184,苦悩のリリアンヌ
「やっぱり目標には届かないなぁ……」
【それでも数値上では昨日の1.5倍になってるんだから十分すごいと思うよ?】
「ありがとーう、リリぃぃっぃん!
でもね、でもね! やっぱり最初に求められた処理能力には程遠いんだよ!
私はリリーの願いを叶えるためにもなんとかしないといけないんだ!
これは使命だよ! 運命だよ! 私の道なんだよぉぉおおぉぉぉ!」
しょんぼり、と項垂れていたクティが自分の慰めで息を吹き返す。
そこには自身の無力さに悔しさを爆発させて怒りの戦士へと変身に成功したM字の人のように魔力で形作ったオーラを纏い、ふわふわウェーブの髪を逆立たせたスーパー妖精人の姿があったようななかったような。
あぁ……クティ。クティのふわふわウェーブは逆立たせちゃだめだと思うよ……。
なんていうかこう……とっても残念な感じになってる……。
「しかしクティがこれほど苦戦するとは思わなかったな。
てっきり1晩で10倍くらいにしてしまうのかと思っていたが珍しい」
「うぅ……。私だってリリーのお願いという至上命題をクリアするために全力を尽くしたんだよおぉぉぉ!
だけど……だけどぉッ!」
スーパー妖精人のオーラが一気に萎み、がっくりと空中で四つん這いで落ち込むクティ。
万能超人であるクティでもできることとできないことがあるのだ。
しかし完全にできないわけではなく、ちょっと苦手なのだろう。一応性能は向上している。
【1.5倍でも今までと比べるとすごい向上率だと思うんだけどなぁ】
「確かにそうだな。今まではここまで一気に処理能力が上がることはなかった。
だがクティが目指すところはどうやら1.5倍にあがった程度ではまだまだというわけだ。
楽しみじゃないか」
【確かに楽しみですけど……。
クティ、無理しちゃだめだよ? クティががんばってくれるのは嬉しいけど、それで体を壊したり無茶したりしたら悲しいから……】
「もちろんだよ、リリー! 私がリリーを悲しませるわけないじゃないか!
私はリリーを喜ばせて楽しませて愛するために存在するんだよ!
私の愛は無限大だよ!
うぉおおおおぉぉぉ燃えてきたああああぁぁぁっぁぁッ!
漲れ私の小宇宙! 神をも打ち砕くこの一撃にして最強のアレをコレして!
うぉおぉっぉおぉぉぉぉ!」
先ほどスーパーな妖精人になったばかりなのに今度は星座を冠する鎧に身を包んだクティが拳を突き上げて魔力で作り出したオーラを天へと吹き上げる。
背景では火山が爆発し、空には歪な三角形に無理やり当てはめた山羊が描かれ、なぜか手紙をもしゃもしゃしている。
きっとやつは黒山羊さんだ。
やる気漲るクティはクティパッドに分身した手でものすごい勢いで書き込みをし始めている。
分身している手はもちろん魔力で描かれているがその書き込み速度は本当に分身しているかのように早い。
【クティが元気になってよかった。
この勢いならなんとかなりそうな気もしますね。いえ、クティなんだから絶対なんとかしてくれますよね!
頑張って、クティ!】
「うおおぉぉぉぉぉ、任せろマイハニー! 私はやるよー! やっちゃうよー!
うおおおおぉぉぉぉッ!」
クティパッドを睨み付けるようにしているクティに自分の魔力文字は見えていないはずだが、それでもクティの心眼はしっかりとソレを捉えているようだ。
分身している手が千手観音よろしく凄まじい本数に増えて益々勢いと速度が上がっていく。
「やれやれ。これでもう大丈夫だろう。
私たちはこちらの方の研究を続けようか」
【はい、先生!】
遊び相手がいないレキ君だけがつまらなさそうに大きな欠伸をしてだらけている。
そんなレキ君ルームではその日クティパッドが只ならぬ進化の兆候を見せたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぁッ……ぁふぅ……」
背を大きく仰け反らせて足の低いテーブルに倒れこむ小さな体。
その小さな体には似つかわしくない妙に色っぽい息遣いで乱れている呼吸をなんとか元に戻そうとしているがうまくはいっていない。
しかしそんなことは今の至福に包まれている彼女にはどうでもいいことだ。
むしろこの至福の一時が続くのであれば呼吸なんて乱れたままでも問題ないくらいだろう。
上半身の服には特に何もしていないのに妙に色っぽく乱れているニージャを眺めながら、捲れあがったスカートから覗く小さな尻尾をきゅむきゅむ、握る。
その度に無口な彼女の口からは甘い声が漏れ、小さな体躯はビクビク、と軽く痙攣する。
いつ触ってもこの尻尾はすばらしい。
最近ではミラの尻尾に負けないくらいに成長しているように感じられる。
実にすばらしい。
しかしどんなに素晴らしくてもこちらの想いが追いつかなければもふもふによる素晴らしき想いは伝わらない。
普段ならこんなことはないが今は仕方ないというほかない。
寝る間を惜しんで――寝なくても問題ないが――ひたすら手を分身させているクティによりクティパッドの処理能力の向上は約束された勝利の剣の鞘の如き頼もしさだ。
だがそれとは別に自分の魔術の研究は難題にぶつかってしまった。
いや今までも結構難題ばかりだった気がするが今回ばかりはどうにもこうにもうまくいかない。
今までは1晩寝て起きたら大体解決策を思いついていた。
だが今回はすでに1巡りは悩んでいる。これだけでも難題具合は特級レベルだとわかるだろう。
「ぁあぁぁ……ッ! あぁあゥッ!」
解決策を模索しながらもニージャへのご褒美もしっかりと行っている。
にぎにぎしているお尻尾さまへ魔力の強弱をつけてにぎにぎ以外にも緩急をつけることにより、より多くの快楽と魔力を送り込むことができる。
しかしやはり自分の心にはもふもふ力が浸透してこない。
ニージャを激しく追いたて、遥か頂のその先にさえ到達させんとするテクニックをもってしても受け入れるべき自分がこの様では意味がない。
「ぁーッ!」
一際大きく仰け反り、そのまま気を失ってしまったニージャのお尻尾さまを未だににぎにぎしつつも考えることはこの難題。
気を失いつつも流れ込む快楽が体を無意識のうちに反応させてしまっているニージャはこのまま放っておいたら脱水症状を起こしてしまうかもしれない。
分割された思考でそう判断しても難題の解決策を模索している思考が邪魔してうまくもふもふが止まらない。
激しい快楽により気絶から強制的に回復させられたニージャだが襲ってきた波にまたもや気を失ってしまっている。
危険な無限ループに突入し始めたところでなんとかお尻尾さまを離す事はできたがそのまま後片付けをするよりも解決策の模索に思考を奪われてしまう。
後片付けをしなければいけないと思う思考と、難題の解決を模索する思考。
そしてそれらを1歩引いたところで見ている冷静な思考。
3つに分かれた思考だが難題の解決を模索する思考が1番活発に動いているのでほかの2つが押され気味だ。
「……まったく……君らしくもない。
悩むのは仕方ないが、やるべきことはきちんとしなければいけないぞ?」
【先生……。ぁ、すみません……】
「とりあえずこの場は私が後片付けをしよう」
【すみません……】
すでにニージャの体を綺麗にし終わったサニー先生の声に申し訳なさが募るが、難題解決を模索する思考はそれでも考えるのをやめない。
もうおそらく解決策が思い浮かぶまでこの状態は止まらないだろう。
こんなことを思っている間にもすでに難題解決を模索する思考がすべての思考を埋め尽くしそうだ。
「まったく……。困ったものだ……」
サニー先生の魔術が部屋に充満している甘く切ない匂いを綺麗にしているのを魔力の流れだけで知覚しながら、浮かんでくる解決策に却下の判を叩きつけていく。
その判の数はすでに3桁を超え始めている。
クティだって必死になって頑張ってくれているんだ。
これくらいなんとかしなければ……。
焦っているのはわかっている。
無理やり考えてもいい考えは浮かんでこないかもしれない。でもそれでも思考し続けるのをやめない、止めない、諦めない。
すでに意地になっているのかもしれない。
だがそれでも諦めることだけはできない。
すっかり元に戻ったトイレで思考の中で叩きつけられる却下の判は嵐のように乱舞し続けるのだった。
まったく解決策が見つからない難題にさすがのリリーも心此処にあらずです。
それでもニージャを何度も天国に連れて行ってしまうもふもふは凄まじいです。
本人にはあまりフィードバックされてませんけど。
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