノブの位置に。


【↓ドアノブ↓】


 と魔力の名札をつけてくれている。

 ここまでされて、やらなければ男が廃る!


 ……今は女だけど。



 このドアは押し開くタイプだ。

 これが引くタイプだったらアウトだったろう。



 神はまだ自分を見放してはいない!



 作戦を急遽変更して意を決してドアノブを両手で掴み、一気にまわす。

 臨機応変に作戦は変化するのだ!






 まわ……す……まわそう……と……。




 ドアノブは1歳半の赤ん坊の力ではほとんど動かなかった。




 ……何このドアノブ!超重いんですけど!



 ドアノブ自体は回すタイプの物だったのだが、錫か銅ででも出来ているのか冷たく動きが悪い。

 まるで差し油をしていない古い金具のようだ。



「こーら、だめよ。

 ちゃんと鍵かかってるんだから、いくらやっても開かないわよ」



 な、なんですとー!


 目を見開いてドアノブがある場所を凝視したが、名札が変化して。


【↓ドアノブ↓施錠中】


 になっていた。



 妙に芸の細かいドヤ顔様が今は憎かった。


 ドアノブから手を離し、ぺたんとお座りしたところでエナに抱き上げられて、朗読していたところまで戻されてしまった。



 一体いつの間に施錠なんてしていたんだ?



 テオやエリーが入ってくるときだって鍵を外しているような音もしなければ、内側から誰かが外しているようなそぶりもなかったのに。


 さぁ本の続きにしましょうねーと、遠ざかっていく素敵フィールド(もふもふ)にすっかり落ち込んでしまった自分の耳にはその声が、悪魔の声にしか聞こえなかった。




 芸の細かい妖精さんは、肩を竦めて首を左右に軽く振りながら戻ってくる。



 ドアノブについていた名札は。



【任務失敗】



 に変わっていた。





みんな大好きもふもふワールド



しかし現実は無情でした



ご意見ご感想お待ちしております


3/9 句点、文頭スペース、三点リーダ修正

3/10 禁則処理修正

4/24 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ