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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
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194,家族と攻略



 エリオットがメガネ型視覚膜再現魔道具を量産している間に、最初にカミングアウトする相手である、お婆様への話をしっかりと詰めた。

 アンネーラお婆様を最初に味方につけるのは必須ともいえる。

 何せお婆様は何が相手だろうと私の味方をしてくれるし、その達人ぶりから色々と寛容だ。

 初めて会った時に私が制御していた魔力にも気づいて、さらにはそれを受け入れてくれた。

 クリストフ家でも抜群の発言力を持つし、お婆様を説得すれば勝ちはほぼ決まるともいえる。


 だからこそ、初めが肝心。

 故に入念に話し合いをして準備もしてきた。

 さぁ行こう。お婆様攻略の時間だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……さすがに驚いたわ。でもそうね。色々と納得がいったわ。ともかく、孫が大変お世話になっております、お二方」

「いいってことよー! これからもいっぱいお世話しちゃうよー!」

「うむ。私も優秀な生徒ができて楽しんでいる。お互い様だ」

「そう言って頂けると助かります。それにしても……これがリリーちゃんに見えている光景ですか……。何も見えていないよりはいいのですが……」


 お婆様へのカミングアウトは、案外簡単に済んでしまった。

 さすがに妖精ズの存在には驚いていたし、メガネ型視覚膜再現魔道具を通してみた世界については、非常に困惑していた。

 何も見えないよりは、ずっとましなので嬉しい。でも実際にメガネ型視覚膜再現魔道具を通してみた世界には、色がないのだ。白と黒、この二色しか。


「あら……。見えなくなってしまったわ」

「あぁ、それは使用時間に問題があってな。実際にリリーに使っている魔術に関してはそうでもないが、魔道具にするとどうしてもまだまだ使える時間が限られるのだ」

「そうなのですか。リリーちゃんには一日中使っても、大丈夫なのですか?」

「それは問題ないよー。世界の隣の森最高の魔術師である私にお任せだよー!」

「ふふ……。よろしくお願い致しますね」

「おうよー!」


 魔術に関しては、ほぼ全てクティが使用しているということで説明している。

 実際にクティの腕を見せるために、防御魔術をお婆様に攻撃してもらったりもした。

 既存の魔術でも防御魔術は難しい部類の魔術になるし、魔術師として、護衛戦力としての腕を見せるにはうってつけだ。

 お婆様は達人だし、宮廷魔術師であり第二級魔術師でもあるお母様の防御魔術すら簡単に打ち砕く強さをもっている。


 そんなお婆様の初撃を、クティの防御魔術はあっさり受け止めた。

 お婆様も様子見どころか、本気で打ち込んでいたのだけどね。レキ君ルームの石の床がお婆様の踏み込みで半径十メートルくらい砕けていたし、お婆様の体内を流れる魔力の煌めきが、今までみたことないような美しさを放っていたし。

 お婆様、本気出しすぎです。しかも初撃でそれって……クティの防御魔術を完膚なきまでに打ち砕く気満々でしたよね?


 本気の一撃をあっさり受け止められたことは、あまり驚いていなかったお婆様だけど、その後にクティが同じ防御魔術を一瞬で複数展開させたことにはとても驚いていた。

 お婆様の攻撃を受け止められる防御魔術というだけで、リズヴァルト大陸の魔術師を軽く凌ぐ実力であることは証明される。さらにはそんな魔術を複数同時に扱えるとなれば、もはや言葉もないということらしい。

 クティが常にそばにいて守ってくれると宣言している以上、お婆様も納得するしかなかった。


 そしてサニー先生が、どれだけ私が優秀な生徒であるかを喜々として語っていた。

 ちょっと恥ずかしかったけど、これも必要なこと。我慢我慢。

 お婆様もサニー先生に何度も質問を繰り返し、彼女の優秀さを確認していた。


 その結果、お婆様の説得は無事成功した。

 世界の隣の森行きに関しても、お婆様自身は難色を示しつつも応援してくれるという結論に達した。


 世界の隣の森を実質的に治めている女王からの招待状。

 クティという防衛戦力による、絶対安全な旅の保証。

 家族の許可を取っていなかったとはいえ、世界の隣の森の重要人物であるサニー先生から施された教育は、リズヴァルト大陸中のどこを探しても受けることができないような超高等教育。

 見返りといっては変だが、そんな教育を施してくれたサニー先生からもお願いされては、お婆様も折れるしかなかった。

 少々強引な攻め方ではあったが、サニー先生はこの手の交渉術も得意だったようだ。

 ……先生からは色んなことを学んだけれど、こういったことは教わったことはなかったな。それもお婆様を折れさせるレベルというのは、さすがすぎる。

 でもこれならば、他の家族の説得も期待できる。

 お婆様も味方についてくれたしね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……結果はこれも満点だ。一級政務官試験だよな、これ……」

「お爺様。これでご納得いただけましたか?」

「いや、その……確かにおまえが天才なのは理解した。これだけの教育を施したサーニーン殿の手腕も疑いようがないものなのだろう……そもそもアンを籠絡されていては、もはや手も足もでないのだし……」

「人聞きが悪いですわよ、あなた。わたくしはリリーちゃんのためを思っていってるんです」

「ほんとかよ……六歳だぞ、リリーは……」


 お婆様の次はお爺様の番だ。

 だが、すでにお婆様を味方につけている以上、勝ちは揺るがない。

 それでも抵抗してくるのは予想していた。まあそれも予想の範囲内であったので、問題は特になかったのだけど。

 その抵抗も、サニー先生の施した教育がどの程度のものなのかを確認するために、いくつかの試験を出された。物理的な視界を得ているという証明のためにも通常の筆記試験で。

 ちなみに出された試験は、どれもオーベント王国でも最高峰の試験だったらしいけれどね。


「では、他にも試験をしますか?」

「……いや、必要ないだろう。おまえの優秀さはわかった。クレスティルト殿の魔術の腕も理解した。だが、条件はつけさせてもらうぞ?」

「どういった条件でしょうか?」

「まず、俺が同行する」

「あなた」

「……その次元間移動魔術だったか? その適性試験を受けるのは問題ないだろう?」

「かなり狭き門になるのは、予めご了承頂きたい。そもそも世界を超えるというのは――」


 催眠音波でも出ているのではないかという、サニー先生流の交渉術により、お爺様の説得も無事完了しました。

 ……お婆様に使った交渉術をご教授頂きたいとは、確かにお願いしたのだけれど、まさかそれを今ここで実地で学ぶことになるとは。


 お爺様、南無。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「じゃ、じゃあ本当に見えてるんだね!? あぁ、神様! よかった! 本当に良かった!」

「本当によかったわ! リリー……」

「それで、その適性検査は、どういうことをするんだい?」

「あ、ずるいわよ、お兄様! 私ももちろん受けるからね、リリー! あなたは私が守ってあげる!」

「ボクだってリリーを守るよ!」


 お兄様とお姉様の説得はお婆様たちに大部分を任せたので、特に何の問題もなく終わった。

 二人とも物理的な視界を得ていることを理解して、泣きそうなくらい喜んでくれたし、お爺様同様、世界の隣の森行きには同行する気満々のようだけどね。

 もちろん、お爺様同様に適性検査を受けてもらうつもりだ。

 個人仕様に合わせた次元間移動魔術をいくつも作るのは、現状では労力に見合わないし、あちらに行ったら色々とやりたいこともあるので、なるべく行動の制限をされない人選にもしたいからね。


 まあそれとは別に、お兄様とお姉様の趣味でもある木や草花の手入れによく連れ出されるようになった。

 今までは直接触って感触を楽しんだり、香りを楽しむ程度ではあった。

 でも物理的視界を得ているのならば、もっと色々と二人は楽しんでもらえるとはりきっていた。

 私的にはあまり興味はないのだが、一生懸命に説明して楽しませようと頑張ってくれる二人の姿を見ているだけでも和む。

 たまに引くくらい私のことを溺愛している二人のことを、嫌いになんてなれるはずがない。そんな二人の大切な趣味を否定することはできない。

 まあ、何かを育てるというのは、情操教育にも一役買ってくれると思うしね。


 ……ペットじゃないのが、なんとも二人らしいけど。


「ほら、ふたりとも。そんなに興奮するとリリーだって疲れちゃうわ。だから……ぐす……変ね……嬉しいことなのにまた涙が止まらないわ……リリー……あぁ、私のリリー……よかった。本当に……本当に……」

「エナ、泣かないで……。私まで泣いちゃう……うぅ」

「エナ……エリー……ぐすっ」


 エナにはお爺様のあとに話したのだが、そのときにも喜びすぎて感極まり、涙が止まらず大変だった。

 常にそばにいて、溢れんばかりの愛情を与えてくれた彼女はもうひとりの母親といっても過言ではない。

 私ももらい泣きしてしまうくらいに彼女が大好きだ。

 しばらくの間、五人でわんわん泣いてしまったのは仕方ないことだろう。


 もちろん、五人目はクティだったけど。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ちなみに物理的視界を得ていても、学校へ通う話はでてこない。

 その前に、サニー先生に施された教育の成果を見せているのが大部分ではあるけど、いくら物理的視界を得ていても、クティという最高の護衛がいても、心配なのは心配なのだそうだ。

 特に物理的視界を得ているとわかったのもつい最近のことだし、早々意識を切り替えることは難しい。

 もう少し時間をかけて様子をみればかわってくるとは思うが、私も別に学校へは行かなくてもいいかな、と思っている。


 人脈作りや、単純に友達を作るという点でみれば、学校に通うのはいいことなのだろう。

 ただ、やはり生前の記憶もあるので、精神年齢的に六歳児の友達を作るというのは抵抗がある。どうしたって親目線で見がちなのだから。

 お兄様とお姉様に対してだって、それは変わらない。まあどちらかというと息子娘ではなく、仲の良い弟妹的な目線だけど。


 サニー先生の教育では教わらなかった、オーベント王国に於ける細々とした一般常識や、最新の教育などは家庭教師を務めているスカーレットが補完してくれる。

 実際彼女は家庭教師として、非常に優秀だ。

 専門分野というにはかなり広い枠で講義をしてくれるサニー先生だが、初等学校で習うような分野については、さらっと飛ばし気味になっていた。

 まあ、簡単すぎて教えていてもつまらないというのもあるのだろう。

 なので詳しくは知らないが、別に知らなくても問題ないようなものは教わってもいない。

 そういった小さな穴をスカーレットに補ってもらっているのだ。

 具体的には絵本で語られるような子供向けの神話や、誰でも知っているような民話的な話だろうか。

 こういったものは、その土地々々に根付いているものであり、知らなくても問題ないが、子供の頃から聞かされることでもあるので誰でも知っている。

 誰でも知っているのだから、知らないと思わぬところで不便でもある。

 高度な講義だけでは埋められないものというのは、確かにあるのだ。



2017/4/20 エナのくだりを追加

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