195,検査と準備
お母様とお父様の説得はお婆様がわざわざ王宮まで行って行っていた。
二人とも最近は特に忙しくてなかなか屋敷には帰ってこれないので仕方ない。
ただまあ、その日はお婆様と一緒に帰宅して家族みんなで大騒ぎとなったけど。
仕事の方は無理やり休んできたらしいけど、大事な娘の衝撃の告白だから仕方ないのかな?
「リリーちゃん、本当に見えているの? 私の顔もちゃんとみえてる? あぁ……神様。いいえ、サーニーン様、クレスティルト様。本当にありがとうございます」
「リリー、パパだぞー! これがおまえのパパの顔なんだぞー! こんなに嬉しいのはおまえが生まれてきてくれた時以来だ! パパだぞー!」
二人とも帰ってくるなり、泣いて喜び、お父様はもう意味不明だった。
まあそれでも喜んでくれるのはとてもうれしいし、その愛情はもう大放出される魔力によっても感じることができた。
メガネ型視覚膜再現魔道具でその光景をみたお父様がさらにびっくりしていたけどね。
その後も家族のみんなが代わる代わるその光景をみて驚いていた。
放出した本人のお母様もびっくりしていたけど。
普通は魔力を見れないのだから仕方ないことだったけど、おかげで消耗品であるメガネ型視覚膜再現魔道具はその時に全部使い果たしてしまった。
あまり長い時間使えるものでもないからね。
エリオットにはまたいくつか作っておいてもらおう。
そのエリオットは現在、スカーレットが常用している妖精族を認識するためのメガネの量産を行っている。
改善点などもある程度出揃っていたのでバージョンアップしたのだ。
これからはスカーレットだけでなく、家族にも妖精ズの姿と声を認識してもらわないと困る。
なので量産が必要なのだ。
最終的にはもっと簡単な方法で妖精族を認識できるようにしたいが、まだ構想段階なので時間がかかるだろう。
一頻り喜び、大騒ぎをしたあとお母様とお父様は世界の隣の森行きには同行できないことをとても悔しがっていた。
なかなか屋敷にも帰ってくることもできない状況なのだから致し方ない。
「宮廷魔術師なんてもうやめてずっと子供たちの傍にいる!」と言い始めたお母様をお婆様とお爺様の二人で説得したりもしていた。
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家族へのカミングアウトが一段落すると、次は次元間移動魔術の適性検査である。
スカーレット仕様の次元間移動魔術ですら改良にだいぶ時間を取られたので、同行希望のお爺様たちには通常仕様の方で適性検査を受けてもらう形になる。
その他にもできる限り屋敷の使用人たちにも検査を受けてもらうことになった。
クリストフ家の使用人は全員がお婆様たちが経営する学校の卒業生なので、戦闘要員でもある。
サニー先生からの説明で次元間移動魔術の適性検査は非常に狭き門であることは伝えてあるので、とにかく可能性があるなら試したいとのこと。
結構な人数が検査を受けることになったので、一人や二人はパスする人もでてきそうな気がする。
もしかしたら全滅なんてこともあるかもしれないけれどね。
いやむしろそっちの可能性のほうが高いかもしれない。
結構な数とはいっても二百人にも満たない数なのだから。
ちなみに一番最初に受けたお爺様は見事に撃沈。
続いて受けたお兄様とお姉様も撃沈。
まあその後諦めきれずに何度も何度も検査を受けていたけれど、当然結果は変わることはなかった。
ちなみに適性検査はクティパッドを持ったサニー先生が行っているようにみせかけていた。
実際にはみせかけていただけで私が魔術を行使して検査を行っていたのだけどね。
その理由付けというわけではないが、検査中ずっと付き添いをするために幼女メイド再びである。
いや、もう結構色んなことを理由にして幼女メイドが何度も降臨しているのだけど、今でもその人気は衰えない。
何がみんなを突き動かすのか。今でも不明だ。
そんな幼女メイドが降臨すると、エリオットは妖精族認識メガネの量産で忙しいはずなのに色々と小物をもって駆け付けてくる。
改良に改良を重ねて稼働時間が飛躍的に伸びたミミシッポだったり、天使の羽だったり、その時々に応じて小物は色々だ。
だがどうにも毎回エリオットの小物の登場で黄色い悲鳴が増幅する。
まあもう何度も経験しているから私は慣れたものだけどね。
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二百人に及ぶ検査対象の内、合格したのはたった一人。
それも専属のミラという、驚きの結果だった。
……でもよく考えてみれば彼女はご褒美として私のもふもふを何度も受けている。
レキ君も同様に何度ももふもふを受けてエーテル結晶体を体内に生成してしまい魔力が規定値を超えていた。
さらに彼女は専属の中でも私のお気に入りだ。
……もしかしてミラは適性じゃなくて、魔力の方の既定値を満たして合格したのではないだろうか。
念のためにエーテル結晶体が体内に発生していないか、念入りに検査を行ったが異常は認められなかった。
魔力総量に関しても既定値を超えていないことがわかった。
つまりは彼女は本当に次元間移動魔術の適性を持っているのだ。
私好みの至高のもふもふであり、さらには次元間移動魔術の適性まで持っている。
ミラ、恐ろしい子!
ちなみに他の専属は全滅でした。
世界の隣の森への旅の間は専属たちへのご褒美は当然なしになる。
まあ同行が確定したミラはそうでもないかもしれないけど。
その事実に絶望に打ちひしがれている三人は他の使用人たちに比べてある種異様な雰囲気だった。
何せ家族以上に悲しんでいたからね。絶望感がすごかったし。
私のもふもふによって、エーテル結晶体が体内で生成されるような状況にならないように気をつけていたとはいえ、専属たちへのご褒美は結構な頻度で行われている。
まあ彼女たちも喜んでいるし、私ももふもふが楽しめてWin-win。むしろあまり間隔があくと禁断症状的なものが出るとニージャが平然とのたまっていた。
さすがにそれはどうなのかと思ったが、もはやどちらにとっても欠かせない行為なので仕方ない。
そう、仕方ないのだ。
それだけをとってもミラに適性があって本当によかった。
私の方が我慢できなくなっちゃうかもしれないからね!
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適性検査は済んだが、それではい出発とはならない。
サニー先生から世界の隣の森で必要となる準備に関しては適性検査を実施している間にクリストフ家側に伝えられた。
一応旅程は五日を予定している。たかが五日。されど五日である。
オーベント王国最大の貴族家であるクリストフ家の次女である私が世界を跨いだ場所にある世界の隣の森の女王に招かれての五日の旅程だ。
そりゃあもう準備が大変なのである。
でも適性検査の結果、同行できる人数はとても少ない。
クリストフ家側からの使用人はスカーレットとミラだけ。
この二人に関しては最低限の準備だけとしてもそれでも結構な荷物になる。
だが主賓ともいえる私の場合は輪をかけて荷物が大変なことになるのだ。
普段着だけでも結構な量だし、あちら側で必要になりそうな正装やら何やらでもうとんでもないことになっている。
さらには世界の隣の森では食事の問題が出て来る。
何せ妖精族は食事をしないのだ。
サニー先生の講義で、世界の隣の森では料理という概念すらなくなっていることが判明している。
世界の隣の森にも食料はあるだろうが、クリストフ家側からみれば完全に未知だ。
サニー先生も食事はこちらで準備していったほうが無難であることを伝えられている。
種族としての性質からして違うのだからこれは仕方ない。
招かれている側なのだから、あちら側で準備するのが当たり前ではあるがその辺は文化の違いもある。
オーベントの常識イコール世界の隣の森の常識ではないのだから。
まあそれでもあちら側でもその辺を踏まえた準備が為されているだろうことは伝えられている。
どちらかといえば、何があっても私にひもじい思いをさせないための準備だろう。
その辺は特に家族全員が意見を一致させて準備している。
そんな感じでクリストフ家側での準備はかなりの大荷物になりそうだ。
よくある異世界もののようなアイテムバック的な空間を拡張したり、異次元に物を保管できる魔道具は少なくともリズヴァルト大陸には存在しない。
無論世界の隣の森にもないし、この世界を長年調査している妖精族でも存在を確認していないのでないのだろう。
非常に有用なのは確かなので何度か作れないか構想を練ってみたものの、結局未だに作れてはいない。
次元間移動魔術が作れているのだから異次元にものを保管する系統ならできそうな気もするのだが、現実は早々簡単ではないようだ。
ちなみに妖精族は実のところ酸素すら必要としない。
妖精族の声も空気の振動を利用したものではないし、そもそも何の魔術も使わずに浮力を得ているのも謎だ。
そんな妖精族の本拠地でもある世界の隣の森で、人種が活動できる環境なのかも今更ながら問題となった。
サニー先生もそのことは盲点だったようで、スカーレットの指摘に対して一瞬だけフリーズしていた。
私も環境についてまでは気にしていなかった。だが言われてみればそのとおりだ。
生前の世界でも人間が活動可能な星は限られていた。
世界が違うのだ。世界の隣の森がこの世界と同じ環境であるという考えの方が甘かったのだ。
最悪は魔術での小規模なテラフォーミングも視野にいれ、観測系の魔術を組み上げるところから始めることになった。
まあクリストフ家側での準備もまだまだかかりそうだし、時間はある。
人種を送り込む場合は魔力の暴走に気をつける必要があるが、魔道具などであればその辺はあまり気にしなくてもよい。
何せエーテル結晶体を燃料にすれば魔力総量の既定値を軽く突破できるのだから。
さぁ、観測を始めよう。
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