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外伝28,教えてスカーレット先生

 本編に出てこないような設定が出てくるような出てこないような。

 リリーたちが作っているものの名称に関しては、彼女たちがなんとなくで命名しています。

 突っ込んではいけません。

 サブタイトルは本文とは関係ありません。


「プロですか」

「嗜みです」


 世界の隣の森旅行から帰ってきて数ヶ月。

 リリアンヌ・ラ・クリストフはスカーレットの新たな一面を発見し驚愕していた。


「嗜みで3Dプリンターの図面を引けるというのは……どうなんですか?」

「プロですから」

「やっぱりプロじゃないですかー」

「趣味です」

「どっちなんですかー」


 世界の隣の森で捕らえた悪しき種族は、魔術を無効化する特殊な能力を有している。

 捕虜となった悪しき種族は、その後協力的な姿勢は当然見せず、魔術を無効化されてしまうために何をするにも手を焼いていた。

 妖精族の高度な魔道具でさえ、無効化されてしまうため、調査が一向に進まないのだ。


「そんなことよりも、お嬢様の魔術はやはりとんでもないと存じます」

「いやいや、今回はスカーレットの発案でしょ」

「私はただ、魔術がだめなら科学を使えばいいじゃない、と助言をしたに過ぎません」

「魔術隆盛のこの世界で科学を使うには下準備が必要だし……」

「ですが、それでパーツを製作するために3Dプリンターを作り上げてしまうというのは段階を飛ばしすぎていると存じます」

「だって、そっちの方が簡単だったし……」


 魔術がだめなら科学を使えばいい。

 スカーレットの出した回答に、煮詰まっていたリリアンヌは飛びついた。

 だが、魔術が存在するために科学がまったく発達しなかったこの世界において、小学生の科学実験すら覚束ないのは自明の理であった。

 だが、そこは魔術を作ることができる変異型二種であるリリアンヌのこと。

 必要な機材は魔術で作ってしまえばいいじゃないか、と3Dプリンターを作ってしまったのだ。

 汎用性は大事、とは彼女の言だ。


「材料を細かく指定できるのはいいですね。ついでなので配合もいじれるようにしてください。基盤は作れないのですか? もっと精密作業を重視しましょう」

「これ以上!? 魔道具で再現した方が早いよ……それ」

「お嬢様が思っている以上に、科学技術というものを再現するのは難しいのです。さあ、泣き言を言っている暇はございません」


 リリアンヌが今の3Dプリンターを作り上げるだけでも、数週間(巡り)の日数を要している。

 製作に必要なアプリを新たに作り、クティパッドにインストールするまでの時間までも含まれているため、実際に製作していた日数はもう少し少なくなるがそれでも結構な時間だ。

 追加要素とはいえ、スカーレットの要望は性能の大幅アップ要求である。

 現在の3Dプリンターでは、基盤のような細かい作業は不可能だ。

 それならば魔道具で作ってしまったほうが早いくらいである。

 しかし、使用用途が魔術無効化対策である以上は魔道具で作ってしまっては意味がない。

 結局のところ、リリアンヌはスカーレットの要望を満たすために奮闘することとなった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こ、これでどうでしょう?」

「悪くないですね。欲を言えば精度が足りませんが……まあ許容範囲内でしょうか」

「スカーレットの要求水準は高すぎると思います!」

「これがデフォでございます」

「デフォじゃありません!」


 スカーレットの要望をできる限り満たそうとした結果、完成したのはもはや3Dプリンターというよりは、パーツ作成から組み立てまで単体で行えてしまうものだった。

 まだまだ製作できるパーツの大きさや精度に問題があったりするが、なんとかスカーレットの要望を満たす水準にまでなっている。


 高すぎる水準を求めるスカーレットもスカーレットだが、それを実現してしまうリリアンヌもリリアンヌである。


「では、アプリの方の改善に移りましょう」

「そっちはいくつか追加するだけだったからもうできてます」

「さすがお嬢様。手が早い」

「人をナンパ野郎みたいな言い方しないでください」

「これは失礼致しました。さすがお嬢様、お手が早い」

「かわってなーい!」


 製作機材のパワーアップが済めば、次は操作をするためのアプリ開発だが、リリアンヌにとってはそちらは簡単なものだった。

 元々アプリ作成は得意なのだ。

 彼女のペットであるサルバルアのレキに、何種類ものゲームを作ってプレイさせているリリアンヌである。基本的な操作系アプリなど朝飯前だ。


 レキ用のゲームでは、ユーザーインターフェースにもある程度気を遣う必要があるが、ただ操作するためだけのアプリならばその辺の配慮はいらない。

 スカーレットが求めるのは、飾りではなく性能だ。

 機能的でありさえすればいいのだから楽だった。


「ところでお嬢様」

「次はなんですか? これ以上精度を上げるには時間がかかりますよ? さすがにミリ以下の世界は難しいんです」

「いえ、このアプリなのですが」

「あ、アプリはそれでいいじゃないですか! 確かにちょっと飾りっ気がなさすぎますがこんなものでしょう……?」

「確かに、機能的で美しいと存じます」

「でしょう! ……何か他に気になることが?」


 さすがに、連日の追加要望の水準の高さにリリアンヌもスカーレットの言葉ひとつひとつに極端に反応しがちになっている。

 これはちょっとやりすぎたかな、と思うスカーレットだったが、まあ問題ない、とすぐさま思い直すのも彼女のすごいところだった。

 悪くいえば大雑把。良く言っても適当なのが彼女なのだ。


 全ては、とんでも要求を実現してしまうリリアンヌが悪いのである。


「いえ、ミラにやらせてみるのはどうでしょう?」

「……ゲーム製作じゃないんだよ?」

「あの子の才能は、ゲーム製作だけで終わるものではないと存じます」

「ふむぅ……。でも専属は交代制だし、彼女だけ時間を長くとるのは」

「いっそ専属から外しましょう」

「へ?」

「ミラが専属だから、時間がとれないのです。秘書にしましょう。そう、秘書に」


 リリアンヌの専属は、現在四人おり、交代制で彼女のお世話係をしている。

 クリストフ家の一般使用人とは違い、専属には専属の仕事がある。

 だが、その仕事は世話をする相手であるリリアンヌの要望を叶えることではない。

 自分の都合で彼女たちを動かすには、雇い主であるクリストフ家現当主か、彼女たちへ自分で交渉しなければいけないのだ。

 個別交渉の場合は、当然ながら仕事の合間を縫っての話となるため、専属たちへかかる負担も増えてしまう。


 今回の場合、世界の隣の森行きで発見したミラの才能が目をみはるものであったのもあり、スカーレットが提案したのだ。

 彼女の才能をこのまま埋もれさせてしまうのは非常に勿体無い。

 元々、ミラは使用人としても突出したものはもっておらず、専属になれたのもリリアンヌのお気に入りというだけの話だ。


「――つまり、彼女は専属ではなく秘書にすべきと愚行致します」

「うーん……。悪くないと思うけど、まずはやらせてみてからでもいいんじゃない?」

「そうでございますね。ではさっそく呼んで参ります」

「よろしくー」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……ミラ、あなたは今日から専属を解除して、私の秘書です」

「は、はひぃ!」


 こうして、スカーレットの読み通りにミラは非凡な才能を見せつけ、無事リリアンヌの秘書という立場を手に入れることになる。

 その後は、スカーレットが図面を引き、それをミラが製作するという工程を経て、いくつもの機器が開発されることとなった。

 ただし、リリアンヌがいくつか制限を設けたことにより、魔術隆盛のオーリオールにおいてこれらの機器が世にでることはなかった。


 だが、悪しき種族の魔術無効化は製作された機器にはまったく意味をなさなかったため、調査は順調に進んでいる。

 とはいっても、基本的には科学的アプローチによる調査と実験であるため、結果が出るには非常に時間を要するものになった。

 まだまだ、リリアンヌが作る魔術には及ばない。

 だが、スカーレットがこの程度で本当に満足しているわけがなく、彼女はさらなる要望を実現するために虎視眈々と機会を伺っている。


「次はパワードスーツあたりを作ってみたいですね」

「ぱわーどすーつ、ですか?」

「着ると、あなたでもニージャや私並に動けるとてもすごい服のことです」

「それは凄いですね! 私も着てみたいです、先輩!」

「では、ふたりでお嬢様の説得をしましょう」

「応援してます!」

「ふたりで」

「応援してます!!」

「ふた」

「応援だけさせてください!」

「……あなたもだいぶ私たちに染まってきましたね」

「そ、そうでしょうか……」

「その調子で頑張りなさい」

「はい!」


 ミラとスカーレットの明日はどっちだ。



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