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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
238/250

212,隔離施設と来訪者

本日、書籍版『濁った瞳のリリアンヌ』発売です!

発売記念に三話投稿ですよー



 隔離施設は、私たちが滞在している妖精族の街から多少離れた場所にあるということで、移動用として闇の視察を行なった垂直離着陸が可能な飛行機がまた使われることになった。

 新幹線であった漂流物は街からそれほど離れていなかったので魔術で連絡をつけることが可能だったが、隔離施設は距離の問題で無理がある。

 やはり長距離に対応した魔術の開発は急務だろう。


 魔術による通信手段が使えないということで、ナターシャと急遽集められた妖精族たちと一緒に隔離施設へ向かうことになった。

 拘束している魔道具は私が開発した術式を使っているし、相手が相手なだけに私とクティの両方が同席していた方が安全だ。

 そもそも安全を考慮するなら行かない方がいいのだが、移送しているのはスカーレットなので、彼女の安全を守るため仕方ない。


 持たせている魔道具などを駆使すれば、彼女の身体能力なら逃げおおせるくらいはできると思う。だが、逃走を前提としなければいけない状況というのが、最初から間違っているのだ。

 私とクティが一緒ならば、データを参照した限りにおいてあの竜族の好きにさせるようなことはないだろう。

 無論、収集したデータだけが全てではないのはわかっている。

 だが、片や世界の隣の森最強の魔術師。私はその弟子なのだ。

 自惚れではないが負ける要素はない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 垂直離着陸の可能な飛行機はどうやら複数製造されていたようで、スカーレットたちが乗っているものとは別の飛行機に私たちは乗って移動している。

 残念ながら今回も大きさの問題でレキ君はお留守番だが、クティパッドも禁止中なのでミラと一緒に留守番をさせておけば大丈夫だろう。

 まあ、どちらにしてもレキ君は飛行機に乗れないので、自力で追いかけてくる以外に連れて行く方法がない。

 ミラはミラで飛行機は明らかに無理そうだし……。

 それに、汚名返上の機会を与えてあげることも大切だし。

 まさか、二回連続でやらかしたりはしないだろうしね。しないよね?


 目的地である隔離施設へは私たちの方が先についた。

 場所的にこちらの方が近かったのもあるが、拘束しているとはいえ、慎重を帰さねばならない状況でもあるので、あまりスピードを出せなかったというのもあるようだ。


 隔離施設は、ドーム状の巨大な構造物だが、どうやら地下にさらに広大な空間が存在するようだ。

 収集されたデータを検分すると、魔術的物理的問わずかなり強固な構造をしており、その中でも様々な状況に対応できる部屋が用意されているのがわかる。

 ナターシャが選んだだけはある施設のようだ。


 本来の目的は、漂流物で発見された物の危険性の把握のための実験場らしいが、強固な隔離施設としても機能させることができる。

 今回使う部屋は、特別に作られた隔離空間という話だし、データを見る限り、かなり特殊な部屋のようだ。

 物理的にも魔術的にも強固というよりは、吸収して無効化するタイプらしいので戦闘能力が高い脳筋タイプには天敵のような部屋だろう。


 まあ私のような情報収集に特化しているタイプにはほとんど意味がない部屋だけれどね。

 収集されたデータから、無効化する機能を無効化することができる魔術を組み上げられるのだから。


 施設のデータを閲覧している間に、スカーレットたちが乗った飛行機も到着し、さっそく隔離空間へと移送が開始される。

 私たちが降り立った場所は、正面玄関にあたる場所のようだが、スカーレットたちが降り立った場所は違う。

 彼女が運んでいるのは危険極まりない存在なのだから当然だ。

 さすがにそんな存在を正面玄関から入れるというのは、ありえない。

 直通のルートが用意されているので、そちらからとなるのだ。


 私たちもすぐに施設内に入り、会議室へと通される。

 この実験施設のほとんどの部屋は外部から見ることがほとんどできない。

 特殊な部屋が多いのはもちろんだが、元々映像を送信する技術が拙いのが原因だ。

 漂流物から様々な魔道具が開発されている世界の隣の森でも、通信分野においてはオーリオールよりも劣っているのは不思議な状況だろう。

 あちらには銀の眼という、遠隔への映像送信手段があるのだから。

 まあ、常用できるようなものでは決してないのだけれど。


 会議室へ通されたのも、私の魔術であれば隔離空間内であろうとも映像と音声を取得できるからだ。

 直接見に行くのはさすがに危険が過ぎるので却下だが、確認しないわけにもいかない。


 漂流物内で見つかった初めての生存者ということもあるが、それが危険な竜族であるというのが一番大きい。

 現状の世界の隣の森には、闇以外には妖精族を脅かす存在はいないらしい。

 だが、竜族はそうではない。

 まさに今妖精族は闇以来の危機的状況にあるといっても過言ではないのだ。


 とはいえ、相手はすでに拘束済み。

 隔離空間に閉じ込めてしまえば、脱出するのも生半可なことでは不可能なはずだ。


 あとはなぜあの場所にいたのか。

 漂流物との関係性など、聞き出したいことは山ほどある。

 それは当然ナターシャたち妖精族も同じだ。

 ここは世界の隣の森であり、その最高権力者は女王であるナターシャ。

 私たちが拘束など、様々なことに力を貸しているとはいっても主導権はあちらにある。


「では尋問官の準備はいいですね? よろしい。リリアンヌ様、拘束したまま対象を覚醒させることは可能ですか?」


 スカーレットの手によって隔離空間へと運び込まれた対象者01――竜族は部屋の中央で未だに意識を失った状態でいる。

 すでに部屋の状況を様々な角度からモニターできるように整えており、会議室にはその映像がいくつも映っている。

 ナターシャが連れてきた妖精族には、尋問を専門とした者もいたようで、すでに部屋には数名の妖精族がスタンバイを完了している状態だ。


 だが、何者も触れることすら叶わない拘束魔術がかかっている以上は、尋問どころの話ではない。

 しかし、隔離空間とはいえ拘束魔術を解くのはさすがに怖い。

 尋問官の妖精族も中にいることだし。


「恐らくは可能です。実行しますか?」

「お願い致します」


 相手が相手だけに、さすがに確約はできないが拘束魔術がかかっていても私ならば可能だろう。

 とはいっても、実行するのはスカーレットなのだけれど。


『スカーレット、YU23-1を使用してください』

『了解致しました』


 スカーレットが使用した魔道具は、痛みや刺激などで覚醒させるものではなく、対象の魔力に干渉して覚醒させる、身体的負担が低いものだ。

 これから尋問されるとはいえ、相手の体は小さい。

 そう、この竜族は子供と思われる大きさしかないのだ。


 ……しかも女の子なのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「わ、わたしになにをするきだ!」

「質問に答えてくれるならば悪いようにはしません」

「う、うそだ! おまえらようせいだろう! ようせいはうそつきだ!」


 覚醒を促されてから数秒で目を覚ました竜族の幼女だったが、拘束魔術で一切の身動きが取れない状況にパニックに陥った。

 目が覚めたら一切体が動かせない状態なのだから、それは当然だろう。


 意味がまったくわからない音の羅列を喚き散らし、拘束魔術を引きちぎろうと全身の魔力を結晶化させていたが、私の拘束魔術を破るには至らなかった。

 次第に状況を理解してきたのか、意味がありそうな言葉を発し始めたので、そこからは言語の解析作業になってしまった。

 尋問官が、いくつかの言語で意思疎通を図ってみたのだが、悉く言葉が通じなかったのだ。


 だが、幸いなことに似たような言語をサニー先生が知っていたので解析作業は比較的短い時間で終わらせることができた。

 妖精族の調査隊がオーリオールで出会ったらしい竜族は、こちらの言葉を使っていたようだが、彼女はそうではない。

 その竜族がオーリオールで学んだのか、こちらの竜族がまだ子供だからなのか。

 それは追々分かっていくことだろう。


 ともかく、拙いまでもなんとか理解できるようになった言葉を魔術で翻訳しながら尋問が開始されることになった。

 だが、竜族の幼女は完全にこちらを敵視しており、とても協力的ではない。

 それもそうだろう。

 どう見ても自身を拘束したのは目の前の者たちだし、自分がどこにいるのかもわからない。

 相手を信用なんてできないし、自分がこれからどうなるのかもまったくわからないのだ。

 不安と恐怖で泣き出さないだけ立派だと思う。

 何せ見た目は明らかな子供。

 私よりも少し上くらいの年齢にみえる程度なのだ。

 竜族の成長具合が通常の人種と同じならば、歳もそう変わらないはずだ。

 ただまあ、私の場合は精神年齢にプラス三十歳加算されるわけだが。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 尋問官が宥めること一時間(ハルス)弱。

 なんとか落ち着きを取り戻した竜族の幼女から、色々と聞き出すことに成功した。

 彼女の名は、ミーライルオリル。

 竜族の精鋭シーイルオリルの族長の娘であり、歳は七歳だそうだ。


 竜族が絶滅しておらず、生き残りが多く存在することにまず驚いたが、話を聞いていくうちにどうやら竜族は私の予想通りに別の世界の者たちのようだとわかった。

 彼女が話す地名や状況などから、オーリオールとも世界の隣の森とも異なることが多すぎたのだ。


 確定的だったのは、彼女の部族が戦っていた存在。

 それは世界を喰らい滅ぼす白い霧。

 世界の隣の森を喰らっている闇とはまた違った存在のようだが、すでに彼女の星も半分以上を喰べられてしまっていたようだ。


 オーリオールではそんなことにはなっていないし、世界の隣の森も白い霧ではなく、真っ黒な闇だ。

 つまりは別の世界の話ではないだろうか、というのが自然な答えとなる。

 漂流物の中で発見されていたり、次元間移動魔術を知っている私たちからすればそれは十分にありえる話だ。


 つまり、竜族とはオーリオールでも世界の隣の森でもない、別の世界からの来訪者なのだ。

 しかも、妖精族と同じように滅びようとしている星からの。


2017/4/20 矛盾を修正

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