193,乙女の秘密とカミングアウト
お久しぶりです。
第二部、始まります。
本日は三話連続投稿です。
翌日からは、いつものみんなで家族へのカミングアウト事項を詰める作業に入ることになった。
スカーレットの提言により、全てを話すのではなく、一部の話をこちらの都合に合わせて矛盾しないように話すということになったのだ。
乙女には秘密がつきものだそうですしおすし。
ちなみに、スカーレットは今や私の家庭教師に収まっていたりする。
本来彼女はエナの専属で、クリストフ家としては客分。だが、祖父母の経営する使用人育成学校の卒業生であり、メイドさんだ。
一般教養どころか戦闘までこなせ、さらには伯爵家であるクリストフ家の次女への家庭教師もできちゃう、パーフェクトなお人であったりする。
まあ、この世界の勉学は生前のそれと比べてかなりお粗末といえるので、転生者である私やスカーレットにとっては、簡単すぎる部分もあるけれどね。
目のこともあり、五歳から入学するはずだった初等学校も私は行っていない。その代わりにスカーレットが家庭教師をやっているというわけだ。
学校には勉強だけではなく、人脈作りのためなどの役割もあったりする。このオーベント王国首都オーベントは学術都市としての側面もあるが、貴族がたくさん通うような学校では、やっぱり派閥争いとか面倒くさいのもあるみたいだ。
クリストフ家は伯爵家であり、魔道具作りや魔闘演などの活躍などから、国内どころか国外での地位や名声もかなり高い。
そんな中で、目にハンデを抱えている私が学校に通うのは思った以上に難しいことだったらしい。
まあ、私としては自宅学習の方がありがたかったのでよかったのだけれど。
「では、全面的に私がリリーの才能を見出し、教育を施したということで進めるぞ」
「はい、その方が問題は少ないでしょう。妖精族のことは伝承に残っている程度ですし、実際にサニー様がリリーお嬢様を教育したことは事実ですから」
「私は、魔術面での先生予定と護衛ってことでいいんだよねー?」
「もちろんでございます。クティ様の魔術師としての稀有な才能を見せ、お嬢様の魔術の腕は、もうしばらく隠す方向でいったほうが混乱も少ないでしょう。後ほど魔術を習うということにしておけば、今後も問題が起きにくくなるでしょうし」
「まあ私がリリーを守るのは当然だし、邪魔しないようにさせるためにもそうしたほうがいいだろうねー。特にリリーが魔術をバンバン使っちゃってたら、色々めんどくさいことになりそうだし」
スカーレットの提案で、私が転生したことや魔術が使えることなどは隠すことにした。
ほとんど全ての原因を、妖精族コンビに押し付ける形になってしまうのは心苦しいが、彼女たちのことは伝承でしか伝わっていない。
情報がほとんどない神秘的な種族である妖精族。さらにその頂点に近い二人が私の才能を見出し、英才教育を施したというストーリーだ。
「お嬢様の目についても魔眼であること。サニー様のご尽力により、その力を引き出し、今では十分な視界を得ていること。そして、その証拠としてエリオット様に魔道具を製作して頂きます」
「実際に、リリーの視界がどの程度のものなのかを見られればわかりやすいからな。視覚膜を魔道具として再現するのは難しいが、極々短時間の稼働をクティパッドでそれっぽくサポートすればなんとかなるだろう」
「リリーの目の問題を解決しないと、先に進めないからねー。まあ、一番のネックはそれじゃないけど」
私の目については今までに色々とやらかしていることも含めて、サニー先生のおかげで徐々に視界を得ていったということにする。
本当は視覚膜を得るまでは物理的なものは見えなかったんだけど、その辺も徐々に魔眼の力を引き出していったという感じにまとめるそうだ。
実際、私の目は魔力を見ることができる魔眼だしね。
白結晶騎士団での魔眼の覚醒の件も、サニー先生の実験の結果ということにするらしいし、サニー先生には色々と押しつけてしまって本当に申し訳ない。
でも、この役目は彼女にしかできない。
世界の隣の森で魔術研究所の所長を務めている博識な人物だし、臨機応変な対応もできる。最高に頼れる先生なのだ。
私の知識や視力に関しては、サニー先生のおかげ。
護衛戦力として、クティ。
この二点で話を進めていくことになる。
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カミングアウト事項の詰め以外にも、やることはまだまだある。
世界の隣の森に行くには、次元間移動魔術が必須だ。何せ世界を超える必要があるのだから。
その次元間移動魔術も、現状では適性を持つか、一定以上の魔力量を保有していなければ通過できない。
魔力保有量も、リズヴァルト大陸の一般的な魔術師程度では無理な値になっている。
私の魔力は言うに及ばず、妖精族の二人も問題ない。
エーテル結晶体を有するレキ君も、この問題は解決済みだ。
だが、スカーレットはそうはいかない。彼女の戦闘技術は相当なものだが、魔術に関しては明るくない。それどころか、魔力量自体は一般人並だ。
なので、まずは次元間移動魔術をスカーレット仕様に改造するところから始める。
もはや彼女を世界の隣の森へ連れて行くことは決定事項だし、本人もそのつもりでいる。
転生者であり、私たちの秘密を共有する仲間なのだ。置いていくわけがない。というか、置いていったら拗ねられるし、スカーレットはおちゃめさんなので、どんな悪戯をされるかわからないので置いていくなどという暴挙はしたくないのだ。
次元間移動魔術の改造については、割りと問題ない。
スカーレットの魔力パターンを徹底的に解析して、適応すればいいだけ。
簡単にいってはいるが、魔力パターンの解析なんて第一級魔術師でもできないし、クティたちでもできない。
まあ、私のオリジナルの魔術だしね。
次元間移動魔術もほとんど私が改良したものなので、何をどうすればいいのかは完全に理解している。
現状の次元間移動魔術の問題点は、通過の際の魔力暴走を如何に抑えるか。
魔力暴走を抑えることが可能で、尚且つ出来る限り多くの人の魔力パターンと一致する、という条件が適性と呼ばれるものの正体なのだ。
まあ、かなり少数となるであろう条件なのだけど。
つまり、現状の次元間移動魔術は出来る限り広く使用できるように作ってあるのだ。
今回はこれを、スカーレットが必ず通れるものへと変更する。
魔力パターンは人それぞれ違うので、魔力暴走を抑え込むために彼女の魔力パターンに合わせて仕様を変更するのだ。
こうすればスカーレット専用とはなるが、次元間を安全に移動できるようになる。
「――でもすぐに作れるわけじゃない、というわけですね?」
「まあ、その辺は仕方ないかな。魔力パターンの解析だけでも結構かかるし、さらに術式を専用に改変しないといけないし。正直なところスカーレット以外にはやりたくないし、労力がかかりすぎるかなぁ」
「クリストフ家側からの選抜者は一般向けの次元間移動魔術を使うつもりだし、何人かは適性があるんじゃないかなー?」
「お手数お掛致します」
「それこそ今更だよ。スカーレットを置いて行くなんてできないし、する気もないから」
「そうだよ! スカーレットはもう大事な仲間なんだからね! 置いてけぼりなんてしたら、どんな悪戯されるかわかったもんじゃないよ!」
「ふふふ」
「怖いよ!」
そんなわけですぐに家族にカミングアウト、ということにはならない。
エリオットに作ってもらっている魔道具もあるし、次元間移動魔術の改良もある。
カミングアウトしても、じゃあすぐに世界の隣の森に出発、というわけにもいかないしね。
カミングアウトしてからが本番なのだ。
実のところ、クリストフ家の外へすら私は出たことがない。
そんな状況で世界すら跨いでの旅行に行きたいなど、そう簡単に許可が下りるわけもない。
まずは、準備である。
まあその準備も、主にサニー先生が家族を言いくるめることが前提だけれど。
魔眼の力を引き出し、濁った瞳でありながら視界を確保することができた点を前面にだして、世界の隣の森行きの許可を取り付ける算段らしい。
確かにサニー先生がいなければ視界の確保は不可能だったのだから、家族としては出来る限り要望には応えたいところだろう。
それでも六歳児を数日とはいえ、家族から離して旅をさせるのは抵抗が強いと思う。特に溺愛している私だし。
でもサニー先生だし、きっとやってくれると思う。私の彼女に寄せる信頼はそれくらい高いのだ。
……それにたぶん、お婆様は私の味方についてくれる。彼女の発言力はクリストフ家の中でも断トツだ。
勝算はかなり高いものになるだろう。
だができるだけの準備はしておくべき。
連日レキ君ルームでは私たちの話が続いていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「我が天使。こちらがご要望の品になります。どうぞお受け取りください!」
「ありがとう、エリオット。いつもありがとう」
「ああ! なんと勿体無きお言葉! このエリオット、天にも昇る気持ち――」
すでにこちら側に抱き込んであるエリオットには、私の作った術式を用いた魔道具の製作を何度かしてもらっている。
でも、毎回このやり取りは欠かせないみたいだ。
それでも、彼を経由しないと色々と面倒だし、そのために抱き込んだのだから、これくらいは許容範囲内。というか、嫌でも慣れるし。
今回作ってもらったのは、説得用アイテムの一つ。
視覚膜を再現した魔道具だ。
ただ、現状ではどれほど術式を改良しても、魔道具単体に視覚膜の機能をもたせることはできない。
リアルタイムに、何十万という術式を展開しているのだから当たり前だ。
改良に改良を重ねた、現行の最新バージョンのクティパッドに処理の大部分を任せて、ディスプレイの役割のみに特化させても、極々短時間しか使用できない魔道具。
それがこの魔道具だ。
それでもメガネサイズに小さく出来ているだけで、エリオットの腕が超一流であることが証明されている。
まあ言ってみれば、以前魔闘演鑑賞で使用した銀の眼の小型改良版みたいなものだ。
かなり巨大な魔道具であった銀の眼をメガネサイズまで小さくし、さらに性能を高めてすらいる。
さすがはエリオット。もう少し大きくなるかもしれないと思っていたのに、すごい。
魔道具という専門分野では、妖精族コンビも私も彼には敵わないだろう。
ちなみに、このメガネ。製作にかかっている金額は相当な額の上に消耗品だ。
スカーレットから一般的な貨幣やその価値なども教えてもらっている。クリストフ家でなければ作れない程度にはお金がかかっているのだけれど、経費でおちるのだそうな。
……まあ実際、国が管理するような魔道具である銀の眼を消耗品とはいえ、メガネサイズに小型化したものなのだから、十分に革新的なものだろう。世には出さないけれど。何せ私の術式を使っているものだからね。
でもそんな世には出せない魔道具はもう何度も製作してもらっているので、今更だったりする。
さて、今度はこれをある程度作ってもらわないとね。




