205,ミラと闇の視察
「お嬢様! 出来ました!」
「どれどれー?」
ミラにクティパッドの説明をして、実際にいじらせること数時間。
もうそろそろ眠いのだけれど、説明を聞いたミラが何やら目を輝かせて興奮し始めてしまったので付き合うことになってしまった。
いつもならこの時間にはベッドに入っているはずなんだけれどなぁ。
「そうそう、このコマンドをこっちでこう代入。これでこの記述が生きてくるわけ」
「なるほどー! さすがお嬢様ですね! ではこれをこっちに加えて……」
今現在、ミラはなぜだか私が作ったゲーム制作用アプリにはまってしまっている。
本当は色々と私たちのことを説明したかったのだが、クティパッドにドハマリしてしまったので仕方ない。
しかし、クティパッドの説明で、ミラにいくつかゲームをプレイさせてみたのだが、ゲーム自体にはあまり興味を示さなかった。
オーベント王国には、こういったテレビゲームの類は当然ながら存在しない。
あってもボードゲームや、簡単な玩具の類しかないはずだ。
一足飛びに、クティパッドのディスプレイに映し出される映像を操作して遊ぶゲームというのは、ミラにとってすごいとは思うけれど、それだけだった。
だが、ちょっと悔しかったので試しにゲーム制作用のアプリを見せて、「こうやって作ってるんだよ」と教えたのが始まりだった。
完成しているゲームには興味がなくても、作る方には興味を示したのだ。しかもものすごく。
ゲーム制作アプリは、主にレキ君が様々なジャンルのゲームをプレイしたい、とおねだりしてきたので、私がゲームを作るための時間を短縮するために製作したものだ。
ゲームを簡単に製作するための複数のコマンドと、視覚膜と情報収集魔術の応用業で様々な状況を再現させる。
今レキ君がハマっているFPSゲームも、情報収集魔術で集めたマップデータをランダムに再現して、その中に敵として魔物を出現させ、魔術で狙い撃っていくといったものだ。
魔物の行動パターンは非常に少ないものの、動きが早いのでなかなか難しい。
魔術自体は既存の魔術から攻撃魔術をいくつかチョイスしてある。これらを使って上手に魔物を倒して得点を競うのが主旨となる。
情報収集魔術で集めた様々なデータが使えるので、割りと直感的にゲームが作成できるのだが、ミラはどうやらコマンドを一から作る方に興味を覚えたらしい。
ゲーム制作アプリでは、新規コマンドを作成することができるので、記述式を教えてみるとものすごい早さで吸収していくのは驚いた。
あの学校の卒業生とはいえ、普段のミラを見ているととてもではないがこれほどできる子だとは思えなかった。
だが実際はどうか。
それはもう、初めて触った数時間後には非常に簡単だが、ゲームを作成してしまった。
ちっちゃなレキ君が横スクロールしていくマップを走ったりジャンプしたりするだけだが、落とし穴などしっかり避けないとクリアできないのだから、立派なゲームだ。
……この子、本当にミラなのかしら?
レキ君にも自分が走るゲームだからか、結構好評でクティパッドを通してミラと会話をしていた。
それを不思議に思わず、受け答えしているミラもミラだ。
何せレキ君が話せるということを彼女は知らなかったはずだ。
説明したのはクティパッドのことだけ。
この抜け具合、やっぱりあの子はミラだよ! 私の知ってるミラだったよ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
世界の隣の森へやってきてから、三日目。
今日は、世界の隣の森を喰らう闇の状況視察である。
とはいっても、私たちがすべきことは飛行機に乗って見てくるだけ。本当に視察だけだ。
正確に世界の隣の森の現状を確認する、それが目的なのだから。
結局のところ、ミラに私たちの説明はできなかった。
ゲーム制作アプリにドハマりしてしまったために時間がまったく足りなかったのだ。
そして、私が睡魔に負ける間際にミラがレキ君と普通に話せていることにやっと気づいて驚いていたのだけは覚えている。あとはもう知らない。
きっとスカーレットがいい感じにやってくれただろう。信じてるよ。
実際、今朝のミラは至って普通にレキ君と会話している。もちろん、クティパッド越しだけれど。
私のお世話はしっかりやっているけれど、それでも少し暇ができるとクティパッドをいじっているのはいかがなものか。
まあ、渡した私も私だけれど。
軽く朝食をとり、準備を整えて案内の妖精族が来るのを待っているのだが、ちょっとミラとレキ君の様子がおかしい。
あ、もしかして……。
「お、お嬢様……お願いがあります!」
「わふふー(おねがーい)」
「なんとなくわかりますけど……言ってみなさい」
「る、留守番をしていたいです!」
「わっふーん(ボクひとりだけだと寂しいんだよ?)」
ものすごく緊張した様子で懇願に近いお願いをするミラとは対象的に、レキ君はなんだか甘えた声をだしている。とても嘘くさい。演技をするにももう少しがんばろう、レキ君。
先ほどまでも、ひとりと一匹でゲーム製作について話していたようだし、きっと留守番中にもやりたいのだろう。
ミラにクティパッドを与えたのは失敗だったのだろうか……。
いや、結局はこうなっただろうから遅いか早いかの違いだろう。
ミラの隠れた才能も発掘できたわけだし、レキ君用のゲーム開発担当としてもいいかもしれない。
それに……。
「まあ、車のスピードでも怖がってたミラが飛行機に乗ったら、大変なことになりそうだし……」
「そうでございますね、お嬢様。この際、ミラは置いていってもいいかもしれません。レキだけというのも不安がありますし」
「わふー!(不安ってなにさー)」
「よ、よろしいんですか!?」
お出迎えの車で失神寸前まで追い込まれたミラだ。
飛行機なんて絶対無理だろう。まずスピードが違いすぎる。
それに、あまり主張しないミラがこうしてお願いまでしてくるんだ。よっぽど楽しかったのだろう。
視察中はレキ君が独りになってしまうから、スカーレットの言うようにちょっと心配だしね。
ミラと一緒なら、大人しくゲームを作ってるだろうから安心かもしれない。
「わかりました。では、ミラの言うことをちゃんと聞いて、大人しく待ってるんですよ?」
「わふー!(はーい)」
「ありがとうござます、お嬢様!」
巨大な尻尾をフリフリしつつも、家具や調度品を壊さないようにしているレキ君の成長がちょっと嬉しい。
ミラもクティパッドを胸に抱きかかえて、レキ君同様に艶々の尻尾を振っている。
ついつい目で追ってしまう尻尾だけれど、いつもならご褒美を期待して顔を赤くするミラも、今は留守中のゲーム制作に気が向いているのか純粋に嬉しそうだ。
まあ世界の隣の森にいる間はご褒美はなし、と専属間でのやり取りもあったし致し方ない。
……もふもふしたいな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
盛り上がっているレキ君とミラを残し、飛行機の準備ができたと迎えにきた妖精族の案内によって発着場までやってきた。
とはいっても、格納庫のような、倉庫のような建物と滑走路というよりはグラウンドといった感じの広いスペースがあるだけだ。
垂直離着陸ができる飛行機なので、滑走路はいらないのだろう。
今回の視察では、残念ながらナターシャは一緒ではない。彼女には彼女の仕事があるからだ。
一応私たちは最重要の賓客として扱われてはいるけれど、それはそれだ。
視察には専門の案内が同行するというので、問題もない。
待っていた専門の案内との顔合わせでは、クティよりもサニー先生へ強く憧れている感じだった。
まるで大好きな芸能人にあったかのようなはしゃぎように、他にも同行する妖精族たちが困っていた。
サニー先生はマイペースに闇についての現況を聞いたりして、それに嬉しそうに応える案内の妖精族。
これでは先に進まないと、思っていたところで――
「そろそろ乗んない?」
「そうだな。では行こう」
クティの鶴の一声で、議論に花を咲かせていたサニー先生がやっと戻ってきてくれた。
案内の妖精族は、まだまだ話し足りないという様子だったが、憧れのサニー先生がそういうならばと大人しくついて行ってくれていた。
……大丈夫なんだろうか?
タラップを登って飛行機に乗り込むと、座席はそこそこな座り心地のものだった。
妖精族では、使う必要性がない部分だけれど、しっかり作りこんであるらしい。
操縦席も視覚膜で状況を見てみたが、何人もの妖精族がそれぞれに計器を担当しているようで大変そうだ。
クティパッドと連動させれば、ゲームチックに操作できそうだけれど、さすがにゲームでは済まないのでやらない。
ちなみに、人種用の座席の他にも妖精族用の座席もあり、クティやサニー先生などはそこに着席している。
シートベルトよりもごつい安全帯を装着し終われば、いよいよ離陸だ。
生前では、飛行機自体は何度か乗ったことはあるけれど、こんなに小型の飛行機には乗ったことがない。
ちょっとドキドキしていたが、離陸は驚くほど静かに、安定して行われた。
飛行機の外の状況も確認していたが、垂直離陸なのに強風が巻き起こることもなく、とても静かだ。
……きっと私が生きていた頃よりもずっとあとに消失したものなのだろう。
そう思わせるだけの性能だった。
2017.04.14 誤字修正




