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外伝31,スカーレットさんはいつでも平常運転


 本編に出てこないような設定が出てくるような出てこないような。

 スカーレットさんはいつでも平常運転です。




 いつものようにレキの部屋へ向かったリリアンヌを待っていたのは、いつもとはちょっと違う光景だった。


 同行するエリアーナやアンネーラたちといつものように別れて、専用に置かれたテーブルの席に着く。

 普段はそこにスカーレットがいるのだが、今日はなぜかミラがいる。

 秘書に昇進したミラは、普段はスカーレットの助手として3Dプリンターモドキを使って何かしらを製作している。

 リリアンヌの秘書のはずなのに、スカーレットの助手をしているのはミラの類まれなる才能を有効活用するためだ。

 彼女のおかげで、3Dプリンターモドキは最大効率で稼働することができている。

 そのため、ミラはほぼ一日中3Dプリンターモドキを操作しているので、たとえ朝早いこの時間帯といえどこの場にいることは珍しい。


「ミラ、どうしたの? なにか報告でもあった?」


 所在なさげに佇むミラが、席についたリリアンヌへ何のアクションも起こさないことに訝しむ。

 そもそも、秘書とはいえミラはメイドだ。

 そんな彼女が飲み物のひとつも出さないことはおかしい。

 スカーレットだったら絶妙なタイミングで、その日のリリアンヌのコンディションに合わせたものを用意してくる。

 ミラがクリストフ家のメイドとしては、少々劣っていることは理解しているが、そのくらいのことは彼女でもできる。

 だからこそ不思議だった。


「は、はい! え、えーと……スカーレットさまから伝言をお預かりしております……」

「んぅ? じゃあ聞かせて?」

「は、はい……」


 普段からあまり自己主張の強いほうではないミラだが、今日はなんだかいつにもましてオドオドしている。

 気にしないようにしてはいたが、ミラの背後には何かが詰まった大きな袋が用意されていた。

 普段このようなものは一切持ち込まないことから、またスカーレットが何か変なことをしているのだろうとあたりをつけるリリアンヌ。

 非常に有能で頼りになるスカーレットだが、彼女はどうにもイタズラが過ぎる。

 一線を越えない程度には分別を持ち合わせているが、ぎりぎりのラインを攻めてくるときがあるので油断はできない。


 特に他者を巻き込んで行うイタズラの場合その傾向が強い。


 今回は手近な存在であるミラを巻き込んでいるようなので、いつもより警戒心を引き上げておくべきだろう。

 そんなことを思いつつもリリアンヌの表情筋は一切動かない。

 相棒であるクティがみれば、ほんの僅かな小さな変化を見逃さずに的確に心情を読み取るだろうが、袋をワタワタしながら漁っているミラには不可能だ。


 苦戦しつつもミラが袋から取り出したものは、いわゆるプラカードだった。

 それを掲げ、先程よりもさらに不安そうにしながら彼女は口を開く。


「スカーレットさまからの伝言をお伝えします……。ろ、労働条件の改善を要求します。我々クリストフ家労働組合は要求が通るまで、断固として戦うことをここに宣言します……い、以上です。すみません……」

「ミラが謝らなくてもいいんだよ?」

「は、はいぃぃ……」


 プラカードに書かれていたのは、「STRIKE」という直球すぎる言葉だった。

 ただ、リズヴァルド大陸の共通語ではなく、生前の世界の言葉で書かれている。

 綺麗な仕上がりだったので手作りではなく、3Dプリンターモドキで作ったものだろう。

 3Dプリンターモドキのおかげで、スカーレットのイタズラに用いられる小道具の精度は飛躍的に高まっている。

 今回もしっかりとプラカードを用意しているのだから芸が細かい。


「それで、スカーレット。労働条件の改善って何を具体的には?」

「人員増加を要求します」


 大きな袋から顔だけを出してそういったのは、イタズラ大好きスカーレットであった。

 どこかで隠れてこちらを伺っているとは思っていたが、まさかの袋の中とはさすがにリリアンヌも驚きだ。

 表情筋は一切動いていないけど。


 あの大きな袋の中にはもっとたくさんの小道具が入っているとばかり思っていたが、まさかイタズラの首謀者本人が入っていようとは。

 道理で、プラカードを取り出すだけでミラがあたふたしていたわけだ。


「人員……。どのくらい? 専属として取り立てるの? それとも一時的な増員?」

「ミラが秘書になってひとり減ったわけですから、専属として取り立てるようにしましょう。理由としても問題ないでしょうし、宛てもあります」


 袋から顔だけを出した面白すぎる光景のまま、リリアンヌとスカーレットの対話は続く。

 尚、ミラはプラカードを掲げたまま置物と化している。

 彼女の今回の役目はすでに終わっているようだ。


「宛て……。もしかして?」

「はい。意外と身近にいました。これならもう少し範囲を広げればそれなりに見つかるのではないでしょうか」

「でも、クリストフ家で雇うにはクリアしなければいけない条件のハードルが高いと思うよ?」

「その辺は如何ともし難いですね。最悪、敷地外で場所を確保する方向で進めようかと思います」

「情報や物資の流出だけには気をつけてね」

「最優先事項ですのでご安心ください」


 最後まで袋から出ずに、スカーレットのストライキは五(リン)と経たずに終わった。

 尚、話が終わったあとスカーレットは袋の中に戻り、置物と化していたミラが運んでいった。

 その光景をリリアンヌは「ミラも大変だなぁ」とぼんやり眺めていたそうな。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「というわけで、あなたは今日からリリアンヌお嬢様の専属になりました」

「待って欲しいッス! 意味がわからないッス!」


 その日、すべての手続を迅速に済ませたスカーレットは、目的の人物に直接辞令を伝えに訪れていた。

 いつものように仕事をこなしていたメイドは突然のスカーレットの訪問に戸惑い、伝えられた内容に驚愕とともに疑問を口にする。

 それも当然だろう。

 クリストフ家における、専属メイドの地位というものはかなり高い。

 数百人にもおよぶメイドたちが働くクリストフ家でも、専属メイドの数は家族ひとり頭数人程度だ。

 その中でも、濁った瞳を患っているリリアンヌの専属メイドの数は多い方だが、それでも四人である。

 現在はミラが抜けて三人になっているが。


 そのリリアンヌ専属メイドのひとりに選ばれたということは大出世と同義であり、羨望と嫉妬の的となることも意味している。


「な、なんであたしッスか!? 言ってはなんッスけど、ほかにも優秀なひとはいると思うッス!」

「能力だけ見ればあなたよりも優秀な者は多いでしょう。でも知っているでしょう? あなたが選ばれた理由を」

「……やっぱり、スカーレットさまもッスか。というか……お嬢様もなんスか?」

「それ以上はここでは話せません」

「わかったッス……」


 ミラが抜け、リリアンヌ専属メイドには空きがひとつできた。

 その枠を求めて、水面下では熾烈な牽制が始まっていたが、いつまで経っても専属メイドの再募集は行われなかった。

 元々、ミラはリリアンヌのお気に入りという特別枠での専属入りだったこともある。

 そしてそれ以上に濁った瞳を患うリリアンヌ本人に、手がかからなかったことが要因だろう。


 だが、ここにきて専属メイドの増員が決定し、対象者もすでに決まっているとなれば狙っていたメイドたちの心中は穏やかではない。

 周囲では仕事を継続しつつも、聞き耳を立てているものが多く、とてもではないが機密性の高い話はできないような状況だった。


 ちなみに、専用の防音対魔術が施された部屋で辞令を伝えなかったのはスカーレットのいつものイタズラ心のせいである。

 就業中に突然、「あなたは専属メイドに選ばれました」と言われて驚く顔が見たかった。

 後にそういわれた新たな専属メイドは、膝から崩れ落ちたそうな。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さ、サニアと申しますッス。よろしくお願い致しますッス、リリアンヌお嬢様」


 新たな専属メイド――サニアがリリアンヌに会ったのは、スカーレットが辞令を伝えた日から数日後のことだった。

 その間に、引き継ぎや引っ越しなど、様々な雑事を済ませている。

 ミラが秘書になったことで、リリアンヌ専属用の使用人部屋がひとつ空いており、そこにサニアが入ることになった。

 専属には特別な部屋が割り当てられるため、この引っ越しは当人たちの意思とは関係なく、強制だ。

 だが、与えられる部屋は広めの個室であり、今まで複数人で狭い一部屋を使っていたことに比べれば住環境は最高だろう。

 サニアもそのことについては、とても喜んでいた。

 しかし、同僚となる専属メイドたちがクリストフ家でも屈指の能力を持つものたちであるため、慣れるまでストレスで胃に穴があかないか気が気ではない。


「よろしくね、サニア。スカーレットの言うことをよく聞いて……よく聞きすぎないでサポートしてあげて」

「は、はいッス!」


 サニアがリリアンヌに直接会うのは初めてだ。

 間近でみるリリアンヌの美しさに息を呑みながらも、必死で平静を保とうとする。

 そのおかげで、リリアンヌのちょっとおかしな言葉に疑問を持つ暇などなかった。


 後にサニアは思う。

 スカーレット先輩はおかしいッス。

 そのスカーレット先輩と一緒に仕事をできているミラ先輩もどこかおかしいッス。

 さらに、我らが主人であるリリアンヌお嬢様は、もっとおかしいッス!


「異世界から別の異世界に行くって、どういうことッスかー!」


 サニアの嘆きが、世界の隣の森へと響き渡る。


 二年目メイド、サニア。

 ランドリッシュ領クリストフ家使用人学校を平均的な成績で卒業。

 二年間、クリストフ家で一般的なハウスメイドとして活動後、リリアンヌ・ラ・クリストフの専属メイドとなる。

 その特異性からリリアンヌの代わりに世界の隣の森への使者となることが決定。


 彼女の明日はどっちだ!



濁った瞳のリリアンヌ2発売中です!

続巻のためにもみんな買ってね!


よろしくお願いします!

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