215,未確認生命体とB6の23
「お嬢様、もうすぐ到着するようでございます」
クティとの愛を確かめていれば、目的地まであっという間についてしまった。
もう少しゆっくりでもよかったのに。
だがまあ、ついてしまったのなら仕方ない。
目的地は当然ながら、オーリオールから世界の隣の森にやってきたあの場所だ。
しかし残念なのは、結局電波塔の調査ができなかったことだろうか。
まあ、その代わりに新幹線の調査でミーライルオリルに出会えたのだから差し引きではこちらの方大きいだろうか。
それに、次の機会もあるだろう。
車の速度が緩やかに落ちていくのに合わせて、車内でも下りる準備が始まる。
未だに車に慣れないミラが白目を剥いて気絶しているので、さくっと魔術で覚醒させたりしないといけないのだ。
今回の世界の隣の森行きで、特にミラについて色んな事がわかった。
普段専属として、もふもふ要員として、私に尽くしてくれる彼女だけれど、やはり知らないことは多い。
彼女の才能の一端も今回みることができて、非常に有意義だったといえよう。
クティパッドの存在は、遅かれ早かれクリストフ家の皆には知られることになるだろうけれど、使用人たちまで自由に使えるようになるかは正直なところ無理だと思っている。
何せクティパッドはひとつ作るのにもそれなりの労力がいる。
さらに基本バッテリーとして、レキ君産のエーテル結晶がいるし。
今回ナターシャたちに貸し出した物は事前に必要になるだろうと用意していたものだけれど、実は数はそれほどではない。
貸し出していたものなので、当然返してもらってもいる。それを流用してクリストフ家で使用してもいいけれど、もう少し時間をかけて使いやすくしたいところだ。
汎用性が高い反面、使いこなすには時間がかかるからね。
それならもっと専門分野に特化させた方がいいだろう。
特にクティパッドは、魔道具として時代を先取りしすぎている。
まだ魔力で動く車を作ったほうがマシなくらい、オーバーテクノロジーだと思っているほどだ。
だから、ミラがああいう分野で才能を開花させることができたのは非常に稀なことだったのだろう。
学術都市と呼ばれるほど学校が多く、一般的な平民であっても学べる環境が整っているオーベント王国でも、自分の望む職種につくというのは割りと難しい。
しかも、首都であるオーベントから離れれば離れるほど、学べる環境は減っていくのだ。
まだまだ生前の母国のような、義務教育が普及している国とは比べ物にならない。
それでも、オーベント王国は他の国に比べて圧倒的な識字率と学校の多さを誇っているのだ。
そして、クリストフ家の使用人は全てお婆様たちの経営する学校の卒業生。
読み書き計算は必須である。
クリストフ家は、伯爵家だからね。使用人も当然ながらそれなりのものでなければいけないのだ。
……まあその読み書き計算ですら、生前の母国でいえば小学生レベルのものなのだけれど。
ともかく、今回のミラのように、埋もれた才能が転がっている可能性は結構高い。
だが、ミラのように突出した才能でもない限りは見つけるのに時間がかかるのも事実だ。
さらには、クティパッドで見つけられるような才能ばかりとは限らないしね。
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「それではクリストフ様、我々はこれで失礼致します」
「ええ、ありがとうございます。気をつけて戻ってください」
次元間移動魔術を起動する前に、送迎してくれた妖精族を見送る。
この時こっそりと、色々な魔術を起動しているが、彼らがそれに気づくことはないだろう。
気づかれないようにしているのだから当然なのだけれど。
起動している魔術は、基本的に防御系や隠蔽などの魔術だ。
理由は色々あるが、彼らには無事に妖精族の街まで戻ってもらわねばならない。
恐らくはこれらの魔術は意味を為さずに終わるだろうけれど、無論そうなった方がいい。
あくまでもこれは保険にすぎない。
「リリー」
「B6の23でお願い、クティ」
「了解!」
送迎の妖精族たちと車が十分に離れた段階で、事前に打ち合わせていた通りに行動を開始する。
今日はもうあとはオーベント王国に帰るだけのはずだったのだが、残念ながら全て予定通りというわけにはいかないようなのだ。
「展開完了! B6の23起動! とじろごまー!」
クティの起動合図と共に、大地がめくれ上がり巨大なドームを形成する。
私たちを閉じ込めるように作られた巨大な土のドームは、半径二百メートルにも及ぶ巨大なものだ。
魔術起動からドームの完成まで、たった数秒というのもクティだからこそできることだろう。
私がやった場合は、確実にこの倍はかかる。
さすがクティ。世界の隣の森最強の魔術師の称号は伊達ではないのだ。
「相手側は混乱しているようでございます」
「気づかれているとは思ってなかっただろうしね」
「だが、リリーの探査魔術でもなければ発見できなかっただろうな」
「ええ、魔術自体を無効化していますからね。あれらは」
土のドームの中には、私たち以外には未確認の生命体が四体存在している。
そしてその四体全ての生命体は単体で、魔術を無効化するという恐るべき特性を持っている。
この未確認の生命体を発見したのは、昨日だった。
ミーライルオリルに懐かれ、色々と情報を聞き出している最中に、視覚膜の拡張された外側ぎりぎりに空白ができたのだ。
私の視覚膜は、探査魔術で得られた環境データを何十ものフィルターを通して映像化している。
当然ながら、データが得られなければ映像化はできない。
環境データの取得は魔術で行われているが、視覚膜の拡張された外側ぎりぎりの範囲は、取得できる限界の距離でもあるので、情報がうまく取得できない場合も多い。
だが、闇の視察を行なった際に、魔術を無効化されるという経験をしている私は違和感に気づくことができた。
これは、距離による情報取得ミスではなく、魔術を無効化されている、と。
それから慎重に調査した結果、魔術を無効化している個体が四体いることがわかり、それらが私たちを探っていることもわかった。
だが、相手側もかなり慎重に動いているようで、常に私の探査魔術の限界距離ぎりぎりまでしか近寄ってこない。
調べていることを気づかれて逃げられても困るので、私も積極的には調査できていないため、詳しくはわかっていない。
だが、常に探査魔術を使用しているという状況が私に有利働いた。
未確認の生命体たちは、魔術を無効化できるが、無効化している魔術を判別はできていない。
常に探査魔術を使用しているため、探査魔術に紛れて違う魔術を使っても特に逃げられるようなこともなかった。
相手側は、魔術を無効化できる。
それはつまり、魔術に特化している私にとって天敵ともいえる存在だ。
だが、事前に闇という規格外の存在を直接視察できたのが大きかった。
魔術を無効化できるとはいえ、果たしてそれは無敵であるといえるだろうか。
答えは当然、ノーだ。
「魔術無効化範囲が拡大。侵攻スピード低。クティ、C8の12を」
「ラジャー!」
土のドーム内は、すでに私の魔術で満たされている。
相手は魔術を無効化しながら動いているために、丸見えだ。
だが、魔術の無効化をやめればすぐにデータが集まってくる。
私がドーム内を満たした魔術は、全て情報収集に特化している魔術なのだから。
無効化されても最低でも、相手の動きはわかるという寸法だ。
それに、相手側が使っている魔術無効化の手段は検討がついている。
「準備完了! 発射ー!」
クティの準備が完了し、土のドーム内が一瞬にして撹拌される。
それは、まさに局所的な台風。
魔術によって作り出された暴風は、発生するまでは魔術が必要となるが、それ以降は全て物理現象だ。
魔術を無効化する手段があっても、魔術によって作り出された物理現象を無効化することはできない。
すでに昨日実験しているので、別の手段でも使われない限りは有効な手のはずだ。
無論、私たちも暴風の影響を受けてしまうので、そこは事前に防御系の魔術を展開して耐える。
魔術を無効化する手段でこちらの防御を破壊されてしまうことも考慮しているので、防御には物理的手段も絡めている。
……土のドームの中にさらに強固な土のドームを作っているだけだけれどね。
無論、最初に展開した土のドームも、逃走の阻止を物理的手段で行なうためのものだ。
魔術で強固に固めたドームとはいえ、一旦固めてしまえばもはや物理的障害でしかない。
強度も凄まじいものがあるので、全てが終わって脱出する際には面倒なことになるけれど、そこは仕方ない。
だが、それは終わってからの話だ。
収集されたデータが、拡大していた魔術無効の範囲が消滅していることを示している。
やはり、予測は正しかったらしい。
では、次の段階といこうか。




