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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
229/250

203,現状と想い




「ゴホン。そろそろいいでしょうか?」

「あと二十年くらい」

「待ってもいいけど、その間の時間で人種であるリリアンヌ様ならもっと魔術を作れると思うんだけど」

「クティ、リリー、本来の目的を忘れるな」

「むー」

「そうでした。ついうっかり」

「うっかりなんだ……」


 クティとの絆を確かめあっていたら、うっかり他のふたりを置き去りにしてしまっていたようだ。

 スカーレットがいたらもっと早く気づかせてくれただろうけれど、残念ながら彼女はミラと一緒に料理中のようだ。

 今日のお昼はデリバリーになるのかな?


「それでは、リリアンヌ様。世界の隣の森の現状について説明させて頂きます」


 ナターシャの顔が先ほどまでの親しい人などに見せるような気安い表情から、謁見の間で見せた凛々しいものへと変わる。


 この執務室にはナターシャ以外は見知った人ばかりだし、そのナターシャもクティと同じ顔だからか、ついつい気の抜けた行動をとってしまった。

 つまりはいつもどおりにやってしまったのだ。反省しなければ。

 ここからは真面目な時間だ。おふざけはいけない。


「まずは、こちらの資料を」


 渡されたのはB5サイズの紙の束。

 リズヴァルト大陸にある紙はごわごわとした藁半紙のようなものだが、この紙はつるつるで非常に薄く、生前の元母国で使われていたコピー用紙に似ている。

 これも漂流物を再現して作られた魔道具で作っているのだろうか?

 成分は……。


「知っての通り、この世界の隣の森はリリアンヌ様がお生まれになった世界とは別の次元に存在します」


 おっといけない。

 紙の考察をしている場合ではなかった。

 資料に目を通しながら、ナターシャの声に耳を傾ける。

 でも、一応紙に使われている成分のデータは収集しておこうっと。


「そして世界の隣の森は、今現在圧倒的な脅威によって滅亡の危機に瀕しています」

「え?」


 ナターシャの唐突な言葉に理解が追いつかず、マヌケな声が私の口から漏れる。

 だが、それも仕方ないと思う。

 以前聞いたときには億単位での話だったはずだ。

 それが差し迫った危機のように言われては驚きもする。


「とはいっても、実際に滅亡するまでには最新の予測データではあと六千年ほどはかかる計算です」

「そうなのですか……えっと……」


 億から六千年ではかなり違うと思うが、それでもずいぶん長い話だ。。

 人種の寿命は平均七十歳前後。

 それも貴族などのしっかりした治療を受けられる者なら、だ。

 一般的な平均寿命はもっと下がる。

 だが妖精族には寿命がない。

 それでも彼らにとって六千年という月日は焦る必要がないくらいには長いものなのだろう。

 それならふたりが私にこの事実を教えなかったのも無理はない……のだろうか?


「無論、私たちも何もせず手をこまねいているわけではありません。こうして別の次元へと移動する手段を模索し、実際にある程度は成功させているわけですからね」

「そうですね。遮ってしまって申し訳ありません。続きをお願い致します」

「よいのです。滅亡に関してリリアンヌ様にお知らせしなかったのは私の都合ですから」


 なるほど……。

 ふたりが教えなかったのは、教えたくても教えられなかったのか。

 サニー先生とクティという、超マイペースなふたりに口止めさせるなんて……やっぱりナターシャってすごいのかも。さすがは女王。


「ときにリリアンヌ様は、世界の隣の森が惑星であり、球形をしているのはご存知ですか?」

「はい、知っています」

「ではこれが以前の平穏だった頃の世界の隣の森です」

「ホログラム……?」

「ええ、これも漂流物から再現されたもののひとつです」


 ナターシャの言葉とともに空中に浮かび上がったのは、立体映像。

 情報収集魔術の結果からは、壁に埋め込まれていた魔道具により映し出されているようだ。

 何かあるのは知っていたが、こんなものが……。


「このように、平穏だった頃……約一億年ほど前の世界の隣の森は球形をしていました。ですが、今の世界の隣の森はこのような形になっています」

「これは……」


 ナターシャの言葉とともに映し出されていた立体映像が変化し、球形だった惑星が不気味な闇によって半分以上形を消滅させたものへと変貌した。

 惑星の核となるであろうものが露出し、その回りを闇が蠢いている。

 なぜこの形のままで崩壊せずに留まっているのか。この闇は何なのか。

 私の中に多くの疑問が浮かぶが、その疑問のいくつかは映像を見せているナターシャ本人によって解消された。


「約一億年前、突如として飛来した闇により、世界の隣の森は侵略をうけました。闇に対抗する手段はなく、徐々に世界の隣の森は消滅していったのです。闇はどうやら星の食し方、とでも言うべきことを心得ているようで、このような形になっていても、世界の隣の森は正常な惑星としての活動が可能なのです」

「星の食し方……」


 立体映像は、確かに闇が世界の隣の森を食べているように見えなくもない。

 だが、それにしたって……この闇は一体なんなのだろうか。


「いつからか、漂流物が流れ着くようになり、それらを再現して闇に対抗すべく、数多くの兵器が作られましたが、その全てに効果はありませんでした。大陸ひとつを丸々消滅させてしまうような兵器ですら、です」


 漂流物は、恐らく生前の世界で起こった消失事件で消えたものが流れ着いているのだろう。

 ミサイルなどの大量破壊兵器が流れ着いていたとしたら、そういった兵器が再現されていても不思議ではない。

 だが、そんな大量破壊兵器ですら効果がないという事実には戦慄するしかない。


「闇に対抗するため、様々なことが行われましたが、結果としてその全てが無駄に終わっています。ですが、姉が、クティが作り出した次元間移動魔術により、私たちは闇へと対抗し、世界の隣の森を取り戻すという方針を変えることにしました。私たちは生まれ故郷を放棄することにしたのです」


 ナターシャの口調は淡々としており、一切の感情のブレがないものだった。

 生まれ故郷を放棄するという決断は、断腸の思いがあっただろう。

 犠牲にするものは大きい。

 だがそれで妖精族の滅亡を回避することができるのならば……。


「次元間移動魔術により、発見された新天地。それこそがオーリオール。あなた方が住む世界です」


 オーリオールとは、私が生まれたオーベント王国などがある惑星の名称。

 リズヴァルト大陸でも、世界が丸い惑星であることは一般的には知られていない。一部の学者たちがその説を唱えている程度だ。

 だが、妖精族はすでにオーリオールが惑星であることも知っているし、世界中に調査の手を伸ばしている。


「知っての通り、リリアンヌ様が改良する以前の次元間移動魔術を通るには多くの犠牲が必要でした。ただ……闇の追われ、逃げ延びた同胞が多かったのは不幸中の幸いだったのか、さらなる悲劇の始まりだったのか」


 私が改良を施す前の次元間移動魔術は、いわゆる欠陥品だった。

 だが、それでもそれに縋るしか無い状況では、どれほどの犠牲を出そうとも使用するしかなかったのだろう。

 ナターシャが悲劇という言葉を使うくらいには。


 だが、これだけははっきりといえる。

 クティが作り出した次元間移動魔術は私では作れない。

 あれはクティという、規格外の天才でなければ無理なのだ。

 私に改良はできても、次元を超える手段を作り出すことはできない。

 そして、今までの多くの犠牲があったからこそ、これほど早くに改良ができたともいえる。

 それだけ次元を超えるというのは難しいことなのだ。


「多くの犠牲を出し、それでも調査に志願する者たちはあとを絶ちませんでした。皆、わかっていたのです。私たちには、もう選択肢など残されていないことに」


 多くの犠牲を出しても、それでも尚、一縷の望みに賭ける。

 私には想像もできないほどの壮絶な話だ。


「そしてあなたを見つけたのです、リリアンヌ様」

「私は……」


 淡々とした口調だったナターシャの言葉が力強いものへと変わる。

 それは私という、次元間移動魔術を改良することができる変異型二種、特級魔術師へと向けられる希望。

 妖精族全ての運命が委ねられた、とてつもなく重い希望だ。


「わかっています。あなたひとりに全てを背負わせるつもりはもちろんありません。まだ六千年ありますから。大丈夫ですよ」


 クティによく似た鈴を転がしたような美しい声だが、その中に込められている想いは決して同じではない。

 彼女の言葉からは、払った犠牲を必ず取り戻してみせるという決意が感じられる。

 それがどうにも怖い。

 だが……。


「ナターシャ。リリーを怖がらせるなんて、私に喧嘩売ってるー?」

「ね、姉さん……私はそんなつもりでは」

「いやいや、言葉と気持ちが全然噛み合ってないからね? いい加減にしときなよ?」

「わ、私は……」


 私の表情は一切動いていなかったはずだ。

 でも、クティはわかってくれた。それだけで心がずいぶんと軽くなる。

 先ほどまで感じていた怖さも、ナターシャの言葉の重みも、クティによって一瞬で取り除かれてしまった。


 クティが一緒なら怖くない。

 だから――



2017/4/20 矛盾を修正

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