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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
226/250

200,妖精族の街とクティの人気




 結局、街に着くまで車中はカオスな状態のままだった。

 ドヤ顔祭りのクティを称えつつも、さすがにまずいと思った私が皆を魔術で一気に正気に戻したことにより、出迎えの一団もやっと一安心できていたみたいだ。

 濃いメンバーで、本当に申し訳ない。


「お嬢様、完全にミニチュアでございますね」

「だねぇ……。妖精族のサイズを考えればこれがベストなんだろうね」


 クエスチョンマークに埋め尽くされていたスカーレットも正気に戻り、妖精族の街の光景をゆっくりと眺められる程度には回復している。

 その妖精族の街は、やはり彼らのサイズに合わせてあるので、私たちからみたら完全にミニチュアだ。

 ただ、統一感はほとんどない。


 レンガ造りのような外観の家もあれば、コンクリート打ちっぱなしのような外観の家もあるのだ。

 多種多様な家々は、かなり自由な場所に建てられており、区画整理などは行なっていないようだ。

 それもそのはずで、妖精族の街はリズヴァルト大陸の基本的な街には欠かせない、周囲を囲み安全を確保するための壁がないのだ。

 彼らの家はサイズも小さいこともあって、場所も取らない上に、土地は壁で制限されることもなく、自由に使える。

 主要な道は塞がれていないが、それ以外は本当に好きに使っているみたいだ。


 安全を確保するための壁がないということは、外敵が存在しないか、壁以外の防衛手段があるのだろう。

 私たちが最初にいた森の中の遺跡周辺も、実は代表的な敵である魔物がまったくいなかった。

 リズヴァルト大陸は、どこにでも魔物がおり、人類の生存圏よりも魔物たちの領域の方が遥かに広い。


 基本的な防衛手段は、物理的な壁であり、地道な魔物の討伐なのだ。


 世界の隣の森に、魔物がいないとしても、妖精族の安全が確保されているとは言い難い。

 魔物以外にも敵となりうるものはいるだろう。

 人類だって、共通の敵である魔物がいなければ、人類同士で戦争をしていただろうしね。

 妖精族にも同じことがいえるのではないだろうか。

 それに、妖精族にはリズヴァルト大陸にあるよりも高度な魔道具技術が存在するので、防衛手段はそちらがメインなのではないだろうか。


「サニー様、私たちの滞在する場所なのですが」

「ああ、リリーたちが滞在する施設は、人種サイズに作られているから安心するがいい」

「そうでございましたか」

「ナターシャがなんとかしたそうだぞ。かなり慌てていたようだが」

「そうだったんですか? やはり急ぎすぎていたんでしょうか」

「まあ、あちらの想定よりは早かっただろうが、招待した以上は我々が気を遣うことでもない。気にするな」


 妖精族は、寿命が存在しない種族なので、割りとのんびりとしているらしい。

 クティやサニー先生をみているとそんな気はまったくしないのだけれど、招待状の返事も十年単位で待たせておいても構わないと言われていた。

 ただ、そこはやはり正式な招待ということもあって、滞在する施設などはきちんと用意してから招待してくれたみたいだ。

 一応サニー先生がメインとなって連絡は取り合っていたのだけれど、実際にこうしてミニチュアサイズの町並みを見てしまうとちょっとだけ不安になってしまうのは致し方ないだろう。


 ちなみに、ミニチュアサイズの街の道を走る巨大な車は当然、注目を集めている。

 街に入ってからはかなりゆっくりな速度になっているので、たくさんの妖精族が私たちを見ている。

 中には並走している者までいるが、出迎えの一団が車の周囲を固めているので近寄っては来ない。


 たまに、クティが手を振ってあげると、歓声が湧いていたりする。

 さすが、クティ。世界の隣の森最強の魔術師の名は伊達ではない。

 でも、そんな歓声を聞いてもクティの表情は貼り付けたような笑顔のままで、いつものドヤ顔にならない。


「サニー先生、クティが笑顔で対応していますけれど、ドヤ顔じゃないのはなぜでしょう?」

「あいつにとって、こういった状況はこちらでは日常茶飯事だからな。そういうものとして対処している証拠だ。あの表情も普段のものではないだろう?」


 なるほど……。

 今のクティは、私たちがよく知っているクティではなく、世界の隣の森最強の魔術師、クレスティルトなのか。


 普段のクティとは、また違った一面がみれたのは嬉しいような、そうでないような。

 でも、こういったことは必要なのだろうな。

 何せ彼女はここでは、「みんなのクティ」なのだから。


「リリーお嬢様。淑女は嫉妬をしても顔には出してはならないものです」

「……出てました?」

「いいえ」

「なら、大丈夫」


 少しだけ不機嫌な声が出てしまったけれど、私も子供じゃないからね。

 いや、見た目は完全に幼女だけれど、精神的にはすでにアラフォーなのだ。

 この程度のことで嫉妬したりなんてしないさ。


 ゆっくりと流れていくミニチュアの街並を、早く過ぎ去ってくれないかな、と思ってしまうのはこの際仕方ないよね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 たどり着いた先は、ミニチュアサイズだった町並みとは全く異なり、私たちのサイズとしても大きな建物だった。

 ここが私たちの滞在する場所だそうだ。

 無論、大きいとはいってもクリストフ家の屋敷と比べるのは分が悪い。

 それでも、人種三人とレキ君、妖精族ふたりであれば十分すぎる大きさだろう。


 出迎えの一団はここでお役御免となり、今度は歓待役を任ぜられた妖精族が私たちの世話をしてくれる。

 その人数はかなり多く、全部で百人近くいるみたいだ。

 統一された服装でずらっと並ぶ彼らだが、ぶっちゃけクリストフ家で見慣れている使用人たちの整列ほど、洗練されてはいないように感じる。

 いや、比べる方が間違っているのかもしれない。

 何せクリストフ家の使用人たちは、全員がお婆様とお爺様が経営する地獄の使用人育成校の卒業生なのだ。

 文字通り、卒業するには命がけであり、まさに地獄のような学校だとスカーレットからは聞いている。

 そんな人たちと普通の使用人を比べてはいけないのだ。


 まあ、妖精族の使用人が普通なのかどうかは、この際考えないようにした場合の話だが。

 たかだか百年も生きることができない人種と、寿命が存在しない妖精族ではかけられる時間が違いすぎる。

 現に、全ての使用人とはいかないが、先頭にいる数名は一部の隙すらない。

 妖精族でもピンきりなのだろうね。


 案内された部屋は広さ的にも私の部屋よりもだいぶ広く、レキ君ルームよりは少し狭いくらいの場所だった。

 でも、調度品は素晴らしいもので取り揃えられているようだし、配置も華美すぎず、さりとてシンプルすぎることもない。


「まあまあかなー」

「恐縮でございます、クレスティルト様」


 部屋全体を見渡していたクティの感想に、深々と頭を下げて応える、先頭にいた一部の隙もない使用人の妖精族さん。

 この人と他数名が部屋付きの使用人になるそうだ。

 全員がクティとサニー先生に特に敬意を払っているのが窺える。

 何よりも熱い眼差しが雄弁に語っているからね。

 でも私たちをないがしろしているわけではなく、しっかりと仕事をこなしながらのことなので問題があるわけではない。


 それにこちらはこちらでスカーレットとミラがいる。

 ミラは私の専属だし、スカーレットだってあの学校の卒業生。

 使用人として引けを取るわけがないのだ。

 今も、レキ君が背負っていた荷物を下ろし、荷解きをさっさと済ませてしまっている。

 あれほどあった荷物を手早く、整理してしまうのだからさすがだ。

 どうです? うちのメイドさんもすごいでしょ?


 まあ別に張り合う必要性はないのだけれど、なんだかとても有能そうだし……それに、クティを見つめる時間が長過ぎません?

 ほら、サニー先生もいますよ? 魔術研究所所長さんですよ?


「わふん」

「ハッ! レキ君、どうしました?」

「わふふん」

「ああ、クティパッドですね。はい、どうぞ」

「わふんふん」


 荷物持ちから解放されたレキ君が、いつまで自分を放っておくつもりだと大きな頭を押しつけてくるので、クティパッドを与えておきましょう。

 移動中も退屈そうにしていいたし、目が雄弁に語っていました。ゲームしたい、と。


 彼専用のクティパッドを受け取ったレキ君は、すぐに最近お気に入りとなったFPSゲームを起動したようだ。

 すっかりゲーマーになってしまって、ちょっと将来が心配です。

 まあ、思いっきり体を動かすにはこの部屋は狭すぎるし、外の周辺探査も全部は済んでいないので、じっとしていてくれるのならなんでもいいかな。


「クリストフ様、よろしいでしょうか?」

「あ、はい。なんでしょうか?」


 レキ君の将来を少し不安に思っていると、クティに熱い眼差しを送っている人とは別の妖精族の使用人が控えめに声をかけてきた。

 この場でクリストフを名乗れるのは私だけだけれど、呼ばれなれていないのでなんだか少しむず痒い。

 まあ、そんなことはおくびにも出さないけれどね。

 妖精族の使用人から、これからの予定について説明を受けると、彼らは退出していった。


 クティやサニー先生のお世話をしたがっていたようだけれど、本人たちが断ったので無理強いはできなかったみたいだ。

 クティは私と一緒の時間を邪魔されたくないし、サニー先生は出迎えの一団から受け取っていた研究員からの件があるので、これから研究所に顔を出すそうだ。

 私にはミラとスカーレットがいたので、こちらも断った。

 決して、クティを見つめる熱い眼差しが気に入らなかったわけではない。


 そんなに疲れる移動ではなかったけれど、少し休憩をいれるくらいは必要だ。

 まずは、不足してきたクティ成分の補給から始めようかな。



予定通り、次話から三日に一度の投稿になります。

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