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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
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199,調査とカオス




「お嬢様、金属の腐食具合がところどころおかしいようです」

「そうみたいだね。消失した際に何かあったのか、もしくは世界の隣の森の何かしらの成分が、例えば魔力とかが関係してるとか?」

「ありえそうですね……」

「ちなみにそれ、私が生まれた頃にはもうそこにあったみたいだよ?」

「ということは、少なくとも二千年は経過している、ということでございましょうか?」

「うん、そー」


 スカーレットとふたりでクティパッドを眺めていると、クティも参戦してきて、今では三人でクティパッドをあれこれいじっている。

 周囲を飛んで護衛してくれている出迎えの一団も、気になるようだったけれど特に何も言わず、好きにさせてくれている。

 出迎えのトップの人は未だサニー先生と話しているし、私たちの考察はまだまだ続けられそうだ。


 ちなみに、レキ君は後ろから自分もクティパッドでゲームしたい、というお願いビームを発しているけれど、無視。

 遊んでるわけじゃないんだからね!

 最後のひとりの同行者は魂が抜けたように呆然と座席の隅で縮こまっているし……。そこまで怖いのかね、ミラさんよ……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「何を見ているのかと思ったら、漂流物か」


 クティパッドに映し出されている三次元映像をこねくり回して、懐かしきあの頃を思い出していると、サニー先生が戻ってきた。

 彼女も私たち同様にクティパッドを起動して、確認すると納得したらしい。


「あ、サニー先生。もうお話はいいんですか?」

「うむ。多少の打ち合わせと、研究所の連中からの伝言程度だったからな。何、数年放置していた程度で泣き言を言ってくるなど、まだまだ研究員として甘いのだ」

「ええと……ど、どうなんでしょう?」


 放置された研究員については、言葉を濁しておいた。

 だってどう考えても私が原因なんだしね。


「私は漂流物に関してはあまり興味が湧かないが……ふむ。講義が必要かね?」

「ぜひともお願い致します!」

「ほほう。スカーレットが講義を希望するとは珍しいな。だがそうか、そうか。ではまず漂流物とは何か――」


 サニー先生は漂流物に関しては、やはりあまり興味がないご様子。

 だから聞かれるまでは講義をしなかったのだろう。それよりも教えたいことは山のようにあったわけだから。いや、今もたくさんの講義をしてもらっているので、教えたいことは尽きていないようだけれど。


 そして、興味がないと言っていたのに講義が出来てしまうくらいには、知識が豊富なのだ。サニー先生、さすがすぎる。


 先生の講義の内容は、世界の隣の森においてどういったものが漂流物として定義されるのか、から始まり、突如出現するそれらの種類、利用法。

 そして、危険性についてだった。


 クティが言っていたように、漂流物は妖精族にとってサイズが合わないのがほとんどであり、そして大抵のものが爆発したり、何かしらの危険な因子を孕んでいる。


 だが、漂流物はその機能やフォルムなど、サイズこそ合わないまでも魔道具の参考にもなったようで、一時期は積極的に調べる部署まであったそうだ。

 調査のための専門の部隊まで作られていたそうだから、本格的だ。

 しかし、突如爆発したりする漂流物が多いため、部隊員は少しずつ数を減らし、そんな危険な仕事に従事したい妖精族は当然ながら少なかった。


 さらに、クティやサニー先生などの規格外の発想力、実力を持つ存在が現れたことにより、魔道具の発展は目覚ましいほどに進化を遂げる。

 元々、新たな魔道具の発想を得るために漂流物が調べられていたのだ。結果として、部隊の解体も当然の流れだった。

 今では物好きで命知らずな者のみが、漂流物に手を出している状況らしい。

 全面的に禁止にしないのは、今回私たちが乗っているような車などの何かしらに使えるものが手に入るかららしい。

 同様に、新たに出現する漂流物についても、どこに何があるのか、程度の情報ではあるが調査はされているそうだ。

 これではサニー先生が興味を持てないのも頷ける。


 しかし、私たちにとっては別だ。

 リズヴァルト大陸に元母国の様々な影響が残っているのは、おそらくこの漂流物のせいだろう。

 妖精族が漂流物を調査し、そこで得られたものを何らかの方法を使ってリズヴァルト大陸に伝えた。

 妖精族を見るのも、声を聞くのも難しい。

 でも彼らがその気になれば、情報を伝える方法はいくらでもあるのだ。

 何せ、彼らには魔術がある。

 既存の魔術に限っても、様々な種類が存在するだけに、情報の伝達は決して不可能ではない。


 それに……漂流物が世界の隣の森だけに出現しているとは限らないわけだし。


「――いくつか対応方法が確立されてはいるが、未だ種類が多すぎて完全にとはいかないのが現状だな」

「先生、質問がございます」

「なんだね、スカーレット」

「漂流物は世界の隣の森にのみ出現するものなのでしょうか?」


 サニー先生の講義が途切れる一瞬を狙い済ませて、質問を挟むスカーレット。基本的に先生の講義は、こちらのことはお構いなしにガンガン進んでいくので、質問をするのも大変だ。

 でも、そんな先生の講義を何度も私の横で聞いては、「頭痛が痛い」と言っていたスカーレットなので、質問のしどころもわかっていたようだ。

 これを間違うと、先生の講義はさらに激しさを増すので気をつけなければいけない。


 質問の内容も私が聞きたかったことなので、そのまま私は静かにしていよう。

 今回は珍しくスカーレットがサニー先生に望んだ講義でもあるし。

 普段スカーレットがサニー先生から講義を受けることは、まずないのだ。

 何せ、サニー先生の講義はとても難解なのだから。

 今でこそクティの図解なしでも私は理解できるようになったけれど、スカーレットにはチンプンカンプンだそうだ。クティの図解があってもなので、私としてもあまりお薦めはできない。

 そんなスカーレットが望んだ講義であり、さらには質問までしてくれたというのはサニー先生にとっては嬉しいことだったのだろう。

 普段の二割増しくらいマッドな笑顔で答えてくれた。


「そうだな。現状で確認されている限りにおいてはリズヴァルト大陸ではみつかっていない。だが、あちらに出している調査班は漂流物の発見を主目的にしているものではないので、発見に至っていないだけかもしれん。さらにいえば――」


 スカーレットがサニー先生の講義を望まないのには、講義自体が難解こともあるけれど、質問を一つするとその答えが二倍にも三倍にもなって返ってくる点もあると思う。

 私は結構それが好きなのだけれど、スカーレットはそうでもない。

 表情こそ変わらないけれど、どんどん頭の上にクエスチョンマークが溜まっていっているのがわかる。


 ……サニー先生、その辺で許してあげてください。スカーレットのライフがどんどん削れていっています。


「さ、サーニーン殿、お楽しみのところ申し訳ありません。そろそろ到着致しますが……」

「――だが術式から鑑みるに、機能美の追求を目指したその発想は――」

「先生、サニー先生。着くそうですよ」

「あーこれだめだね。サニーはこっちでなんとかするから、そっちはそっちで仕事してていいよー」

「畏まりました! それではよろしくお願い致します!」

「あいあいー」


 サニー先生が窓口代わりになっていたので、出迎えのトップの人が報告にきてくれたけれど、残念ながら今の先生を止めるのは無理っぽい。

 見かねてクティが代わりに応えてくれたけれど、途端に出迎えのトップの人が一気に緊張していた。

 クティ、すごい! さすがは世界の隣の森最強の魔術師!


「クティ、すごいね! なんだかとっても偉い人みたいだったよ!」

「ふふふん。私は偉いんだよ! もっと褒めていいんだよ!」

「クティ、すごい! かっこいい! 可愛い!」

「ふははー!」


 出迎えのトップの人が言ったように、外の光景は鬱蒼と生い茂っていた森が開け、街らしきものが少しずつ見えてきていた。

 次々に飛び込んでくるデータがフィルターを通して、視覚膜にその映像を構築していくが、今は目の前のクティの素敵なドヤ顔の方が大事なのだ。

 つまりは、カオスな状況は加速度的に増していく、ということ。


 ドヤ顔が素敵すぎるお妖精さまと、それを手放しで褒め称える私。

 クエスチョンマークで埋め尽くされ始めたスカーレットに、喜々として講義を続けるマッドなお方。

 背後では気絶しかかっているミラと、つまらなそうにして走っているレキ君。


 出迎えの妖精族一行は、一体どんな思いでいたのか、あとになってちょっと心配になる私だった。



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