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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
230/250

204,説明と予定



 クティに詰め寄られて、少々熱くなっていたナターシャも冷静さを取り戻してきたみたいだ。

 普段はほとんど見せない冷たい怒りの表情のクティがとても頼もしい。

 でもこの表情がもし私に向いたとしたら、怖いと思うよりも悲しくなってしまうだろうな。


「ほら! リリーに謝る!」

「ご、ごめんなさい……」

「声が小さい!」

「ごめんなさい! なんでもするから許してください!」

「だってさ、リリー。どする?」


 ん? 今なんでもって……。

 それはともかく、ナターシャはもう完全に女王の顔ではなく、クティの妹として私に謝っているみたいだ。

 だって、涙目で、すごく幼くさえみえるのだから。

 彼女、これで二千歳超えだそうですよ。クティと同じ顔だからもう、超可愛い。


「えっと、大丈夫だよ、クティ。私にはクティがいるんだから。守ってくれるもんね」

「もちのロンだよ! わかったかね、ナターシャ!」

「うぅ……うん……」

「ほれほれ、わかったなら涙拭こうよ。怖くないよーお姉ちゃんだよー優しいよー」

「クティがお姉ちゃんしてる……」


 私が大丈夫だとわかったクティは、今度はナターシャの世話を焼き始めた。

 若干幼児退行してさえいるようなナターシャを健気にあやすクティは、とてもお姉ちゃんしている。

 これも、私に見せることはない珍しい光景だ。

 これだけでも世界の隣の森に来てよかったと思えるくらいに、その光景は心惹かれるものがある。

 クティお姉ちゃん……イイ!


「ナターシャも心労が溜まっていたのかもな。あの真面目な性格では、吐き出すのも一苦労だろう。すまんな、リリー」

「いえ、いいんです。だってクティの妹さんですからね。私にとっても妹みたいなものですよ」

「……それは、どうなんだ?」


 あたふたしながらあやすクティに甘えるナターシャ。

 完全に蚊帳の外になってしまった私とサニー先生は、そんなふたりを温かく見守ってあげることにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 なんだかんだで時間も経過し、お昼の時間になったのでスカーレットとミラが昼食のデリバリーにやってきたりした。

 ふたりの作った料理は、オーリオールから持ってきた食材で作ったものだが、スカーレットが主導したことにより、普段の薄味よりも少し濃く作ってあった。

 しかし、生前の食事に比べれば調味料の類が少ないこともあり、まだまだ薄味だ。

 まあ六年もこういった食事をしているので、いきなりあの頃の味付けに戻されても食べられないと思うけれど。

 特に今は味覚も敏感で、濃い味付けなんて出されたらびっくりしてしまう。

 それを考慮したのか、スカーレットの味付けは胃が驚くこともなく、すんなり受け入れられた。

 慣れって怖いね。今では薄味が当たり前だから、濃い味付けが新鮮に感じられる。

 でもとても美味しかったので、あっちに戻ったらスカーレットにはこの料理法の普及をお願いしたい。

 私ではまだ厨房などには入れないからね。


「ゴホン、先ほどはその、お見苦しいところをお見せしてしまって、大変申し訳ありませんでした」

「いえ、気にしていませんので大丈夫です」

「そう言って頂けると助かります」


 昼食で時間を置いたことにより、ナターシャも元に戻ったので話し合いの再開だ。

 恥ずかしいところを見られたことが返ってよかったのか、ナターシャとの距離も近づいたように感じる。

 それはどうやらあちらも同じようで、最初よりもずっと雰囲気が柔らかくなっている。

 やっぱりサニー先生の言うように、女王としての責務で心労が溜まっていたのだろう。

 そこで、一番の問題事が解決に向かいそうになっていたら、そりゃあテンションがあがって勢い込んでしまったりもするだろう。

 まあそういうときほど冷静にならなきゃいけないとは思うけれど、誰もが完璧にできるわけじゃない。

 特に私以外は親しい人たちしか、この部屋にはいなかったしね。

 色々と抑えきれなかったのだろう


「このあとの予定なのですが、今日は再度の説明。明日に闇の状況を視察して頂きたいと思っています」

「闇の状況を、ですか?」

「はい。闇の侵攻は非常ゆったりとしています。こちら側に襲い掛かってくることもありませんので、安全面は問題ありません。もしものために高速で移動できる乗り物を使用しますので、安心してください」


 闇の状況……。

 確かに話を聞いて、立体映像を見ただけであり、私には危機感というものが足りないとは思う。

 実際のところ、世界の滅亡の危機と言われてもピンとこないし、完全に他人事だ。

 それに私に求められているのは、闇をどうこうすることではなく、次元を安全に超える方法の確立なわけだし。

 正直なところ、立体映像で見せられたような、ほとんど崩壊しかかっている星の修復など不可能だ。

 だから、闇の状況をこの目で直接――といっても、視覚膜を通してだが――見ることに意味があるとは思えない。


「リリーに求められているものとは別に、世界の隣の森の現状というものを正確に理解してほしいということだ。情報はないよりもあったほうがいいだろう? それに情報収集魔術もあまりに離れて過ぎていては効果が薄い。出来ることなら視覚膜が届く範囲まで行きたいところだが、さすがにそれは危険がすぎるからな」

「なるほど。では、探査の魔術を改良しましょうか?」

「あまり時間はないぞ?」

「明日までには……そうですね、計算上は百キロ圏内程度なら今以上の情報収集が可能なものは作れます」

「それではだめだな」

「そうですか……」


 長距離を探査する魔術を、まだ作っていなかったのが悔やまれる。

 できれば闇の状況視察なんて行きたくない。

 星を食らう未知の存在なのだ。誰だって近づきたくはないだろう。

 だが、サニー先生の言う通り、情報の収集は必要だ。

 私が危険を冒す意味はないと思うけれど……。


「リリー、大丈夫だよ! 私がいるよ! 私が守ってあげる!」

「クティ……」

「それに絶景だよ、あれ! 一度はみておいたほうがいいかも!」

「姉さん……あなたくらいですよ。あれを見て絶景なんて言えるのは……」

「軟弱者めー! そんなんだからナターシャは女王なんだよ!」

「えぇ……」


 クティにとっては、自分たちの星を食らい、危機を齎す存在でもこの程度だ。

 呆れるナターシャの言葉も何のその。ドヤ顔がますますドヤっていくのが止まらない。

 さすがは私のドヤ顔さま。


 ……そうだよね。クティがいる。

 クティが言うなら絶対大丈夫だ。

 それにクティがお薦めするなら見てみたい気もする。

 もうすでに私にあった星を食らう闇への恐れは薄れつつあるようだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕方まで、ナターシャから詳しい説明などが行われ、滞在場所の屋敷へと戻ってきた。


 明日は、闇の状況視察という名の絶景観光だ。

 用意される乗り物は、なんと飛行機だというから驚きだ。

 立体映像で見せてもらったが、私の知っている飛行機ではなく、垂直離着陸が可能な、私の生きた時代よりもずいぶんあとに製造されたと思しき未来的なもののようだった。

 しかも、かなり小型で個人で乗るようなタイプらしい。

 まあ、妖精族からすれば十分巨大な乗り物だけれど。


 さすがにレキ君は乗れないとしても、スカーレットとミラは乗れるだけのスペースがある。

 なので、今回はふたりも連れて行くことにした。

 もう怖くはないし、絶景観光なのだからふたりを連れて行くのはありだ。

 むしろスカーレットは連れて行かなかったら、何をされるかわかったものではない。

 ミラは、まあついでということで。専属だし。


 そんなミラだが、今晩私たち側に引き込むために色々と説明をしなければいけない。

 お婆様たちにすら話していない、私の秘密の大部分を明かすわけだ。

 一晩では足りないかもしれないけれど、そこは要点だけでもいいだろう。

 オーリオールに戻ってから、詳しく話しても良いわけだし。


「はい。ということで、ミラ。お話があります」

「は、はい! 何でしょうか、お嬢様」

「メガネの残量は問題ありませんね?」

「はい、まだ……えーと、六十パーセント? ですか? 残ってます」

「よろしい」


 ミラには当然ながら世界の隣の森にいる間は、常に妖精族認識メガネを着用してもらっている。

 彼女用にわざわざエリオットにカスタマイズしてもらった特別製なので、汎用型よりも少し長持ちする。

 それでも一日は保たないけれど。


 ちなみに、獣人種には獣耳の他にも、頭の横に普通の人種の耳がある。

 なので、耳にかけるタイプのメガネでも問題なく使うことができる。

 聴覚に関しては、獣耳と合わせて使用することで優れた能力を持つようだけれどね。


「では、はい。これがミラ用のクティパッドです」

「これは……皆様が何やら使用されていた……板ですか?」

「そうです。これはクティパッドといって――」


 まずは色々と説明しやすいように、クティパッドの使い方から覚えてもらうことに。

 これさえ使えるようになれば、あとの説明はクティパッドを通してやれるし、色々と動画が見れるので楽だ。


 目を白黒させて、困惑しまくりのミラだけれど、頑張って覚えてもらうよ!

 さあ、根性だ! 頑張れ、ミラ!

 レキ君も使いこなせているんだから、君にもできる! たぶん。



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