外伝32,新参専属メイドの独り言ッス
本編に出てこないような設定が出てくるような出てこないような。
3Dプリンターもどきは何でも作れます。
衣服でも下着でも何でも。
「スカーレット先輩、あたしの今日の仕事は何ッスか?」
「今日は製造ファイルナンバー二八〇六の続きからです」
「了解ッス!」
リリアンヌ様の専属メイドに任命されてから数日が経ったッス。
でも、同じ専属メイドの先輩方とは一緒に仕事をしたことがまだないッス。
今日もスカーレット先輩について、助手みたいなことをやるみたいッスね。
専属メイドってこんなんだったッスか?
「あ、ミラ。ちょうどいいところにいました。昨日の作業の続きは後回しにして、この報告書を確認しておいてください」
「は、はい! わかりました!」
ただのメイドから専属メイドに。そして、リリアンヌお嬢様の秘書にまで大出世を果たしたミラ先輩ッスけど、実際にやっていることはやっぱりあたしと似たようなスカーレット先輩の助手ッス。
リリアンヌお嬢様のお世話をしないで、スカーレット先輩についてまわっていていいのかと思うんスけど、お嬢様直々の命令なので逆らえないッス。
「それでは材料の注入から始めますよ」
「了解ッス!」
しかもやっていることは、剣と魔法のファンタジーの世界であるはずのに、巨大な3Dプリンターを使った機械工作なんスから笑えないッス!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
仕事自体は、3Dプリンターを設計書通りに動かすだけッスから、特に難しいことはないんス。
でも、設計書通りに設定しているはずなのに、設計書に描かれている完成図とは違うものが出来上がりそうになっているのはどうしたもんスかね。
「スカーレット、調子はどう?」
「問題ありません」
首を捻っていれば、リリアンヌお嬢様が巨大な犬、じゃなかったッス。サルバルアのレキに乗ってやってきたッス。
お嬢様は、直視するのがつらいくらいの驚くべき美貌をもった幼女様ッス。
本当にみているだけで涙がでてきそうになりそうッスから危ないッス。
幼女趣味なんてないはずのあたしも、目が離せなくなりそうッスからね。
そんなお嬢様と対等以上に会話を交わしているのが、スカーレット先輩ッス。
どうしてスカーレット先輩は、あんなに強気でお嬢様と対峙できるのか意味不明ッス。
今だって、明らかに設計書の完成図とは異なるものが出来上がりかけているのに、シレっと嘘をついてるッスもの。
「本当? また提出された設計書とは別なものつくったりしてない? サニア、ファイルを見せてくれる?」
「はい! これッス!」
ちゃっかりと出来上がりかけているものを、お嬢様の視線から隠す位置取りをしているスカーレット先輩から、別の設計書を渡しなさいとアイコンタクトがきてるッスけど、そんなこと無理ッス。
あたしがお嬢様に逆らえるわけないじゃないッスか!
あ、おやつのカスタードシューを人質にとっても無理ッス! ひどいッス! それはあたしの分ッス! なんで今持ってるんスか! おかしいッス! 横暴ッス! お嬢様に言いつけてやるッス!
「ありがとう。……スカーレット。なんで衣服型パワードスーツにロケットパンチがついてるの?」
「趣味です」
食べ物の恨みは恐ろしいッス。
あんなに逆らえないスカーレット先輩に、あっさりと反抗できるくらいッスから!
でも、お嬢様のお叱りの言葉もさっぱり効いてないッス。
しかもあのロケットパンチは趣味だったんスか!
あたしならドリルにするッスよ! ドリル!
「もう……何のための設計書だと思ってるの? サニアもおかしいと思ったらちゃんと報告してくれないと……」
「申し訳ありませんッス! お許しくださいッス! スカーレット先輩には逆らえないッス!」
「はあ……」
何を言っても無駄なスカーレット先輩に疲れたのか、お説教のターゲットがこっちに向いてしまったッス!
これはピンチッス! でもあたしはスカーレット先輩の助手ッスから悪いのは全部スカーレット先輩ッス!
ほんとッス! あたしのせいじゃないッス!
冷や汗だらだらで、お嬢様に弁解していたら、スカーレット先輩の口がもごもご動いているのを目撃してしまったッス。
……嘘ッスよね? あたしのカスタードシュー……ッス。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そんなに落ち込まないでください、サニア。とても美味しかったですよ」
「ひどいッス! 楽しみにしてたッスよ!」
設計書の不備というッスか、スカーレット先輩の茶目っ気というッスか。
とにかく、明らかに設計書とは違うものが出来上がりつつあったッスけど、リリアンヌお嬢様の軌道修正で予定通りのものが出来上がったッス。
でも、それは別にどうでもいいッス。
正直、衣服型パワードスーツなんて何に使うのか意味不明ッスから。
それより、今最も大事なことはスカーレット先輩があたしのおやつを食べてしまったことッス。
しかも、ここ最近みかけるようになった前世で見覚えのあるスイーツだったんス。
前に偶然口にできたんスけど、この世界では味わえない、それはそれは甘くて美味しいスイーツだったんス!
それを……それを……あろうことかあたしの目の前で、しかもお嬢様にお説教されているところで食べちゃうなんて! ひどいッス! ひどいッス!
「心配はいりません。なぜならあのカスタードシューは私が作ったものですから」
「……え?」
ちょっと涙が本気で滲んでくるくらい悔しかったッスけど、スカーレットの先輩の言葉でその涙も引っ込んでしまったッス。
……ぱーどんッス。
「ですから、あれは私が作ったものです。以前からお嬢様に料理の再現を依頼されているのです。なので、スイーツを作っています」
「え、でも、あたしたちのおやつッスよね?」
「もちろん、満足のいく出来でないものをお嬢様にお出しするわけにはいきませんし、勿体無いでしょう?」
「それもそうッスね。じゃ、じゃあ、また作ってくれるんスか?」
何でも器用にこなせる上に、転生者のスカーレット先輩なら確かに生前の料理なんかも再現できそうな気がするッス。
というか、すでにカスタードシューを再現してるッスね。すごいッス。
オーベント王国のお菓子といったら、もっと簡単で味気ないものか、めちゃくちゃ甘くて頭が痛くなるようなやつくらいッス。
材料だって集めるのはすごく大変だと思うスけど、クリストフ家の財力にものを言わせれば関係ないッスね。
「ええ、今日も作りますし。そうですね。サニア、あなたも手伝いなさい。お菓子くらい作った経験はありますよね?」
「ないッス!」
「なんで自信満々なのですか」
美味しいお菓子は食べたいッスけど、転生者だったら料理ができると思ったら大間違いッス。
あたしが作れるものなんて、お湯を入れるか、お湯で温めるか、レンジで温めるやつくらいッス!
お菓子作りにチャレンジしたこともあるッスけど、砂糖を入れたはずなのに塩辛かったり、本に書いてあった通りの時間で焼いたのに真っ黒焦げになったりして諦めたッス。
「でも楽しみにしてるッス! ジャンボシューを希望するッス! プリンでもいいッス! ティラミスでもいいッスよ!」
だからあたしにできることは応援することだけッス。
あと色々要望をだすことッスね。
任せてほしいッス! 食べたいお菓子はいっぱいあるッスよ!
あ、まって欲しいッス! スカーレット先輩! 室内で抜剣するのはまずいッス! っていうかどこからその細剣だしたんスか!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふぅ……。美味しかったッス……。天国はここにあったッス……」
「本当ですねぇ……。スカーレット様の作るお菓子はとても美味しいです……」
「まったくッス……。ずっとお菓子だけ食べて生きていきたいッス」
「いいですねぇ……」
スカーレット先輩は結局、あたしの希望通りのお菓子を作ってくれたッス。
お嬢様に言いつけるッスって脅したら、渋々作ってくれるんスから意外と優しいところもあるッスよね。
ミラ先輩と一緒にまったりとおやつタイムを楽しんでいられるのも、今回作ったお菓子がスカーレット先輩的にはいい出来だったからッスね。
リリアンヌお嬢様にお出しできる合格ラインを超えたから、お嬢様にもっていってるッス。
おかげで、スカーレット先輩が帰ってくるまではこうしてまったりできるッス。
そういえば、こんなに美味しいお菓子なんスから、人形みたいに表情が変わらないお嬢様でも頬が緩んじゃうんじゃないッスかね。
ちょっとみてみたいッス。
「ちょっとお嬢様のところへ行ってくるッス」
「あ、はい。いってらっしゃい。気をつけてね」
ミラ先輩は、狼氏族なのに小動物みたいに気弱な人ッス。
お嬢様のところへ行くだけなのに、気をつけるも何もないッスからね!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うん、美味しい。よくやりました、スカーレット」
「お褒めいただき光栄です」
「これで再現できたレシピは十二品目。でもどうしてお菓子にばかり偏ってるの?」
「趣味です」
「美味しいからいいけど……」
お嬢様の様子をみにきたッスけど、すでに食べ終わっていて、表情が変わるところをみれなかったッス。
でも満足そうにしているのはわかるッス。
美味しかったッスからね!
「それにしても、クティはどこにいったのかな? せっかくスカーレットが美味しいお菓子を作ってくれたのに……」
「よろしければ、お呼び致しましょうか?」
「んぅ? じゃあ、お願いしていい?」
「かしこまりました。ではご覧あれ! 種も仕掛けもありません。あるのはなんと布一枚!」
「へ……?」
こっそりお嬢様の様子を伺っていたら、スカーレット先輩が何をトチ狂ったのか、手品をし始めたッス。
クレスティルト様を呼ぶんじゃなかったんスか?
「パン、と手を叩けばなんとこの布が!」
「あ!」
スカーレット先輩がもっていたただの布が、手を叩くのと同時に見覚えのある形に一瞬にして変形してしまったッス!
確かあれは昨日リリアンヌお嬢様が履いてたやつッスよね?
「スカーレット、それ……」
「大丈夫です。ちゃんと使用済みのものです。まだ洗ってません」
「ちょ、ちょっとまって! そんなものがなんで!? っていうか、なんで洗ってないの!? なんで!?」
「そしてこれをこうすると……」
「うおお! お宝獲ったどお!」
お嬢様のパンツがスカーレット先輩の手から離れた瞬間、どこから現れたのかひとりの妖精がそのパンツをぶんぶん振り回して勝鬨をあげていたッス。
一体何が起こったのか。超スピードとかそんな次元の問題じゃないッス。
さすが、クレスティルト様ッス。ぱねぇッス。
「クティ、ちょっとこっちに」
「ひぇっ!?」
でも、そのあとのお嬢様の絶対零度の声はやばかったッス。
お嬢様、やっぱり怖いッス。
正座でお説教されている、スカーレット先輩とクレスティルト様を見なかったことにして、あたしはまったりタイムに戻ることにするッス。
ミラ先輩の「気をつけて」はこのことだったのかもしれないッスね。
ミラ先輩もぱねぇッス。
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