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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
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198,懐かしい思いと漂流物




「お待たせ致しまして、大変申し訳ありません。我ら女王ナターシャの命により、客人の出迎えの栄誉を――」


 出迎えの妖精族の一団が私たちの前に到着し、何やら口上を述べていたようだったが、私はそれよりもずっと車に目を奪われていた。

 まさかいきなり目的のものに出会えるとは誰が想像しよう。サニー先生だって、車に関しては一切教えてくれていなかった。

 先生の講義は幅広く、様々なことを網羅していたとはいえ、それでも先生の好きなことがメインだ。

 特に魔術やそれに親しい事柄は広く深く。それ以外は広くとも浅く。そんな感じだった。

 目の前に存在している車は排ガスの匂いがしないことから、燃料は別のエコ的なものなのだろう。未来的なフォルムがそれを後押ししている。

 きっと水素とか、電気とか、とにかく魔力ではなさそう。魔力を燃料にしていたら、サニー先生の講義で登場しそうなものだし。


 それに大きさも問題だろう。

 妖精族にはまったく合わない、そのサイズ。

 私たち人種にはあっても、妖精族にはまるで合わないのであれば、日常で使うこともほとんどないだろう。

 それに車なんてなくても、妖精族には妖精族の魔道具がある。

 魔力のような不純物の入り交じった燃費の悪いエネルギーとは違って、精霊力を持つ彼らは高出力の魔道具をいともたやすく扱うことができる。


 先生の話では、リズヴァルト大陸の魔道具とは違い、世界の隣の森の魔道具は外部からエネルギーを取り込め、そのエネルギーを燃料として稼働させることができるという話だった。

 なので、高い出力を誇る精霊力を魔道具の燃料に使えれば相当なものが作れる。

 エーテル結晶体を燃料にしているクティパッドのようなものはさすがに無理としても、クリストフ家の屋敷に設置してあるようなエアコンなどの空調機などは大規模な範囲で使用できるものが作れるだろう。

 それこそ、局所的な環境調整ができるほどの。


 移動に関しても、同じことがいえる。

 もっと妖精族に適した乗り物があるのだろう。サイズの合わない車なんて使う必要がないくらいのものが。

 ただ、彼らは皆飛べるので、本当に移動用の乗り物があるのかどうかは怪しいところだけど。

 実際、出迎えの一団は車を持ってきてはいても、他に乗り物らしきものはない。

 車も何人かの妖精族が総出で動かしているみたいだし。


「リリー、リリー。なんか言わないと」

「あ、うん。申し訳ありません。そちらの車があまりにも……」

「確かにオーリオールには、このような乗り物は馬車などしかありませんでしたな。そうであれば目を奪われるのも仕方なき事」

「そう言っていただけると、大変ありがたく存じます。それでは、改めまして――」


 出迎えの一団のトップと思しき妖精族が、代表して受け答えをしてくれる。

 私の失敗も笑顔で流してくれるくらいには、私たちの待遇は良いらしい。もしくは、彼の度量が高いのか。

 まあ、女王ナターシャ直々の招待を受けているし、世界の隣の森で最高の魔術師であるクティ。そして、世界の隣の森魔術研究所所長のサニー先生が一緒にいるんだから、当たり前といえば当たり前かもしれないけれど。


 ちなみに、出迎えの一団は皆、クティたちとは違ってひらひらの布の多い衣装で統一されている。

 妖精族の民族衣装なのだろうか。それともこういった場面で使われる特別な衣装? クティやサニー先生がこんな服を着ていたことは一度もなかったので、少し気になる。


 ともかく、代表である私が自己紹介をし、いくつか無難な挨拶を交わせば移動ということになった。

 世界の隣の森でも最高峰の戦力が揃っているとはいえ、長話をするような場所ではない。

 それに彼らは出迎えに来ているわけだからね。


 私たち人族は、車に乗り、レキ君は当然大きさ的に無理なのでそのままついてくる。

 クティは私の頭の上という定位置。

 サニー先生は、出迎えの一団と何やら打ち合わせをしながらついてくるみたいだ。


 レキ君のみが歩きということで、移動速度はそれほど速くない。

 それでも計測したデータでは、時速三十キロは出ていたけど。

 レキ君にしてみれば、この程度の速度はあるきとさして変わらない。


 クティ以外の妖精族も、普通に飛んでついてきている。

 これなら移動手段として、乗り物が必要になることはほとんどないのではないだろうか。

 荷物の運搬も魔道具でどうとでもなりそうだし。


 運転はそのまま妖精族が数人がかりで行っているけれど、どうみてもアクセル係の妖精からは前が見えない。

 未来的フォルムだけど、自動運転とかそういった機能はないのかな?

 それとも機能はあっても、動かせない?


「おおおおお嬢様ぁ……」

「ミラ、大丈夫だから落ち着いて。これは車といって、馬車みたいなものです。怖くありませんよ?」

「おおおぉぉぉお言葉ですがあぁあぁぁ……馬車はこんなに早く、ああぁぁりませんんん~……」

「あー……そうかも?」


 ミラにとっては、完全に未知の乗り物である車はかなり不安のあるものだったみたいだ。

 しかも馬車の速度を、軽く超えて走っているのだから尚更。

 でも、道はアスファルトではなく、ただ土を均しただけのようなものなのに、ほとんど揺れることはない。

 この辺は未来的なフォルムをしているのは伊達ではなさそうな技術が使われていそう。

 まあ、その分木々が流れていく光景に集中してしまって、ミラは余計怖い思いをしているっぽいけど。

 いや、これで揺れもあったらもっと怖いか。よかったね、ミラ。怖さが減ってるよ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 走り初めて十数分。

 ミラが恐怖のあまり完全に沈黙して震えているのに大して、私やスカーレットは懐かしい気分に浸りまくっていた。

 何せ、私は六年ぶりの車だし、スカーレットに至っては二十数年ぶりだ。

 まあ景色はずっと森の中の一本道なので、まったく代わり映えしないのだけれど。


 ちなみに、視覚膜の描画速度は時速三十キロ程度ではまったく問題ない。

 レキ君の移動速度は時には、時速百キロを軽く上回ることすらあるのだ。

 それを想定して作ってあるのだから、この程度で描画速度が低下するなんてことはない。


 ただ、やはり屋敷の決められた場所だけでしかテストできなかったこともあり、未知の領域をそこそこの速度で移動し続けるというのは、周辺環境のデータ収集面において少々負担があるようだ。

 暇があるときにでも改良を加えてみるとしよう。屋敷に戻ったらほとんど意味のないことではあるけれどね。

 あちらでは、未知の領域を高速で移動することはまずないだろう。それ以前に未知の領域に足を踏み入れる機会があるかどうか。

 視覚膜を拡張すれば広い範囲でデータ収集はできるからね。あまり動かないことが条件だけれど。


「あ、あれは……リリーお嬢様」

「んぅ?」


 視覚膜の改良案をいくつか考えていると、スカーレットが驚きを押し殺して私に声をかけてきた。

 彼女の示す方向に顔を向けつつ、周辺環境のデータ収集を一時的に全周範囲から絞り込む。


「……え?」


 絞り込んだ先のデータを、瞬時に拡大描画した視覚膜に、私もスカーレット同様驚きの声をあげる。

 それでも表情筋が一切動いていないあたりは、長年の蓄積の賜物だろうか。いや、いいことではたぶんないと思うんだけれどね。


「うん? あーあれは漂流物だよ、スカーレット」

「漂流物、でございますか?」

「そ、漂流物」

「クティ、漂流物って?」

「んー……なんかどっかから突然湧いて出てくるらしいよ。中にはそのまま使えるものもあるんだけど、ほとんど使えないね。あ、この車もそうだね。こういうのはいくつも湧いて出るんだけど、ほとんど壊れててたまに爆発するから危なくて近づかないんだよねー」


 クティののほほんとした答えに、私とスカーレットは顔を見合わせてしまう。

 車の出処がまさかの、「湧いて出た」であるのだから。

 そして、一つの推測が私たちの中で形を持ち始める。


「お嬢様、以前お話した消失事件のことは覚えていらっしゃいますよね?」

「もちろん、というか……まさにこれでしょう」

「はい。そうであるならば、あれは最初の消失事件で消えた……電波塔」


 消失事件。

 生前の世界全域で、唐突に物質が消失してしまうという事件が頻発したらしいのだ。


 らしい、というのも、私が死んだと思われる頃には起きていなかったことだからだ。

 さらには、私よりもあとの時代で死んだスカーレットにとっては割りと身近な事件らしい。

 それもそのはず、スカーレットが住んでいた地域でも発生したのだ。

 しかも、一番最初の消失事件と言われているものが発生した地域に。


 消失事件で一番最初に消えたものは、巨大な電波塔。

 私が死んだと思われる時期には、世界最大の電波塔は別の建物になっていたけれど、それでも観光名所としては非常に有名な建物だった。

 それが、今視覚膜によって映し出されている。


 特徴的な赤と白の色彩は残念ながら見えないけれど、それでも見覚えのある特徴的な形は忘れがたい。

 視覚膜に映し出されている電波塔は、斜めに傾き、森の中から全体の半分が突き出た形になっている。

 展望フロアがあった場所も確認できる。

 データ収集を密にし、仮想描画させてみると、展望フロア内部は劣化が非常に激しい。

 爆発したかのように内部から破裂したようなあとも見受けられる。

 一体何があったのか……。


「スカーレット、クティパッドにデータを送信したから確認してみて」

「はい、お嬢様。ありがとう存じます」


 収集して得られたデータから仮想構築した立体データを、クティパッドでも見られるようにしてある。

 私ひとりで考えるよりも、複数人で共有した方が様々な意見が出るので、早い段階でクティパッドとの連携は確立してあるのだ。


 周辺のデータからみるに、まだ妖精族の街にはつかないっぽい。

 考える時間はまだありそうだ。



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