216,実験と拘束
未確認生命体は体積がかなり小さい。
昨日様々な手段で調査した結果では、妖精族程度の大きさだと思われるところまではわかっていた。
魔術を無効化する手段を持っているとはいえ、物理的な現象に対してまでは影響を与えることができないらしい。
気づかれないように、魔術を無効化している範囲へと事前に自然にみえる程度に風を流し、葉っぱなどを風にのせて送り込んでみたりと、かなり慎重に慎重を重ねて調べたのだ。
そして、その調査の中でわかった一番重大なことは、相手側が使っている魔術無効化の手段というものが、霧の特性をもっていること。
霧の特性として、強風などで流されやすく、分散させてしまうと魔術無効化の能力が極端に弱くなる。
空間を私の魔術で満たしてしまえば、魔術無効化の能力のほどがよくわかるようになる。
探査魔術を常に使用しているのがカモフラージュとなり、どれだけ魔術で空間を満たしていても不思議に思われなかったようだ。
魔術無効化を持つ彼らはどんな魔術でも無効化してしまえるのだから、恐れることもないようだし。
霧という言葉だけでも、ミーライルオリルの言っていた白い霧という彼女の世界を侵略している存在が思い浮かぶ。
そして、妖精族と同じくらいの大きさ。
ミーライルオリルは、最初に妖精族を見た時にすぐに戦闘態勢を取った。
彼らを悪しき種族と間違えたとも言っていた。
「相手は悪しき種族という存在なのでしょうね」
「問題はなぜ私たちを襲ってきたのか、でございます」
ミーライルオリルがいた世界で彼女たちが敵対していた悪しき種族。
魔術無効化が霧と似たような性質を持っている点からも、白い霧と何らかの関係性があるのだろう。
ミーライルオリルから聞き出した情報では、悪しき種族は嘘つきで面倒な種族らしい。
魔力を結晶化し、戦闘能力を飛躍的に高めることができる竜族にとって、魔術を無効化する能力ではあまり効果がなかったのかもしれない。
だからこそ直接的な手段ではなく、間接的に攻撃をしていたのだろう。
そうしたことで、竜族にとっては面倒な相手と認識されていた可能性がある。
戦闘は直接戦うことだけではないからね。
情報戦や妨害を主とする場合、科学よりも魔術が発達していた場合、魔術無効化の能力というのものはかなり厄介だ。
実際に、ミーライルオリルの世界も魔術がある程度発達してはいたが、科学はさっぱりだった。
文明の発達度合いはオーリオールの方がまだ高いように思えるくらいに。
そんな世界で魔術を無効化されてしまえば、相当な戦力ダウンだろう。
ミーライルオリルの話では、竜族以外は悉く何もできていなかったらしいし。
「ていうか、ここになんでいるんだろう?」
「ミーラにくっついてきたとか?」
「むしろ、ミーライルオリル嬢が世界の隣の森に流されたのは悪しき種族のせい、といわれた方がしっくりくると存じます」
そもそも、竜族の秘術である次元間移動魔術の行き先はオーリオール。
次元間移動魔術を改良している私はよくわかるのだが、行き先はそう簡単に変更できるものではない。
少しでも座標やらなにやらが変われば、どこかまったくわからない空間や次元に繋がってしまう、とても危険でデリケートな魔術なのだから。
だが、間接的な戦闘手段が得意な悪しき種族ならもしかするのかもしれない。
ならば……その知識が欲しい。
「あー……。ていうか、狭くね?」
「我慢して、クティ。私たちの方がもっと狭いんだから」
「レキ、もう少々丸まれませんか?」
「わふー」
「無理だってー」
「そうでございますか」
最初に構築した逃走防止の土のドームはかなり大きく作ってあるが、そのあとに作った防御用のドームはぶっちゃけ狭い。
レキ君が丸まってぎりぎり入れる程度。
もちろん私たちは丸まったレキ君の上に避難するしかなく、かなり狭い。
空気なんかも完全に遮断しているので、宇宙服魔術を全員にかけていないとすぐに窒息するくらいなのだ。
私には必要ないが、他のみんなには必要なので魔術で明かりも完備している。
もう少し大きく作れば快適なのだけれど、強風でのダメージを考えるとあまり大きくするのも強度的に問題がある。
それに、先ほどの強風で悪しき種族を無力化できると決まっていたわけではないので、今後の防壁としても役立ってもらわねばならない。
魔術を無効化されるのは本当に面倒だ。
「できれば情報を引き出せる程度に無力化したいけれど……」
「まだ何を隠しているか不明でございます。お嬢様、慎重にお願い致します」
「だね」
強風に煽られて、悪しき種族が放った魔術無効化の霧はすでに払われている。
しかし、悪しき種族は魔術無効化の霧を全身に纏っている状態がデフォルトなのか、外側のドームの壁に叩きつけられて動けなくなっている状態でも探査系魔術を無効化している。
あの霧をなんとかしなければ相手を詳細に調べることも難しい。
スカーレットが言うように、何をしてくるかわかったものでない以上は慎重に事を進めるべきだろう。
「では予定通りといこう。リリー、いいな?」
「はい、よろしくお願いします」
「まあやるのは私なんだけどねー。ほいじゃいっくよー」
土のドームに覆われているのでこちらの視界は完全にゼロだが、悪しき種族の位置はわかっている。
魔術を無効化されても探査系魔術でそれ以外はわかっているのだから、位置を特定することなど容易い。
相手が魔術を無効化してくるとわかっている以上、やり方などいくらでもあるからね。
対策はいくつも考えてあるが、まず試すのは魔術無効化の性能についてだ。
性能がわかれば、対策もさらに立てやすくなる。
まだまだわからないことの方が多い現状では、ひとつひとつ明らかにしていくしかない。
そのための逃走防止の土のドームなのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ふむ。G32の112ではだめだな。よし次」
「えー! 少しは休ませてよー! もう何時間ぶっ通しなのさー!」
「クティ様、まだ二十分程度です」
「まじでー!?」
昨日のうちに用意しておいた実験用魔術を順番に試してもらっているが、そのことごとくが無効化されている。
無効化される端から畳み掛けるように同じ魔術を発動させても、クティの魔術処理能力の方が負けるくらいにあの霧はとんでもない性能を持っているのだ。
だが、おかげでわかったこともある。
「サニー先生、G34の77から89までを試してみましょう」
「物理的条件を絡めた魔術か。やはり魔術だけでは無理か」
実際に、物理的な強風で霧を払ってしまえば一時的に魔術無効化を止めることはできる。
先ほどまでやっていたのは、あくまで性能テストだ。
クティほどの魔術師が処理能力で負ける性能なのだ。これ以上、魔術のみに頼ったテストは意味がないだろう。
ならば、あとは効率的な対処方法の模索となる。
物理的な強風で霧を吹き飛ばすのは、拘束手段としてはいまいちなのだから。
実験をしている間にも、悪しき種族も多少の抵抗はしていた。
だが、その全てが弱々しいものでしかなかった。
やはり情報戦や間接的な戦闘に特化している種族なのだろう。
魔術無効化はすごいが、それ以外はほとんど無害に等しい。
ミーライルオリルが嘘つきだとも言っていたので、そちらでの妨害工作が意味をなしていないのも大きいだろうけれど。
まあぶっちゃけ言葉が通じないので、何を言っているのかわからないから情報戦も何もないのだ。
それに、土のドームは物理的防御の他にも音なども遮断してしまうので、こちらに声が直接届かないのもある。
音声も映像も魔術で拾ってはいるから、間接的には届いているんだけれどね。
「クティ、休憩は終わりだ。G34の77からいくぞ」
「もうちょっと休ませてよー。ぶーぶー」
「疲れてるところごめんね、クティ」
「リリーは悪くないよ! 悪いのは全部あの悪しき種族ってやつだよ! 魔術無効化とかしゃらくさいことしてー! まったくもー!」
丸まっているレキ君の頭の上をゴロゴロしていたクティが、ぷりぷりしながらも次々と魔術を行使していく。
やはり、物理的条件を絡めた魔術ならばほとんど無効化できていない。
特にG34の84――地中から抽出した鉱石を成形して作った檻に閉じ込められてからは何もできていない。
魔術無効化の霧は、成形されて檻になっている石にはまったく意味がない。
やはり魔術を排した物理的な拘束が一番有効のようだ。
問題はこれらを破壊する手段を相手が持っているかどうか。
魔術を無効化する霧を出しているのがデフォルトのようだが、彼らが魔術を使えないと考えるのは早計だろう。
まあ、今のところ一度も魔術を使われた形跡はないのだけれど。
だが、確定していない以上は慎重に行動すべき。
理想は、破壊不可能なほど硬度を高めた隔離空間に閉じ込めてしまうことだが、そんなものを作ってしまったらおそらく動かせなくなってしまう。
実際に今私たちがいる土のドームは動かすことができないからね。
それに、私たちはオーベント王国に帰る途中なのだ。
いくら情報がほしいからと言っても、あまり悪しき種族に構っていられる時間はない。
とっとと無力化して妖精族に引き渡して、そちらで情報を引き出してもらうべきだろう。
まあ、その無力化方法を今調査している最中なのだから、仕方ないのだけれど。
「さあ、もう少しだよ、クティ! 頑張って!」
「まっかされおー!」
でも、そろそろナターシャに連絡をいれておいた方がいいかな。




