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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
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196,観測と次元間移動魔術




 比較対象が当然必要なのでまずはこちら側での観測を行なう。

 人間が生存可能な状態というのは意外と多くの条件が必要だ。例えば空気組成一つ取ってみても適切な濃度が複数に渡って必要だし、人体にとって有害な成分が含まれていたら生存は難しくなる。

 生前の世界の人体とこちらの世界の人体では生存に必要となる条件がかなり似ているのが救いだ。

 それほど詳しいわけではないが、以前の知識が使えるのはありがたい。

 まずは人体が生存に必要とする環境条件を調べ、魔術で空間を隔離して実際にシミュレートしてみる。

 たださすがに人体実験をするのは難しいのであくまでデータを比較する程度になるけれど。

 ちなみにこの実験は小規模なテラフォーミングの魔術の他にも宇宙服のような魔術を作るのにも役立った。

 環境が合わなければ無理やり合わせてしまえばいいのだ、という暴論ともいえる極論なので、最終手段だけれど。


 わかってはいたが、妖精族という種族は生命体として究極ともいえる存在だ。

 なにせ寿命がなく、食事も睡眠も必要としない。さらにはどうやら空気も必要としていないようだ。

 魔力の上位互換ともいえる精霊力を持っているのもより上位の存在であることの証左ともいえる。

 既存の魔術一つとってみてもその出力は圧倒的というほどに違いが出るのだから。

 そのせいで低出力での魔術の発動が不可能という欠点もあるけれど、それはクティの作った魔術により解消済みだし。


 何はともあれ、生存可能条件の調査は無事終えることができた。

 データの比較検討だけなので確実とはいえないが、そこは宇宙服の魔術を最初から使っていくことで妥協することにした。

 あとから判明したことだが、この宇宙服の魔術を使うと全身が魔術でコーティングされ、その中で人体に最適な環境条件が整えられる。

 そして外側からの有害な干渉を全て受けないようになっている。

 次元間移動魔術による魔力暴走も対象となるようで、宇宙服の魔術を使っていれば誰でも通れてしまうようなのだ。

 まあ今更だったのでこの話は内緒ということになったけれど。

 それにいくら干渉を受けないといってもやはり限界があり、最初から条件を満たしてしまえば有害な干渉と判定されないので宇宙服の魔術への負荷も少なくなる。


 今回は時間がそれほどなかったのでできなかったけれど、今後の次元間移動魔術の改良には宇宙服の魔術を組み込むのは確定だね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 次元間移動魔術の他にも世界の隣の森への通信手段として、次元間通信魔術がある。

 これは生命体が移動するわけでもないので、比較的簡単に作ることができた。魔力の干渉さえなんとかしてしまえばいいので、ガッチガチに防御してしまえばいいのだ。守るべき通信情報も生命体よりずっと頑強なので。

 おかげでクティたちが定期報告に世界の隣の森へと赴く必要がなくなっていた。その代わりに、割りと頻繁に連絡がきていたけれど。

 忘れがちだけど、サニー先生は世界の隣の森の魔術研究所所長。重要人物であり、結構忙しい人なのだ。

 まあその割にはずっとこっちにいてくれるのだけれど。

 そんなわけでずいぶん仕事も溜まっていたみたいだ。あっという間に終わらせていたけれど。

 さすがサニー先生。半端ない。


 次元間通信魔術で世界の隣の森への訪問の日程などは詰め終わっている。

 まあこれが終わっていなければ準備もしづらいわけだしね。

 移動時間については次元間移動魔術の開く場所を選べば短縮することもできる。でもいつもクティが使っている場所に開くことが決まっていたので移動に半日。

 初日の移動も含めて、妖精族の街での滞在に四日。

 帰りも同じ場所で次元間移動魔術を使うことになっているので移動に半日。

 四泊五日程度の旅程となる予定だ。


 ……なのだが、準備された荷物はとんでもない量になっていた。

 予め馬車などの物資移動手段は使えないことは伝えていたはずなのにおかしい。

 同行する者で荷物を持てるのはスカーレットとミラ……あ、レキ君に持たせるのか。

 確かにレキ君ならば大きいので物を大量に運ぶことも可能だ。

 そのためにレキ君用にサドルバッグを用意させていたらしい。しかもいつの間にかレキ君自身にも荷物運びの訓練をさせていたみたい。

 私もレキ君と四六時中一緒にいるわけではないので気づかなかった。

 ちなみに荷物の内訳は食料が四分の一、衣服やアクセサリーが四分の二。その他様々な魔道具が四分の一である。

 半分が衣服やアクセサリーというのはやはり曲がりなりにも貴族の子女であるので納得しよう。

 食料も妖精族は食事をしないし、不測の事態を考えてもこちらで準備しておいて損はない。

 荷物の総量が多いので三人で食べても有に二巡り(二週間)は持ちそう。特に私は少食だし。

 魔道具に至っては微に入り細に入りの至れり尽くせりだ。中には赤ちゃんの時に使っていたオマルや、天幕やベッド、椅子、テーブルなどもあったりする。

 どうやらサバイバルをしても快適に過ごせるように準備しているようだ。どういうことなの。


「リリーちゃん、初めての旅行でしかもお供をほとんど同行できないのですから念入りな準備になるのは当然なのよ? むしろこれでも随分少なくしたくらいなんですから」

「そうよ、リリー。レキの他にはスカーレットとミラしか荷物を持てないんだから仕方ないとはいえ、かなり少ないのよ? 本来ならこの十倍は準備して然るべきなのに」


 用意された荷物を見て首を傾げていたらこんなことをお婆様とエナに言われる始末だ。

 そのあとは家族みんなから様々な注意事項などが伝えられ、とにかくどんなに心配してもしたりない。むしろ今からでも中止すべきなのでは、と喧々諤々の大騒ぎとなってしまった。

 まあ無論すでに世界の隣の森側との話し合いも済んでいるので今から中止とはいかないのだけれどね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 スカーレットはともかくとして、ミラはお婆様を中心とした家族たちに何やら特訓を受けていたらしい。

 詳しい内容は知らないけれど、ミラの憔悴っぷりをみるに相当過酷なものだったのだろう。

 準備中のほぼ全ての期間をかけて行われていたが、それでも時間が足りないとお婆様たちはぼやいていたり、準備完了という名の特訓の終わりにミラは地獄からの解放を心底喜んでいた。

 ……ほんと一体どんな特訓してたのさ。


 そんなこんながあってようやっと全ての準備が整い終わったのは、カミングアウトから数ヶ月もあとの話だ。

 まあすぐに出発できるとは思っていなかったけれど、ずいぶん時間がかかったものだ。

 伯爵家の子女、しかも六歳児がお供を二人しかつけないで旅行をするのだからまだ準備期間としては短かった方かもしれないけれど。

 というか、このような旅行は普通は許可される事自体がありえないか。


 だが現実として私は今日世界の隣の森に出発するのだ。

 広いクリストフ家の一画には大勢の使用人たちが見送りにきている。

 無論家族も全員揃っており、一人一人から激励、というか出発を引き留めようと懇願してくるのをお婆様に丸投げして対処してもらったりとなかなかにカオスだ。


 そんな中、クティが次元間移動魔術を起動する。

 彼女はマイペースだし、家族の奇行にはすでに慣れっこになっていたのもあってまるっと無視して動いている。

 お婆様でもなかなか沈められない家族の行動だったので、強制進行はありがたかったけどね。

 あのままじゃいつまで経っても出発なんてできない。


 一度次元間移動魔術を起動してしまえば、既存の魔術とは一線を画す荘厳さにうるさかった家族皆が息を呑むのがわかる。

 次元間移動魔術は隠蔽系の魔術を使わなければ、圧縮した術式が幾何学模様を形成してとても神秘的な光景を生み出すのだ。

 膨大な術式によって織りなされる魔術は、家族全員がつけている妖精族認識メガネを通してみるとはっきりとわかるが、なくても膨大な魔力が事象に干渉して圧迫感を感じさせる。


 そしてある一点を通過した術式は次元への干渉を始める。

 この時に妖精族認識メガネを通さずとも肉眼で魔術が認識できるようになるのだ。

 美しい幾何学模様を形成する術式が一つの門を形作り、世界と世界をつなげる架け橋となる。


 そこに現れた門が発する圧倒的なまでの存在感は、魔術発動に際して使用された膨大な量の魔力の残滓であり、世界と世界を繋げる力が如何に凄まじい力を必要としているかを如実に表していた。


 既存の魔術とは比べ物にならない凄まじい魔術に誰も声すら発することができない中、門が開かれる。

 開かれた門の向こう側は膨大な術式に埋め尽くされて見えない。

 世界と世界をつなげているとはいえ、その先を視認することはできないのだ。

 あの術式群は世界と世界を隔てる壁を通過するためのものなのだから。


 完全に次元間移動魔術が起動したことを確認すると、呆然としている家族に向き直る。

 ここまでくればみんなもさすがに出発を引き留めようとはしなくなった。

 あとはもうしばしのお別れを済ませるのみ。

 とはいえ、たった五日の間だけど。


 念のため宇宙服の魔術を私とスカーレットとミラにかけてもらうのも忘れない。

 家族が妖精族認識メガネをかけているので魔術を使うと、基本的に魔力を認識してしまう妖精族認識メガネでは誰が魔術を使ったのかばれてしまう。

 なのでこれは最強の魔術師であり、護衛役でもあるクティの出番となる。

 次元間移動魔術を使ったことですでに圧倒的な存在であるということはわかってもらえているし、宇宙服の魔術程度では今更だ。

 それでも既存の魔術にはない超高等魔術だ。第二級魔術師であるお母様は食い入るようにみていた。

 妖精族認識メガネを通して術式を見ることができても、世界のアーカイブへの接続しかできない発動体を使っている限りは使うことはできないのだけどね。

 機会があったらお母様にもクティパッドへ接続して私たちが作った魔術をみてもらいたい思いはなくもない。

 でもその機会は当分先になるだろう。私が魔術を使えるのはまだ秘密だしね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 家族たちとの別れを済ませ、次元間移動魔術の門を潜る。

 無論最初に潜るのはクティとサニー先生。その次にスカーレットとミラとレキ君。最後に私だ。


 こうして私たち五人と一匹は無事に世界を渡り、世界の隣の森へっとやってくることができた。



2017.3.15 誤字修正

2017.4.1 誤字修正

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