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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
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206,飛行機と絶景



 空の旅は順調そのものだ。

 揺れなどもまったくなく、情報収集魔術が完全に追いつかない速度を出しているらしく、入手できる情報がかなり断片化されてほとんど意味がない。

 視覚膜も狭い範囲に絞り込まないと処理が追いつかない状況らしく、高速移動に対する対応策をいくつか考えておこう。

 いくつかある窓を見ても私には意味はないが、スカーレットはとても興味深く覗き込んでいる。

 こういうときに目が見えないのが少し悲しい。


「お嬢様、世界の隣の森という名称は伊達ではないようでございます。一面、森しかありません」

「そりゃあ世界の隣の森だしー。森だよ」

「星の面積の約八割が森なのだよ。オーリオールと違って海も少ない。だからこそ生物の進化が限定されたのかもしれないな」


 景色は見えないが、スカーレットが私を気遣ってなのか素なのか、状況を教えてくれる。

 そしてサニー先生の講義ももれなくついてくる。

 外の景色に夢中なスカーレットは聞き流しているが、私には貴重な外の情報でもあるので大変助かる。


 講義によれば、世界の隣の森はオーリオールとは別の独自の進化を辿った生物おり、人種が存在しない。

 しかし、現在闇の侵攻によってほとんどの生物が死滅してしまっている。

 残っているのは、妖精族を含めた一部のみ。

 惑星の半分を喰べられてしまったのだ。それくらいの被害は当然ともいえるだろう。


 それにしても、生命の源ともいえる海の面積が少ない星でも生物が誕生していることに不思議を覚える。

 きっと、魔力や精霊力といった生前の世界にはないエネルギーが関係していることだろう。

 特に妖精族なんかは精霊力の塊だ。

 一般的な生物とは一線を画す存在であり、通常の進化ではありえない生命体だろう。


 その妖精族は、世界の隣の森のヒエラルキーの頂点にいる。

 優れた魔道具や、魔術を扱えるのだから当然かもしれない。

 残っている他の生物に関しては、頂点に君臨する妖精族を怖がって彼らの街などの近くには寄り付かないらしい。

 道理で魔物やそれらしい生物がまったく見つからないわけだ。

 ちなみに昆虫などの小さな生物も、世界の隣の森にはいないようだ。

 独自の進化を辿った生物を見てみたい気もするが、今は高速で移動する飛行機の中。

 まったく情報が収集できないのでどうしようもない。

 滞在期間中に探査系の魔術を広域化して、少しでも収集しておきたいところだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 飛行機の速度が速度なだけに、結構早く目的の場所まで到達した。

 闇は一定範囲に近づかなければ問題ないようだが、もし立体映像でみたように消滅してしまっている領域に出てしまうと、そこからは宇宙空間になっているようで危険だ。

 一応、搭乗している妖精族を含めた全員に宇宙服の魔術をかけておく。

 断ってからかけたが、ナターシャから私のことを聞いていたらしく、頻りに感心されてしまった。

 特に闇の専門の妖精族が「これはすごい!」と、サニー先生に向けていた尊敬の視線を私に向けてきてむず痒い思いをした。


 宇宙服の魔術を使ったとはいえ、宇宙空間に突撃を敢行するような状況にはならない。

 予定通りに闇から一定の距離を取り、視察を行なうのだ。


 この飛行機は垂直離陸ができる他にも、長時間の滞空もできるようで、視覚膜の制限がやっと解かれた。

 同時に情報収集魔術で周辺のデータを採取し始める。


「え……」

「どうしたの、リリー? 絶景だよ!」

「あ、えっと……その、視覚膜で表示できない……みたい」

「なんだと?」

「どういうことなの!?」

「お嬢様?」


 闇の状況を視察するため、視覚膜の範囲を拡張したところで恐ろしいことがわかった。

 一定範囲まで広げると途端に情報が得られなくなる。

 どうやら、情報が得られない場所は闇があるところのようだ。

 視覚膜は、複数の魔術によって膨大な環境データを収集し、フィルターを通して私の目に魔力で描画している。

 環境データが得られない場所は、当然ながら描画できない。


「闇が魔術を喰べている?」

「なるほど……そういうことか」

「じゃあ、リリーは絶景みれないの!? そんなー!」

「クティ様……では、魔力でお教えしてはいかがでしょうか?」

「それだ! ナイススカーレット!」


 星を喰べるような存在だ。

 魔術を喰べてしまっても何ら不思議はないが、実際に目の当たりにするとやはり驚いてしまう。

 でも、こんな時でもクティのマイペースさが私を救ってくれる。


 クティが魔力で描き出した闇の状況は、一言で言ってワタアメを纏った球だった。

 ただし、半分くらいしかないけれど。

 正直な所、立体映像でみせてもらったものと大差ないというか、クオリティ的にはあちらのほうが上だ。

 でも、そこはクティが描いてくれたという補正がかかる。

 つまりは素晴らしいのだ。

 さすがクティだよ!


 さらには、追加でどんどん木が植えられ森を形成していくと、それはもうかなり立体映像でみたあの光景に近いものになっていく。

 クティの本気度合いがわかる、かなり細かい描写だ。

 描き終わるのにしばしの時間がかかったが、それだけの価値がある素晴らしい作品ができあがったのは言うまでもない。


 ワタアメを纏った球は前座でしかなかったのだ!

 これこそがクティ先生の傑作!


「すごいよ、クティ! これは確かに絶景だね!」

「でしょでしょ!」

「……あの~、盛り上がっているところ申し訳ないのですが、そろそろ説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。お願いします」


 傑作を描き終えて大満足のクティを褒め称えていると、本当に申し訳無さそうな声で闇を専門にしている妖精族の人が声をかけてきた。

 すっかり忘れてたよ、この人!


 そこからは、専門の妖精族による説明が始まったが、基本的にはナターシャから聞いた説明と被っていた。

 元々は彼が報告した内容をナターシャが説明していただけだから当然だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結構な時間、滞空していたがその間に闇はほとんど動いていないようだ。

 それも星という巨大なものを喰べていると考えれば当然だが、聞いていた通りに侵攻スピードは凄まじく遅い。

 予測では、妖精族の街に辿り着くまでには千年単位の時間がかかるし、そこまで進んでも世界の隣の森が崩壊するようなことはないだろうと言われている。


 星どころか魔術すら喰べてしまっていると予測される闇が一体何なのかは、さっぱりわからない。

 魔術が通用しないとなると、私には一切できることがない。

 まさに私の天敵とでも言うべき存在だろうか。

 でも、他の誰にもどうしようもないとは思う。

 クティでさえ、闇をどうこうできるとは思えないのだから。


 しかも現状は、闇自身が星を喰べきるために崩壊を抑えているような状況なため、闇を払えたとしてもその後の星の崩壊をなんとかしないと滅亡を早めるだけだ。

 もはや、世界の隣の森を捨てる以外の選択肢がないのも頷ける。


 こうして実際に現場まで着たことにより、ナターシャが言うように色々なことがわかった。

 特に魔術が通用しない存在がいるということが、一番の収穫だろう。

 オーリオールにそんな存在がいるとは限らないが、いないとも限らない。

 そういった存在が私の前に現れた時、私は一体何ができるだろうか。

 対策を練っておくべきことが多すぎて、どれから手を付けようか迷ってしまう。


 でも、今回得られたものを活かすためにも、やれることはやらねばならない。

 無論、ナターシャからの依頼も並行して進めるつもりだ。

 世界の隣の森を見捨てるような選択肢を私は持たないからね。


 帰りも行きと同じ程度の時間がかかったが、予定通りに一日がかりの視察となった。

 明日の予定は妖精族の街の観光となっているが、サイズが違いすぎることもあって、別にしなくてもいいことになっている。

 つまりは自由時間というわけだ。


 今回の世界の隣の森行きは、ナターシャとの謁見や話し合いの他にも、私とスカーレットだけだが、目的がある。

 それは無論、生前の世界から伝わったと思われる事柄の調査。つまりは、漂流物に関してだ。


 ナターシャから安全が確認されている漂流物の場所のデータはもらえているので、明日調査を行なう分には問題ない。

 スカーレットもすでにその気でいるし、私もその気だ。

 妖精族の街観光はデータを収集するだけ、ということで。


 すでに明日の漂流物調査に気が向いている私たちだったが、滞在場所である屋敷に到着し、部屋にたどり着いたところで唖然とすることになる。


 部屋の中には、鬼気迫る様子でクティパッドを高速で操作しているミラ。

 そして、尻尾をぶんぶんと振り回しながら、こちらもクティパッドを操作しているレキ君。


 そして、その部屋は惨状といえる状況だった。

 レキ君の尻尾によって破壊され、弾き飛ばされたと思しき家具の残骸が転がっており、使用人の妖精族たちも部屋の外から恐恐と様子をみていることしかできていない。

 ふたりには彼らの声もまったく聞こえていないらしかった。


 ……何してんの……。


 慣れない飛行機で少し疲れていたのもあって、私はそこで考えるのを止めた。



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