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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
217/250

191,プロローグ

お久しぶりです。

第二部、始まります。

本日は三話連続投稿です。



 複雑に編まれた術式が精緻な幾何学模様を成形する。

 圧縮に圧縮を重ね、単一の術式でありながら、内包する力は幾百もの魔術を軽く凌駕している。

 そんな圧倒的と表現して然るべき術式を、数万、いや数十万と使用していながら、未だ完成に至っていないのがこの魔術。

 だが、それでも原型となる魔術と比べれば、比較にならないほどの安全性と安定性を有している。

 そう、純粋な精霊力を持つ妖精族でも適性を持つ者しか通れなかったものが、圧倒的に不純物の多い魔力しか持たない人種でも、厳選すれば通れる程度には。

「では、行ってきます」

「いってらっしゃい、リリーちゃん。くれぐれも気をつけるのですよ?」

「はい、お婆様」


 次元間移動魔術。


 位相の異なる世界と世界を結ぶ扉を作り上げる超高等魔術だ。

 原型となる魔術は我が師であり、友であり、最愛の相棒である妖精族最高の魔術師クレスティルト――クティが作り上げた芸術といえる一作。

 それを私――リリアンヌ・ラ・クリストフと世界の隣の森魔術研究所所長であり、私の先生でもある妖精族のサーニーン――サニー先生とクティで散々改良した。まだまだ完璧というには程遠いけど。


 だが私たちは納得いっていなくても、魔術としてみれば今まで使用していた次元間魔術と比べれば雲泥の差がある出来。

 そしてサニー先生が言うには、報告しないわけにはいかないほどの馬鹿げた性能なのだそうな。


「リリーは私がしっかり守るよー! 何があっても絶対安全なんだからね! だから安心していいよ!」

「えぇ、無論信用しております、クレスティルト殿」

「もー! いつまでたってもアンネーラは私に対して堅いなー」

「強者には敬意を払うべきですから」

「まあ、私が強いのは事実だけどねー! へへーん!」

「もう……クティ……」


 その報告が、世界の隣の森を実質的に統治している女王ナターシャの耳に入り、私たちに招待状が届いた。

 私たちが生きるこの世界とはまた別の場所にあるという、世界の隣の森への招待状だ。

 世界の隣の森は、クティたち妖精族の故郷。

 行ってみたいとは思っていたが、次元間移動を考えに入れないとしても、特に私の場合は簡単に行けるものでもない。

 その点でも招待状が背中を押してくれるきっかけとなったのも確か。


「スカーレット。リリーをお願いね……。あなたなら任せられるわ……だから、だから……」

「エリアーナお嬢様、お任せください。このスカーレット、必ずや」

「絶対よ!? 傷一つつけてもだめですからね!? いいえ! 怪我も病気も! 体調を少しでも崩したらすぐに戻ってくるのよ!? それとそれと……」

「エナ……。もうそれは何度も話し合ったでしょう? ここはスカーレットやサーニーン様たちを信じましょう」

「クレア……でも……」

「それに……ほら、ミラもいるんだし……?」

「ははははいぃ! この命にかかか代えましても!」

「ああ……やっぱり心配だわ!」


 改良版の次元間移動魔術ですら、通過するのには適性検査が必須。

 検査を通らない者がもし通過しようとする場合は、体の中の魔力が暴走することになる。その前に、セーフティとして何重にも張り巡らされた障壁に阻まれることになるけれど。

 検査は、この魔力の暴走を引き起こさない適性を調べるものだ。適性をもたないものが次元間の扉を通過するのは、ただの自殺行為にしかならないので仕方ない。よくて再起不能だし。

 私たちがこの魔術を未完成というのはこういう理由がある。

 だが、実用性が出てしまったのは、ある程度の魔力量があれば安全に通過することができてしまうため。

 このある程度の魔力量というハードルをもっと引き下げることができればよかったのだけれど、早々現実は甘くはなかった。

 結果として、検査を通ったのはミラだけ。

 スカーレットも検査を通ったことにはなっているけれど、実際には裏技を使っているのでちょっと違う。

 妖精族の二人と私とレキ君は、魔力量が規定値をクリアしていたので検査からは除外済み。


「リリー……。ボクはリリーの騎士になるって決めたのに……」

「私だって……リリーを守るって決めたのに……」

「お兄様、お姉様。大丈夫ですよ、クティやみんなが守ってくれます。それにスカーレットやミラもいますから」

「それでも! それでも……」

「そうよ! 誰の手でもない、私の手でリリーを守ってあげたかったのに!」

「テオお兄様……エリーお姉様……」


 クリストフ家側からはスカーレットとミラだけが検査をクリアしたことから、色々と本当に色々と大変だった。

 スカーレットはともかく、ミラはこの大役に緊張しっぱなしだし、検査に漏れたみんなが何度も何度も再検査をしては諦められない、と粘っていたし。


「うおぉぉぉぉ……なぜ俺に適性がなかったんだぁあああぁあ……リリアンヌよ……どうしてもどうしてもいかねばならんのか……? やめてもいいのだぞ? むしろやめよう? な?」

「あなた……」

「ひっ……! だ、だがアンよ! 王族からの招待状とはいえ、世界を別にするならば! そ、そうだ! こちらからの従者すら満足につけられぬのでは失礼になる! な? どうだ?」

「ナターシャは別にそういうの気にしないし、こっちの王族とは全然違うっていうか、王族じゃないし。問題ないんじゃない?」

「そこをなんとかあああぁぁぁあ!」

「うひゃぁ! リリー! このおじいちゃんこわいよ!」

「お爺様……何度も話し合ったじゃないんですか……」

「し、しかし……」

「ほらほら、あなたはあっちに行ってなさい。話がちっとも進まないわ」


 両親や祖父母、兄姉を説得するには色々と……本当に色々と大変だったけれど、なんとかこうして出発の段階まで漕ぎ着けることができた。

 まあ両親の片方はお仕事の都合でいないけど。大体いつものことなので慣れたものだけどね。


 それとはまあ、関係なしに今回の説得に於いて一番の活躍を見せたのはやはり彼だったと思う――


「ほいじゃ、そろそろ始めるよー。エリオットー、よろしくー!」

「了解した。それでは我が天使、始めます」

「えぇ、お願いします。エリオット」

「ハッ! このエリオット。我が天使のためならば、この命尽きようと――」

「……いや、そこまでの気合はいらないと思うけどー」

「クティ、水をさしちゃだめだよ。エリオットはこういう人なんだから」

「演算補助基盤、二八から一八八までを起動!」


 一番最初にエリオットをこちら側に抱き込んだのは、やはり正解だったと思う。

 スカーレットの英断には感謝の念が絶えない。

 魔道具に関するほぼ全ては、彼を経由すれば問題が少なかったのだから。

 まあ、問題がまったくなかったわけじゃないけど。


「魔力供給炉、起動!」

「リリーちゃん……。気をつけて」


 私たちはこれから、こことは違う世界――世界の隣の森へと出発する。


「魔力充填率、百パーセント!」

「きたきた! オーライ! システムオールグリーン! よーそろー!」

「お願いします、サニー先生」

「うむ、行くぞ。開け――」


 膨大な術式の一つ一つ、その全てに信じられないほどの魔力が流し込まれ、魔術が起動する。

 発動体となる触媒など介さない、この世界における極々一般的な魔術とはまったく異なる魔術。

 ほとんど遊び要素のない、決まった形しかもたない既存の魔術と呼ばれるものとは一線を画し、自由に創造できる果てのない魔術。

 私とクティだけが使える特殊なソレが、世界と世界を今――



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