23,妖精と初めての・・・と Part,6
熱が出てから5日目。
目が覚めるとエナが窓拭きをしていた。
クティはまだおねむさんのようだ。
なにやら苦悶の表情で。
「すべすべまんj――」
と意味不明だ。
きっとゴニオトキシンを食らっているか、テトロドトキシンでも食らっているのだろう。
もしくは、例の恋の歌でも歌われて " すべすべすべまんじゅまんじゅう " とでも言われているのだろう。
あれは中毒性があるからな……。
二重の意味で有毒蟹だ。
寝惚け眼でぼーっとエナを眺めていると、クレアがやってきて朝の挨拶と自分の額にキスしてくれる。
エナもクレアが入ってきたことで、自分が起きていることに気づいて額にキスしてくれる。
そういえば、額のキスと頬のキスには違いがあるのだろうか?
まぁ結構どっちも適当にされてるから、あまり違いはないのだろう。
されすぎてもう訳分からんわ。
エナにキスされた後に、ランドルフ医師が入室してきた。
今日も診察してくれるようだ。
ちなみにご老人からのキスはない。
あったとしてもご遠慮したい。
いつも通りに額に手を当てた後に、口の中を見て、触診して診察は終了のようだ。
相変わらず聴診器とか使わないし、こっちの医療技術が心配だ。
触診でもかなりのことがわかるらしいのだが、往診しているのだから大掛かりな医療器具は当然持ち歩けない。
それでも聴診器くらいはあってもいいのではないだろうかと思ってしまう。
医療に関してはほとんど知らないので、よくわからないがこの前の " 癒しの青光 " とか言うのが医療器具か、もしくはそれに近い物で。
" 神に祈って傷や病を治して貰う "
とかそういう他力本願な不確かな物でないことを祈るばかりだ。
もちろん、神様に祈っておいてやったぜ!
「問題なしですな、完全に体温も元に戻っているようですし、今日様子見をして問題なければ完治ですな」
「先生、では食事の方は通常の物に戻しても大丈夫ですか?」
「うむ、問題あるまい。
ただし、病み上がりなので八分目に抑えるように。
それと昨日と同じ薬を出しておくので、しっかり飲ませるようにの」
クレアに問題ないと告げるご老人に、エナが食事について聞いてから朝食を取りに向かう。
今日からやっと通常のメニュー解禁のようだ。
まぁまだあの苦いのは飲まないとだめなようだが。
ご老人の話を聞いてからのクレアの安心したような、でもまだ少し心配の残った顔が近づいてくる。
「リリーちゃん……お母さんは今日もお仕事に行かないといけないの……。
大人しくして、エナの言うことちゃんと聞くのよ?
でも、寂しくなったらすぐにエナに言うのよ?
何があっても騎士団全員壊滅させても帰ってくるからね?
……あぁ~リリーちゃん~ママ行きたくないよ~。
うぅ~」
クレアの子煩悩な様子を見て、ご老人が穏やかに微笑んでいる。
騎士団なんていたのか……そんでそれを壊滅させても帰ってくるのか。
うちのお母ちゃんは、はんぱねーっす。
何度も何度も額にキスして、額と額を合わせてじーっと心配そうな寂しそうな瞳を、濁った瞳に向ける。
心配させてしまったなぁ……と申し訳ない気持ちになるけど、突然だったし兆候もなかったので対策のしようもなかったしな。
それに熱以外は特に問題もなかったし、不幸中の幸いってやつだろう。
赤ん坊は熱なんて結構出すしな。
テオやエリーの時は熱を出さなかったんだろうか?
こんなに心配しているとそんな気がする。
それとも、目が原因で病について過敏になっているのだろうか。
それが可能性が高そうだとあたりをつける。
名残惜しそうに、抱きしめたり額をくっつけてすりすりしたり、キスしたりしていると、エナが戻ってきていた。
エナがそろそろ行かないと……と言うが、クレアは自分を抱きしめたまま首をふるふるする。
クレアのいい匂いとさらさらの髪がちょっとくすぐったかった。
「……もぅ…… " 魔闘演 " も近いんだから、あなたには頑張ってもらわないといけないのよ?
リリーのことは私に任せてあなたはあなたの出来ることを頑張ってきなさい」
「…………はぃ……」
本当に名残惜しそうに抱きしめていた腕を、ゆっくりと緩めベビーベッドへと戻してくれる。
最後に額にキスして寂しそうだが、それでもしっかりと笑顔を作って " いってきます " と言ってクレアは仕事に向かっていった。
陰が濃くなるくらいにしょんぼりしていたのは致し方ないだろう。
" 魔闘演 "
また知らない固有名詞が出てきたので、あとでクティに聞いてみるかと埃塗れの棚に追加しておく。
当のクティさんはというと。
「汚物は消毒だぁぁあ~~」
夢の舞台は世紀末に移ったようだ。
体調もばっちりだし、病み上がり特有の気だるさもない。
元々、熱以外は特に問題もなかった程度のものだ、当然といえば当然かもしれない。
しかし、赤ん坊の体は免疫力や抵抗力も低い。
過信は禁物だが、だからといって慎重にしすぎるのも、暇で暇でストレスがマッハだ。
そろそろ、魔力訓練解禁かなぁーと未だ夢の世界の住人を見る。
「なっ!、何するだァーーーッ」
世紀末から一転、19世紀の某英国くらいまで戻ってしまった夢の舞台のせいか、劇画調の顔に変貌しているいつもの愛くるしいドヤ顔は見なかったことにした。
朝食はどろどろだった病人食から、いつもの離乳食を少し細かくしたような感じに替わった。
多少歯ごたえ的に、食べ応えがあった。
はむはむしていると、波紋を極めたクティさんがお目覚めになったようだ。
石仮面は無事倒せたのか聞きたかったが、野暮なことはやめておくことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【そろそろ魔力の訓練を再開してもいいと思うんだけど、どうかな?】
朝食を食べ終わって、少し腹ごなしにごろごろしたあと、一緒にごろごろしていた妖精さんに聞いてみる。
「治ってからじゃないとだめー」
物理的にごろごろしながらのクティ様。
【さすがにもう大丈夫だよ?】
「だめ~」
【熱も平熱っぽいし、病み上がりのようなだるさもないし、そもそも熱以外は全然平気だったんだよ?】
「……むぅ~~」
物理的にごろごろするのをやめて、妖精様が難しい顔で空中で胡坐をかきながら滑っていく。
【じゃぁ……ちょっとだけ!】
「むーぅ」
【お願い!】
まだ難しい顔をするクティに最後の駄目押しとして、ちょっと大きめに装飾まで入れた看板で表示してお願いしてみる。
「……ほんとにちょっとだけだからね?」
溜め息を吐いて、しょうがないなぁといった感じで折れてくれる妖精様。
最後の最後にはこっちの言うことを聞いてくれる優しいドヤ顔様だ。
今はドヤ顔ではないけど。
【ありがとう、クティ 大好きだよ!】
「……っっっ!!!」
ちょっと大げさにお礼を言うと、ドヤ顔様が目を見開いて硬直してしまった。
そんな小さな彫像は放って置いて、久しぶりの魔力訓練にちゃんとできるかなぁ~とわくわくどきどきしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
5日も魔力訓練しないなんて、生まれて初めてだ。
まだ生まれて1年ちょっとだけど。
ちゃんと出来るかちょっと心配だったけど、杞憂だったようだ。
まずは、体の内側で大きな魔力を作り、切り離す。
魔力は物理的な体積を持たないようで、どんなに大きくしても体の内側より大きくはならず、自分の意思がなければ外に出ない。
それでも大きくなっているという、量を増やす感覚がわかる。
切り離した大容量の魔力を、外側へ。
もう感じることも難しいくらいの消費で外へ一瞬で出る魔力達。
放出した魔力は大体1m弱くらいの大きさの立方体に形を成形しておく。
天井に配置されているだろう、魔力の通っている照明まで目測3mくらいだろうか。
結構高い天井近くまで到達するほどの高さに魔力の立方体を誘導する。
触れても別に感触などはないが、念のためだ。
この部屋には自分ひとりじゃない。
今はエナが軽く掃除中だ。
もちろん、箒なんかは使わず雑巾か何かで擦るようにしている。
ふかふかの絨毯なんかも同じように掃除しているのだが、あれは本当に雑巾なのだろうか?
そんなエナをチラ見して、魔力に気づいてないのを確認してから、大放出した立方体型魔力を少しずつ制御していく。
制御する回数が増加するにつれ、放出された魔力の量が少しずつ減っていくのがわかる。
量が減っても意図的に成形しておけば体積が変わらないという、不思議物体が魔力だ。
立方体を八面体に、十二面体に、そして球体に。
球体にしたあとは、細かく制御していく。
伸ばしたり、縮めたり、太くしたり、細くしたり、薄くしたり、濃くしたり。
そして、制御速度を徐々に上げていく。
伸ばした魔力を枝分かれさせ、それぞれに違う形を形成していく。
部分部分で硬度を変化させ、最後には少し大きめのユグドラシルの大樹のような形で制御を止める。
うん、我ながらいい出来だ。
その後、細かな制御を放出した魔力量が底を尽きるまで続ける。
放出された魔力量が底を尽くと、一瞬で全体が薄くなり消滅した。
消滅を確認すると、すぐに次の魔力を内側で作り出し放出する。
同様の制御を作る形を変えながら、何度か行いこれで " 準備運動 " は完了だ。
さてこれからが本番、訓練という名の制御はここからだ。
内側で集める魔力の " 濃度を濃く " しながら、どんどん集めて " 縮めて " いく。
濃度を濃くし、縮めていくと魔力が " 圧縮 " されていく。
圧縮された魔力は " 力強さ " を遥かに増す。
魔力の力強さというのは、感覚的なもので具体的には何がどう力強くなっているのかはわからない。
ただ、それでも感覚的に力強いと明確にわかるほど力強くなっていく。
圧縮した魔力をさらに圧縮していく。
圧縮されることにより、感覚的に小さくなっていくのを感じながら、内側の魔力をどんどん集め圧縮していく。
この魔力の圧縮を発見したのは、アレクの誕生日会辺りだったのだが、その頃は軽く圧縮するのが精一杯だった。
圧縮すると魔力を追加して圧縮したり、制御しようとすると著しく困難になる。
それでも圧縮をする利点は、ただ放出するより圧縮した魔力の方が消費する魔力が " 遥かに大きい " という点だ。
総量の増加の為の作業に関してだけは、勉強中もずっと欠かさず行っていたので懸念していた通りに、大放出を何度も続けた程度では、魔力の総量が2割を切る事が難しくなってしまった。
そこで発見した魔力の圧縮の出番というわけだ。
大放出では先に体力の方が尽きるのだが、圧縮のおかげで効率が遥かによくなった。
最初の頃は圧縮による制御の困難さが厳しかったが、慣れの問題だったのか、ある程度繰り返した結果今では、圧縮に圧縮を重ねどんどん圧縮率を上げていくことも可能になっている。
体積的に部屋をまるまるいっぱいに出来る分の量ー魔力に体積なんてないがーを、指の爪の半分程度の大きさまで圧縮する。
ソレを放出し、通常の放出制御訓練に移行する。
放出さえしてしまえば、あとは普通の放出後の制御の難易度をあげた程度のものだ。
制御が難しかったのも昔……というほど昔でもないが、過去の話だ。
圧縮前の放出量を考えると、実際の制御回数は半分以下になる。
だが、それでも圧縮にかかる時間も考慮に入れても、遥かにデメリットを上回り余りある効果となる。
" 魔力の消費が遥かに高いこと "
これが現在の圧縮のメリットだ。
他にも何かメリットがあるといいのだが……現在は魔力も利用法が文字と一部の身体強化しかないため、なんとも望み薄だ。
圧縮した魔力を放出し、細かく高速に制御して消滅させる。
これを10回くらい繰り返した頃だった。
「訓練終わりー!
ちょっとだけっていったでしょー!」
ぷんすか妖精さんがチョップしながら言ってくる。
ちょっと調子に乗ってやりすぎたようだ。
ごめんごめんと文字を作って謝っておいた。
熱が出る前は圧縮放出訓練は100回以上やってたんだけどなぁ……。
そのあとはぷんすかさんと一緒にごろごろとベビーベッドの上を転げ回り、お昼を食べてからちょっと長めのお昼寝をした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目を覚ますとテオとエリーが横から素敵な笑顔で覗いていた。
「おはようリリー」
「よく眠れたかしら?寝顔がとっても素敵だったわよ?」
寝顔をずっと見ていたのだろうか、二人ともとても嬉しそうな満足げな感じだった。
今更寝顔を見られたくらいでは動じない。
最早、その程度で動じていてはこの家では生きていけないのだ!
学校の話を二人が少ししてから、今日もこの部屋でお勉強のようだ。
エナももう諦めたのか、別段何も言わない。
むしろ、わからないところがあったら一緒に悩んでいるくらいだ。
エナはどうやら勉強が苦手のご様子。
小3以下の勉強なのになぁ……。
今日も今日とて朗読もなく、訓練も終了してしまったので暇で暇でベビーベッドの上をごろごろごろごろ。
クティも一緒にごろごろごろごろ。
ずっとやっていると何気に楽しくなってくる。
何でも楽しめてしまうのは子供の特権なのだろうか。
頭脳は大人のはずなのになー。
そんな自分の様子を見て、テオとエリーとエナの3人は微笑んでいる。
勉強しなさいよー君たちーとごろごろし続けた。
やっと初めての・・・とシリーズ終わりです
6回に分ける必要があったのかどうかは・・・まぁ人生色々です
ご意見ご感想お待ちしております
3/4 誤字修正
3/9 句点、文頭スペース、三点リーダ修正
3/10 禁則処理修正
4/16 誤文章修正
5/3 誤字修正
2017/4/26 誤字修正




