185,懊悩のリリアンヌ
最近寝ても覚めても同じことについてばかり考えている。
それは愛しのクティ……ではなく、現在開発中の魔術君についてだ。
『魔紋探信』をベースに『情報解析』で大量の情報を取得して、その情報を処理して映像を作り出すという魔術だ。
『魔紋探信』は物理的障害に非常に弱く、物理的障害に接触した時点で『魔紋探信』の探査の波が消滅する。
その消滅した波を観測することにより物理的障害を観測するという逆転的発想から始まった魔術開発。
常人では行使し得ない速度で『魔紋探信』の波を発生させることによって脆弱性をカバーしようとしたり、『魔紋探信』の波の発生地点を階層別に分けて密度を上げてみたりとさまざまな試行錯誤を行っている。
そして何よりも重要な情報は『情報解析』という専用魔術により異常なほどの情報量を得ることに成功している。
しかし情報量も多すぎては問題があり、必要な情報を精査するための状況と目的にあわせたフィルター作りにも日々時間を割いている。
現在作られたフィルターを通し、必要な情報だけを抽出し映像としてクティパッドで出力したものでもかなりの荒さが目立つ。
フィルターを通して抽出した情報を映像として再現するのにクティパッドの処理能力ではかなり不足しているからだ。
クティパッドの処理能力向上案件もクティを中心に皆でたくさんの意見を交わしているが思ったほど進んではいない。
難題ばかりでちょっと困ってしまうほどの状況だが諦めることはできない。
そして今最大の難題として立ちはだかっているのが――。
【テストナンバー3782。状況開始】
テスト用に幾層にも魔術を施したフィールドの中央で『魔紋探信』をベースとした魔術を起動する。
起動と同時に魔術的回路で連結されているクティパッドに『情報解析』からのデータがフィルターを通して送られ、映像化される。
まだまだ荒い映像だが、テストナンバーがまだ3桁後半だったころに比べれば比較にならないほど綺麗にはなっている。
「4層と7層の物体の裏手側もきちんと取得できているな」
「でも14層の人形の髪部分がめちゃくちゃじゃない?」
【細かいところは荒さが目立ってしまってだめだね……。でもある程度までは綺麗に映像化できてるから大きな進歩だよ】
この魔術の最大の利点は魔力しか見えない自分の目でも物理的な対象を見ることが出来るという点だが、障害物で目が届かない位置にある情報すらも取得可能であるという点も利点の1つだ。
フィルターを切り替えると透明度を変えて障害物を透過した映像すら見れる。
それどころか視点を切り替えて別視点からの映像すら見ることも可能だ。
まぁ魔力を持たない物を見ることができるという点においては全てが霞んでしまうけれど。
しかし現在の難題の1つ、クティパッドの処理能力不足によりまだまだ細かい部分は荒さが残ってしまい映像として成り立っていない。
「よし、第1段階は終了だ。第2段階に移るぞ」
【わかりました。第2段階スタンバイ】
「スタンバイ。オールグリーン。ヨーソロー」
クティ船長による出航の合図により、テストフィールドに魔術が展開される。
あっという間にテストフィールドの上空に魔力を伴った雲が立ち込め雨が降り出す。
この雨は魔力を伴うテスト用の特殊な雨だ。
とはいっても自分に見えるようにしているというだけでそのほかは普通の雨と変わらない。
ちなみにテストフィールドは濡れてもいいように底部に魔術で対処をしっかりしている。
「……やはりだめだな」
【……はい】
「めちゃくちゃだねぇ……」
クティパッドから出力されている映像には雨により、ぐちゃぐちゃになった映像が映し出されている。
これも難題の1つだ。
雨の勢いは普通の小雨程度。
しかしこの程度の雨でも『魔紋探信』をより強固にした波でもほとんどすべてが破壊されてしまう。
雨の勢いがもっと少なければなんとかぎりぎりで見えなくもないという程度には映像化することができるのだが、それでも映像としては土砂降りの視界以上に酷いものになってしまう。
小雨ほどの勢いでもうすでに映像として成り立たないレベルとなり、それ以上となると映像化ができなくなる。
クティパッドの処理能力を超過してしまうのだ。
雨ならば傘をさせばいいと思うかもしれないが、傘を差して雨が届かない範囲だけを映像化したとしてもそれは凄まじく短い範囲となる。
それでは目の代わりとしては難しい。
魔術で雲を吹き飛ばしてしまうなりするという案もあるが雨のときに毎回そんなことをするわけにもいかない。
巨大な傘を用意するという案もあるが、雨の日に出歩く度にそんなものを用意するのは現実的ではない。金銭面では問題ないのだけれど。
魔術で雨をはじいてしまうという案もあったがやはり毎回やるには難しい。
既存の魔術では雨を弾き続けるようなものは結界系の防御魔術となり、防御魔術は上級レベルだ。
魔道具で展開させるのも案としてはあるが根本的な解決にはならない。
「第2段階は予想通りに壊滅的だな。第3段階に移行しよう」
【……はい。第3段階スタンバイ】
「スタンバイ。オールグリーン。ヨーソロー」
魔術の雨が止み、映像が元の状況に戻ると第3段階の魔術が展開する。
今度は風がテストフィールド内をゆっくりと風速をあげながら吹き荒れる。
クティパッド上では風速計のモニターが追加表示され、徐々に上がっている。
風速計が今までの実験結果から判明している数値に近くなるにつれ、どんどん映像が荒くなっていく。
予測していた数値より少し高い値に到達した段階で映像が停止し、処理能力超過の文字が出力された。
「ほぼ予定通りだな」
【……はい】
「まぁ……あんまり変わってないからねぇ……」
クティ船長の眼帯がポロリと取れて項垂れる。
クティも頑張っている。頑張っているが今1つ成果が出ない。
第3段階の実験は風による映像化の処理能力限界の測定だ。
風による処理能力限界は雨よりも強い風速までは耐えられるがやはり使い物にならない。
「第4段階に移ろう」
【……はい……。第4段階スタンバイ】
「スタンバイ。オールグリーン。ヨーソロー」
3度クティ船長から出航の合図が出るが次の実験はあっという間に終わった。
今度は風と雨の複合実験。
ただでさえ単体でもすぐに使い物にならなくなるのに、それが2つ同時だ。当然の結果だった。
「まぁ……わかってはいたことだが悲しいな」
【雨と風はセットの場合も多いですからね……。これに耐えられないなら意味がないですよ……】
「前途が多難すぎるよぉ……」
今回の実験でもそうだが、多数の難題により開発は停滞している。
3人共俯き、暗い雰囲気になりがちだがここで止まってしまってはだめだ。
【まだだよ。まだやれる。私たちならきっとできるよ!】
「ふぅ……。そうだな。最終手段もまだまだ残っているし、気楽に行こうではないか」
「そうだね! 最終手段のリリーは風すら止める晴れ女計画があるんだからまだまだやれるさ!」
そう、最終手段は自分が外に出たら雨は降らない、風は吹かない、というとんでもない手段だ。
だが実際にやろうと思えばできてしまうことだけに冗談ではないのがすごいところだ。
しかしこれは最終手段。
根本的な問題解決の手段でもないのでただのその場の空気を明るくするための冗談として言っているだけだ、たぶん。
やはりどんな状況でも対応できるくらいの性能に魔術を仕上げるのが1番の目標だ。
「ひとまずはフィルターの続きをやるか」
【そうですね。私は引き続き47の8をやりますね】
「では私は78の2からやるか」
「んじゃ私はさっきの続きで89の99からやるよ」
フィルターの数もだいぶ増えてきた。
それだけ想定する状況があるということだが、まだまだ予定している数には足りない。
多分フィルター作りはずっと続くことになるだろう。
この辺も簡略化できるようにしたいところだが、今のところそのための大掛かりな魔術を組んでいる時間はない。
妖精ズがクティパッドに向かい、フィルター作りを早速再開する。
そんな様子を横目に自分もクティパッドを手に取り、フィルターを作り始めるが分割された思考の1つは難題の対策を検討し始めている。
まったく別のことを同時に考えてはいるが、フィルターはある程度あらすじを作ってあるのでそのとおりにくみ上げるだけなのでそこまで複雑ではない。
難題への対策は一向に思いつかぬまま今日もフィルターは増えていくのだった。
物理的障害に非常に弱いために起こっている難題です。
これでもクティの超リリーラブパワーでクティパッドの処理能力を向上させているのです。
でもなかなかに難しい現状です。
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