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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
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207,惨状と調査隊同行



 今現在私の前には完全にひれ伏すレキ君と、土下座をしているミラがいる。

 惨状となっていた部屋は使用人の妖精族たちが魔道具を使ってすぐに片付けてくれた。

 ただし、家具に関しては運び入れるまでに少し時間がかかるとのこと。

 幸いなことにレキ君が尻尾でふっ飛ばした家具は、ソファーやローテーブルなどで持ち込んでいた荷物は無事だった。吹き飛んだ際に巻き添えになった調度品は残念なことになっていたけれど。


 事の発端は、ミラが作ったゲームをレキ君がプレイし、要望を次々に反映させていったことでレキ君のテンションが爆上げされてしまったことだった。

 ミラも矢継ぎ早に飛んでくる要望への対応が楽しかったらしく、クティパッドへ集中していてまったく気づかなかった。

 いやそこは気付こうよう、ミラ……。


 クティパッドを与えておけば、静かに留守番してくれると思っていた私がバカだったのか。

 だが、レキ君のテンションがここまで上がってしまうとは誰が予想できよう。

 確かにレキ君はゲームが大好きだ。

 それこそ生前の世界の子供たちのように……いや、私もゲーム大好きだったから子供だけじゃないか。

 そんなレキ君が今までプレイしていたのは、私が作ったゲームばかりだ。

 レキ君の要望は聞くけど、取り入れるかどうかは私次第。

 ユーザー目線の意見ばかり入れてもどうかと思うしね。

 それでもレキ君は毎回せがむくらいにはプレイしてくれる。


 だが、やはり自分の要望をふんだんに取り入れたゲームというのは、まさにレキ君の理想のゲームに近かったらしい。

 むしろどんどん近づいていっていたからこそ、私の言いつけを破ってしまうくらいのテンションになってしまったのだ。


 レキ君は言わずと知れた巨体だ。

 犬よろしく、気分のままに尻尾をぶんぶんと振り回せば、それはもう凶器でしかない。

 私どころか、大人だってレキ君の尻尾をまともに受ければふっとばされる。

 むしろふっとばされただけで済めばマシな方だろう。

 鍛えてもおらず、魔術で防御もしないならば怪我をするし、打ちどころが悪ければ死んでしまう可能性だって十分にある。

 それくらい大きいということは危険なことなのだ。


 だから私はレキ君にしっかりと教え込んだ。

 嬉しくても、感情に振り回されず尻尾を、全身のコントロールをするように躾けたのだ。

 でなければ今回のように、要らぬ被害を出してしまう。

 レキ君には窮屈な思いをさせてしまっているとは思うが、これは致し方ないことなのだ。


 ただ、今回は酌量の余地もある。

 まず、ミラでは完全にレキ君を抑えることができないとわかっていたはずなのに、彼女たちだけに留守番をさせてしまったこと。

 滞在している屋敷はそこそこ大きいとはいえ、レキ君からみれば狭い。

 そんなところにずっといれば、ストレスが溜まってしまうのも仕方ないこと。

 ミラがゲーム作りにハマっていたことはわかっていた。

 プレイヤーのレキ君からの要望を満たそうとすることは、ゲーム制作者としては当然のことだろう。

 どこまで要望を満たすかはその人それぞれだろうが、ミラはまだゲームを作り始めて間もない。

 レキ君という、色んなゲームをやりこんでいるプレイヤーからの意見ならば、試しに組み込んでみるのも勉強になるためやりかねないこと。


 よく考えればありえた状況なのだ。


 だから、素直に反省しているひとりと一匹を見るとあまり強くも言えない。

 でもここは借りている場所だし、何よりも私たちは世界の隣の森の女王ナターシャに招待されてきている身分。

 恥を晒していい身ではないのだ。

 それは同行者とて同じこと。むしろ同行者の立ち振舞によって、格を判断されかねない。


 妖精族はそんなことは気にしないとはわかっていても、やはり気をつけるべきだろう。

 私はクリストフ家息女なのだから。


 というわけで、ひとりと一匹へのお説教は少し長めに続けられた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「レキはしょうがないとしても、ミラがあそこまでハマるとはねー」

「本当に予想外だよね……。でも、気持ちはわかるなぁ」

「君が作るものは、興味深いものが多いからな。ゲームを作るためのアプリなど、その最たるものだ。専用に特化しつつも汎用性を考えられて作られたコマンド群。複数のフラグを一括管理し、各種個別にも拡張できる。だが、直感的な操作も可能なほどシンプルでもある。さらには――」


 お説教を終えて、落ち込んでいるひとりと一匹にはクティパッド禁止令を出してある。

 さすがにすぐにクティパッドを与えては反省にならない。


 サニー先生がゲーム制作アプリを手放しで称賛してくれる。

 でも、レキ君のために多くのゲームを作る手間を省くために作ったものだし、生前の世界にあったゲーム制作ソフトを真似ただけなこともあって、ちょっと恥ずかしい。


 それにしたって、ミラはちょっとハマりすぎの嫌いがある。

 生前の世界に生まれていたら、今の比じゃないくらいにどっぷりハマりそうで怖い。

 でも、オーベント王国に戻れば彼女にはメイドの仕事が待っているし、クティパッドは私たちと一緒のときにしか与えるつもりはないので、専属のときだけだろうから大丈夫だろう。


「お嬢様、明日のご予定ですが」

「あぁ、うん。ナターシャには妖精族の街の観光ではなく、漂流物の調査への同行をお願いしてあるから大丈夫のはずだよ」

「恐れ入ります」

「ううん。私も気になってるし、そもそも私たちの本来の目的はそっちだからね」

「でもリリーは行っちゃダメだからね! 漂流物は危険なものが結構あるんだから!」


 明日は妖精族の街の観光という話になっていたが、私からお願いして漂流物の調査へ同行させてもらうことにした。

 クティが言っているように私は同行できないが、そこはスカーレットに行ってもらうので問題ない。

 彼女には、いくつもの魔道具を使ってもらい、リアルタイムで情報収集をしたデータを私に送ってもらう。

 そこからクティパッドと視覚膜に情報を転写して、調査状況を把握するつもりなのだ。


 そのための魔術を今から組むが、調査予定の漂流物はそれほど遠くないということで、距離をあまり気にする必要がないのはありがたい。

 闇の視察に使ったような飛行機などを使って行く場合は、距離がありすぎて魔術の有効範囲外になってしまう。

 距離を延ばすには相応に改良を加えなければいけないので大変なのだ。


 ちなみに、今回の調査状況把握にはナターシャと漂流物調査の専門家も参加することになっている。

 今までは、調査を行い、戻ってきてから詳細な報告がなされるといった工程を取っていた。

 リアルタイムに状況を把握することが難しかったので仕方ない。

 魔道具製作技術がオーリオールよりも格段に優れているといっても、そういった方面はまだまだ技術的に問題があったらしい。


 でもそこに私という、情報収集系の魔術に特化しているともいえる者が現れた。

 何せ視覚膜には周辺の情報収集が必須だ。そりゃあ特化もする。


 今回私が作るリアルタイムで調査状況を把握するための魔術は、妖精族たちに提供することが決まっている。

 この条件で、スカーレットが調査隊に同行できたのだ。


 漂流物は、危険な代物がいくつかあり、戻ってこない調査隊もいくつもあった。

 戻ってきてから報告がなされるので、当然ながら戻ってこなければ情報がほとんど手に入らない。

 あの漂流物は危険、という程度の情報しか。


 しかし、今回私が作る魔術があれば、どういった状況で何が危険なのかがすぐにわかるだろう。

 無論、スカーレットを死地に追いやるつもりはないので、防御系の魔術も大盤振る舞いでいく。

 生前の世界でも最強を誇った戦術系弾頭の直撃を受けても、怪我ひとつないくらいにはガッチガチに堅めるつもりだ。

 まあ、実際にそんなものが爆発したら、距離的にここも危ないかもしれないけれど。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今まで使っていた情報収集魔術にいくつか拡張機能を追加し、ナターシャたち用のクティパッドを用意すれば明日の準備は完了だ。

 スカーレットに持たせる魔道具は、すでに準備してあるし、防御系の魔術などは出発前にかければいい。

 サニー先生にお願いして、私の術式を使った魔道具も準備してもらっている。


 エリオットよりも優秀な魔道具職人がいるのだから、どうせならと作ってもらうことにしたのだ。

 エリオットでも作れない魔道具が、ここならば比較的短時間で製作できてしまう。

 このチャンスを活かさなければ嘘だろう。

 作ってもらった魔道具は、エリオットへのお土産にしてもらいいし、スカーレットにもたせてもいい。

 生存確率を上げるための魔道具が主なので、使わない方がいいのだが、もしものときには躊躇なく使ってもらわねばならない。

 なので、エリオットへのお土産は別にしなければいけないのだ。

 いや、スカーレットならエリオットへのお土産が残った魔道具だったとしても躊躇なく使いそうだけれど。


 ちなみに、遊びに来ているわけではないので、お土産を持って帰る必要性はない。

 家族にも、お土産よりも無事に帰ってきて欲しいと言われているし。

 私のことを溺愛している彼らなので、言葉通りの意味だ。

 むしろすぐ帰ってきて! という意味合いの方が強いんだけれどね。


 そんなわけで、明日は念願の漂流物調査。

 スカーレットには、たっぷりと情報を収集してもらわねば。

 生前の世界のものが流れ着いているのは確定なのだ。もしかしたら、あちらの世界に行く方法だって……。


 いや、転生してしまっているし、あちらの世界に行ってももとに戻れるわけではない。

 それでも、私はどうして死んだのか。家族はどうなったのか。

 それくらいは知っておきたい気もする。


 無論、世界の隣の森へ来るのだってクティという本物の天才が作った次元間移動魔術在り来なのだ。

 そうそう簡単に行けるとは思っていない。

 でも希望を少しくらい持つのは構わないだろう。


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